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女神たちには敵わない -The goddess's march-  作者: まるずし
第一章 はじまりの王国
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第39話 迷宮への準備


 ……私はなんでこんなところに居るのだ……?

 コボルトに追われ、ほうほうの体で逃げきったと思ったら、次はゴブリンだ。

 石を投げられ刃を投げられ、やっとの思いで抵抗して追い払うと、今度はオークが追ってくる。

 険しい山道を転げ落ちるように逃げ惑い、汚い泥水に傷だらけの身体を浸けて、オークが去るのをじっと待った。

 空腹は草を毟り食べてしのぎ、町があると思われる方向にひたすら歩く。

 だが辿り着いたそこには、町などどこにも無く、ただ深い森が佇んでいるだけだった……。


 椅子に座っていれば、使用人が何でもやってくれた。

 食事は庶民が一生食べることなど出来ない高価な食材ばかり。

 夜になれば、美女や美少女が何時間も我が身体に奉仕する。

 幼少の頃より、苦労などというものはしたことが無い。

 その私が、どうしてこんな目に……。


 国外追放されたセクエストロは、モンスターからの逃亡に次ぐ逃亡で、無人の地にてとうとう力尽きようとしていた。


 あやつらが憎い……。地獄の底に落としてやりたい……。

 私をこんな目に遭わせた者たちに、必ず復讐してやる。


 そう恨みを抱きながら、セクエストロの意識が途絶える直前、無人と思われた地より男の声が響き渡る。



「お前、まだ生きたいか? 生きてやり遂げるべき事はあるのか?」


「私は死なぬ……。奴らに復讐するまでは絶対に死なぬ……」


「ふむ、面白い。ではお前に力を授ける。見事生き抜いて見せろ」



 男はセクエストロを抱え、どこかへと去って行った。




 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 昨日、思わぬ事で予約制の迷宮(ダンジョン)のチケットが手に入り、その挑戦に向けて、急遽僕らは準備することになった。

 挑戦予定日は明後日で、明日には馬車で出発しなくてはいけないので、準備は今日中に済ませなくてはならない。

 と言っても、僕らは迷宮(ダンジョン)には初挑戦なので、どういう物が必要なのかよく分かっていない。取り敢えず、アイテムショップの店員さんに色々聞いて、お勧めの物を買おうとしていた。


「ボク迷子になっちゃったよう~」


 ん? お店の外からなんか聞いたことのある声が……?


「あーっ、アンタいつかの胸揉み男っ!」


 リンが逃げようとする少年をとっ捕まえる。いや、少年ではなくて、いつか見たホビットの盗賊だ。その時は、子供のふりしてリンの胸を触っていたっけ。


「アンタいつもこんなことしてるの!?」

「ああいやあ、ガードがゆるそうな女相手にしかしてねえよ」

「あたしがガード甘いっての!?」

「オレっちのこと知らないみたいだったし、簡単にだませそうかなと……」

「ムキーッ!」


 リンがホビットの胸ぐらを掴んで、勢いよく揺さぶっている。

 あーあまり丈夫そうな方では無さそうだから、乱暴しすぎると可哀想だぞ。


「アンタねえ、おっぱいはただじゃないのよ、何か見返り寄こしなさいよ」

「えーでも、ねーちゃんのおっぱい、どこにあるか分からねーようなモノだったぞ。揉んで損したと思ったくらいだ」

「人のおっぱい触っておいて、言うことはそれかーっ!」


 あ、やばい。リンがマジで殺しそう。



「分かった分かった、オレっちが悪かった、勘弁してくれ」

「あたしの胸は価値が高いわよ! 金貨1000枚で許してあげるわ」


「すごいふっかけたわね」

「もはや恐喝ですね……」


「お前ら、ここでそのアイテムを買おうとしてるって事は、迷宮(ダンジョン)にでも挑戦しようと思ってるんだろ? オレっちが一緒について行ってやるから、それで許してくれ」

「アンタみたいな変な盗賊の力なんて必要ないわよ!」

「いや、オレっちはケット・デフィだ」

「ケットだかバットだか知らないけど、アンタなんかいらないっての!」

「えっ、オレっちのこと知らないの!?」


 ケット……ん? 待てよ……?



