第42話 宝の守護者
「なんて光だ……前が見えない!」
黄金の棺は輝き続け、辺りを白く染め上げる。
しばらくして、ようやく光量が収まってくると、その光の中心には、黄金の仮面を着けた悪霊らしきモンスターが立っていた。
「案の定、ファラオゴーストだ! 迷宮最奥に居る宝の番人だ」
「強いんですか?」
いや、ケットさんに聞かなくたって、このモンスターからはとんでもない魔力を感じる。弱いわけが無い。
「強いなんてもんじゃ無い、『不死の魔道士』と同等の存在だ。SSランクチームでも、果たして勝てるかどうか……」
まずいっ、モンスター相手には、僕は能力解放が使えない。そして、いくら彼女たちが強いと言っても、まだレベルは35だ。
ほかのクラスメイト達と違って、厳しいレベル上げや難しいギルド依頼をこなしていないし、休みにすることも多かったので、レベルの上昇が遅かったのだ。
そのツケが、こんな所で来てしまうとは……。
僕の戦闘モードで能力が上がっても、恐らく、彼女たちの強さはAランク程度。しかも、彼女たちは強敵との戦闘経験が無い。とてもファラオゴーストには立ち向かえないだろう。動きを止めるのがきっと精一杯だ。
「あいつは僕らでなんとか食い止めます。ケットさんは、ここから出る方法を探して下さい!」
「……それしか無いかもな。よし任せろ、なんとか出る方法を見つけてやるぜ」
ケットさんが僕らから離れて、部屋を調べ始めた。あとは脱出方法が見つかるまで、僕らがファラオゴーストを引きつけるしか無い!
「みんな、ケットさんが脱出方法を見つけるまで、なんとか僕らでファラオゴーストを食い止めるぞ!」
「なに言ってるの! 倒すわよ、あたし達で!」
「へ?」
「ヒロ君てば、自分の能力解放ばかり気にして、私たちをあまり知らないようね」
「ですね。私たちだって成長してるんですよ」
あれ? こんなヤバイ状況なのに、彼女たちはあまり焦ってないぞ。絶体絶命の窮地だと思っているのは僕だけ?
「最近、身体がなまってたからちょうどいいわ。久々に大暴れしてやる。せっかくミスリルクレイモア買って貰ったことだしね」
「私も『飛竜狩り』を思う存分使ってみたかったところよ。ヒロ君、戦闘の指示をお願いするわ」
「私は魔法の集中に専念します。皆さんフォローよろしくです」
くっ……、なんて頼もしいんだ。
オークに怯えていた彼女たちは、もうどこにも居ない。
僕は安全を重視しすぎて、彼女たちを見くびりすぎていたのかも知れない。
「よしみんな、ファラオゴーストを倒すぞ!」
「おーっ!!」
◇◇◇
な、なんだ? あいつらファラオゴーストを足止めするのかと思っていたら、真っ正面から戦ってるぞ? 無理だ、勝てるわけねえっ!
い、いやっ、こりゃすげえ……あの戦士のねーちゃん、ファラオゴーストが宙で操る5本の『守護者の剣』を、両手持ちのデカいクレイモアで全て弾いてやがる。躱す体術も見事だ。
おっぱいのねーちゃんは、弓矢で的確にファラオゴーストの動きを止めている。文句の付けようのない素晴らしい援護射撃だ。使ってる弓もただの弓じゃねーな。
そして眼鏡のねーちゃんは、一心不乱に魔力操作をしている。なんて集中力だ。味方のフォローに全幅の信頼を置いている証拠だ。
こんな見事なコンビネーションプレイ見たことねーぜ。
まさか、本当に倒せるのか……?
◇◇◇
「リン左に避けろっ、麗子は左手を狙えっ!」
ファラオゴーストは『守護者の剣』を操りながら、右手から『黒い雷撃』を2発打ち出す。これは死霊・悪霊系が得意としている技で、第一階の魔法よりも威力は弱いが、詠唱無しに魔力を直接撃ち出せるのが特長だ。
第一階の魔法より弱いとはいえ、強大な魔力を持つファラオゴーストが使えば、一撃必殺の威力を持っている。リンはそれをかろうじて躱す。
そして、ファラオゴーストの左手に、稲妻を纏った3本の長く黒い影が浮かび上がる。『冥影の槍』だ。影を実体化させて打ち出す技らしく、さっきから何度か使ってきている。
その影が実体化する前に、麗子の弓がそれを打ち消した。
それにしても、なんていう膨大な魔力を持っているんだ。何度も防いでいるのに、ファラオゴーストは休まずに攻撃を仕掛けてくる。
リンは友美と直線上に重ならないように攻撃を躱し、そしてファラオゴーストに友美を攻撃させないように、上手く囮を務めている。
そろそろ友美の魔法が完成するはずだが……。
――闇に眠りし悪霊の神よ……――
……なんだ?
