第44話 その想い、全て受け止めて
「勇木っ、どうしたのっ!?」
「……能力解放が出来ないっ!」
どういう事だ? 僕はまだ今日は一度も能力解放を使っていない。
使用可能なはずなのに、何故か発動しない。
「キ……サマ、ガ、ユウキヒロ……?」
虚ろな表情で戦っていたセクエストロが、僕を見た瞬間、目を大きく見開いて、悪鬼の形相に変化した。
「キサマノセイデ……ユルサヌ、キサマヲコロス!」
セクエストロは猛烈な勢いで、僕に向かって突っ込んでくる。素手と思っていた手に、黒い爪が異常に長く伸びているのを確認し、そして、攻撃予測でその黒爪の軌道を見る。
能力解放が出来ないため、『思考加速』では見れなかったが、奇跡的になんとかギリギリ攻撃を躱した。が、セクエストロはすぐに体勢を整え、僕を切り刻もうと、強引に爪を振り回してくる。
「こぉの怪物めっ!」
見かねたリンが部屋に入り、セクエストロに向かって大剣を叩き付ける。通常の人間なら即死の攻撃だ。
しかし、セクエストロは、いとも簡単に腕で剣を受け止めた。腕を切り落とされること無く、だ。それは異常な光景だった。
「リン、剣を身体の前に上げろっ!」
セクエストロの黒い爪がリンを襲う。間一髪、リンはその攻撃を剣で防ぎ、衝撃で壁まで吹っ飛んでいく。
「リンっ!」
「リンさんっ!」
「だめだっ、入るなっ!」
麗子と友美が助けに来ようと部屋に近づくが、僕が大声でそれを制止する。
彼女たちでは、セクエストロの攻撃を防ぐことは出来ない。部屋に入れば、間違いなく無駄死にだ。
……セクエストロは異常すぎる。
ヤツ相手に盾役も囮も出来ない以上、フォーメーションを立てて戦闘をすることが出来ない。
なぜ能力解放が出来ない? このままでは打つ手が無い!
「ユウキヒロ……キサマヲ ジゴクニオトスタメ、ワタシハ シノフチカラ ヨミガエッタノダ……」
そう言って、セクエストロは両手をだらりと下げて、棒立ちになる。そして次の瞬間、その小さな身体が一気に膨れあがり、筋骨隆々な大男になった。
服は裂け、ボコボコと下から現れた肉体に、黒と紫の筋が走る。両手の爪は大きく伸びて変形し、頭の両側からはメリメリと牛のような角が生えだした。
これは……悪魔だ! セクエストロはもう人間では無くなっている!?
僕の能力解放が発動しないのは、セクエストロが人間では無いからだ。
ようやくその事実を知る。
「フヒヒ……キサマヲバラバラニ キザンデヤル!」
完全に悪魔の姿になったセクエストロが、猛スピードで僕に襲いかかる!
まずい、予測で見えても避けることが出来ないっ!
ガッシュッッ!!
僕に攻撃が届く前に、壁まで飛ばされていたリンが一気に近づき、セクエストロに大剣を突き立てる。しかし、セクエストロはそのダメージをまるで意に介さずに、片手でリンを吹っ飛ばした。
「きゃあああっ」
攻撃のあまりの速さに、僕は何も指示が出せなかった。
今の攻撃で、リンは殺されていてもおかしくなかった。しかし、セクエストロは手の甲で振り払ったため、リンに爪は当たらなかったようだ。
それでもかなりのダメージだったようで、リンは倒れたまま動けないでいる。
「ヒロ君っ!」
「リンさんっ!」
「だめだ、絶対に来るなっ!」
麗子も友美も、この状況に居ても立っても居られないようだが、彼女たちに出来ることは無い。犠牲者が増えるだけだ。
僕は思考を落ち着かせる。
焦るな、冷静になれ、いま出来る最善は、負傷者を無事逃がすことだ。
全滅だけは避けなくてはならない。
ヤツの目的は僕だ。ならば、僕の命に替えても、みんなを助ける!
「僕がヤツを引きつけます。その間に、動ける人を連れて部屋から逃げて下さい」
すぐそばに倒れていた国王守護騎士に、ほかの人の救出をお願いする。
国王守護騎士はかろうじて動けるようで、彼ならなんとかやってくれるはずだ。
「リン、近くの人を連れて部屋から逃げて!」
さっきの攻撃からようやく立ち直ったリンに、その周りの人の救出を頼む。
自力で動ける人しか救えないのが悔しいが、今は一人でも多くの命を救うことを優先としたい。
全員の避難が終わったら、僕は一か八かでセクエストロに攻撃を仕掛けるつもりだ。刺し違えることになるかも知れないが、このまま全員が殺されるよりはマシだろう。
……リン達は悲しむかも知れないが……。
僕はセクエストロを牽制しながら少しずつ移動し、王女とセクエストロの間へと入り込む。
「王女様、セクエストロは食い止めますから、部屋の外へ逃げて下さい」
王女はコクリと頷くと、動かなかった足に力を入れて必死に立ち上がり、慎重に少しずつ出口へと移動していく。
王女が無事脱出するまで、絶対にここを死守しなければ!
