第40話 女たちの熱い一夜
あ~よく寝た。
翌朝、僕は気持ちよく目が覚める。いよいよ今日は迷宮への挑戦日だ。
この日の為に体調を万全に整えてきたし、昨日の馬車移動の疲れも、昨夜ゆっくり寝てすっかり取れた。
ケットさんも同時に起き、大きなあくびをして身体を伸ばす。様子からすると、ケットさんもよく眠れたみたいで何よりだ。
反対側で寝ていたもう1チームの彼らも、僕らに合わせたように、快眠出来たという雰囲気で起き出した。
迷宮の挑戦は、僕らが早朝から入り、もう1チームの彼らがお昼からだ。
僕らがあまり遅いと、彼らに迷惑が掛かるので、手早く準備して迷宮に行こうとすると……。
何故かリン達3人が、目の下にクマを作って力尽きたように倒れている。
えっ、これから迷宮に挑戦だよ?
「あのね、あたし達もうちょっと寝たいから、迷宮の挑戦の順番をあっちのチームと替わって貰えないかな?」
んんん? そりゃ午前と午後の順番替えるくらいは可能かも知れないけど……。
「オレたちゃOKだぜ。ほらミンク、行くぞ!」
「ああん待って、ヒロと、ヒロとちょっとだけ~」
迅速に準備を整えた彼らに無理矢理連れて行かれるミンクさんを見て、リン達は満足そうな笑みを浮かべて眠りに落ちた。
せっかく僕はやる気満々だったのに、どうなってるのコレ?
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時間は戻って、迷宮挑戦前日の深夜……。
ぐが~ぐが~と大きなイビキを立てながら、男たちは爆睡している。
そこにスーッと音も立てずに起き上がる人物……忍者のミンクであった。
「ふふふ、こんなチャンス滅多に無いもんね!」
彼女は静かにお香のようなアイテムを取りだし、自らの鼻と口に布を当て、そのお香らしきモノに火を付ける。すると、白い煙が一気に広がり、広い部屋中にモクモクと充満した。
ミンクはじっと呼吸を我慢して、白い煙が消えるのを静かに待つ。
彼女が焚いたのは『眠り香』と呼ばれるモノで、これを吸うと、しばらくの間は何をしても起きなくなるという効果があるのだった。
完全に煙が消えた後、自分のチームの男を蹴っ飛ばして、その眠りの効果が充分発揮されてる事を確認すると、勇木ヒロの元へゆっくりと近づく。
「うくくくっ、噂の救世主君の童貞ゲットしちゃう!」
ミンクは性関係にはかなり奔放な女性で、今までも気に入った男が居たら、自ら口説いたり強引に関係を迫ったりしていたのだった。
勇木ヒロのことも、一目見たときから気に入ってはいたのだが、取り巻きの女が邪魔なこともあり、なかなかチャンスが無かった。
ところが、迷宮に挑戦しようと馬車に乗ったら、なんとその勇木ヒロも乗っているではないか。こんなチャンス二度と無いと思って、強引にでも絶対襲ってやると心に決めていたのだ。
勇木ヒロの布団に辿り着き、そーっと布団の中に入ろうとすると……
「この変態痴女っ! アンタ一体何する気なのよっ!」
そのすぐ横には、猪熊リン、華城麗子、倉橋友美の3人が立っていたのだった。
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リン達は、顔にガスマスクのようなモノを着けていた。それは迷宮の中にある『毒ガス地帯』などを通るときに使うモノで、今回の挑戦のために一応持ってきていた物だった。
最初からミンクは怪しいと思っていたので、夜中に何かあったときの為に、いつでも着けられるように用意していたのである。恐るべき女の勘だ。
因みに、ヒロは能力解放していれば、完全異常耐性で『眠り香』の影響も無いのだが、寝ている通常状態ではどうしようも無い。
リンは、せっかくヒロと1つの部屋に寝れる機会だと喜んでいたのに、余計な女が馬車の移動時からヒロにちょっかいを出してきて、非常に憤慨していた。
案の定、夜中にもヒロに手を出そうとしてきて、この始末だ。これはしっかりと分からせてやらなければ……!
