第50話 狙われるヒロ
「ねえヒロ、あたしにアレやってアレ、ギューンって強くなるヤツ!」
リンが『勝利への騎行』を掛けて欲しいとせがむ。
リンはすっかりあの強化モードが気に入ってしまったようで、ことあるごとに、『戦乙女』になりたがるのだ。
当たり前だけど、無駄に使っていい能力では無いので、本当に必要な時以外には『勝利への騎行』は掛けていない。何せ、1日最大5回しか使えないのだから。
因みに、麗子と友美の『勝利への騎行』も確認済みで、麗子は『神弓者』、友美は『聖使徒』へと転身する。どちらもリンに負けず劣らずの強さになってくれるが、ただ戦術の都合上、どうしてもリンの転身が多くなる。
まあ、コレを必要とする戦闘なんて、滅多に無いんだけどね。
アマトーレ公国の近辺を適当に散策してみたが、出現するのはエーアスト王国とほぼ変わらないモンスターだった。
お馴染みのホーンラビット、ポイズントードほか、コボルト、ゴブリン、オーク、キラービーなどだ。多少違うのは、スライムが多く居たことくらいか。
馬車を襲ってきたモンスターが少し特殊だったので、かなり警戒して歩いてみたけど、この辺には特におかしな様子は無さそうだ。油断は禁物だけどね。
「あ、見てヒロ、トロールよ! これは変身モード必要じゃ無いかしら!?」
変身じゃ無くて転身だけどね。まあ同じようなモノだけど。
「僕たちはもうトロールなんて楽勝でしょ。ああでも、ちゃんと油断しないでね」
リンの一撃でぶっ飛ばし、麗子の弓が首を貫き、友美の火炎焼却で焼き尽くす。あっという間の撃退だ。友美はもう火炎焼却くらいなら、すぐに完成させられるほど熟達している。
因みに『賢者』ほどになると、『高速詠唱』というスキルを覚えて、詠唱を短縮出来るらしい。きっと小鳥遊さんなら、そろそろそれも覚えていることだろう。
もうしばらく歩いていると、草木の茂みから大きな植物がはみ出て、綺麗な花を咲かせていた。一見なんでも無さそうな植物であるが、コレは有名なモンスターであった。
『マンイーター』である。
「あーコレがマンイーターってヤツなのね。近づくと危険って話だったけど、あたし女だから平気よね!」
「えっ?」
「えっ?」
「えっ?」
リンが無造作にマンイーターに近づいていく。
「リン危ないっ!」
「ちょ、リンっ何考えてっ……」
「リンさん離れて下さいっ!」
「へっ……?」
リンが花のそばまで寄ると、リンの足元の地面から突然巨大な葉っぱが4枚現れて、リンをパックリと飲み込んでしまった。
「ああああリンっ、『勝利への騎行』~っ!」
◇◇◇
「ううっ……、男しか喰わないんじゃ無いの? あたし女なのに~っ」
リンが腰を抜かしたように、地面にへたり込んで泣いている。よほど怖かったらしい。
食人植物であるマンイーターの葉は強靱で、一度喰われるとなかなか助けることが大変なのだが、『勝利への騎行』のおかげでリンは自力で脱出できた。
ほんの短い間だったのに、リンの服や装備の一部は溶かされていた。
何とも恐ろしいモンスターだ。リンが無事で何よりだった。
「リン、マンイーターは男性だけじゃ無くて、女性も襲うのよ。知らなかったの?」
「じゃあなんでマンイーターって言うのよ!」
「マンイーターが出すフェロモンで、主に男性が引き付けられやすいからという説がありますけど、真偽は分かりません」
やれやれ、リンの無鉄砲さにも困ったものだけど、コレは結構イイ薬になったかも。今後は怪しげなモノには無闇に近づかないだろう。
僕らは散策を終えて、アマトーレに戻った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
町に戻り、冒険者ギルドに一応顔を出す。クエスト等を受けていないので、特にギルドに報告することも無いんだけど、なんとなく夕方の様子も窺っておきたかったのだ。
全体の雰囲気は、エーアストの冒険者ギルドと変わらない感じだ。ボルゴスのように目立った荒くれ者は居ないけれど、それなりに粗暴そうな人は居る。まあ冒険者には、暴れん坊な人は多いみたいだから、特に珍しくない光景だ。
一通りギルド内を眺めてから、そろそろ外に出ようかと移動すると、女性の声で呼び止められる。
「ねえねえ、エーアストから来た異世界人って君のことでしょ?」
それは赤髪でスラッと背の高い女性だった。セミロングの髪をふわふわとカールさせた、もの凄い美人な方で、後ろに同じような綺麗な女性を3人連れている。
彼女は恐らく戦士職で、剣や盾など一式を身に付けているが、装備を着けた上からでも、そのスタイルの良さがよく分かった。
「アタシはリエゾン・アムルーズ。女性4人の冒険者チームのリーダーで、戦士をやってる。後ろに居るのは、チームのメンバーで……」
「メイレンでーす」
「ムリエルよ」
「プルクラでぇす」
「あ、僕は勇木ヒロと言います。仰る通り、異世界から呼ばれました……」
