第52話 冤罪
「おい、お前らがやったってのは分かってんだ、素直に白状しろよ」
僕らは詰め所で、フェーブル達殺害の取り調べを受ける。前回も相当怪しまれたが、今回はほとんどもう犯人扱いである。何せ、動機もあるし、前回の第一発見者だし、事件唯一の目撃者だし、昨夜のアリバイも無い。
『空間裂狭邸館』に宿泊していることが裏目に出てしまった。僕らは4人チームなのに、アマトーレのどこの宿にも宿泊していないというのだから、もはや弁解のしようも無い。
『空間裂狭邸館』を見せて説明しようかとも思ったが、何のアリバイの証明にもなっていないのでやめた。
ギルドカードの情報で、ちょっと前まで僕らはエーアストで活動していることは証明したのだが、今やこれも怪しいと思われているようだ。
「お前らのことは、ヴァクラース卿も疑っているんだ。もう逃げられないぞ」
「ヴァクラース卿……って誰なんですか?」
「お前……ヴァクラース卿も知らずにアマトーレに来たのか? ヴァクラース卿はグランディス帝国で騎兵団長筆頭を務めていた方で、アマトーレに来られて騎士団長から近衛隊長になり、功を立てて爵位まで賜られた方だ」
その人なら知ってるぞ。かなりの剣の使い手という話だけど、グランディス帝国で騎兵団長筆頭をしていながら、何故こんな小さな公国に来たんだ?
そして、なんで僕たちを疑っている?
「言っておくが、疑われているからといって、ヴァクラース卿を狙っても無駄だぞ。お前ら程度じゃ絶対に敵わんからな」
「そんなことはしません。でも一度ヴァクラース卿にお会いさせて下さい。僕たちが犯人じゃ無いことを分かって頂きたいんです」
「バカか! 会えるわけ無いだろ! お前らが会うのは死刑の執行人だ」
何一つ僕の言うことは信じて貰えない。
しかし、例え状況は真っ黒でも、僕らがやったという証拠は一切無かった。
散々取り調べられて、なんとか夜に僕らは釈放された。
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「なんなのよアレは!? あんな扱い絶対に許されないわ、訴えてやる!」
「訴えることが出来ればいいんだけどねえ」
「そうですね。日本と違って、貴族や衛兵の権利は大きいです。あれくらいじゃ、訴えても相手にしてくれないでしょうね」
そうだろうなあ。確かに失礼ではあったけど、大きく逸脱した行為はしてなかったもんね。僕らが怪しいのも事実だし。
しかし、こうなったら僕らの手で、なんとかあの魔剣男を捕まえないと、事件が起こる度に疑われそうだ。僕ら以外の目撃者は必ず殺されているそうだし、それだけでも、僕らを疑うに充分な理由にもなっている。
逆に、何故僕らは目撃したのに、ヤツは口封じをしないで逃走したのかが不思議だ。僕の能力解放に怖じ気づいたという感じもあったが、何せ魔剣持ちだ、ヤツが何を考えているのか分かるはずも無い。
僕らは静かな場所に来て、また空間裂狭邸館を使おうとすると……
誰か居る! 僕たちを付けてきていたな!? 『超感覚』でリンも気付く。
ただ、どうもおかしい。気配は複数人だ。
1人はこの前の魔剣男だ。だがほかにも何人か居る。
単独犯だと思っていたが、まさか仲間が!?
「ふふふ、お前は手強そうなんでな。助っ人連れてきたぜ」
暗闇から魔剣男が現れる。そしてその横から、異様に血走った目をしている男達が3人現れた。
全員大きな剣を持っているが、どうやら魔剣では無さそうだ。ただ、その大きな剣を、軽々と振り回している。並みの怪力では無い。
「勇木君、アレは多分悪魔憑きです」
「悪魔憑き?」
「はい、悪魔に精神を侵蝕され、肉体までも大きく変化させた人たちです」
悪魔憑きだなんて、魔剣はこんな事も出来るのか?
彼らからは、セクエストロの時と似たような感じも受けるが……。
「セクエストロとは違います。あくまで憑かれているだけですので、悪魔に変身するなんて事はありません。力も、いくら強化されて凄いとは言え、人間の範囲内に収まっているはずです」
なるほど、さすがにセクエストロ級3人はきついからな。
「ところで、彼らは元には戻るのかな?」
「恐らく、教会で悪魔祓いをして貰えば、戻る可能性は高いです。憑いてる悪魔のランクによっては、強力な祓魔師じゃないと祓えない場合もありますが……」
戻る可能性があるなら、無闇には殺せないか。
「ヒロどうする?」
「ヒロ君?」
「僕がやる。みんなは後ろに下がってて」
僕は能力解放をする。
「ひーっ、ケッケッ、やっちまえ!」
魔剣男の号令と共に、凄まじいスピードで悪魔憑き3人が襲ってくる。が、確かに人間の範囲内だ。セクエストロとなんて比ぶべくも無い。
僕は素早く3人のアバラを打ってたたき伏せる。
「なあ~っ!? なんだとぉっ!?」
「さて、次はお前の番だ。どうする?」
僕は魔剣男の正面に対峙し、一度様子を見る。
相手は魔剣持ちだ、油断はならない。もし逃げるなら、後ろから斬り付けてやるつもりだ。
「ぐぬううっ、やはりお前、ただの人間じゃ無いな? 悔しいが、オレでは敵わんようだ。だが、お前をハメる手はいくらでもある」
なんだ? 何をする気だ?
