第51話 ダメな男?
「ちくしょーっ、リエゾンのヤツ、なんであんなガキなんかに……」
「おいフェーブル、もうリエゾンのことは諦めろよ」
「うるせえっ! オレはフラれたことが無いんだ、リエゾンだって、本当はオレのことが好きに決まってる! こうなったら無理矢理……」
人気の無い通り、ふと殺気を感じて、フェーブルは辺りを見回す。それを見て、パーティーメンバーも臨戦態勢を整える。
「誰だ? このオレ達を待ち伏せするなんて、いい度胸だな」
「フェーブルまずい、例の人斬りじゃないか?」
「むしろ好都合だ、返り討ちにしてやる!」
フェーブルはSランク冒険者だ。戦闘に関してはそれなりに自信がある。
確か、犯行は単独犯の可能性が高いとのことだった。今チームメンバーが揃っている。この状況で、そう簡単に負けるはずなど無い。返り討ちにして引っ捕らえて、衛兵に付き出してやる。
アマトーレを騒がしているこの事件を解決すれば、リエゾンだって、このオレを見直すはずだ。
フェーブルは辺りを警戒するが、なかなか敵の気配が掴めない。
殺気は気のせいだったか……?
「囚牢縛鎖!」
フェーブル達の足元に、格子状の光の線が現れ、そこから出現した蔓が身体に巻き付いていく。
「やばいフェーブル、これは魔剣だ! 人斬りは魔剣持ちだった!」
「フェーブル、一旦逃げるぞ……しまった、動けない!?」
メンバー達は光る蔓に完全に絡め捕られ、動きを封じられてしまう。
「くそっ、なめんなっ!」
フェーブルは蔓をはじき飛ばす。この程度の術にあっさりやられるほど、Sランクの抵抗力は低くない。
すぐにメンバーの術も解こうとすると……
「おっと、そうはさせねえ」
体格のいい若い男がフェーブル達の前に現れた。手には異形の剣を持っている。
その表情はもはや人から離れつつあり、すでに精神も肉体も魔剣に侵蝕されていることがよく分かった。
「なるほど、魔剣持ちが犯人だったか。腕のいい冒険者達が狩られるわけだぜ」
「お前も今からそうなる」
「やれるものならやってみな!」
フェーブルが先制攻撃を仕掛ける。長期戦よりは、一気にカタを付けた方が分があると見込み、出し惜しみせずにスキル技をぶつけていく。
「5連斬っ! ……ちっ、サンダースラッシュ! くそ、コイツ……!」
魔剣男は無理に反撃しようとはせずに、手堅くフェーブルの攻撃をガードする。それは男の雰囲気からすると、あまり似合わない戦い方ではあった。
魔剣の力を使って、強引に攻めてくるのでは無いかと予想していただけに、フェーブルは逆に不安を覚える。
このままではラチがあかない。一度距離を取って相手の出方を窺ってみるか?
