第46話 謎の男
「こんの~っ、回転斬りーっ!」
『勝利への騎行』状態のリンが、自らに群がってくるモンスターを薙ぎ払う。
僕らがエーアスト王国を出て2日目の夕方過ぎ。
馬車で数日を掛けて遠距離移動する場合、基本的には日が暮れたら無理をせずに走るのをやめ、その場で野営をして夜を過ごす。
本日もぼちぼちその時間を迎えるという時に、突然モンスターの襲来があった。
馬車での移動には、雇われの護衛が付くことが多く、僕たちが乗っている馬車にも護衛は居た。馬車の走行ルートは、特に安全を考慮したモノが多く、例えモンスターが出たとしても、大抵は弱い魔物ばかりで、通常の護衛で問題無く対処出来る。
ただ、馬車を狙った盗賊団や山賊団が居るため、高額な取引をする商人は、高ランクの冒険者や強い傭兵などの強力な護衛を付ける事が多い。もちろん、そういう護衛は料金が馬鹿高かったりするのだが。
僕たちは自分で身を守れるため、護衛については特に考慮しなかったけど、いま通常では考えられないモンスターに襲われてしまっている。
ダイアウルフが5匹に、サーベルタイガー3匹、トリプルホーン2匹という、とんでもない組み合わせのモンスターだ。
ダイアウルフは、大型犬をさらに一回り大きくしたほどの狼で、Cランクパーティーが討伐する事が多いモンスターだ。
サーベルタイガーは、それをさらに一回り大きくしたモンスターで、通常1匹をBランクパーティーで討伐する。
トリプルホーンはサイを一回り大きくしたようなモンスターで、巨大な角が3本あるのが特徴だ。コイツはBランクではなかなか苦戦するほどに強い。
1匹でも討伐に苦労するのに、それが2匹になれば、難易度も格段に上がる。
ましてや、今回は群れを成して襲ってきた。
馬車の護衛も、これでは完全にお手上げである。
ということで、僕らの出番と相成ったわけである。
これほどのモンスター相手には、恐らくSランクパーティーが3チームは必要では無いかと思うが、リンの大車輪の活躍に加え、麗子と友美の援護もあって、なんとか僕らのパーティーだけで撃退出来た。
『勝利への騎行』状態でのリンの強さは、僕の能力解放とほぼ変わらないほどだ。
剣技に少し荒さがあるが、パワーが凄い。スピードもやや僕には劣るが、魔法剣士の僕と違って、リンは戦士だ。基礎戦闘力の高さが物を言う。
襲い来るモンスターをバッタバッタと斬り伏せていった。
「ふー疲れた」
「お疲れ様リン、凄かったわよ」
「リンさんお疲れ様です。それにしても、なんでこんなモンスターが……?」
友美曰く、サーベルタイガーとダイアウルフは、通常は一緒に行動するなんて事は考えられないらしいが、今回は一緒になって獲物を襲ってきた。その様子は、どこか怯えているというか、まるで何かから必死に逃げてきたようだった。
僕らが居なかったら、馬車はどうなっていたことか……。
「あ、ありがとうございます、本当になんとお礼を言ったら良いものか……」
馬車の御者が胸を撫で下ろして、僕らにお礼を言ってきた。
「いえいえ、お役に立てて何よりです」
「プーッ、くはははっ」
……あれ? なんか笑い声が。
「おい坊主、お前さん、女の子達に指示するだけで何もしてなかったが、言うことだけは一人前だな。お前なんか役に立ってたか?」
話し掛けてきているのは、馬車に一緒に乗っていた男の人で、砂色のローブにフードを深めに被り、口元を黒いマスクで覆った格好をしている。お供らしき女性を一人連れていて、その女性も同じような状態だ。
正直、外見はとても怪しそうな人たちなんだけど、特に殺気も感じないんで、あまり気にしないで同乗していた。『危険予知』も反応しないしね。
いま初めて話し掛けられて、ちょっと戸惑っている。
「なんなのよアンタ、失礼じゃないの!」
「おっとお嬢さん、気を悪くさせてゴメンよ。そこの坊主が君たち女性にだけ戦わせて、自分じゃ何もしないくせに偉そうなこと言うもんでね」
「アンタに何が分かるのよ!」
