第48話 もう1人の怪物
ドガーンッ!
「なっ……! なんだっ!? 誰かが襲撃して来やがったぞ!?」
そこは堅牢な造りの大きな建物で、名目上はある商人の私有物となってはいたが、実は巨大な犯罪組織の本拠地であった。
もちろん、絶対に気付かれないように、何重にも偽装が掛けられていた。そして、周辺の警備も超が付くほどの強力なモノで、それを突破するのはそうそう容易ではなかった。
仮に周辺の警備を襲撃されたとて、高速通信で本拠地に知らされ、増援を送るなり、もしくは迅速に本拠地から撤退するなりと、何らかの対処が可能であった。
つまり、まずこの本拠地へは、いきなり乗り込めるはずが無いのである。
この犯罪組織は、かつては世界最大の勢力を持っていて、所属していたその戦闘員達は、一国すら揺るがすほどの強者揃いであった。『殺人』という技に掛けては、SSランク冒険者など問題にならぬほどの手練れ達である。
大きな事件の裏には、必ずこの犯罪組織が暗躍しているほどの影響力があったのだが、しかし、十数年前に突然状況が変わる。
組織に所属する殺し屋達が、1人また1人と、何者かに次々に消されていったのである。
どこに居ようと、そしてどんなに守ろうと、狙われた者は必ず殺されていった。そして、この組織が弱体化していくのとは逆に、どんどん大きくのし上がってきた組織があった。
それは、勇木ヒロを襲った殺し屋達が所属する犯罪組織『嘆きの楽園』である。
現在『嘆きの楽園』は、以前最大と言われた上記の組織を越え、世界最大の勢力へと成長した。その裏に、謎の殺し屋の存在が噂された。
それが『死神』である。『死神』が、対立組織の殺し屋達を、根こそぎ殺していったのだった。
誰もがその『死神』を怯え、今では『嘆きの楽園』に逆らう者は居なくなった。
この組織も、自分たちの縄張り以上のことには手を出さず、どこの組織とも敵対関係を作らずに上手くやってきていた。
それが、突然の襲撃である。もちろん、騎士団や衛兵達に、こんな襲撃が可能なはずが無い。そもそも手も回してあるので、何も知らされずに襲撃されるようなことなど無いはずだ。
何が起こったのか、周辺に待機しているはずの警備に、高速通信で連絡を取る。
……誰からも返事が無い。恐らく、全員すでにやられているのだろう。
強力な警備を全て壊滅させ、この本拠地まで乗り込んでくるとは、一体何者だ?
◇◇◇
建物の中に居た組織のメンバー数十人が、いっせいに破壊されたドアに駆けつける。いずれも腕に自信のある猛者達だ。
どんな奴らがカチコミしてきたのかと思えば、そこに居たのは、2人の男と1人の女だった。それも、まだ16、7歳くらいの子供だ。体格だけは立派だが、その風貌にはまだあどけなさが残っていた。
「おうガキ共、ナニしに来た? 誰がコレやったのか言え!」
たった3人、しかもこんなガキが、今回のこの襲撃を出来るわけが無い。
誰かコレをやったヤツが後ろに居るはずだ。
そいつは今、どこからかこの様子を窺っているに違いない。油断は出来ない。
「オレ達がやったんだよ。お前ら全員駆逐しに来た。覚悟しな」
中肉で少し背の高い少年が質問に答える。コイツは武器らしいモノは特に持って無く、戦闘員だとすると、どうやって戦うのかがよく分からない。
もう1人の少年はかなりの大柄で、防具の上からでもよく分かるほどの凄い筋肉だ。大きめの剣を腰に付けているし、コイツは間違いなく戦士職だろう。
そしてその後ろに控えている少女は、まだ幼さを残しながらもかなりの妖艶さを醸し出していて、すでに女の色香を身に付けている。
「お前らがやっただと……? バカなコト言ってんじゃねえ。ほかに誰か居るのは分かってんだ、どこに居るのか教えろ! さもねえと、お前ら手足斬り落とすぞ」
「ふん、ちんけな脅しだな。じゃあゴミ掃除始めるか」
デカい方の少年がそう呟くと、入り口で会話していた男が吹っ飛ばされる。
あまりの速さにまるで見えなかったが、デカい少年が蹴りを入れたようだった。
「てめえっ、このや……」
パァンッッ!
ナイフを投げようとした男の手がいきなり破裂する。
「なああっ、オレの手がっ! バカな、なんだ今のはっ? 魔法なのか!?」
男は刃術スキルがSSランクで、つまり投刃の技術はSSであった。それは誰よりも早い先制攻撃を可能とし、実際今までに先を取ることに負けたことは無い。
それが、ナイフを投げる間も無く、手を破壊される。自分以上の投刃技術が無い限り、不可能なことだった。
いや、今のは投刃では無い。魔法でも無い。いきなり手が吹っ飛ばされたのだ。一体オレは何をされた……?
侵入者の少年達を見ると、中肉の男が、いつの間にか右手に黒い物を持っていた。ソレは、鋼で出来ているようで、恐らくアレがヤツの武器なのだろう。自分の手を破壊したのは、アレなのか?
