第41話 みんなの力
「は~やっと眠気が取れた。で、どう? そろそろあたし達の順番来そう?」
もうすぐお昼という時間、リンがようやく起きて、僕たちの前に挑戦しているパーティーの様子を聞いてくる。その声を聞いて、麗子と友美も目が覚めたようだ。
「んー特に何も変わってないけど、多分そろそろ出てくる頃だと思うよ」
エーアスト南にある迷宮は、大体3~4時間から、遅くても5時間あればクリア出来るため、早朝に挑戦すればお昼前後に出てくる事が多い。
次は僕らの番なので、挑戦する前に昼食を取ることにした。
持ってきた携帯食を食べ終わるのとほぼ同時に、前のパーティーが迷宮から出てくるのが見えた。そして、ゴゴゴゴという迷路が書き換わる振動音が鳴り響く。
クリアしてきた彼らの表情を見ると、どうやら良い宝物は取れなかったようだ。
「お疲れ様でした。ご無事で何よりです」
「オレたちゃダメだった、宝はコップ一杯の聖水だよ。アンタ達の幸運を祈る」
「ありがとうございます。では行ってきます」
迷宮の入り口に立つと、僕は武者震いした。
「まあそんなに緊張すんなって、オレっちに任せろよ」
「よろしくお願いしますケットさん」
僕らは迷宮内に足を踏み入れた。よし、初挑戦頑張るぞ!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
僕らが迷宮に入ってしばらくすると、入り口に魔力の壁みたいなのが掛かった。
これが一度に挑戦する人数の制限になっているのだろう。
迷宮の中は壁がうっすらと自然発光していて、光が入ってこないのに一応周りの様子が見えた。
しかし、やはり視界が悪いので、光属性の『照明』の魔法で辺りを照らす。
アイテムでも灯りを出せるが、魔法の方が使い勝手は良いみたいだ。
しばらく進むと、早速モンスターと出会った。地上と違って、迷宮では魔瘴気から自動でモンスターが生まれてくる。
今回出会ったのは、人体の骨格をしたスケルトンというモンスターだ。3体出てきたが、力も弱く動きも遅いので、倒すのは簡単らしい。
僕は戦闘モードに入り、それによってリン達メンバーの能力が上昇する。
取り敢えず、リンが試し斬りをしてみたが、簡単に1体を倒してしまった。
そのまま残りの2体もあっさり斬り倒す。
「なるほど、確かに弱いわね」
「まあスケルトンは、迷宮でも一番弱い部類だからな。戦闘苦手なオレっちでも、余裕で倒せるくらいだ」
因みに、今回は5人パーティーで進んでいるので、『四者の強固な結束』の効果は発揮されずに、通常の経験値取得になっているが、特に気にしていない。
「ここにはほかに、どんなモンスターが居るんですか?」
「確か、ゾンビ、グール、ガスト、レイスあたりだったかな。お前らのレベルなら、苦戦するようなヤツはいねえと思うよ」
「ほかの迷宮には、どんな危険なヤツが居るんですか?」
「ブラッドスライムとかファイアーホーネット等は、低レベルにしてはやっかいな方だな。ほかはアティアグとかバーブレスアラクニド、アゴニーヴァイパー、ヘルハウンドあたりは、うっかりすると大変な目に遭う。ヘルナイトも強いぞ」
うーん、やはり地上とは全然違うモンスターばかりだ。
「あとはスゲーつえーのばかりで、名前を挙げたらキリがねえ。デビルクロウラーとかマリスシェイド、イービルメサイアとかな。マンティスリーパーなんかは、Aランク以下のパーティーは死を覚悟するくらいだ。迷宮に挑戦する前には、そこにどんな奴がいるのか、その辺調べておいた方がイイぜ」
「ありがとうございます。勉強になります」
「そして、迷宮最大の強敵は、『不死の魔道士』の一族だ。強さによって何種類か居るが、どれも超級の強さだ。SSランクチームでも逃げ出す方が無難ってくらいだぜ。まあ逃げるのも難しいんだけどな」
迷宮の危険度が高いのはその点だ。地上なら、なんとか逃げる手段があったりするものだけど、迷宮では狭い上に、逃げる場所も限られている。最悪、モンスターを倒すまで、部屋から出られないという状況すらあるのだ。
トラップにも気を付けなくてはならないし、本当に迷宮の探索は難しい。盗賊は迷宮にとても強いので、重宝されるのもよく分かる。
「まあそんなところだが、あとは宝箱に擬態しているミミックには充分注意しろよ。間違って開けると、トラップなんかも連動してたりして、大変なことになるからな」
「見分け方とかあるんですか?」