「アンタ、ウチの男にちょっかい出されると困るんだけど」
「あれ、珍しくリンが正妻気取りね」
「いつもは『自分には関係ない』って意地張りますもんね」
「アンタ達うるさいっ!」
「ふ~ん、やっぱりヒロってモテるのね。ところで、あなた達の中で、ヒロともうヤッた子って居るの?」
「や、ヤッたって……」
「別に私はヒロ君とならいつでもいいんだけど」
「わ、私も、勇木君なら……」
「なあんだ、あなた達全員処女か。クスッ、お子様が彼女気取りでおままごとしてるのね。可愛いわ~」
リンはあまりに明け透けなことを言われて、顔を真っ赤にして反論する。
「かっ、彼女じゃ無いけど、あたし達は心が繋がってるのよっ」
「ふふ~ん、脆い繋がりね。アタシならすぐに崩せそう」
「そんなわけ無いでしょ。あいつのこと何も知らな……」
「言っておくけど、忍者にはくノ一にしか受け継がれない『裏忍法』があるんだからね。あなた達処女には、想像も出来ないような技なんだから。どんな男もそれでオチちゃう必殺テクよ」
「う、裏忍法……一体どんな?」
ゴクリと喉を鳴らし、興味津々の麗子が思わず聞き返す。
「℃♂☆を○×△□しちゃって×××で○○○を@%&#*$しちゃうんだから」
ブーッと友美が鼻血を吹き出した。どうやら一番耳年増なのは友美らしい。因みに、この友美の謎知識は、『知識の書』の能力とは全く関係ないモノである。
リンと麗子は、頭にたくさんハテナマークを出現させて、目をパチクリしている。お子様な二人には、ミンクの言った大人の言葉は全然理解出来なかったようだ……まあそれで正解なのだが。
「と、とにかくアンタ、自分の布団に戻りなさいよ! さもないと……」
「さもないと?」
「……ぶっ飛ばす!」
「面白い! アンタらみたいなガキなんぞに負けるアタシじゃねえっ」
深夜男達が寝静まる中、女の戦いが始まるのだった。
「くそっ、しぶといガキだねえ」
「アンタこそ、年増のくせになかなか元気じゃない」
「アタシはまだ22だ!」
「充分オバサンですね」
「干支が半周違うものね」
「エトって何よっ!?」
男達が眠り香で爆睡する中、すでに1時間以上、女達の死闘は繰り広げられていた。
勇木ヒロが戦闘モードになっていれば、それによってリン達は大幅に能力が上がるため、恐らくミンクなど敵では無かったろうが、睡眠中のヒロはいま通常モードだ。リン達3人掛かりで、やっとミンクと互角という状況だった。魔法職の友美でさえ、ヒロを守る為に必死にミンクに食らい付いていた。
「仕方ないわね、こうなったら……三影身!」
男を巡る夜の戦いで、大人げなくも分身の術を出すミンク。
3人になったミンクが、勇木ヒロの元に飛び込んでいく。
「させないわよっ、あたしは右っ!」
「じゃあ私は真ん中に行きます!」
「なら私は左ね!」
リン達3人は、自分が押さえるミンクを決めて飛び掛かる。
右のリンはハズレ。
真ん中の友美もハズレ。
左が本物で、押さえに行った麗子とミンクは、お互いもつれてヒロの方に転がっていく。
ゴロゴロゴロゴロ……ドタン!
「あ~~~~~~~~~~~~~っ!!!」
麗子が転がってぶつかった先は、寝ているヒロの顔だった。
何か柔らかいモノが触れていると、麗子が目を開けてみると、自分の唇とヒロの唇が重なっていたのだった。麗子とヒロのキスである。
お互いファーストキスだった。まあヒロは気付いてはいないのだが。
「ま……て、麗子、アンタひょっとして……」
「ごめんねリン、私のファーストキス、ヒロ君にあげちゃった」
「ひょっとして勇木君も……」
「ごめんね二人とも、ヒロ君のファーストキスも貰っちゃった」
リンが崩れ落ちた。
さすが『幸運体質』の麗子、美味しいところは持って行く女である。
「何なのよ、キスくらいで大騒ぎしちゃって。あなた達、キスすらまだだったの?」
「こ……のあたしのやるせない怒りは、アンタがくらえ~っ!」
かくして、女たちのこの不毛な戦いは、一晩中続いたのだった……。
もうすぐ1章が終わります。
2章では、ようやく仲間が増えます。公国編をちょっとやった後、獣人とエルフとアマゾネスが、立て続けに仲間になる予定です。
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