第55話 姫様の変化
少し長くなりました(汗
「ヒロ、今日は部屋の掃除はしなくてもいいからな。その代わり、今からわらわと庭を散歩するぞ」
姫様は朝起きたあと、まず僕と一緒にサッと自主訓練をしてから、二人で朝食を取った。そして食後に軽くティータイムをしたあと、使用人や女性騎士を集めて、みんなに朝の挨拶と指示をした。
「ああん、今日は勇木様と一緒にお掃除出来ないんですね」
「そうじゃ、お前たちだけでいつものように仕事するのじゃ」
「姫様、散歩の護衛には、誰がお付き致しましょうか?」
「いらぬ! たかが庭だ、誰の護衛も必要無い」
「……姫様、ヒロ様を独り占めというわけですね」
「そうじゃ、ヒロはわらわのモノじゃ。なんか文句あるか?」
「……ずる~い」
使用人達と女性騎士達から、何やら不満の声が上がる。
「ええい、文句があるならわらわに掛かってこい。わらわに勝ったら、ヒロを譲ることも考えてやる」
「なんか久々に燃えてきたわ」
「姫様に勝つ事なんて諦めてたけど、これは頑張るしかないわね」
「みんな、今日の稽古は鬼モードで行くわよ」
「絶対姫様から一本取ってみせるんだから!」
「オーッ!!」
なんか女性騎士達の闘志がむっちゃ上がってるんですけど?
完全に僕が物扱いになってる。ううっ、誰のモノになっても怖いぃ……皆さん、どうかお手柔らかにお願いします。
「ヒロ、では庭に行くぞ!」
◇◇◇
庭と言っても、大公女の屋敷だ。そんじょそこらの公園などよりずっと広くて、そして、植えてある植物や大きな池などが綺麗に手入れされている。
池には橋も架かっていて、姫様と二人でその上を通っていく。
橋を渡り終わった辺りで、ふとおもむろに、姫様が僕の手を握ってきた。
僕らは手を繋いだまま、ゆっくりと庭園を歩き回る。そのあいだ、姫様はずっと無言だった。
時折足を止めては、ちらちらと僕の顔を窺って、そしてまた姫様は歩き出す。
振り返ったときの姫様の顔は少し赤くなっていて、何か言いたそうにしては、うつむいたりしていた。
少し背の高い花が咲いている花壇へとやってきて、姫様は足を止める。
姫様は僕の方を振り返り、目を閉じて爪先立ちになる。
コレ……ってやっぱり、キスを求めているんだよね。困ったな……。
女性への免疫が無く、そして度胸の無い僕としては、こういう時どうしたらいいのかよく分からない。求められるままにキスするというのは、果たして正解なのだろうか?
そもそも僕は、姫様の命令には逆らえない。何か要求があるなら、命令すればいいとは思うのだけれど……。
僕がモタモタと愚図ついている間に、姫様は爪先立ちをやめて、下を向く。
姫様は一瞬泣きそうな表情を見せたあと、特に命令もしないで、プイッとそっぽを向いて行ってしまった。
なんで命令しなかったんだろう……?
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
庭園から屋敷に戻ると、姫様の機嫌も直ってくれたようで、いつもの口調で僕や使用人達に指示をした。
そのあと、姫様の自室へと僕らは行き、姫様は読書を始める。今回僕はマッサージは命じられなくて、ドアの近くで待機しているような感じになっている。
読書中、姫様は妙にそわそわして、何度も僕のことをちらちら見たりと、どうも落ち着きが無い。
「ヒ、ヒロ……ちょっとベッドに腰掛けてくれぬか?」
なんだろう? 僕は姫様の言う通り、ベッドに腰を掛ける。
というか、なんで命令しないで、お願い口調なんだろう。
そう不思議に思っていると、姫様がそばに来て、ちょこんと隣に腰を掛けた。そして、身体をスッと寄せてきて、僕の肩に頭を乗せる。
「あ、あの……姫様?」
姫様は何も言わずに、そのまましばらく静かにじっとしている。
最初は寄り添う程度の密着度だったけど、そのうちどんどん強くもたれ掛かってきて、ずるりごろんと僕の膝に上半身を乗っけてしまった。そしてその姿勢のまま、上半身をひねって仰向けにして、下から僕の顔を見つめてくる。
んーめっちゃ恥ずかしいんですけど?