ファラオゴーストが、低く、くぐもった声で、初めて詠唱を唱えている。
「まずいっ、『邪悪たる存在の進撃』だ! お前ら逃げろっ!」
ケットさんが大声で忠告してくる。
『邪悪たる存在の進撃』は、第三階の闇魔法だ、ファラオゴーストにそんな魔法を使われたら、僕らは全滅だ!
ヤバイ、逃げ場が無い! どうするっ!?
「ほら、アンタの相手はこっちよ! あたしにその魔法撃ちなさいっ!」
リンが無理矢理ファラオゴーストに斬り掛かり、自分が囮になろうとしている!
「無茶だリン、僕が囮になるっ」
「あたしは大丈夫っ、麗子は攻撃の準備して!」
「分かったわリン! あなたを信じる!」
待て、そんなっ、こんなところでリンを失うわけには……。
――……死の制裁を持って蹂躙を為し終えよ――
ファラオゴーストの詠唱が終わり、魔法が完成するっ!
もう僕にはどうすることも出来ないっ……!
――邪悪たる存在の進撃!――
宙から突然出現した黒い悪霊の大群が、いっせいにリンを襲う。
そばに居るだけでも、凄まじい衝撃を感じられる。その吹き荒れる魔力からして、恐らく数十人の冒険者達をまとめて殺すほどの威力はあるだろう。
とても耐えきれるはずが無い……。
絶望が僕の全身を叩き折る。
渦巻いていた黒き悪霊達が徐々に消え始め、その中心に居たリンの姿が少しずつ現れ始める。
リンは……剣を支えに、前屈みでうずくまっていた。生きている!
「これが『不屈魂』よ!」
なんだそのスキル技は? 僕は知らない!
リンの無事を確認して、僕は心の底から安堵する。
と同時に、ファラオゴーストを見ると、『邪悪たる存在の進撃』でさすがに魔力を大きく使った為か、隙だらけのまま完全に棒立ちになっていた。
今がチャンスだ!
「ごめんなさい、ちょっと時間掛かっちゃいました。『空覆う剣の雨』っ!」
ファラオゴーストに向かって、友美が光属性第二階魔法を撃ち放つ!
闇属性であろうファラオゴーストにとって、光属性は苦手な魔法だ。
天井を埋め尽くす光の剣が、一気にファラオゴーストに突き刺さる!
「最後は私よ! 『聖矢極大砲』っ!」
麗子が構える弓に、巨大な魔方陣が浮き上がる。これは魔法矢の必殺技!?
聖なる力を帯びた巨大な光の矢が、凄まじい速さでファラオゴーストへと飛んでいき、その身体に大きな穴を穿つ!
ファラオゴーストはバラバラと崩れながら消滅した……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ごめんね、新しく覚えた技を教えて無くて。『不屈魂』は1回だけ、どんな攻撃でもギリギリで耐えることが出来るの」
「『聖矢極大砲』は、アンデッド系に強い魔法矢よ。聖なる矢と違って大きな魔力を使うんで、1発しか撃てないんだけどね」
「私も、レベルが上がるにつれて、魔法の威力がどんどん上がっています。きっとファラオゴーストにも通用すると思いました」
リンと麗子の二人とも、いつの間にか固有技を覚えていたのだった。そして友美も、自分の魔法に自信を持つようになっている。
最近は自分のことで精一杯で、どうも僕はみんなのことを蔑ろにしていたようだった。でも、僕が気付かないうちに、みんなはちゃんと成長していた。
あの絶望的な状況でも、麗子はリンを信じていた。そして、友美も二人を信じて、ひたすら魔力操作に集中していた。
僕だけみんなを信じていなかったんだ。
僕は自分が恥ずかしくなった。改めて、頼りになる仲間を持った僕は、本当に幸せ者だと痛感した。
「お前らスゲーな……オレっちはこの戦いを一生忘れねーよ」
ファラオゴーストを倒すと同時に、部屋の一部の壁が崩れて、そこに道が出現していた。
僕らはそこを通り、恐らく最後の部屋へと移動した。
◇◇◇
そこは迷宮最奥の宝部屋だった。
その部屋に置かれている輝く10個の宝箱を見て、リンが「これ全部あたし達の物なのね~!」と喜んだが、どうも違うらしい。
「騙されるな! 確実にミミックが混じっているぞ。そして恐らく、選べる宝箱は1つだけだろう。1つ選んだら、オレっち達は強制的に送還されるぞ」
