第54話 ペットの生活
あのあと、リン達は帰されて、僕だけ姫様の屋敷に残っている。
1対1の試合で負けてしまった僕は、姫様のモノとなってしまった。
まさか、女性相手には能力解放が出来ないなんて……。弱点はもう無くなったと思ったのに、完全に盲点だった。
万が一の危機的状況に遭遇する前に、弱点に気付けたのは良かったかも知れないが、このあと一体どうしたものか。
「勇木ヒロよ、この首輪を着けるのじゃ」
姫様が、ペットに着けるような首輪を持ってくる。
いくら姫様のモノになったからって、これはあんまりだ。しかし、勝負で負けてしまった手前、こちらとしてもあまりワガママは言えない。
首輪くらいで満足して貰えるなら、甘んじて着けるべきか。
「ふふん……お手!」
「えっ?」
僕は反射的にお手をしてしまう。
いや違う、反射じゃ無い、僕の身体が勝手に動いたのだ。
「お座り!」
まただ、僕の意志に反して、身体が勝手に動く! なんだコレ?
「よしよし、ちゃんと効いているようじゃな。コレは我がデスポート家に伝わる至上工芸品で、主人の命令に逆らえなくなるというモノじゃ」
「ええっ、それって、禁止されてる奴隷契約と同じじゃないんですか?」
「うむ、同じだ。アレよりも簡単に主従関係が結べるのが特徴でな」
「そんな、ダメじゃないですか、違法ですよ!」
「奴隷契約じゃ無いから違法じゃ無いぞ」
「そんなバカなあっ」
まずい、すぐ外さないと……外せない!?
「無駄じゃぞ、それを外せるのは主人のわらわだけじゃ」
なんてこった、これじゃ僕は姫様の奴隷じゃないか! 危機的状況の前に弱点に気付けて良かったと思ったけど、むしろ今が危機的状況なのかも。
「さあ勇木ヒロ、わらわに付いて参れ」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
姫様に案内されて、屋敷の使用人さん達を紹介されたあと、彼女たちと一緒に、僕は屋敷の掃除をさせられる。
使用人さん達は男性が珍しいのか、ほかの場所からやたらと僕のことを見に来たり、そばに近寄って来たがった。
「ねえ勇木様、異世界からいらっしゃったというのは本当ですか?」
「え? はい、本当です」
「きゃー勇木様と喋っちゃった! 本当ですってよ!」
んーなんかスゴイはしゃぎようだ。まあでも悪い気はしないけど。
クラスメイトのみんなはアマトーレ公国を避けたけど、こんなに歓迎されるなら、誰かもっと早く来てあげてれば良かったかもね。
気付くと、使用人さんが20人くらい、僕と同じ部屋に来ていた。
これって全員なんじゃないの? そんなにこの部屋の掃除って大事なのかな?
「なっ、なんじゃお前らこんなに集まって! ちゃんと自分の持ち場を掃除しろ! 勇木ヒロ、わらわと来い! 訓練場に行くぞ」
「ああん、勇木様が行っちゃう、残念~」
◇◇◇
姫様と共に、訓練場に到着する。そこには十数人の女性騎士達が居て、姫様を迎えるために整列していた。
彼女たちは姫様直属の騎士団で、普段姫様の護衛をしているのが『薔薇の騎士』と呼ばれている4人の騎士。ただし、守られている姫様の方が圧倒的に強いとか。
ほかの女性騎士達は、屋敷の警護を務めているとのこと。
訓練場に来るまでの移動中に姫様から聞いたけど、この屋敷の女性は、全て住み込みで働いているらしい。
なので、やはり男性は珍しいのだとか。女子校みたいなものなのかな。
「勇木ヒロ、稽古するぞ。もう一度わらわと剣を交えてみよ」
姫様と模擬戦を行う。しかし、やはりまるで相手にならない。
姫様の歳にしてこの剣技は、相当の才だ。天才と言われるのも無理は無い。
「勇木ヒロよ、それで本気なのか? お前本当に魔剣使いを倒したのか?」
「魔剣使いとの戦いは、たまたま上手く行っただけで、僕はこの通り、平凡以下の冒険者です。姫様、僕と一緒に居てもつまらないですよ」
姫様が僕の弱さに愛想を尽かして、そのまま僕を解放してくれることを祈って、情けない態度を僕は取ってみる。
「ふーむ……しかし、わらわは何故か、お前には光る才能を感じてな。こんな気持ちは初めてなのじゃ。それが何か分かるまで、お前には一緒に居て貰うぞ」
だめか……。
因みに、女性騎士達の稽古も見させて貰ったけど、エーアストの騎士団にも引けを取らないほどの女傑達だった。
冒険者で言うと、Bランククラスの力は持っていると思われる。『薔薇の騎士』は、恐らくAランクほどだ。そして、皆さんとても若い。全員20歳そこそこだろう。
「ふーっ、よし、本日の訓練終了。勇木ヒロ、わらわは着替えてくるから、そこで大人しく待っておれ」
姫様が訓練場から出て行く。これでしばらくの間は安心出来る。
何せ、奴隷の首輪のため、姫様の命令には逆らえないのだ。近くに居ると、何を言われるのか気が気じゃ無い。
少し気を抜いて、ボーッと立っていると……。
「うふふ、姫様が居ない、今のうち!」
「やだ、ヒロ様可愛い~」
「訓練中気になって仕方なかったわ。お近くに寄って見たかったのよ~」
「コレ奴隷の首輪でしょ? 噂には聞いていたけど初めて見たわ」
「姫様ってば、いつか気に入ったヤツが現れたら、首輪を着けて飼ってみたいって言ってたもんね」
ひいいいいいっ、姫様ってば、そんなこと考えてたの?