「あーっ、あなたがエーアスト冒険者最高SSランクの、『探求者(エクスプローラー)』と呼ばれているケットさん!?」

「お、良かった、オレっち知ってる人が居て」

「誰なのコイツ?」

「どんな厳しい迷宮(ダンジョン)からも生還するという、探険のスペシャリストだよ。ユスティーさんがすごい褒めてた」

「へへっ、ユスティーのヤツにも色々教えてやったからな」

「ふーん、この子スゴいんだ?」

「まて、オレっちはこれでも30歳だぞ、子供扱いはやめろ!」

「子供のふりしておっぱい触ってきたくせに」

「それはそれ、これはこれ、だ」

「ケットさん、僕らと一緒に迷宮(ダンジョン)に入ってくれるんですか?」

「仕方ねーよ。じゃねーと、このねーちゃんに殺されちまうからな」


 これは助かる! 盗賊は迷宮(ダンジョン)では心強い存在だ。

 SSランクの盗賊なんて、世界でもそうは居ないらしいし、迷宮(ダンジョン)初挑戦の僕らにとっては、これほど強い味方は居ない。


「是非よろしくお願いします!」

「えーゴホン、これあたしのおかげだよね? あたしの胸には、それほどの価値があるって事よね?」

「いや、ねーちゃんのおっぱいには大した価値は無かったが、ねーちゃんが怖いから一緒に行ってやるだけだ」

「このクソガキ、ぶん殴りたい……」

「だから子供じゃねーっての!」


 僕はケットさんに、明後日挑戦する迷宮(ダンジョン)のことを伝えた。


「お前ら、あそこの迷宮(ダンジョン)に挑むのか……」

「ケットさんは入ったことありますか?」

「昔何度か入ったよ。まるでダメだったがな」

「ケットさんでも?」

「あそこの迷宮(ダンジョン)は、クリア自体は難しくない。ほとんど誰でも、何らかの宝を手に入れることが出来る。問題は、完全クリアだ。あの迷宮(ダンジョン)に眠る『真の宝』は、未だ誰も手に入れることが出来てないんだ」


 ケットさんの説明では、迷路が難しい上、毎回入る度に自動再生で道が変わってしまう為、地図が全く役に立たないらしい。

 出現モンスターのレベルが低いことが、唯一の救いらしいが。


 取り敢えず、ケットさんが居れば百人力だ。

 クリアに拘らず、今後の為にも迷宮(ダンジョン)の攻略のコツを掴んでおきたい。


「それじゃあ聖剣取るわよーっ!」


 リンだけは、完全クリアに意欲を見せるのだった。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 次の日、僕らとケットさんは待ち合わせ場所に集合し、迷宮(ダンジョン)行きの馬車に乗って出発した。馬車には僕らのチームのほか、もう1チームが迷宮(ダンジョン)に挑戦する為に乗っていた。

 男3女1のメンバー構成の、何度か冒険者ギルドで見掛けたことのあるチームだった。確かBランクだったはず。メンバーの女性は職業が忍者で、最近よく僕に話し掛けてくる人だ。


「ねえねえヒロってば、迷宮(ダンジョン)の挑戦が同じ日になるなんて、アタシたち運命の糸で繋がってると思わない?」


 彼女はミンクさんという名前で、僕の隣に無理矢理座ってきて、その肉感的な身体をグリグリとすり寄せてくる。

 それを見てる彼女のチームメンバーの男性たちが、僕のことを「殺すぞ」という視線で睨んでいる。なんかもの凄い気まずい……。そしてリンからも、凄い殺気を感じるのだけれど、狭い馬車内では僕はどうすることも出来ない……。

 ケットさんは麗子の身体を触ろうとして思いっきり手をひねられてるし、友美は乗り物酔いしているようだし、馬車の中は地獄の様相だ。


 悪夢のような数時間を過ごし、僕らを乗せた馬車は、夕方前に迷宮(ダンジョン)へと到着したのだった。



 ◇◇◇



 迷宮(ダンジョン)は、小さな山の麓に空いた横穴で、中はそんなに広くないらしい。

 階層も1階層のみで、数時間もあれば探索は終わるそうだが……今ちょうど挑戦していたパーティーが出てきた。

 すると、軽い地震と共にゴゴゴゴという地響きが鳴り、数分後、静かになった。


「今のが迷路を自動生成してる音だぜ」


 ケットさんが教えてくれる。どうやら挑戦者が終了して外に出ると、次の挑戦者の為に迷路が書き換わるらしい。

 いま出てきたパーティーは、エクスポーションという体力が全回復する薬を手に入れたらしいけど、それは宝としては当たりなんだろうか?


「まあ当たりの部類だな。オレっちが挑戦したときは、ポーションや万能薬、ブロンズナイフとかしか貰えなかったからな。石化効果の付いたミスリルソードを取ったってヤツも居るが、薬草とかただの手袋っていうハズレのヤツも多いからなあ」


 うーん厳しい……。まあ数時間でクリア出来る迷宮(ダンジョン)では、そんなモノなのか。



 迷宮(ダンジョン)の前には簡易宿泊施設があって、挑戦する2チームは、前の晩は一緒にそこに泊まることになる。

 ここの迷宮(ダンジョン)は夜になると、探索に入っている冒険者を強制排出して活動を停止してしまうらしいので、夜中の挑戦はしないのが通常だ。

 簡易宿泊施設には部屋が1つしかなく、2チームで分けて使うんだけど、30畳くらいの広さがあるので、9人居ても全然窮屈な感じはしなかった。


 お互いのパーティーで部屋を半分ずつに分けて、僕らは食事を取ったあと、明日に備えて早めに眠りに就くことにした。




 ……この日の夜、男達は一切気付かなかったが、女達による凄まじき熾烈なバトルが繰り広げられたのだった。


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