「お、お前ら、一気に掛かるぞ!」
部屋に居た数十人が、一気に少年達に飛び掛かろうとする。すると、どこからか歌声が流れてきた。
――少年達の後ろに居る少女が歌っているのだった。
「な……んだこりゃ……」
「動けねえ……」
呪歌の抵抗に失敗した男達が、その場に固まる。
それを、悠々と黒い物体で撃ち抜いていく中肉の少年。無抵抗の虐殺が、部屋を血の海にしていく。
しかし、その少年のすぐ後ろに、隠密スキルで気配を完全に消した暗殺者が忍び寄っていたのだった。
形勢逆転。
少年達を一気に殺そうと、暗殺者が短刀を振りかぶった瞬間……その暗殺者は、後ろから胸を刺される。
それはどこにも居なかった、4人目の少年だった。
こんな少年達に、組織の強者をあっという間に残り数人にまで減らされ、男達はふとあることに思い当たる。
そういえば、『嘆きの楽園』の凄腕殺し屋、『百手』『詐欺師』『人形使い』『幻術士』『道具屋』たちが、次々と殺されていったとか……。
まさか、この少年達がそれをやったのでは……?
だとしたら、自分たちでは敵うはずが無い!
しかし、こんな時に備えて、組織は超強力な用心棒を雇っていた。仕事料はバカ高いが、その強さはあの『百手』と同等以上との話だ。
ヤツならこの場もなんとか切り抜けてくれるはずだ。震える指で、その用心棒を呼ぶスイッチを入れる。
「んー? オレの初仕事が、こんなガキ共退治でいいのか? オレの報酬知ってて呼んだんだろうな?」
程なく、その用心棒が待機部屋から現れる。
それは身長2mもある巨大な男で、大きな青竜刀のようなモノを両手に1本ずつ持っていた。そしてその刀同士は、長い鎖で繋がれている。要するに、鎖鎌の分銅を刀に替えたような武器である。
中肉の少年が、黒い武器で用心棒を攻撃する。が、用心棒は神速で、その攻撃を打ち落とす。
「何かを高速で飛ばしているようだが、オレには通じねえ。ガキ共、ちょっと調子に乗りすぎたようだな。上には上が居るって事を教えてやる」
さすがだ。用心棒には、少女の呪歌の魔力も効かず、強力無比だった少年の黒い武器も通じない。
これでコイツらを倒せる……! 組織の男達はホッと安堵する。
「いいだろう、オレが相手になってやるよ」
戦闘開始以降、今までずっとだんまりを決め込んでいた大きな少年が、ズイッと用心棒の前に出る。
少年もかなりの大きな身体だが、2mの用心棒と比べれば、まるで問題にならないような体格差だ。その少年が、腰の剣を抜くのかと思えば、両手を開いて軽く前に出した。
「素手だ。好きに掛かってこい」
なんとこの少年は、さっきの用心棒の絶技を見て尚、素手で相手をするというのか?
あまりに無謀だ。自らの力を過信しているのだろうが、殺しの世界ではその油断は命取りだ。当然、用心棒も自分の優位は逃さないし、例え相手が少年であろうとも、決して侮ったりはしない。遠慮無く、全力を持って青竜刀で斬り掛かる。
その巨大な身体から繰り出される斬撃は、鋭く、そして正確無比に少年を襲う。
避けたと思ったところに、片方の青竜刀を投げ、鎖でその動きをコントロールする。蛇が顎門を開けて噛みつくかのように、流れるような動きで次々に少年を襲うが、しかし少年には当たらない。
「ぬうっ、なんという素早い反応だ、このオレが捉えられぬ!」
自由自在に鎖で操られ、不規則な動きで襲い来る青竜刀を、少年は片手で軽く掴んで止める。
「ぐっ……バカなっ、このオレの怪力でもビクともしない! オレはレベル83だぞ!? SSSランクに匹敵する戦闘力のはずだ! そのオレが、何故こうも子供扱いされる?」
「ふん、レベル83ねえ………………オレのレベルは112だぜ」
「なっ、なんだと~っ!?」
その場に居た組織の男達全員が驚愕の声を上げる。
レベルの上限は100だ、それ以上は存在しない。だから、この少年の言うことは完全に虚偽だ。
……しかし、そう思えないほどの強さが少年にはあった。
コイツは本当に100を越えているのかも知れない。今112だと言ったか? ならば、用心棒よりも30近くも上のレベルだ。勝負になるはずが無い
「ま……て、オレの負けだ、降伏する」
「なら死ね」
少年は掴んでいた青竜刀を投げ、用心棒を串刺しにする。
もはや組織側に打つ手は無かった……。
この日、『嘆きの楽園』に次ぐ力を持つと言われた犯罪組織は、4人の少年少女達によって壊滅させられた。
少年達は、善意から犯罪組織を撲滅したわけでは無かった。そして、特に目的があったわけでも無かった。
たまたま自分たちに刃向かったヤツを倒したら、次々にヒットマンのような奴が現れ、そいつらを倒していくうちに勝手に辿り着いてしまったのだった。
「ケケッ、こいつらの物は全部オレ達が頂いちまおうぜ!」
途中から突然出現した4人目の少年と、黒い武器を使った中肉の少年が、戦利品を次々とアイテムボックスへと放り込んでいく。
どうせ犯罪組織の残しもんだ、遠慮することは無い。
年不相応な妖艶さを持った少女は、顔を上気させた淫靡な表情で、大きな少年にしなだれかかってそっと耳元にささやく。
「ねえ、アタシ興奮しちゃった。ここでして行こ!」
大きな少年は、発情した少女の声も届かない様子で、誰に向けるわけでも無く、ボツリと怨嗟の言葉を吐き出す。
「オレの超成長には誰も敵わねえ。あのムカつく剣聖を必ずぶっ殺してやる」
消えることの無い屈辱の過去を思い出しながら、少年は復讐を誓うのだった。