でも姫様も顔が真っ赤だな。
僕は姫様と目が合っていると恥ずかしいので、姫様を膝枕状態にしたまま、目線を正面に向ける。
何一つ音がしないまま、ずっと時間は流れていく。姫様、もしかして寝ちゃったのかな?
「ヒロ、そろそろ稽古の時間だ、訓練場に行くぞ」
どれくらい時間が経ったのだろう。姫様はそう言って立ち上がり、スタスタとドアの方に歩いて行く。表情は分からない。でも、何か僕はホッとして、姫様のあとを付いていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ヒロ、わらわは稽古着に着替えてくる。お前はここで大人しく待っておれ。どこにも行ってはダメだからな!」
姫様が3人の使用人を連れて、衣装部屋のような所に入っていく。
僕はその近くで待機していると……
ヒョコヒョコと廊下の角から、他の部屋で仕事していたであろう使用人が、僕の様子を覗き込んできた。
「姫様着替えに入ったよー」
「チャンスー! 姫様のお着替えは長いからね」
「みんな早くおいでっ」
どうやら後ろにまだ仲間が居るようで、彼女達が小声で呼ぶと、十数人の使用人がぞろぞろと姿を現した。
皆さん、お仕事はどうしたんですか? ……なんかイヤな予感が…………。
「姫様、勇木様の独り占めはずるいよねー」
「ずっとお部屋から出てきて下さらないんですもの」
「昨日騎士さん達から聞いたんですけど、勇木様は、姫様を待っている間は、抵抗出来ないんですって?」
「うふふ、私たちも勇木様と戯れにまいりましたー♪」
ああっ、なんかまたみんながまとわり付いてきて、僕の身体を遠慮無しに触りまくる。皆さんそんなに男性が珍しいですか?
うわあちょっと待って、そこはだめええーっ!
「姫様ってば、今朝になったら勇木様のこと『ヒロ』って呼ぶようになってるし、お散歩の時ちらっと庭園を見たら、お二人で手を繋いで歩いてましたし」
「妙にベッタリしてるし、勇木様、昨夜姫様と何かあったでしょう?」
そりゃまあ、何も無かったわけじゃないですけど……。
「ああん、姫様ずるい、一番年下の姫様に先を越されちゃうなんて~」
「私たちにもおすそ分け頂かないと」
「勇木様にちょっとイタズラする権利くらいは、私たちにもありますよね?」
なんで? というか、僕にはイタズラされない権利って無いの?
うひゃっ、やめて下さっ……こ、声が出ないっ、ちょっとまっ………………
ああああああっ……!!
「よし、待たせたなヒロ、訓練場に行くぞ」
すでに僕はゲッソリとなって、姫様と一緒に訓練場へ向かった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
昨日と同じように、女性騎士達と一緒にみんなで稽古をする。
僕は今、姫様と模擬戦の最中だ。
「うわっ!」
「す、すまぬヒロっ、ちょっと力が入ってしまった。大丈夫か?」
姫様が慌てて僕のところに駆け寄る。いや、つい大げさな声出しちゃったけど、別にそんな危ない攻撃じゃ無かったですよ?
というより、今日の姫様、ずいぶんやさしいな。
「ヒロよ、お前の剣技は未熟じゃが、ところどころゾクッとするような動きを見せおるな。こちらの動きを全て見透かされているというか……ヒロは才能があるぞ」
「ありがとうございます姫様」
「ところで、ヒロの剣術の師匠は誰じゃ? どうもどこかで見たことあるような型なんじゃが……」
「エーアスト王国のアイレ・ヴェーチェルさんという方です」
「ア、アイレじゃとぉっ!?」
あれ? 知り合いなのかな?