「高ランクの神聖魔法に判別する魔法があるが、それ以外じゃ難しいな。まずトラップを調べて、大丈夫そうなら、戦闘の準備をして宝箱を開ける。そんな感じだ。まあオレっちくらいになると、大体雰囲気で分かっちゃうんだけどな」
トラップか……僕らのパーティーには、罠解除のスキル持ってる人いないんだよねえ……なんとか慎重にやっていくしかないな。
出てくるモンスターを倒しつつ、僕らは奥へと進んでいった。
◇◇◇
迷宮を進んでいくと、ケットさんが鋭い感覚で色々指示をしてくれた。
扉の向こうにはモンスターが居るとか、ここにトラップが仕掛けてあるとか、迷宮においての盗賊の探知能力が非常に高いことがよく分かる。
しかし、僕らだけで迷宮に挑戦するときは、一体どうすればいいんだろう。
そう悩んでいたら、思いがけずそれが解決する。
「ん……次の曲がり角から、グールが出てくる!」
「この扉の向こうには、ガストが居るわね」
「変な音が聞こえる……トラップかしら?」
リンが『超感覚』で、モンスターの匂いやらトラップの音を聞き分けて、ケットさんと同じような能力を発揮したのだ。リンは一応『探知能力』のスキルも持っているため、精度はなかなか高かった。
「ねーちゃん、おっぱい小さいくせに凄い能力持ってんな……」
「胸は関係ないでしょ! いい加減そこから離れなさいよっ」
迷宮のような狭い空間では、リンの『超感覚』はさらに効果的になるみたいだった。
頼もしい仲間が居て助かる!
見つけた小部屋等を探索しつつ、しばらく行くと、道が2つに分かれていた。迷宮と言うのだから、そりゃいろいろ道は複雑になっているわけで。
「ケットさん、取り敢えず、どちらから行きましょうか?」
「いや、これがこの迷宮のやっかいなところで、どちらか一方に進んだら、その後はもう一方の道へは行けなくなるんだ」
「どちらかの道しか行けないんですか?」
なるほど、完全クリアが難しいというのがよく分かった。
普通の迷宮は、一方の道を選んだ後も、引き返してもう一方の道も行けることが多い。なので、時間を掛ければ、隅々まで探索することが可能だったりするんだけど、一方の道しか行けないのでは、選択ミスしたらそれで終わりだ。
「オレっちもあちこちの迷宮には入ったが、普通は正解への何かのヒントがあったりするもんなんだよ。もしくは目印があったりとかな。しかし、ここは何も無いんだ。だから今まで誰も完全クリアが出来なかったのさ」
う~ん、これは困ったな。
まあ元々完全クリアには拘ってなかったし、適当に選んで進むか。
「ヒロ君、右の道に進もう」
「えっ、なんで麗子?」
「なんとなくだよ。でも右がいいって私の勘が言ってる」
そうだ、麗子は『幸運体質』だ。
どこまでそれが通じるのか分からないけど、麗子を信じてみよう。
「ケットさん、右に進みましょう」
「おう、お前らに任せるぜ」
僕ら全員が右の道に入ると、後ろで魔力の扉のようなモノが閉まるのが分かった。これでもう引き返せないということなのだろう。
モンスターを倒しながら進んでいくと、またしても分かれ道が。
「今度は左がいいかな」
麗子は特に考えた様子も無く、完全な勘のみで選んでいる。
でも僕らのメンバーは、誰も麗子を疑っていなかった。麗子が選んでダメだったら、それはもう仕方ないと思っている。
「ふーん、お前ら面白い奴らだな。戦闘もおかしな戦い方するし、迷宮の進み方にも迷いが無い。なかなかそういうパーティーって無いぜ」
ケットさんが感心したような声を出す。まあ僕らも色々ありましたから……。
因みに、比較的簡単な迷宮と聞いていたけど、それなりにトラップもある。ケットさんとリンのおかげで、全て回避しているけどね。
ただ、トラップ自体、即死とかの厳しいモノでは無さそうで、まさしく、初心者の為の練習用迷宮と言える。最初にここを選んで良かったと思ってる。
僕らはそのまま、麗子の選ぶ通りに、次々に現れる分かれ道を進んで行った。
◇◇◇
「お前ら凄いな……ひょっとしてこれは正解の道を来ているかも知れないぞ。敵が強くなっているし、トラップも多少複雑な物になってきている」
ケットさんがそう思うのも当然で、どうも洞窟内の雰囲気が重くなっているし、出てくるモンスターも、ファントムやマミー、スペクターといった、死霊・悪霊系の上位モンスターになっている。
もちろん、今の僕らの敵では無かったけれど、ケットさん曰く、こんなモンスターはここでは出ないはずとの事だった。
「む、このトラップはちょいと難しいな。まあオレっちに掛かれば、解除するのは造作も無いけどな。教えてやるから、近くに寄ってくれ」