「おうううっ!」
「きゃあああっ」
「な、何よコレ!?」
「ヒロ君、大変っ……!」
リン達の声で後ろを振り向いてみると、さっき倒した悪魔憑きの男達の首から、血が勢いよく噴き出していた。
魔剣男のヤツが、何か仕掛けをしていたようだ。
「あばよっ、早くしないとそいつら死んじまうぜ」
僕が一瞬躊躇する間に、魔剣男はあっという間に暗闇に去って行ってしまった。
ちくしょー、やられたっ! 僕は急いで悪魔憑きの男達に、回復大を掛ける。がしかし、一歩遅かった。彼らはすでに死んでいた。
さすがに死者を生き返らせる魔法は無い。
千載一遇のチャンスをフイにしてしまった。というより、ヤツの謀略が僕の上を行ったということだろう。
とても狡猾なヤツだ。今までにこんな策略を巡らせてきたヤツは居なかった。
すでに魔剣に、心身共に侵蝕されているように見えるのだが、それでもこんなに頭が回るのか……?
手強いヤツだ。
さて、この惨状をどうにかしなければと思って、まずは衛兵を呼ぼうとすると……
「お前ら……! とうとう現行犯だ! そこを動くなっ!」
ついさっき僕らの事情徴収をした衛兵達が、最悪のタイミングで駆け付けてきたのだった。
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「待って下さい、僕らは彼らに襲われたんです! 彼らは悪魔憑きの状態で、僕は殺さずに気絶させました。しかし、魔剣持ちの男が何か被害者に仕掛けていたようで、いきなり首から血が噴き出したんです!」
僕は今、リン達とは分けられて、違う場所の拘留部屋に入れられている。腕には手枷がハメられ、完全に犯罪者としての扱いだ。
衛兵達は、匿名の通報があって、あの場に駆け付けたらしい。
僕らは完全にハメられた。魔剣男は僕たちを殺せなかった時の保険として、二重に罠を張っていたんだ。
いや、ひょっとしたら、最初からこっちが狙いだった可能性もある。どっちにしろ、完全に敵の思うつぼになってしまった。
「お前なあ、悪魔憑き3人を気絶させたとか、ウソ言ってんじゃないよ! お前にそんなこと出来るわけないだろ。それに、あの状況じゃもう言い訳出来ないだろ。あそこにはお前らしか居なかったんだぞ。そして、死体は死んだばかりだった」
「それも全部魔剣男の計画です。通報したというのは、きっとヤツの仲間です」
「仮にお前の言う魔剣男が居たとしても、その場合は単独犯だろう。今までずっとそうだった。何故いきなり今回だけ共犯者が現れるんだ?」
「それは……」
だめだ、状況証拠が全て僕らを犯人だと言っている。
あんな人気の無いところで、いきなり3人も殺されて、その死んだばかりの死体のそばに僕らが居る。そして周りには誰も居ない。その状況を作り上げられてしまった。
フェーブル達も偶然狙われたんじゃ無い、僕たちを陥れるために殺されたんだ。フェーブル達には申し訳ない気持ちで一杯だ。
「まあとにかく、お前らはもう終わりだ。ヴァクラース卿が死刑だって言ってるからな、逃げられねーよ」
またヴァクラース卿? 何か僕らに恨みでもあるのか?
「ま、すぐに裁判で死刑だけど、このまま殺すのも勿体ないからな。お前の仲間でちょっと楽しませて貰ってるぜ」
……何のことだ?
「さあて、オレもそろそろあっちに混ぜて貰うぜ。女達がヒイヒイ泣かされてる間、お前はここで一晩中反省してな」
僕は鎖の付いた首輪をハメられ、つま先立ちになるくらい引っ張り上げられて、天井から吊される。こんな状態では、一晩持たずに窒息して死んでしまうだろう。僕を殺す気なのか?