「ヒロ様、姫様に大人しくしてろって言われたから、動けないんでしょ?」
「イタズラするなら今のうちね! えいっ」
「あたしも! えへへへ、それ~♪」
わあああっ、彼女たちが好き勝手に僕の身体を弄ぶ。助けて~っ。
「待ちなさいあなた達!」
ああっ、『薔薇の騎士』さん達だ。彼女たちなら、このとんでもない状況を止めてくれるはず。助かった……。
「ヒロ様と戯れるのは、私たちが先よ。順番は守って欲しいわ」
違った。いつの間にか順番まで決まってる!?
ちょ、待って、『薔薇の騎士』さん、うわっ、さっきの騎士さん達より強引だあああああっ!
「あ~ん殿方の匂い……スーハースーハー、う~昂ぶる~っ」
「はあはあ、わたくし、初めてはヒロ様がいいわ」
「あら、純潔を守らないと、ここから追い出されちゃうわよ?」
「ヒロ様と一つになれるなら、それでも構わないかな~」
なんか怖いっ、『薔薇の騎士』さん怖いっ、姫様早く戻ってきて~っ!
「勇木ヒロよ、大人しく待っておったか?」
姫様がようやく戻ってきた。なんかもう僕は女性騎士達に色々オモチャにされてグッタリだ。
当の女性騎士達と言えば、姫様の気配を感じた途端、一瞬で元の位置に戻って、シャキッと整列してしらばっくれている。
女性の本性を垣間見たというか、リン達も本当はこんな感じなのだろうか?
いや、彼女たちはそんなこと無いと信じたい……。
「では勇木ヒロよ、夕食にしよう。お前何か食べたい物はあるか?」
「あーいえ、特には……。お任せ致します」
「ふむ。ではわらわが選りすぐったコースでご馳走しよう。今日はお前がわらわのモノになった記念日だからな」
これ、まさかと思うけど、僕って一生姫様のモノなのかな? そんなことは無いとは信じたいけど……。
期限を決めてなかったんだよね。せめて、一週間だけとか、そういう約束にしておけば良かった。まあ負けるとは思わなかったからなあ。
姫様が飽きたら、自由にして貰えるかな?
食事中、僕がこの世界に来てから経験したことや、戦ってきた相手、そして地球のことなど、姫様は色んな事を聞きたがった。
セクエストロや殺し屋達のことを言うと、僕の価値が上がってしまうかも知れないので、その辺は内緒にして、苦労したことや失敗したことなどを中心に話した。特に、僕が情けないイジメられっ子だということは、何度も話に織り交ぜておいた。
これで僕に興味を失ってくれればいいんだけれど……。
「勇木ヒロよ、お前の話はとても面白いな。また食事の時に、お前の話を聞かせてくれ」
姫様はそう嬉しそうにして、僕の話を聞き終えた。
わがままだけど、すごいイイ子なんだよね……それは分かる。使用人や女性騎士達にも慕われているし。
僕の話を、ニコニコとした笑顔で興味津々に聞く姿は、一国の大公女という感じでは無く、年相応の少女として、とても可愛らしく見えた。
◇◇◇
夕食後は、僕は姫様の部屋に呼ばれ、二人っきりで時間を過ごしている。
いま姫様は、豪華なソファーに座って読書をしていて、僕は命令でその姫様の肩を揉んでいる。
この『奴隷の首輪』は、能力解放さえ出来れば、効力もキャンセル出来るはず。しかし、その能力解放が出来ない。
この屋敷に男が居れば、その人を対象にして能力解放が出来るんだけど、男は僕しか居ないし。
能力解放は簡単に言うと、近くに対象となる者(男かモンスター)が居るか、もしくは近くに誰も居ないか、のどちらかでしか発動出来ない。
近くに女性しか居ないと、その人が能力解放の対象になってしまうようで、発動出来ないようなのだ。
まさにこの屋敷は、能力解放封じとしては完璧だ。僕のこの弱点は、絶対に誰にも知られてはならない。
……。
そういえば、食事をしてトイレに行きたくなってきた。
トイレを理由に、なんとか女性を遠ざけることが出来れば、能力解放出来る可能性があるかも。
「姫様、ちょっとトイレに行きたいのですが……」
「おお、そうか。誰か、バケツを持って来るのじゃ!」
なんだ? 変な命令だな。
姫様が大きな声で言い付けると、部屋の外に待機していた使用人たちが、大きめのバケツを持ってくる。
「この屋敷には男性用トイレが無いのでな……コレを使え」
……
なんですとぉ~っ!?
