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女神たちには敵わない -The goddess's march-  作者: まるずし
第二章 新しき仲間達
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第56話 それぞれの憂鬱


 ヴァクラース卿の正体を僕が知ってから3日。今のところ、世間で事件は起きていないようだ。


 あのあと、悪魔(ヴァクラース)は不愉快だと言って帰ってしまった。

 僕が突然襲い掛かったことについて、ヤツがどう思ったかが気になる。僕が勇木ヒロだということは、すでに知っているはずだ。自分を襲った人間が何者だったのかを調べないはずが無い。

 そもそも、あの時点ですでに僕の事を知っていて、この屋敷に来たという可能性も高いが。



 1つ思ったのは、ヴァクラースはセクエストロとは違う存在だということだ。

 セクエストロは自分の力を制御出来ていなかったようだし、何より、最初は人間だった。それが、突然悪魔に生まれ変わるなんて事は無いだろう。セクエストロを変化させた、なんらかの原因がある。


 それに対して、ヴァクラースは元から悪魔だったに違いない。生粋の悪魔だ。

 あの時、能力解放(リベレーション)のチャンスだと思い、無鉄砲にも突っ込んでしまったが、果たして僕の力で勝てるのかどうか……。


 ヴァクラースの正体を姫様に言うべきかどうか悩んだが、万が一信じて貰えなくて、ヴァクラースの耳に正体を疑っていることがバレたら、ヤツの周りに居る人間が危険だ。

 僕が直接対決出来る状況じゃ無いと、やはりヤツの正体はバラせない。



 因みに、ヴァクラースがどうしてこの国で重用されているのか姫様に聞いてみたら、姫様の父、つまり大公様が、狂った暴漢から襲われたとき、それを救ったのがヴァクラースだったらしい。

 ある日、4人の悪魔憑きが大公様を襲ってきたことが有り、そのあまりの強さに近衛兵では手も足も出なかったところ、ヴァクラースがあっという間に撃退したとのこと。

 ヴァクラースが、グランディス帝国の元騎兵団長筆頭グランド・センチュリオンだということも分かり、これを機に、ヴァクラースは公国のお抱え剣士となった。


 これで、ヴァクラースと悪魔憑き、そして魔剣使いが繋がった。

 元々大公様が襲われたというのも、ヴァクラースが仕組んだことだ。狡猾だったのは、魔剣使いでは無く悪魔(ヴァクラース)だったのだ。

 ヴァクラースは公国の警備部門も担当していて、人斬り事件も彼の担当だった。これでは解決なんて出来るわけがない。

 僕らを目の敵にしていたのも当然のことだ。



 なんとかリン達と連絡が取りたいんだけど、姫様はそれを許してくれない。何か不安があるのか、姫様はずっと僕のそばから離れない感じになっている。

 ただ、姫様はあまり命令しなくなり、僕の自主性に任せてくれるところも多くなった。まあ使用人(メイド)や女性騎士達のイタズラは、相変わらず続いては居るのだが。


 もし次に悪魔(ヴァクラース)がこの屋敷に来るようなことがあれば、その時がチャンスだ。

 必ず正体を白日の下に曝して、僕が叩きつぶす! そのための作戦を練らなくては……。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 ヒロとは毎日、一緒にシャワーを浴びて、一緒の布団で寝ている。