「まっ……て、リン達に何をするつもりなんですか?」
「ナニをするつもりなんだよ、ヒヒッ。もうすでにオレの仲間にヤラレちゃってるんだけどな」
「リン達に……手を出すのは許さない」
「おー威勢いいな。明日の朝まで生きてられるといいな。そんじゃあばよ」
僕は能力解放を発動する。面倒事は起こしたくなかったけど、もう仕方ない。
手枷も首輪も、軽く鎖を千切って破壊する。
「お、おまっ……んがぐっ」
衛兵を気絶させて、手枷と首輪をカギで開けて外す。
衛兵達には事件の解明は期待出来ない。僕らで魔剣男を捕まえて突き出すしか、もう無実を証明する方法は無いだろう。
そして、リン達が心配だ。酷いコトされて無ければいいが……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「やめっ……! こんなコトしていいと思ってるのっ!?」
リン達は両手を手枷で拘束され、両腕を上げる形で、天井から鎖で吊されていた。抵抗出来ない女を楽しむように、リン達は一枚一枚服を脱がされ、今や下着姿となっている。
「ひょー♪ こっちのねーちゃんは、おっぱいすげーなー。ガキのクセに、ばいんばいんだな」
「こっちの眼鏡の子は貧相だけど、オイラはこういうのがいいねえ」
「こっちのねーちゃんも貧相だけど、お尻がキュッとしてエロいわ」
男達は好き勝手なことを言って、リン達の身体の品評会をする。
どうせコイツらは死刑だ。ヴァクラース卿から好きにしていいと言われているし、せっかくだから思う存分楽しませて貰おう。
「いいか、お前らが人殺しなんかするからいけねえんだぞ! そういうヤツには、おしおきしねえとダメなんだ。まあお前らすぐにも死刑なんだけどな」
「死ぬ前に、オレ達を楽しませてくれよ~」
「あたし達ホントにやってないってば!」
「そうよ、冤罪よ! なのにこんなコトして……」
「早く下ろして下さい、訴えますからね!」
「いいよいいよー訴えても。犯罪者のお嬢ちゃん達の言い分聞いてくれる人が居るといいけどな」
「おお、汗臭い匂いがそそるなー。まだ湯浴みしてねえんだろ?」
「へへへ、どいつからおしおきしちゃおうかな~」
衛兵は、下卑た顔をしながら麗子の後ろから抱きついて、クンクンと、首回りや脇の下の匂いを嗅ぐ。麗子にとって、入浴前の脇の匂いを嗅がれるなど、屈辱以外の何物でも無かったが、両腕を吊られてどうすることも出来ない。
男はさらに、左手で尻を触りながら、右手の指で麗子のブラをそっと下にずらしていく。
「んん~? 先っちょ見えちまうぞ~」
「やめなさいっ……殺すわよっ」
友美は、でっぷりと腹の肥えた男に、お腹やおへそをベロベロとナメられる。
「うっひっひっ、可愛い子だな~」
「いやああああっ」
そして、リンのパンツの腰の部分には、節くれだった男の指が掛かり、両側からずりずりと下ろされていく。
「まって、やだっ、そこはヒロの、ヒロ助けてーっ!」
バダーンッ!
ドアが突然蹴破られて、疾風のように入ってくる男――もちろんヒロである。
「なっ!?」
「誰だ……?」
男達は侵入者を全く目視出来ないうちに、全員気絶させられた。
ヒロは机の上に置いてあったカギの束で、リン達の手枷を外していく。
「グスッ、グスッ、……ヒロ…………あたし怖かっ」
「ヒロ君っ、ありがとう~っ」
「さすが勇木君、絶対来てくれるって信じてましたーっ」
リンが両手を広げてゆっくり駆け寄ろうとしたところ、麗子と友美が弾丸のようにヒロに飛びついて、グリグリこれでもかと身体をすり寄せた。
完全にタイミングを失ってしまって、手を広げたまま呆然と立ち尽くすリン。
「わわ、待ってみんな、ふ、服っ、服を着て、すぐにここから逃げるよ!」
自分たちが下着姿だったということにようやく気付き、真っ赤になってヒロから離れ、そそくさと着替え始める。
その間、ヒロは後ろを向いて、みんなが着替え終わるのを静かに待つ。心なしか、さすがにちょっと顔を赤くしてるヒロであった。
「着替え終わった? じゃあ行くよ」
ヒロ達4人は、見つからないように拘留所を出て、素早く町の中へと走り去って行く。
これで自分たちは、脱走したお尋ね者だ。無実を証明するために、何がなんでも魔剣男を捕まえなくてはならなくなった。
「真犯人捕まえたら、あいつらのこと訴えてやる!」
「私もよ、今回ばかりは絶対許せない。殺してやろうかと思ったわ」
「下着姿見られちゃいましたからね。お腹もナメられちゃったし」
「何より、ヒロにこんな形で下着姿見られたのが悔しいのよっ! 胸が小さいのもバレちゃったし……」
「それはとっくにバレてると思うけど」
「うるさいっ」
――しかし、ヒロ達が逃げた直後、何者かが拘留所に侵入して、中に居た衛兵が全員殺されたのだった。
もちろん、その犯人はヒロ達4人ということにされる。ヒロ達は殺人犯としてのお尋ね者になるのだった……。
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