「待て、アイレは王女の護衛騎士のはずじゃが、一体どうやって剣を教えて貰ったのじゃ?」
「個人的に頼み込んで、直接指導して頂きました」
「個人的に? ということは二人きりでか?」
「はい」
「ふ、二人きりで稽古? あのアイレがそんな……」
「あ、たまにフィーリア王女と三人の時もありましたが」
「フィ、フィーリア? ヒロ、お前フィーリアとも交友があるのか?」
「え? はい、王女様にはとてもお世話になりました」
「待て、仮にも一国の王女じゃぞ。あやつは異世界人にそんなにマメに接していたのか? それとも、ヒロとだけ仲が良かったのか?」
「王女様はみんなにやさしくされていました」
「そ、そうじゃろう、そうじゃろうな。あやつが特定の人間のみをひいきするわけ無いからな」
なんか姫様がホッとしてる。どうしたんだろ。
あーでもそういえば……
「王女様の希望で、町案内を僕がしたことはあります」
「エーアストの町案内をか? そんなの従者の誰にでも頼めば良かろう」
「王女様は、僕と二人きりで町を歩きたいとのことでしたので」
「ちょ、おま、まて、そ、それは『デート』というヤツなのでは……?」
「いえ、町のお店とか案内したり、一緒に食事したり、景色の良い場所に行ったりしただけですよ」
「それはデートじゃ! ヒロ、お前フィーリアとデートする仲なのか?」
「仲良くさせて頂いているとは思いますが……」
「お前……まさか、フィーリアと何か関係持ってたりしてないじゃろうな?」
「か、関係ですか? い、いえ、と、特に何も無いですよ……?」
「ウソつけっ! 命令じゃ、隠さず言えっ!」
「ああああの、王女様にキスされました」
「キ……キス? お前達もうキスする仲なのか………………?」
あ、あれ? 姫様……?
姫様が背を向けて、向こうへと歩いて行く。どうしたんだ?
あ、地団駄踏んでる。…………止まった。なんか全身が震えてるな。
あ、もう一回地団駄踏んでる。今度はさっきよりもさらに激しいな。
ああああ、なんかスゴイ勢いで地団駄踏みまくってるぞ。姫様大丈夫かな?
……姫様が戻ってきた。なんか気のせいか、半泣きになってるような気が……?
「きょ、今日の稽古は終了! わらわは着替えてくる」
◇◇◇
姫様が訓練場を出て行った。
まさかとは思うけど、今日も女性騎士達が暴走するなんて事は……?
「ヒ~ロ様! 昨夜姫様とナニかありましたね?」
「あの姫様が、あ~んなにしおらしくなっちゃって」
「教えてくれないと、昨日よりも凄いコトしちゃうゾ!」
ああっ、僕の身体を触る女性騎士達の手つきがっ、喋るっ、喋りますうっ!
「昨夜、一緒にシャワー入って、そのあと一緒に寝ただけですっ」
僕は上手く喋れない中、必死に答えた。
昨夜は姫様に「ギュッとして寝て」と言われたんで、姫様を軽く抱きしめながら添い寝した。一緒に寝たのは確かに超恥ずかしかったけど、ただそれだけで、ほかには特に何も無い。
女性騎士達が怖くて、僕は正直に答えたんだけど、なんか女性騎士達の様子がおかしい……。
「え~っ!? 姫様とヒロ様、もう寝ちゃったの? 早~い!」
「ねえ……姫様がヤッちゃったなら、もう私たちも純潔守らなくていいんじゃないの?」
「そうよねー。私たちも、一歩大人の道を踏み出してもいいよね」
「姫様が戻ってくるまで、まだまだたっぷり時間あるわよね……やる?」
……なんだ? ものすごぉくイヤな予感が……。
あれ? ちょっと待って皆さん、なんで服を脱ぎ出すの?
わっ、わわっ、待って待って、みんな下着になっちゃって、一体どうするつもりなんですか……?
「ヒロ様~♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪」
ひゃあああああっ、なんっ、おっ、ちょ、はぶっ、ん~っ、ん~っ!!