「やだー本物だー! 君、ヒロって言うんだ?」
「うそ、こんなに可愛いのー?」
「ヒロ君て救世主なんでしょ? すごーい!」
「あーアンタ達うるさい! ゴメンね、この世界に異世界人が来たって噂は聞いてたんだけど、アマトーレにはまだ誰も来てくれなかったからさ。今朝ギルドに噂の異世界人が来たって話を聞いて、アタシら会いたくて待ってたんだ」
ううっ、なんかメンバーの女性さんがいっせいに僕に抱きついてきて、あちこち身体を触ってくる。年上の女性の甘い香りが、ふわっと僕の鼻腔をくすぐって、まるでのぼせるように顔が熱くなってしまう。
「ちょっと、ウチのリーダーに抱きつくのやめていただけますか!? あと、あたし達も異世界人なんですけど?」
「あれ? ヒロ君てリーダーだったの?」
「私もいま初めて知りました」
「麗子と友美は黙ってて!」
「あら、あなた達、ヒロ君の従者さん?」
「なっ……、パーティーのメンバーです!」
「ただのメンバー?」
「たっ……ただのメンバーです」
「なんだ、彼女じゃ無いのね。良かったー!」
「あ~リンはそこで強く出ないとダメよね」
「つけこまれますよねー」
「あのー、異世界人の男なら、エーアストに行けばまだ居ますよ。行ってきたらどうですか? ヒロなんか大したこと無いですよ」
「私ヒロ君がいい!」
「私もー!」
「私もー!」
「こ、こんなヘナチョコのどこがいいのよ?」
「え~ヒロ君可愛いよ。真面目で優しそう。この辺じゃなかなか見掛けないタイプだよねー」
「……そのヒロ君て呼び方、やめてもらえます?」
「えーヒロ君って呼んじゃダメ?」
「ああいや、ダメって事は無いですけど……」
「ヒロっ、ダメって断りなさいよっ!」
「ええっ? 別にそれくらいはいいんじゃない?」
「よくないっ! アンタがそれだから……」
「なんかこの子怖い……あの、あなたヒロ君のなんなの?」
「ヒ、ヒロの……ただのメンバーよ!」
「ふぅー、ダメな子ね、リンは」
「この調子じゃ、当分二人の関係は進みませんね」
「アンタ達、それくらいにしな! すまないね、ウチのメンバーがはしゃいじゃって。アタシ達はこれでもAランクチームなんだ。何かあったら力になるよ……ねえヒロ、今日このあと二人だけで飲みに行かない?」
リエゾンさんが仲間をピシャリと制止したあと、僕の両手をギュッと握って、そっと耳元に顔を近づけてきて囁いた。
「あっ、リーダーずるいっ、また自分だけ抜け駆けする気でしょっ!」
「今度はみんなで一緒にするって言ったじゃん!」
「ヒロ君の初めては、私が奪っちゃおうと思ってるのにぃーっ」
「あ、あ、あなた達、もうヒロには近づかないでっ!」
「これはさすがに悪い虫ね。ヒロ君を守らないと」
「リンさんだけに任せるわけには行かなくなりましたねー」
なんかリン達3人が、僕の前に立ちはだかって、彼女たちを牽制する。そんなに悪い人たちじゃ無さそうだけどなあ。
エーアスト王国以外では、救世主の伝承はあまり重宝されてないと聞いていたんで、他国で変に絡まれたりしたら嫌だなあと思ってたんだけど、そんなこと無さそうでホッとした。
「それでは、僕たちはこれで」
僕らはリエゾンさん達に挨拶をして、ギルドから出ようとすると……
「おう、待てよ! お前なにリエゾンに絡んでやがるんだよ!」
ああっ、無事ギルド内で揉め事を起こさずに立ち去ろうとしたのに、最後の最後でトラブルに巻き込まれそうな気が……。
僕を呼び止めたのは、背の高いガッシリとした男で、茶色の短髪を綺麗に整えたイケメンだ。恐らく戦士で、後ろにはチーム仲間らしき男を3人連れている。
「あの、僕はただリエゾンさんとお話しさせて貰っただけで……」
「そうだよ。別にアタシは絡まれてなんか居ないよ。そもそも最初に話し掛けたのはアタシだよ」
「そんなの関係ねー! リエゾンと勝手に話したのが許せねえ」
うわ、なんか酷い理不尽な言い掛かり……まるでボルゴスみたいな人だ。凄いイケメンなのに。
「お前おもてに出ろ! タイマンで決着付けようぜ」
一体なんの決着ですか?
僕は普通に行動しているだけなのに、何故いつもこんなに絡まれるの?
「フェーブルやめな! アンタいい加減にアタシを諦めなよ」
「んなこと言ったって、お前がオレをフッてこんなダサガキとイチャ付いてるなんて、許せねーよ」
「ねえ面倒くさいからタイマンしてぶっ飛ばしちゃえば?」
リンがまた物騒なことを発言する。
僕はケンカとかイヤなんだって。絶対そのあと面倒なことになるんだから。
あー戦いのあと友情が芽生えるようなパターンもあるか。でもこの人とは絶対に友情は生まれない気がする……。
「すみません、僕たちはこれで失礼します」
「おい待て小僧っ!」
僕は制止を無視して、素早くギルドの外に出た。
あーせっかく新しいところでは、穏便に冒険者活動したかったのに……。
彼とは二度と会わないことを祈るだけだった。