「ふむ、君たちが噂の異世界人ってヤツだろ? 君は凄いな、女性であんなに強いのは初めて見たよ」
「言っておくけど、コイツも超強いからね」
「ほう、そうだったのか。てっきり女に世話になってるだけの腰抜けヒモ男かと思ってたよ。エーアストでは王女とキスしてたしな。王女まで虜にするとは、是非そのテクニックを教えて欲しいモノだ、くっくっくっ」
あ……なんかリン達が一瞬で猛烈に殺気立ってる。
「ちょっとそこのおじさん、いい加減にしないと怒るわよ」
「そうですよ、いくらなんでもその言い方は酷すぎます」
「アンタねえ、そこまで言うならヒロと戦ってみなさいよっ!」
う~ん、自分たちだって、ちょっと前まで僕のことをヒモとか言ってからかってたクセに、他人に言われるのはイヤなんだな。まあ僕としては嬉しいけど。
「いいだろう。ちょうど模造刀あるから、オレがいっちょ揉んでやる。坊主、掛かってこい!」
え、戦うの? 僕イヤなんですけど……。
「ヒロ、アンタあそこまで言われて悔しくないの?」
「そうよヒロ君、さすがにこれは許せないわ、プライドの問題よ」
「あの変な男に、目にモノ見せちゃって下さい!」
3人とも熱くなり過ぎちゃってて、とても引き下がるような状態じゃ無いな。
僕としては無駄な戦いは極力避けたいんだけどね……。
「いいヒロ、ちゃんと能力解放使いなさいよ!」
仕方ない。僕が弱い男じゃ無いって事を分かって貰えば、あの男の人も引き下がってくれるだろ。
◇◇◇
模造刀を持って、僕と男は対峙する。
彼は二刀流の使い手だった。恐らく職業は侍なのだろう。
両手で2本の剣を扱う二刀流『侍』職は難しく、ほとんど見掛けることは無い。クラスメイトでも、『聖剣進化』の進藤君しか居なかった。
男はフードとマスクをしているため、その表情はよく分からないが、かなりの使い手であることは僕には分かった。
この人、ただの剣士じゃ無いな。今まで町中でも冒険者ギルドでも見掛けたこと無いけど、なぜエーアストに居たんだろう?
「坊主、来ないのか? ならオレから行くぞ」
男が動く。と思った瞬間、すでに目の前に移動していた。なんだこの速さは?
僕は慌てて能力解放する。
「むっ、お前っ……!」
なんだ? 男の剣撃がさらにスピードアップした?
2本の剣が、まるで生き物のように、自在な動きで僕に襲いかかる。
なんて攻撃だ、二刀流は極めるとこんなに凄いのか。
冒険者の剣術は、どちらかと言うと、威力を追求した技が多い。それは、如何にたくさんの敵を同時に斬るか、如何に大きなモノを斬るか、如何に堅いモノを斬るかという感じだ。
対して、騎士などの剣術は、対人戦闘にそこまでの威力は必要無いので、精密さを追求する傾向がある。フェイントや技の鋭さ、正確さ、急所の狙い方などに磨きを掛けるわけだ。
この男の剣術は、対人戦闘のモノだ。つまり、彼は冒険者では無い。
『百手』ですら、こんなに鋭い攻撃はしてこなかった。一体何者なんだ、この人は?
彼の剣技が、またさらにスピードを増す。
セクエストロの攻撃も速かったが、それとは質が全然違う。
無駄な動きを全て省いた、『斬る』ことのみを究極に極められた攻撃だ。予測で見えているのに、反撃する隙が一切無い。
その芸術のような連続攻撃を、僕は必死でガードする。
こんな奥の深い戦闘は初めてだ。
彼の身が一瞬沈み、まるで僕の首を刈ろうとするかのように2本の剣が伸びる。
なんという技の鋭さだ。『思考加速』で見ていて尚、躱すだけで精一杯だ。
そして、上段から打ち下ろそうとした彼の剣が消える。
我ながら、もはや奇跡とも言える反応で、かろうじてその攻撃を防ぐ。しかし、その衝撃に、僕は吹っ飛ばされてしまった。
「ヒロっ!」
「ウソでしょ?」
「そんな、勇木君の力が通用しない人が居るなんて……!」
僕はすぐに起き上がって、次の攻撃に備えて剣を構える。
「いや、オレが悪かった。お前は腰抜けなんかじゃない、素直に謝ろう」
あれ……もう終わりでいいのかな?
