第53話 じゃじゃ馬姫現る
あの騒動の夜からすでに3日。無理矢理拘留所から脱走してから、僕らはずっと空間裂狭邸館に籠もりっぱなしである。
あの時、僕たちの装備をどこに保管してあるのか分からなかったため、拘留所に置いてあった装備を適当に奪って逃げてきたのだが、本当は自分たちの装備を取り戻したかった。魔剣男との対決のため、万が一のことも考えて、万全の状態にしておきたかったのだ。
だが、現在そんなコト言ってられない状況となってしまった。
僕らは殺人犯にされてしまってるのだ。僕らが脱走したあと、あそこに居た衛兵が全員殺されたらしい。それは僕らが殺して逃げたということになっている。
僕は衛兵達には、手加減して攻撃した。死ぬようなダメージは与えていないはずだ。万が一何か打ちどころが悪かったとして、不幸にも亡くなってしまったとしても、多くてせいぜい2、3人のはず。全員死ぬなんて有り得ない。
つまり、僕らが脱走したあと、拘留所に侵入して衛兵を殺したヤツが居る。
それが魔剣男なのか共犯者なのか分からないが、そいつの仕業のせいで、僕らは衛兵殺しの大罪人として追われる身となってしまった。
おかげで町は大騒ぎで、とても大っぴらには動けなくなってしまった。
こんな状態では、魔剣男を捕まえるだなんて、夢のまた夢だ。
せめて、これ以上被害者が出ないことを祈るだけだ……。
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「ヒロってば、一体どこに行っちゃったんだろうねえ……」
リエゾンがぼそりと呟く。
すでに深夜近い時間。リエゾン達パーティーは、ヒロ達が現行犯で逮捕されたという場所に訪れていた。
ヒロ達が拘留所の衛兵を全員殺して逃亡したという話だが、もちろんリエゾン達は信じていない。しかし、あれ以来、ヒロ達はどこにも現れなかった。
「ヒロ君、もうアマトーレから出て行っちゃったのかなあ」
「そうなると、全世界で指名手配されちゃうね」
「そんなことになったら、救世主どころか、普通に暮らすことすら不可能になっちゃうよ」
女冒険者達は、口々にヒロのことを語りながら、事件のあった周辺を歩く。
その姿は、あわよくば、自分たちが真犯人の人斬りをとっ捕まえてやろうというようにも見えたが、それはあまりにも無謀な考えだ。
人斬りを恐れて、静かな場所にはもう誰も近づかないようになっている。すでに女冒険者たちの周辺には、ずっと誰も居ない状態だった。
ふと女冒険者達が、気配を察知して立ち止まる。
凄い殺気だ。ほぼ人斬りに違いない。女冒険者達は臨戦態勢を取る。
「囚牢縛鎖!」
「な、なによコレッ!?」
「う……動けないっ!」
女冒険者達の足元に光の格子が浮き上がり、そこから伸びた蔓が彼女たちを縛り付ける。
ヒロの言う通り、人斬りは本当に魔剣使いだった!