僕はあっという間に十数人の女性に押し倒されて、全身を揉みくちゃにされる。
あっちこっち触られるは撫でられるは摘ままれるは、服も脱がされるはペロペロ舐められるは、おまけに顔の上にドシンと乗っかられちゃって、呼吸も上手く出来ない。もう肉肉肉肉、ピンクの肉の嵐、このままじゃ殺されるっ! ちゃんと答えたのに、ウソつきーっ!
うわ~っなんだっ? じゅるじゅるぬろぬろした感触が……これ、しゃぶられてるっ!?
うひぃ生ぬるいっ、変な感覚っ、ちょ、やめてっ、うわあっ、舌がっ、舌がっ、みんなでしゃぶってくる~っ!!
◇◇◇
「ん? お前たちどうした? 顔が赤いな」
ようやく姫様が戻ってきた。部屋に入るなり、呼吸を乱しながら顔を上気させた女性騎士達を見て、姫様は少し不思議に思ったようだ。
姫様の居ない間、そりゃあもう大変な騒ぎで、我ながらいま生きてるのが不思議なくらいだ。
全身イタズラされまくりで、特に手の指は、ずっとしゃぶられっぱなしだった。僕の身体中は、彼女たちの唾液まみれである。
姫様に言い付けて、彼女たちに注意して貰いたいところだけど、それを言ったらもっと状況が悪くなる予感がして、結局黙っていることにした。
「それでは今から……ん? なんじゃ?」
使用人がいきなり入ってきて、姫様に何かを報告する。
「分かった、今から行くから、部屋に通しておけ。ヒロ、お前も一緒に来い」
なんだろう。誰か来たって事かな? ひょっとしてリン達だったりして。
あーリン達に会いたい。なんとか奴隷を許して貰って、解放されたい……。
僕は姫様と一緒に、その部屋に向かった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「超ワガママだから、あんまり関わらない方がいいわよ」
リエゾン達から忠告されていたので、リン達は大公女に会うのは反対だった。
この世界でのヒロのモテ具合から察するに、絶対にロクな事になりそうも無い。
ヒロがどうしてもと言うから仕方なく行くことにしたが、やはり全力でヒロを止めるべきだった。今さらながら、リン達は心底後悔している。
そしてもう一つ、リンが死ぬほど後悔していることがある。大公女との勝負を、認めてしまったことだ。
ヒロの言う通り、戦いは安易に受けるべきじゃ無かった……。
ヒロの言うことはいつも正しい。避けられる戦いは、避けた方が利口なのだ。
場合によっては、戦いは最悪の結末を迎えることだってある。そうじゃ無かっただけ、今回はまだマシなのかも知れない。
神様、もう二度と軽はずみに、戦いなんか受けません。
だから、ヒロを返して……。
昨夜、本当にヒロが帰って来なくて、リン達3人は一睡も出来なかった。
人間を賭けの対象にするなんて、正気じゃ無い。大公女がワガママと言ったって、モノには限度がある。きっと、夜にはヒロは解放されて、元の生活に戻れると思っていた。
まさか、大公女は本気でヒロを自分のモノにする気なんだろうか?
もう一生ヒロを取り戻すことは出来ないのだろうか?