僕らはケットさんの近くに寄って、手元を見る。
「ここの少し色の変わった岩をだな……」
「あ、岩を押し上げてずらすと、解除用の隠しボタンがあるみたいですね」
「お、おい、眼鏡のねーちゃん、なんで分かった?」
「そこに説明が書いてありますよ」
友美が指摘した通り、そこに何かの文字が彫り込んであった。
しかし、僕にはそれがなんて書いてあるか分からなかった。リンと麗子も同様なようだ。
「おい、この文字は多分『ムイリック文字』だぞ。研究者でも無いとまず読めねーのに、なんで分かるんだ?」
「この文字、王国の資料室にあった研究論文で見たことがあるので、全部覚えているんです」
「うそだろねーちゃん!?」
うーむ、さすが友美の『知識の書』、見たモノ聞いたモノは忘れないからな。
一応、ケットさんからも解除の指導をして貰って、ほかの似たトラップのことも教えて貰った。
しばらく進むと、今度は道が3つに分かれていた。ケットさんも、これは初めてらしい。
麗子は左を選んだので、それに従って僕らも進む。
がしかし、なんと行き止まりに来てしまった。これは残念ながら、選択を失敗してしまったのだろうか。
「んーまて、こういうのはもちろん何か仕掛けがあるもんだ」
ケットさんが壁を詳しく調べていると、何かの仕掛けを見つける。それを作動すると、壁の表面の一部がずれて、石版に書かれた文字が現れた。
その文字をしばらく手でなぞるように追っていると、ゴゴゴと壁が動いて、奥に道が出現した。
「おっし。書いてある字は読めなかったが、こういうのは石版に触れたりしてみれば、何らかが起きたりするもんだ。覚えておくといいぜ」
さすがケットさん。
早速僕らは出現した道に行こうとすると……
「待って下さい、その道はダミーです!」
友美が慌てて叫ぶ。
「これは『オーリム言語』で書かれていて、正しい道のことを教えてくれてます」
「おいおい、『オーリム言語』なんて、それこそ知ってるのが世界に何人居ることか……」
「正しい道はこっちですね」
友美が壁の左下の方を軽く押すと、そこに何かの仕掛けがあったようだ。それを作動してみると、さっき開いた道とは反対側に、新しい道が出来たのだった。
「すげえ……」
ケットさんが友美のことを心底驚いていた。
◇◇◇
僕らは友美が見つけてくれた道をさらに進む。すると、なんと5つに道が分かれているところに出た。
さすがにこれは……。
「どうやら正解の道に来てるみたいだ。ここまで来れた奴らってのが、どれくらい居るのか分からんが、恐らくここが最後の試練だろう。比較的安全な迷宮と思っていたが、今オレっちの危険探知がビンビン反応してる」
「ボス敵が居るって事でしょうか?」
「ああ、間違いなくな。選ぶ道を失敗するとボス敵に行ってしまうのか、それとも、ボス敵を倒さない限り宝物を得られないのかは分からんが……」
もちろん、僕らがやることは変わらない。麗子に選んで貰うだけだ。
「……真ん中を行きましょう」
珍しくちょっと悩んで、麗子は中央の道を選ぶ。僕らはその道を、慎重に奥へと進んでいった。
その道は、まるで冷凍庫に居るように冷気が充満し、その先に確実に何かが居ることを知らせている。
「オレっちの危険探知が、メーター振り切ってるぜ。この道が正解なのかどうかは分からないが、この先には間違いなくボスが居るぜ。どうするんだ?」
「どうするも何も、あと戻りは出来ませんし……逃げられないでしょうか?」
「分からねえ。迷宮によっては、ボスの部屋に転移ゲートがあって、ヤバかったら戦いの最中にそこから逃げられるんだが、ここにそれがあるかどうか」
みんなをなるべく危険な目に遭わせたくなくて、まずは難易度の低いこの迷宮に来たのに、まさかこんな事になってしまうとは……。
迷宮というのを軽んじていた自分を反省する。
安全な迷宮なんて無いんだ。それを理解していなかった。
しかし、もうここまで来てしまったからにはどうしようも無い。
あとはボスが弱い敵であることを祈るだけだ。
◇◇◇
通路を進んでいくと、40m四方ほどの広い部屋に出た。天井も高く、20mくらいはあるだろう。
そして部屋の真ん中には、黄金に光る棺が置いてある。漂う冷気は、その棺から出ているらしかった。
もう間違いない、今からボス戦が始まるのだ。
「まずいぞ、最悪な展開かも知れねえ……」
数々の迷宮から生還したケットさんが、黄金の棺を見て顔色を変える。
その棺が、目がくらむほど、激しい光を発し始めた……。