 でも、それ以上の仲には進展しない。庭園でキスを求めても応えてくれなかったし、その後もう一回キスを求めたこともあったけど、やっぱりヒロはしてくれなかった。


 大公女メジェールは、ヒロのことを考えて憂鬱になる。



 たった数日で、自分はすっかりヒロに恋してしまった。

 いま思うと、最初に感じた直感(アレ)こそが、一目惚れだったのだと理解する。


 恋は突然なんて言うけれど、本当に自分もそうなるとは……。

 もうヒロの居ない生活なんて考えられない。どうすればヒロも、自分のことを好きになってくれるのか、恋愛のコミュニケーションを知らないメジェールは心底悩む。

 そもそも、他人の気持ちなんて気にしたこと無かったのだ。今さら好かれようとしても、やり方など分からなくて当然だ。


 幼馴染みのフィーリアは、すでにヒロとデートをしている。それどころか、キスまでしてる。

 自分もヒロとキスがしたい……。でも、命令で無理矢理させるのは違う。それに、無理矢理命令してヒロに嫌われたくない……。

 命令で身体は操れても、心は操れない。本当は奴隷の首輪も取ってあげたいけど、ヒロに逃げられるのが怖くて外せなかった。


 フィーリアは、子供の頃から誰からも愛される王女だった。もちろん、自分もフィーリアが大好きだし、親友だと思っている。でも、ヒロは取られたくない。

 冒険者メンバーの女たちにも、ヒロは渡したくない。


 毎日こんなにつらい想いをするなら、いっそヒロとは会わない方が良かったと、メジェールは思う。

 ヒロがそばに居る幸せと、いつかヒロを失う不安に挟まれながら、今日もメジェールは過ごすのであった。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 大公女邸の前に、こっそりと見えない邸宅=空間裂狭邸館(コモド・アルベルゴ)が設置してある。

 空間裂狭邸館(コモド・アルベルゴ)は、中からある程度外の様子が窺えるようになっていて、リン達はそこから屋敷を見張っているのだ。


 リン達は、交代でひたすら目を離さず見張っているのだが、ヒロも大公女も一向に屋敷から出る様子が無い。

 籠もりっきりで、一体何をしているのか……。



 自分たちで、無理矢理屋敷に押し込もうかと、ふと考えないわけじゃ無かった。

 しかし、ヒロの戦闘モード無しでは、門番にすらロクに勝てないレベルだ。とても無理矢理入っていくなんて事は出来ないだろう。

 友美の魔法で強烈な一撃、とも考えるが、基本的に重要な建物や場所には、強力な耐魔法防御が施されているので、大してダメージは与えられない上に、今度こそ本当のお尋ね者だ。

 そもそも、そんなことをしたら、ヒロにも迷惑が掛かる。ちゃんと正攻法で取り戻さないとダメだ。



「リン、交代の時間よ。あなた少し寝た方がいいわ」

「そうですよ、もう4日もほとんど寝てないですよ」

「分かってる……あとはよろしく麗子、友美」



 麗子と友美が起きてきて、リンは自分の部屋へと戻る。ベッドに転がってみるが、眠れる気は全くしなかった。

 ヒロが居なくなってまだ4日なのに、一緒に過ごした日々が、遠い昔のことのように思い出される。


 やり直せるものなら、もう一度時間を戻して、みんなで一緒に居た頃に戻りたい……。

 リンのほほに、もう何十回目かの涙が流れた。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 僕と姫様、ほか女性騎士達がいつものように稽古をしていると、突然の来客があった。なんと、あのヴァクラースの妹だ。

 あの悪魔は『ピル・ヴァクラース』という名で活動していて、妹はソロル・ヴァクラースという名らしい。


 実は姫様の剣術のライバルで、ほぼ互角の腕前だとか。

 姫様と五分なら、相当の才能だ。ただ、本人の才能では無く、何かしら悪魔からの恩恵を受けている可能性もある。

 悪魔(ヴァクラース)に騙されているのか、それともグルなのか、早めに見極めないと、こちらも動きづらい。もし騙されているなら、妹の身も危険だ。なんとかしないと……。


 (ソロル)は訓練場に入ってくるなり、僕のことをじっと見つめてくる。この前も思ったけど、やはりスゴイ美人だ。

 ただ、ダークエルフとしてもまだ若いらしく、全体的に大人になりきれていないような幼さは残っている。年齢がいくつなのかは知らないけれど、人間で例えるなら、18、9歳くらいの見た目だ。

 あれ、なんかずっと僕のこと見つめてるな。この前、僕が兄のヴァクラースを襲ったからか? ちょっと怖い……。



「姫君、そちらの勇木ヒロ殿と稽古がしてみたいのだが……」



 ええっ!? なんとソロルが僕に稽古の相手を申し込んできた。

 目的はなんだ? 何か狙いがあるのか?