「男がするところを、一度見てみたかったのじゃ。こぼすなよ」
待ってくれ、そんなこと出来るわけがない。
「ひ、姫様、ご冗談は……」
「冗談では無いぞ、早くそこでするが良い。それとも、命令されたいか?」
ひいいっ、命令されたら逆らえないっ!
「ひ、姫様っ、お願いしますぅ~っ」
「ふふん、いつまで持つかなー?」
んぐぐぐっ!
はひっ、はひっ、ゆるしてっ。
くおおおガマン出来ないっ!
膀胱が破裂するうううう~っ!!
「ひっ、ひめしゃまあ~っ」
「おおっ? 出るか? ほれ、早うしろ」
泣泣泣泣泣泣泣泣泣泣泣泣泣泣泣泣泣泣泣泣泣泣泣泣泣泣……。
……
泣いて頼んだら、なんとかトイレで出させて貰った。
全く、姫様ってば、どこまで本気だったのやら……死ぬかと思った。
トイレの外には使用人が居るから、やっぱり能力解放出来ないし。
トイレから戻ると、部屋では姫様が下着のような薄着で待っていて、僕はドキッとする。
えっ、目のやり場に困るんだけど、姫様は僕に見られても気にしないのかな?
「シャワーを浴びるぞ」
「あ、はい、どうぞ」
「勇木ヒロ、お前も一緒に入るのじゃ」
「はい、………………はい? ……はあああああっ!?」
「わらわの部屋にシャワー室はある。お前はパンツだけ履いて付いてこい」
「ま、待って下さい姫様っ、僕が一緒に入るなんて……」
「お前が入らずに、誰がわらわの身体を洗ってくれるのじゃ?」
「んええええええええええええええええっっっっっ!?」
僕は姫様と一緒にシャワー室に入る。
姫様は恥ずかしくないのか、スルスルと服を脱いで、裸になってしまう。
僕はあまりのことに、何も見ないようにギュッと目を瞑る。
「勇木ヒロ、コレでわらわの身体を洗ってくれ」
姫様から渡されたタオルのようなモノに、身体を洗うための石鹸を付けて、背中側から姫様の身体を擦っていく。
首、肩、腕、脇の下、お腹、背中、太もも、ふくらはぎ……。
「胸もちゃんと洗え」
僕の手が震えながら、姫様の前を拭いていく。
まだ幼さを残した少女だと思ったけど、思ったよりも膨らみのあるクッションで、僕の手にその弾力を伝えてくる。
「あとは腰と……その下もじゃ」
姫様の言葉が僕の頭に上手く入ってこない。
一体いま僕はどこを洗っているんだ?
「そ……こは、やさしく……ふっ、んっ、んっ、んううっ………………っ!」
姫様の呼吸が荒くなり、ガクガクと身体を震わせて僕の手から居なくなる。
目を瞑っていたので分からなかったけど、どうやら倒れ込んでしまったようだ。
「はあ、はあ、はあ、はあ……もう良い、出るぞ」
僕らはシャワー室から出る。
僕は湯気と緊張で、身体中にビッシリと汗を掻いていた。
ようやく目を開けると、目の前には顔を真っ赤に染めた姫様が、うっすらと肌の透けるネグリジェに着替えて立っていた。
「勇木ヒロよ……今夜はわらわと一緒に寝るのじゃ」
「……………………ええええ~~~~~~っ!?」