ひょっとしたら今日ヒロは解放されるのではないかと、淡い期待を持ってリン達3人は過ごしていたが、朝から食事も喉を通らず、もうこれ以上は我慢出来ないと思い、夕方過ぎに3人は大公女邸を訪れた。
「あの……すみません、昨日お伺いした者なんですけど……」
リンが門番の女騎士に話し掛ける。
「あら、あなた達、ヒロ様のお連れの方達ね。何か用かしら?」
「その……勝手な言い分なんですが、ヒロを返して頂きたいんです」
「それはダメよ。だってもうヒロ様は姫様のモノなんですもの」
「でも、人間を物扱いして賭けるのは、やはり良くないのでは……?」
「承諾したのはあなた達でしょ? 今さら取り消せないわ」
「分かっています、悪いのは私たちです。でも、私たちにヒロは必要なんです! 土下座でもなんでもしますから、どうかヒロを返して下さい……」
リンは、ヒロが戻ってくるなら、どんなことでもするつもりだった。
それは、麗子と友美も同じだ。
このままヒロを取られるのは、死ぬに等しい仕打ちだ。一秒でも早くヒロを取り戻したい気持ちで一杯だった。
「んーでも、ヒロ様はもう姫様と一緒に寝てらっしゃるのよ。湯浴みも一緒にしているようだし。ヒロ様のことは諦めた方がいいんじゃないかしら?」
門番の言葉を聞いた途端、リンの顔が真っ青になる。
「う……うそを言うのはやめて頂けませんか!? 昨日会ったばかりで、いきなりそんな仲になるわけ無いわっ!」
「そうですよっ、勇木君はそんな人じゃありませんっ!」
麗子と友美が、怒りを交えて反論する。あのヒロが、そんなに簡単に女性と関係を持つわけが無い。絶対に無い。それだけは、自信を持って言える。
これはきっと、私たちを動揺させる虚言に違いない。
「そう言われても、ヒロ様ご本人が仰ったそうよ。私もたったいま聞いたばかりの話なんだけどね」
リンの身体がガクガクと震えている。もはや立っているのもやっとという様子で、リンの耳にはもう言葉は届いていないようだった。
「勇木君が、そんな……こと……」
「失礼、通して頂いてよろしいか?」
門番とやりとりしている間に、いつの間にか人が来ていた。
背の高い男と妖艶な女で、男は黒い肌をした長い銀髪で、腰に剣を携えている。女は麗子と同じくらいの身長で、やはり黒い肌の銀髪で、髪の長さはほほより少し下に掛かる程度、毛先にはシャギーが掛かっていて、そして肌を大きく露出した格好で帯剣している。
二人ともダークエルフの剣士だった。
「大公女殿下にお取り次ぎを願いたい」
「はっ、少々お待ちを……」
リンの意識はもうここには無い。ひとまず、出直した方が良さそうだ。
麗子と友美はリンを連れて、大公女邸から引き上げた……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
姫様と一緒に、僕らが初めて姫様と会った部屋に入っていくと、すでに訪問者は部屋に通されて待っていた。
いきなり目に付いたのは、まるで裸じゃないかと思うくらい肌を晒した女性で、武器屋で見たあのビキニアーマーに似た防具を着ている。
本当にアレ着る人って居るんだ? ちょっとスゴイ。豊満な胸がこぼれ落ちそうだし。マントを羽織っているとはいえ、コレで外を歩いてきたのか?
それにしても、怖いくらい綺麗な人だ。
訪問者は二人ともダークエルフだが、エルフもダークエルフも、基本的には通常の人間が到底及ばないほどの美貌を持っていることが多い。
隣に居る背の高い男性も、やはり眉目秀麗な姿をしている。恋人同士かな?
と、そんなことを思っていると、何故か『危険予知』が反応した。
近くに敵が居る!? そう警戒すると、男のダークエルフの姿がぼやけ、違う姿に変身する。
これは……幻術か何かで、正体を偽装している!
能力解放状態だったら、看破SSSですぐに見破れたんだろうけど、通常状態では、幻術等は見破れない。『危険予知』は、それを補うための能力なのか。
僕の目に映った男の本当の姿は、巨大な悪魔だった! ヤツからとんでもない力を感じる!
危険だ! それと共に、コレはチャンスだ!
この屋敷に、初めて能力解放可能な対象が現れた。油断している今、一気にヤツに近づき、先手必勝で倒す!
「あっ、ヒロっ? 何をするっ!?」
僕は虚を突いて飛び出し、悪魔に向かって突進する。
よし、あと少し近づけば、能力解放出来る……と思った瞬間、僕は強烈な一撃で吹き飛ばされる。
悪魔の横に居た女性が、神速で刀を振るったのだ!
「兄上に何をする!」
兄……だと?
これは彼女が騙されているのか、洗脳されているのか、もしくは悪魔と知っていて協力関係なのか、この状態では分からない。そして、聞くわけにもいかない。
僕の能力解放が確実に出来る状況じゃ無ければ、悪魔の正体をバラすわけには行かないだろう。
「ヒロっ、いきなりヴァクラース卿に何をするつもりなのだ!?」
ヴァクラース卿? ヤツがヴァクラース卿だったのか!