「グヒヒー、スグニハコロサヌ、ゼツボウヲアジワッテ シネ」
ヤツが瞬時に間合いを詰めてきて、その黒光りする巨大な爪で、僕の身体を少しずつ切り刻んでいく。もちろん、軌道予測は見えているのだが、あまりの速さに、全く避けきることが出来ない。
かろうじて致命傷は防いでるだけの状況だ。
「ぐっ……くそっ!」
これはなんとか僕が避けているわけじゃ無い、ヤツが本気じゃ無いだけだ。
セクエストロが明らかに遊んでいることに僕は気付く。
能力解放の出来ない僕など、普通の冒険者以下の力だ。ヤツならいつでも殺せるはずなのに、あえて急所を外して、僕の動きを封じようとしている。
「んぐっ……!」
ヤツの爪が僕の左腕の肉を削ぐ! これではもう盾で攻撃を防げない!
王女はいま僕の真後ろを通っている。あともう少し行けば、出口まで一気に走り抜けられるはずだ。
それまでは、死んでもコイツを引き留める!
「があっ」
しまった、足をやられた! かろうじて立つことは出来るが、もはや速い動きはとても出来る状態じゃ無い!
僕の体術は封じられてしまった。これ以上はもう躱せない……!
僕は相討ちを決断する。果たして、この状態でヤツと刺し違えることが出来るか分からないが、もはやそれ以外の手は無かった。
「みんな、僕がやられたら、僕ごとこの部屋を破壊してくれっ!」
「勇木……ヒロっ、やめてっ!」
「ヒロ君無茶だ、みんなで戦うんだ」
「勇木君だめですっ、死ぬ時は一緒ですよっ」
僕はあとのことをリン達に任せ、残された最後の力を振り絞って、セクエストロの前に一気に飛び込む。
狙いは一点、ヤツの首を斬り落とす。
頼む、当たってくれ……!
ズブブッ!
僕の剣はセクエストロの首に突き刺さった。
ヤツが僕をナメ過ぎていたのか知らないが、最大のチャンスだ!
このまま首を斬り落としてやる……。
が、剣が動かない。力を入れても、ビクともしないのだ。
ヤツが口角をつり上げてニヤリと笑う。
セクエストロは手に付いた5本の黒刃を振り上げ、僕に叩き付けた。
「ヒロっ」
「ヒロ君っ」
「勇木君っ……!」
グシャアアアアッ!
凄まじい衝撃が僕を襲い、部屋の端まで軽々と僕は吹き飛ばされる。
……宙を浮きながらふと気付く。
恐らく、一撃でバラバラにされるほどの攻撃だったはずだ。
アレを喰らって、なぜ僕は死んでいない……?
粉々に破壊された柱の裏まで転がされ、なんとか起き上がろうとした時に、横に居た人物を見て、初めて僕に何が起こったのかを知る。
……王女が僕を庇って、代わりに爪の攻撃を受けていたのだ。
王女の状態を見て、僕は愕然とする。そんな……うそだろ……?
王女は腹部を大きく切り裂かれ、左腕は無くなり、その綺麗な顔の半分もえぐり取られていた。
「お……王女、王女様っ、しっかりして、死なないで……」
僕は優しく王女を抱き起こす。しかし、それはどう見ても助からない姿だった。
急速に王女の体温が失われていく。またか……また僕が無力なせいで……。
ファラオゴーストの時だって、『邪悪たる存在の進撃』で僕らは全滅していてもおかしくなかった。
勝てたのは、たまたま全てが上手く行ったからだ。
僕は全然彼女たちを守れていない。
いつか王女は、僕が周りを幸せにすることが出来ると言った。
でも僕は誰も助けることが出来ない……。
「勇木様は以前……わたくしがなぜ、勇木様の成長を信じているのかと聞かれましたね……」
「王女様、喋らないで」
「わたくしには聖女の血が流れています。……その血が、あなたこそ、この世界の救世主だと告げるのです。あなたの優しさと勇気が、きっとこの世界を救うでしょう。勇木様、この世界をおねが………………」
王女の右手から、ネックレスがこぼれ落ちる。
それはあの日僕が買ってあげた、蝶のネックレスだった……。
その時、僕の中にまたあの声が響く。
「献身者承認、第三封印解除」
自分の中に、これまで以上のケタ外れな力の奔流を感じる。
説明など無くても分かる。いま僕は能力解放が可能になったのだ。
しかし、その代償はとてつもなく大きかった……。
僕は大切な人を犠牲にしないと成長出来ないのか?
自分の力は、そんな呪われたモノなのか?
違う、絶対に犠牲になんてしない!
王女を死なせてなるものか! 助ける魔法があるはずだ。
僕は回復の魔力回路を独自に組み替える。なぜか分かる。きっとコレなら王女を救える……!