そう思ってフェーブルは下がろうとすると……。
足が動かない。いや動かないのでは無く、自分の意志に反するかのように、石の如く重い。
それどころか、いつの間にか身体も上手く動かない。腕が鉛のように重い……。
「どうやら、自分の身体の変化に気付いたようだな。まあ今さらもう遅いが。この魔剣『ペリオリズモス』は、剣を打ち合う度に相手のスピードを奪っていくのさ。もうお前は、ロックタートル並みの遅さだぜ」
しまった……魔剣を甘く見ていた! フェーブルは自分の愚かさを後悔する。
相手の挑発に乗らず、一度ここは様子を見るか、引いておくべきだったのだ。
敵の狙い通りに、安易に打ち合ってしまったことを悔やむが、時すでに遅し。
緩やかな速度で自分の心臓を貫く魔剣を、ただ呆然と見ているしか出来ないフェーブルだった……。
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今、リンと麗子と友美は、かなりイライラと来ている。
アマトーレに来て最初のクエスト、コカトリスの討伐に来ているのだが、イライラの原因はそこにあるわけでは無い。
「えーヒロ君ってそうなんだー」
「ねえねえ、今度私たちと一緒に行きましょうよ!」
「お姉さんが色々教えてあげちゃう」
何故か昨日出会ったばかりの女冒険者パーティーも、一緒に来ているのだった。しかも、出発からずっっっっっっとヒロにべったりである。
リンならずとも、不快に思って当然であった。
「それにしても、皆さん女性4人でのパーティーは珍しいですね エーアストには居なかったです」
「女だけの方が、面倒なこととか起こらなかったりして良かったりするのよ。ウチのリーダーは、戦士としても優秀だから、特に男を必要としないしね」
「あ、でもヒロ君なら大歓迎よ。ウチのチームに入っちゃう?」
「僕なんか、皆さんにご迷惑掛けるだけですよ。そうだ、アマトーレの冒険者についてお聞きしたいんですけど、どんな方がいらっしゃいますか?」
「そうね、私たちはコレでもAランクで、アマトーレでもかなり上位の冒険者よ。ほかには、昨日会ったフェーブル達はSランクチームよ」
「えっ、Sランクの方だったんですか?」
「そうよ、ああ見えてアイツ結構強いんだから。タイマンしなくて良かったでしょ? 因みにSランクなのはフェーブルだけなんだけど、パーティーの総合力でSランクチームになってるの」
「あとはね、最近出来たあの迷宮攻略に、他所からSランク冒険者が2チーム来てたんだけど、全員人斬りにやられちゃったんだよね」
「ええっ、Sランクのチームが殺されたんですか?」
「そうなの。単独犯だとは言われていたけど、みんな信じられなかったんだよね。でもヒロ君が犯人目撃したって聞いて、ようやく真実だと確信したのよ」
「ヒロ君が見たっていう犠牲者も、Aランクの魔道士だったのよ」
……会話するのはまだいい。何故ヒロにそんなにくっつきまくるのか。
女たちが過剰なまでにスキンシップするのを見て、リン達3人は、心穏やかではいられない。
そもそも、ヒロは女に甘すぎる。
デレデレと八方美人に女性に愛想振りまいて、正直ダメな男の典型なのでは無かろうか。
そして、なんでこんなにモテるのかがサッパリ分からない。ちょっとは痛い目に遭って欲しい……リン達が、そう意地悪なことを少々思いたくなる程であった。
「フェーブルさんって、リエゾンさんに好意を抱かれているようですけど」
「ああ、アイツ自信たっぷりにリーダー口説いてきたんだけど、ウチのリーダーはイケメンにあんまり興味無いんだよね。フラれるなんて思ってもなかったのか、フェーブルのヤツビックリしてたもん」
「へー、リエゾンさんはイケメンがタイプじゃ無いんですか。女性でそういう方って珍しいんですか?」
「そんなこと無いよ。私もイケメンそんなに興味無いよ」
「私も。自信過剰な男って苦手だし」
「私もよ。ヒロ君の方が断然好き!」
またリンの怒りのゲージがアップするような発言が聞こえてくる。
『ヒロ君』と呼ばれることが無性に気になるのだ。『ヒロ君』は自分が子供の頃にヒロを呼んでいた名前で、麗子にすらヒロ君呼びを使われて悔しいのに、ましてや赤の他人に呼ばれるとなると、内心許せないモノがあった。
もちろん、完全に自分のわがままなのは分かってはいるのだが。
「犠牲者にはSランクの方も多いみたいですが、SSランクの方はまだ狙われてはいないんですか?」