ケットさんが忠告する。『探求者』とまで言われるケットさんが言うのだから、きっとその通りなんだろう。
ここまで難しい迷宮をクリアさせながら、最後の宝まで試練を与えてくるとは、どんだけ意地悪なんだよ。
宝箱10個に対して、当たりは1つ。確率は1/10。
さすがの麗子も、汗を滲ませて慎重に選んでいる。
これが本当に最後の試練だ。
「うーん……何か勘が働かないというか、この宝箱とこの宝箱、この2つに絞れた後、どっちにするか選べなくて……」
運値が10000ある麗子が2択を選べないというのは、何か魔力的なモノで、『幸運体質』の能力が遮蔽されているのだろうか。
「分かったわ、麗子が選べないならあたしが選んであげる。……右ね!」
「じゃあ左ね」
麗子はリンが選んだのとは逆の、左の宝箱を開けた。
すると、僕らはまばゆい光に包まれて、気付くと迷宮の入り口に戻っていた。
◇◇◇
「こ、こりゃあすげえアイテムだ……伝説級だぜ」
麗子が取ったアイテムを見て、ケットさんが感嘆の声を上げる。
僕らが取ったのは、『空間裂狭邸館』というアイテムで、普段は手のひらサイズのミニチュア邸宅なんだけど、これを使用すると、閉鎖空間に巨大な邸宅を出現させるのだ。
使用者が邸宅に入って扉を閉めると、外界からは接触不能になるため、迷宮内だろうとどこだろうと安全に休憩が取れるという、とんでもなく便利なモノだ。
これは、神人が9人の聖女と旅をするときに使っていたアイテムで、伝説として資料が残っているのを、友美が読んで知っていた。
本当に伝説中の伝説のアイテムなのである。しかし……
「なあんだ、聖剣じゃ無かったのか」
こんな素晴らしいモノを手に入れておいて、リンが罰当たりなことを言う。
「お前らもっと喜べ! 伝説級だぞ、迷宮完全クリアだぞ、オレっち信じらんねえよ」
不服そうな顔をしてるリンに向かって、ケットさんが呆れ顔をした。
「この宝は、完全にお前達の手柄だ。お前達が持って行っていいぜ」
「でもケットさんは……」
「ははは、オレっちは凄いモノを見せて貰っただけで満足だよ。それにしても、ねーちゃんは胸がデカいだけあって、運もデケえな」
「こいつ、最後までそこから離れないのね」
「ねーちゃんは胸も無ければ運もねーな」
「……アンタ、長生きしないわよ。そういえば、麗子ってば、なんであたしと逆の宝箱にしたのよっ!」
「なんで、も何も、運が0のリンが選んだ宝箱なんて、開ける人いると思ってるの?」
「うぐっ……あたしのこと一切信用してないって事ね」
「逆よ。全面的にあなたの運の悪さを信用してるから、迷わず逆を選べたの!」
「なんか喜べない……」
迷宮の外に出ると、また例のゴゴゴゴという音が聞こえて、迷宮が書き換わっていく。
『真の宝』は僕らが取ってしまったけれど、ひょっとしたらまだ凄い宝が眠っているかも知れない。それどころか、僕らは完全クリアしたわけじゃ無く、もっと奥まで迷宮があったのかも知れない。
宝自体も、ひょっとしたら挑戦する度に毎回変わっているのかも……。
そう思うと、まだまだこの迷宮への挑戦は尽きないなと思った。
「お前らきっと凄い冒険者になるぜ」
ケットさんが僕の目を見つめながら、握手を求めてきた。
僕はケットさんの手を取り、しっかりと握り返す。
「ところで、お前は一体何をしたんだい?」
「…………」
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その日勇木ヒロ達は、次の挑戦チームを届けに来た馬車に入れ替わりで乗り込み、夕方過ぎに王国に向けて出発した。
帰還時は少し馬車も急ぐ為、夜遅くなる前には王国に到着することになる。
だがそこで、勇木ヒロはとんでもないモノを見るのであった……。
実は裏設定なんですが、第41話の最後で5つの分かれ道に出くわした時、麗子が珍しく選択を悩んでいるんですけど、これはボスが絶対に勝てない相手だったら、ボスと出会わない不正解のルートを運勢は選んでいたのです。ボスに勝てると運勢が判断したので、正解ルートを選んだのでした。