「無礼なことを言ったお詫びだ、イイ酒があるから、今夜一緒に飲んでくれ」
「あーその、僕らまだ未成年なので……」
「未成年? お前らまだ15歳にもなってないのか?」
そういやこの世界では、15歳から成人だった。
「いえ、そんなこと無いんですけど、お酒はちょっと遠慮しておきます。お気持ちだけで感謝します」
「ふむ、ならしょうが無いな。あまりイイ食い物は持ってないんだが、それで良ければご馳走しよう」
「有りがたく頂きます!」
なんか戦って男の友情っぽいのが出来た気がする。わりと僕が憧れてた展開だ。
口は悪いけど、悪い人じゃ無さそうだし。
リン達は、僕が負けてかなりショックを受けてるようだけどね。
それにしても、自分でもそこそこ自信があったんで、まさか軽くあしらわれるとは思ってもみなかった。やっぱり世界は広いね。
自分は少し慢心してたかも知れないんで、この戦いはいい薬になった気がする。
これからも日々の訓練を頑張らなくちゃ。
彼とそのお供の女性から頂いた晩御飯は、エーアストでは見なかった肉料理で、とても美味しかった。リン達もそれには満足したようだ。
次の日の夕方、無事アマトーレ公国に到着して、彼らとは別れることになった。
おかげさまで、良い旅の経験が出来たと思っている。
さあアマトーレ公国だ!
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「陛下、お戯れは困ります!」
「いや、凄いヤツだった……未だ信じられん」
模擬戦は模造刀だったため、自分の全力は出せなかったが、愛刀の村正、鬼斬丸を持ってすら、あの少年には勝てる気がしなかった。
最初対峙した時、ナメて軽く一撃で倒そうとしたら、彼から受ける重圧が一瞬で数百倍に変化した気がした。
侮っていた自分を修正し、一気に少年に打ち込みに行く。がしかし、必殺の攻撃を、いとも簡単に捌かれる。こんな事は初めてだった。
もはや模擬戦ということも忘れ、本気で少年に打ち込んでいく。
『剣舞・火焔の討ち掛け』を全て防がれ、『秘剣・斬首する蟷螂の死鎌』は紙一重で躱される。
ならばと使った『奥義・雷光天破』を、あの少年は初見でガードした。
上段から打ち下ろす剣を、相手が反応した瞬間に神速で軌道を変え、無防備な場所に打ち込む必殺の技だ。初見ではまず回避不能なはずだが、しかしあの少年は、剣の軌道を読むかのようにそれを防いだ。
もはやこれ以上は殺し合いになる。が、自分にはあの少年を斬れる気が全くしなかった。
そして、自分は幾多の死の戦場を駆け回っていたから分かる。アレは人を殺せる覚悟のある目だ。
万が一にも、彼と殺し合いになった場合を恐怖し、あそこで身を引いたのだ。
そう、この男こそ、パスリエーダ法王国を、邪教国家エレジーアから守り抜いた伝説の傭兵、英雄中の英雄と呼ばれる、ゼルドナ王シャルフ・アグードだった。
シャルフは、エーアスト王国が、何か『人ならざるモノ』に襲われたという噂を聞いて、たまたま近くにお忍びで来ていたので、様子を見に行ったのだった。
ところが、いざ着いてみれば全て解決しているし、事件の真相はどうも隠されていてよく分からなかった。
仕方ないので、せっかくエーアストまで来たついでに、アマトーレ公国に寄ってから帰ろうと、たまたまあの馬車に乗っただけだった。
しかし、エーアストまで行って正解だった。
想像以上の収穫だ。怪物を倒したのも、恐らくあの少年だろう。
アレか、彼が噂の『剣聖』というヤツか。
『勇者』は召喚出来なかったと聞くが、あれほどの男なら、魔神を倒すやも知れんな。
シャルフは、かつて自分が戦ってきた強敵を思い出す。その誰よりも、あの少年は強くなると確信する。
自分が出会った最強の男、狂王すら越えて行くのかも……。
「ふふ、面白くなってきたな」
もうすぐ一気に世界は動くだろう。
その時は、自分が王であることを忘れ、彼らと一緒に久々に戦場を駆け回りたいと思うのであった。