「SSランクは、こんな小さな公国にはあんまり来ないのよね。迷宮攻略がもっと進めば、SSランクも訪れてくるかも知れないけど」
「SSランクが居れば、人斬りも退治してくれたかも知れないんだけどねー」
「ああでも、姫様なら人斬りにも勝てるかもね」
「姫様?」
「この国の大公女様よ。子供の頃からやんちゃだったらしいけど、今や天才剣士よ。15歳にして、SSランクくらいの強さはあるんじゃないかって言われているほどの」
「それは凄いですね」
「でも超ワガママだから、あんまり関わらない方がいいわよ。ヒロ君とか可愛すぎて襲われちゃうかも」
アンタよりはマシでしょ。そう心の中でツッコむリン達。
そうこうしているうちに、目的のコカトリスが現れた。クエストを受けたのは、あくまでヒロ達なので、一応ヒロのパーティーだけでコカトリスと戦闘をする。
「ヒロ君頑張ってー!」
「いつでも助けてあげるから、困ったら言ってねー」
コカトリスには石化のブレスがあり、討伐レベルは52の強敵だが、状態異常は『勝利への騎行』でキャンセル出来るため、リンは恐れずに前衛を勤め上げる。
麗子、友美の強力な援護もあり、無事コカトリスの討伐に成功した。
「ヒロ君すごーい!」
「こんなに強いなんて、さすが救世主ね」
「私たちよりも強かったのね。ゴメンね勘違いして」
リエゾン以外の女冒険者達に、ヒロは揉みくちゃにされる。顔を胸に押し付けられたりもしているようだ。
「ちょっと待ってよ、戦ったのあたし達なんだけど?」
「そうよ、ヒロ君は今回ナニもしてないわよ!」
「そうですよ、勇木君は私たちのヒモなんですから」
さすがにもう限界だ。リン達の怒りが爆発する。
とにかくヒロの評価を下げて、彼女たちに愛想を尽かして貰おうと思ったのだが、どうやら彼女たちには逆効果となってしまう。
「えーなんかひどーい」
「ヒロ君のことヒモだなんて」
「ヒロ君、本気でウチのチーム来ない? 戦わなくてもいいよ。私たちでヒロ君のこと守ってあげるよー」
「ふふふ、ウチのメンバーはヒロのこと大歓迎だって、どうするヒロ?」
むぎぎぎ……。この女たち、男をダメにする系ね。
もうっ、ヒロが優しすぎるから、どんどん勘違いしちゃうんだからね!
リン達は、ヒロの優柔不断な態度が全ての原因なのだと、自分の惚れた男にダメ出しをしようとすると……
「いえ、お誘い頂いて光栄なんですけど、僕は彼女たちを、これからもずっと守っていくと決めてますから」
一気にリンと麗子と友美が、我を忘れて天にも昇る気持ちになる。
今のってプロポーズじゃないの? 違うの? 心臓のドキドキが止まらない。
相手の女にこんなに堂々と宣言してくれるなんて、女としてこれ以上嬉しいことは無い。
さっきまでの不満も全て吹っ飛び、今まで以上にヒロのことが好きになる3人。
そして、勝ち誇った気分で相手を見ると……
なぜか相手の女たちも、ボーッと顔を赤くして、さらにヒロに惚れちゃったような印象だ。
あれ、コレも逆効果なの?
「ヒロ君、カッコイイ……」
「私もヒロ君にそんなコト言われてみたい……」
「負けないんだから!」
「ふふ、ヒロ凄いね、アタシもなんか本気になっちゃいそうだよ」
結局、リエゾン達はヒロを諦めてくれないようだが、リン達は充分に満足して、アマトーレへと戻るのだった。
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僕らが町に戻ると、すぐに衛兵が駆けつけてきて、僕らを捕縛した。
僕らには思い当たることが何も無く、一体コレはどういう事なのか?
「お前ら、昨日フェーブル達と揉めたらしいな。事件初の目撃者ということで怪しいとは思っていたが、やっぱりお前らが犯人だったか!」
「なんのことですか?」
「昨夜フェーブル達4人が殺された。お前達がやったんだろ!」
フェーブル達が殺された? まさか……?
「待ってよ、この子達はフェーブルと揉めてなんかいないよ、アタシが保証する」
「いいや、揉めてるところを見たヤツが何人も居る。コイツを庇うなら、お前も逮捕するぞ」
「リエゾンさん、いいんです、昨日のあの状況なら、揉めてると思われても仕方ない」
僕らはやってないんだ。それをちゃんと説明すれば分かって貰えるはず。
それにしても、彼とは二度と会いたくないとは祈ったけれど、それがこんな形で現実になるとは、思いもよらなかった……。
僕たち4人は、衛兵の詰め所まで連れて行かれることになった。