「完全治癒っ!」
凄まじい大量の魔力が、僕の身体から一気に吸い取られていく。それと同時に、王女の腹部と失った左腕、顔の損壊部分が光り出し、欠損をみるみると修復していく……。
それは不可能と言われた魔法だった。
冷たくなりつつあった王女に徐々に体温が戻り、顔にはほんのり赤みが戻ってくる……きっとこれで大丈夫だろう。
僕はセクエストロに向き直る。
ヤツはゆっくりとこちらに近づいてきていた。最悪の笑みを浮かべながら。
だが、もうヤツには負けない。
「能力解放っ!」
僕の負傷した左腕と足が回復する。そしてヤツの動きがスローになる。
僕はこれまでの怒りを込め、セクエストロを激しく斬り付けた。
数メートル吹き飛ぶセクエストロ。
だがヤツは、僕の強烈な一撃を喰らいながらも、まるで効いていないような素振りを見せた。
……強い。能力解放を発動してなお、ヤツは互角以上の強さだというのか?
ここで僕が負ければ、全てが無駄になる。そんなことは絶対にさせない。
僕は冷静に考えようとするが、絶対に負けられないという思いが、どうしても心を焦らせる。
みんなを必ず守ってみせる。ならばどうすればいい?
「『勝利への騎行』が使用可能です。守護天使に力を分け与えますか?」
――あの声だ。そしてまた説明が無くても僕には分かる。
そう、僕一人で全てを守る必要なんて無かったんだ。
僕には信頼出来る仲間が居るのだから……
……一緒に戦えばいい!
「リン、僕と一緒に戦ってくれるか?」
「なに言ってるの、当たり前でしょっ!」
そうだ、僕にはこんなに頼もしい仲間が居るのだ。
一緒に戦うことこそ、全てを守ることに繋がる!
「勝利への騎行、転身・戦乙女!」
僕がその言葉を唱えると、リンの全身が輝き出し、頭、両腕、両脚、そして胴体の各部分に、光の装備が浮き上がる。
その煌めく甲冑を纏う姿は、まさに神の戦士だった。
「……行けるわ! アイツを一緒に倒しましょう!」
僕とリン、二人のタッグでセクエストロに斬り掛かる!
「おおりゃあああっ! さっきはよくもやったわねーっ!!」
リンの力は想像以上だった。
輝くクレイモアでセクエストロを斬り付けると、肉片を散らしてヤツがぶっ飛んでいく。そのパワーは僕以上だ。
僕も負けじと、剣技でヤツを斬り刻んでいく。
「グフッ、オノレキサマラ……」
セクエストロが右手の爪を大きく変化させ、何かをしようとする。
「聖矢極大砲っ!」
麗子がいつの間にか部屋に入ってきて、あの超必殺の矢を撃ち放った。
攻撃をしようとしていたセクエストロの右腕が、巨大な光の矢で消失する。
「私も混ぜて欲しいわね。強力な前衛が二人も居れば、フォーメーションも出来るでしょ!」
「その通りです。私たちだけ仲間外れなんて、ずるいですよ」
友美まで入ってきた。
そうだ、僕とリンでセクエストロを押さえ込めるなら、チームのフォーメーションは機能する。
もう彼女たちは無力な後衛じゃ無い。僕らを支援する強力な戦力だ。
「串刺し地獄っ!」
友美がすでに詠唱を終えていた魔法を放ち、セクエストロを何本もの巨大な槍が串刺しにする。それでもヤツは、自らの身体を破壊しながら、串刺しから無理矢理逃れて戦いを続けようとしてくる。
「リン、少しの間、セクエストロの動きを封じてくれ」
「任せて!」
僕は自分の最大の技を撃つために、戦いをリンに任せて静かに力を溜める。
「いっくわよーっ、流刃十二連斬っ!」
リンはその大きなクレイモアを自在に振り回し、流れるような綺麗な動きで、次々にセクエストロへと剣撃を打ち込んでいく。それは相手の反撃を一切許さない、暴君の超技だった。
「ゴエアッ、ギザマラナドニ コノワダジガアアアッ」
リンの強烈な連続攻撃に、さすがのセクエストロも、剣撃を喰らう度に肉体が弾け、ボロボロと身体が崩れていく。
そして、そのリンの連続斬りが終わると同時に、僕の溜めも完成する。
「リンどいて!」
「了解っ」
「超超特大衝撃波っっっ!!」
僕が放った超巨大な衝撃波は、セクエストロを繋ぎ止めていた最後の精神ごと、粉微塵に身体を吹き飛ばした……。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「……む? あの実験体の生体エネルギーが消えた……? 馬鹿な、あの実験体を倒せるヤツが、エーアストには居るというのか? ……いや、そんなわけが無い。肉体が暴走して、勝手に自滅してしまっただけに過ぎぬか……」
これでようやく主人公の能力が完全に開花しました。
このあとも成長して行きますが、基本形態はこれで完成です。