「フヒヒッ、しばらく警戒が強くて獲物が居なかったが、怖い物知らずなバカ女がここに居たようだな」
魔剣を構えた男が、ゆっくりとリエゾン達の前に現れる。
「なるほどねえ……こりゃ手練れの冒険者達がやられるわけだわ。魔剣はやはり凄いわね。ただ、バカなのはどっちかしら?」
そうリエゾンが応えると、何も無かった空間から突如扉が現れ…………そこからヒロ達が現れたのだった。
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「お、お前ら一体どうやって……!?」
「ふふん、引っ掛かったわね。あんたが現れるのを待ってたのよ!」
「よくも今まで私たちをハメてくれたわね」
「今度こそ、もう逃がしませんよ!」
僕らは空間裂狭邸館から出て、魔剣男と対峙する。
衛兵殺しで僕らは厳しく追われているため、必要以上に動くことが出来なかった。それで、この国唯一の知り合いであるリエゾンさん達に、なんとか会って相談してみたら、魔剣男をおびき出す囮を引き受けてくれるというのだ。
女性に危険な役を任せるのは気が進まなかったが、ほかに良い手が思いつかなかった。なので、リエゾンさん達の申し出をありがたく受けることにした。
リエゾンさん達に『空間裂狭邸館』を見せ、僕たちがこの地に隠れていることを教えて、ここまで魔剣男をおびき出してもらうことに。
魔剣男が食いついてくるかは賭けだったが、無事いまその作戦が成功したわけだ。
僕は能力解放をし、リンに勝利への騎行を掛けて、二人で魔剣男を挟み込む。
「もう逃げられないぞ、素直に降参しろ!」
「ふー仕方ねえ、これだけはやりたくなかったが、こうなっちまったら覚悟決めるしかねえな」
男が魔剣を両手で持って、前に構えてグッと力を込める。
なんだ? 何をする気だ?
「ぬおおおおおっ、オレの命を吸え、ペリオリズモス!」
魔剣が赤く光り、男の大きな身体が一回り縮んだような錯覚に陥る。
コイツ……魔剣に生命エネルギーを吸わせているのか!?
魔剣からゆらゆらと赤黒いオーラが立ち上るのとは対照的に、男の姿はどんどん醜く変わっていく。
「よせっ、死ぬぞ!」
「ヒーッヒヒヒッ! いーくぜーっ! 『暗黒裂潰獄掌』っ!」
前に構えた魔剣が一瞬で大きく変化し、巨大な黒い手となって、僕を握り潰すように襲いかかる。
到底回避出来ないと思われる攻撃だ……普通なら。だが僕の能力『超越者の目』と『思考加速』で、攻撃の瞬間と軌道は読めていた。
唯一回避出来る死角へと身を躱し、一気に魔剣男を討ち伏せる。
もちろん、重要な犯人だ。決して殺すわけにはいかない。
僕の攻撃を受けて、魔剣男は気絶した。
◇◇◇
「ヒロ君って、こんなに強かったのに隠してたのね!?」
「あの魔剣使いを一撃で倒しちゃうなんて、凄すぎるわ」
「あ~ん、ますます好きになっちゃう~っ!」
ヒロが女冒険者達に揉みくちゃにされる。
女たちの胸やら太ももやらが、嬌声と共にやたらわざとらしくヒロへと押し付けられ、まるで夜の闇がその場だけピンク色に染まったような雰囲気だ。
どさくさにまぎれて、ヒロのほっぺにチューしている女すら居るが、リン達3人はグッと我慢する。
彼女たちの協力のおかげで、魔剣男を捕まえることが出来たのだ。あの八方塞がりの状況では、彼女たちの協力無しには、この事件は解決出来なかったであろう。
今回だけは仕方ない、ヒロに甘えることを許す。
「ヒロ、お手柄だね。アタシ達も協力した甲斐があったよ」
「リエゾンさん達のおかげです。こんな危険な囮までやって頂いて、本当になんてお礼を言ったらいいか……」
「ふふ、じゃあ今度お酒に付き合って貰おうかしら」
リン達は、それだけは絶対に阻止しなければと、心に誓うのだった。
◇◇◇
あのあと、僕らは衛兵を呼んで、魔剣男を引き渡した。
ただし衛兵殺しの容疑で、僕らは一旦逮捕された。何せ、逃げ出したことは事実なのだ。そのことについて、僕はあの日拘留所で起きたことの詳細を説明する。
僕の釈明を信じて貰えたようで、衛兵殺しについては完全な冤罪、そして脱走したことについては、特別に不問としてくれることになった。
因みに、魔剣男は魔剣に生命力を吸われて、ほとんど干涸らびたような様相になっている。
すでにあの技を使う前から、魔剣のペナルティで足の自由を奪われていたようで、魔剣無しでは歩けなかったほどらしい。