 しかし、いずれにせよ、この申し出は受けてみたい。何か突破口が開ける可能性もあるからだ。

 僕は姫様に、目で了承の合図を送る。


「う……うむ、よかろう。許可する」





 僕はソロルと対峙する。女性騎士達はみんな自分の稽古を休止して、僕とソロルの模擬戦に注目している。

 ソロルから受けるプレッシャーとしては、姫様と同等といったところか。なるほど、互角というのも頷ける。


 せっかくだから、僕から仕掛けようと思う。それも、彼女が動き出そうとした瞬間に、打ち込んでみよう。後の先というヤツだ。

 お互いしばらく様子見のあと、ソロルの動き出す瞬間が、予測で見える。

 よし、ちょっと強引だが、打ち込みに行く。この僕の攻撃をどう捌く?


 と、そう思っていたのだが、電光石火でソロルに懐へと飛び込まれ、僕は腹を打たれてしまった。

 なんていうスピードなんだ! 姫様が技で勝負するなら、ソロルはスピードだ。僕がヴァクラースを襲ったとき、一瞬で弾き飛ばされたのもよく分かる。


 すでに勝負有りという感じだったが、ソロルの攻撃は終わらない。次から次に、剣撃が僕の身体へと打ち込まれ、その度に僕ははね飛ばされる。

 情け容赦無く攻撃は続けられ、僕はその痛みに立ち上がれなくなっていた。



「それまで! ソロル、それ以上はもう勘弁してやってくれ」



 じっと成り行きを窺っていた姫様が、ようやくソロルを止める。ソロルは我に返ったかのように周りを見渡し、落ち着いて呼吸を整えた。


「ソロルよ、勇木ヒロがヴァクラース卿に無礼を働いた故、そなたには気の済むまでやらせた。勇木ヒロも充分反省している。これで手打ちということにしては貰えぬだろうか」


 なるほど、僕がヴァクラースを襲ってしまったため、姫様はその帳尻合わせをしていたのか。

 何せ、この国の近衛隊長を堂々と襲ってしまったんだ。放っておいたら、どんなトラブルに発展するか分からない。

 その矛先を収めて貰うために、ソロルに自由にさせてたというわけだ。


 そのソロルは、まだ少し呼吸を乱したまま、僕をじっと見据えている。

 やはり悪魔(ヴァクラース)に洗脳されているのだろうか……。


 ソロルは、倒れている僕の襟元を掴んで無理矢理立たせ、数秒ほど僕の目を見つめたあと、「姫君、邪魔をして済まなかった」と言って去って行った。



「大丈夫か? ヒロ……」

「はい、問題ありません」

「早めに止めてやれなくてスマンな」

「いえ、姫様のお考えは分かります。元々は僕が起こした不始末ですから」



 その日はこれで訓練終了となった。




 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 ソロルが屋敷に来訪してから2日、つまり、僕が姫様の屋敷に来てから6日目。

 僕の生活は相変わらずだが、どうしたわけか、姫様が日に日に元気が無くなっていく。命令も「屋敷の外には出るな」だけで、ほかは僕が自主的に従っている感じだ。まあこのおかげで、使用人(メイド)や女性騎士達からのイタズラからは、逃げられるようになったけど。


 今日も一日、訓練などを終え、姫様と一緒にシャワー室に入る。

 いつものように、目を瞑りながら姫様の身体を洗っていると、後ろを向いていた姫様が急に僕の方に振り返り、裸のまま抱きついてきた。



「ヒロは……わらわのことが嫌いか?」



 なんだろう、突然。

 確かに、最初はちょっと苦手に思っていた。でも今は、姫様の良いところをたくさん見つけて、一緒に居て楽しいと思っている。

 ただ、僕にはやることがある。出来れば、そろそろ解放して貰って、またリン達と一緒に行動をしたい。

 何より、悪魔(ヴァクラース)が野放しになっているのだ。いつまでもこの状態でいるわけにはいかない。


「姫様のことは好きですよ。毎日ご一緒させて頂いて楽しいです。でも、そろそろ僕を解放しては頂けないでしょうか」

「………………」



 姫様は、そのまま黙ってシャワー室を出て行ってしまった。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 その日の深夜、大公女邸前、空間裂狭邸館(コモド・アルベルゴ)の中。