心身共に魔剣に侵蝕されてはいたが、それでも、いくつか記憶は残っているとのこと。誰かに魔剣を渡されて命令されたらしく、それが本当なら、やはり共犯者は居たようだ。
ただ、まだあまり思い出すことが出来ず、記憶の回復にはもう少し時間が掛かりそうだ。
この事件には黒幕が居る。あの魔剣に侵蝕された男では、狡猾な作戦などきっと考えつかないだろう。裏で操っていた共犯者が居るはずだ。魔剣男の記憶が戻ってくれば、きっと全てが解決するに違いない。
そう願いつつ、取り敢えず人斬り事件は一安心と思っていたら……
ヴァクラース卿の命令で、魔剣男が即処刑されたらしい。
まただ! こんな重要人物をいきなり殺してしまうなんて、いくら何でもおかしすぎる。
事件は単独犯の犯行ということで、これ以上の自供の価値は無いという判断だったらしいが、魔剣男は共犯者の存在をほのめかしていた。記憶がもう少し戻るまで待つ価値は充分あったはずだ。
まさかとは思うが、ヴァクラース卿が共犯者なのか……?
しかし、その理由も目的も分からない。
一度ヴァクラース卿と会って話してみたいのだけれど、一介の冒険者の僕たちでは、そう簡単に会ってくれるはずも無く……。
そう思いながら冒険者ギルドに行ってみると、受付の女性から思わぬコトを伝えられる。
「あのー勇木ヒロ様、大公女殿下からお呼び出しが掛かっております」
なんと大公女様が僕に会いたいと言うのだ。
アマトーレ公国を悩ませた事件を、異世界人の僕たちが解決したということで、興味を持たれたらしい。
「ヒロ、行かない方がいいんじゃない?」
「そうね、なんかイヤな予感がするわ。何か理由を付けてお断りしましょうよ」
「私も、会う必要は無いように思いますが……」
リン達3人は、大公女様に会うのは気が進まないらしい。が、ヴァクラース卿の事を考えるなら、大公女様とお近づきになるのは、悪い手じゃ無い気がする。
そこから、ヴァクラース卿に会うきっかけを作れないものだろうか?
ごねるリン達をなんとか説得し、僕らは大公女様の屋敷へと赴いた。
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大公女様の屋敷は、大公様の宮殿とは別の場所にあり、大公女様の専用の館になっているらしい。
仕える使用人は全て女性で、そして大公女様の護衛や、屋敷を警護する騎士達も全て女性のようだ。
つまり、この屋敷には、いま男は僕一人ということになる。うーん、なんか緊張するな……。
従者の方に付き添われ、僕たちは大公女様の待つ部屋へと案内される。
そこは、エーアストの宮殿の謁見の間のように広い部屋だった。
両側には女性騎士達が十数人ほど並び、正面に大公女様が僕たちを迎えるように立っている。
「よく来てくれた。わらわはこの国の大公女メジェール・デスポートじゃ。お前が人斬り事件を解決した勇木ヒロという者か?」
「はい。あ、いえ、僕だけでなく、みんなで力を合わせて解決に至りました」
大公女様は小柄で、友美よりもちょっとだけ背が高い。恐らく小鳥遊さんと同じくらいの身長だ。ふわふわしたセミロングの金髪を、ポニーテールで後ろにまとめている。
服装は大公女らしくなく、レースなどの装飾が一切付いていない動きやすそうな軽装で、そのじゃじゃ馬という噂がウソでは無いということを感じさせる。
雰囲気だけならフィーリア王女と似た感じもするが、キッと引き締まったツリ目で、少々気は強そうだ。
ただ、確か15歳ということで、その年齢相応の幼さはしっかりと残っている。
「ふーむ、では、魔剣使いを倒したというのは誰じゃ?」
「それは、僕ではありますが……」
「ほう、魔剣使いを倒したなら見事なものじゃ」
「お褒め頂き光栄です」
大公女様がスッと僕のそばに近寄り、僕のことをじっと見つめながら、ぐるりと一周する。そしてまた正面に立って、僕のことを上から下まで舐めるように観察していく。
なんだ? なんか品定めされているような……。
「気に入った。お前、わらわのモノになれ!」
「へっ?」
「ちょっ、大公女様っ、いきなりなんですか?」
「いくらなんでも、それは困ります!」
「勇木君は私たちのリーダーなので、そういうわけには行きません」
リン達が慌てて抗議する。僕もいきなり言われて、意味が分からずに一瞬戸惑ったほどだ。
……冗談ですよね?
「え? あの、いや、大公女様……」
「わらわのことは姫と呼べ」
「えーと、それでは姫様、今のお言葉はどういう意味でしょうか?」
「言葉通りだ。わらわのモノになれ」
「ちょっと、大公女様っ、冗談はやめて欲しいんですけど」
「そうですよ、傲慢にも程があります」
「なんだお前ら、ピーチクうるさいな」
「ヒロ君、帰りましょう!」
ああ、なんかややこしい展開になってきた。
大公女……じゃなくて、姫様は一体何を考えているんだ?
「よし分かった! お前らがそんなに言うなら、わらわと剣の勝負をしよう。勇木ヒロよ、剣を取れ」
なんか従者の人に模造刀を渡される。
えっ、試合するの?
「わらわは欲しいモノは力で手に入れる。わらわに負けたら、お前はわらわのモノになれ! それがイヤなら、お前も自分で守ってみろ」
あー結局こういう展開になるのか。
まあこの世界自体が、そういうモノなのかも知れないけど。
「いいわよそれで! 大公女様、ヒロに負けたら素直に諦めて下さいね! ヒロ、ちゃんと本気でやるのよ!」
リンが勝手に決めてしまった。
まあ仕方ない。怪我させない程度に、姫様を負かすとするか。
「では準備はいいか? 勇木ヒロ」
「よろしくお願い致します、姫様」
よし、能力解放………………ん? 発動しない?
「あれ? ちょ、待って……」
「どうした勇木ヒロ? 本気を出さないと、お前はわらわのモノじゃぞ」
「ヒロっ、何してるの!? 早く能力解放しなさいよっ!」
「待って、何か様子がおかしいわ。……ヒロ君、もしかして能力解放出来ないんじゃない?」
「そういえば、新しい能力解放になってから、女性相手の能力検証はしませんでしたね……」
まさか僕、女性相手にはまだ能力解放が出来なかったの? ウソでしょ?
だって、モンスター相手にも能力解放が出来るようになったのに、女性相手にはまだ出来ないなんて、そんなこと思いもしなかった。
すっかり検証する対象から外れてたよ。
一応、超越者の目で攻撃の予想は見えるけど、思考加速は使えないし、そもそも女性相手には上手く身体が動かない。
さらに言うと、この姫様、もの凄く強い……! アイレさんどころか、オルドルさん以上だ。
そういえば、リエゾンさん達が姫様のことを、SSランク並みの剣士だと言っていた。こんな少女が信じられないが、確かに、それくらいの実力はあってもおかしくない程の剣技だ。
「ああ、ヒロっ!」
「ヒロ君っ!」
「勇木君っ!」
僕は手も足も出ないまま、姫様に負けてしまった。
「なんじゃ、拍子抜けじゃのう。もっと手強いかと思っておったぞ。しかし、これでお前はわらわのモノじゃ。正々堂々の勝負で勝ったのじゃ、文句はあるまいな?」
僕は姫様のモノになってしまった……!
次回とその次は、ちょっとえっちぃ感じになります。ただ、所用で更新が遅れるかも知れません。
更新遅れたらスミマセン。