 交代制で見張ってはいるのだが、リンが見張りたいと強く言うので、ほとんどの時間はリンが見張っていた。

 もう6日もほとんど寝てない状態だ。顔もすっかりやつれてしまっている。

 このままでは、リンが壊れてしまうのではないかと、麗子は心配になる。


「リン、お願いだから寝て! 身体壊すわよ」

「わかってる。わかってるよ……」


 リンがそう言ってボロボロと涙をこぼす。

 そんなに好きなら、なんでもっと素直にならないのかと麗子は思うが、それがこの二人の関係なのかも知れない。


 ヒロ君、お願いだから早く帰って来て。じゃないと、リンが死んじゃうよ。

 私だって、そろそろ限界……。



 ふとその時、リンの『超感覚(スーパーセンシティブ)』で強化された目が、夜の暗闇に動く影を見つける。それは、屋根から大公女邸に侵入したようだ。


「麗子、屋敷で何か起こってる! すぐに友美を起こして! きっとチャンスがあるわ!」



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 ん? なんだ? 誰かの気配がする。


 深夜、僕はいつもと同じく、姫様と一緒に寝ていたが、突然『危険予知(リスクセンサー)』が反応して起こされた。

 恐らく、窓から入ったであろう侵入者が、いつの間にかすぐ近くに立っていた。黒い覆面をしていて、正体が誰なのかは分からない。


「姫さっ……」


 速いっ! 姫様を起こそうとした瞬間、僕の口は塞がれ、何かを嗅がされる。

 これは、睡眠効果の何かだ! くそっ、能力解放(リベレーション)が出来れば、効果をキャンセル出来るのに……。



「誰じゃっ!? なっ、お前っ……」



 姫様が気付いたらしい。が、僕の意識は遠くなっていく。

 姫様、無理しないで下さい。どうかご無事で………………。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 気付くと、僕はどこかの部屋のベッドの上に居た。

 かなり大きなベッドだ。クッションの具合からも、安物の寝具では無い。部屋の様子も、どこか豪華な造りを感じさせる。

 僕の四肢は、ベッドの四隅に向けて引っぱられ、仰向けの状態で大の字に拘束されている。

 どうやら侵入者の狙いは僕だったようだ。なら、姫様は無事かも知れない。


 ここならと思い、僕は能力解放(リベレーション)を使おうとする。が、発動しない。

 ということは、このすぐ近くに女性が居るということだ。



「気付いたようだな」



 女性の声だ。くそっ、同じ部屋に居たのか。

 そして、この声は聞いたことがあるぞ。

 そうだ、この声は……



 悪魔(ヴァクラース)の妹、ソロルだ!



 間接照明でほの暗い部屋の中、壁際から立ち上がったソロルの姿が、うっすらと浮かび上がる。

 やはりソロルは悪魔(ヴァクラース)の手先だった。僕を攫ったのは、悪魔(ヴァクラース)の命令に違いない。

 ソロルは思い詰めたような顔で、ゆっくりとこっちに近づいてくる。僕をじっと見つめるその表情は、正気が失せているようだった。


 まずい、これじゃ手も足も出ない!

 ひょっとして、僕の弱点が女性ということまで気付かれているのか?

 だ、だめだっ、打つ手が無いっ! 僕は殺される……!




 ……と、ベッドの近くまで来て、突然ソロルは服を脱ぎ始める。あの露出の高いビキニアーマーだ。

 な、なんだ? 何する気だ?

 そして、僕が見ている前で下着も全て脱ぎ、ソロルは全裸になってしまう。

 ? ? どういうこと?

 そういえば、いま気付いたけど、僕パンツ一丁だね。なんで?



 生まれたままの姿になったソロルは、ベッドに上がり、動くことの出来ない僕の上にのし掛かる。


「ソ、ソロル……さん? なに考えて……?」

「しっ! 静かに! 兄上に気付かれる」

「兄上ってうむっ……!」


 僕の言葉を、ソロルがキスで遮る。獣のような激しいキスだ。


「初めてお前を見た時から、身体がうずいて仕方がなかった。お前には、ワタシの初めての相手になってもらう」






 ………………なんですってえええええっ!?


 今回ちょっと暗めな感じ多いですけど、このあとしばらくはそんな話は無いです。

 もう公国編が終わりますので、次は獣人国編でやっと仲間増えます。

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