第37話 強さとは……
「えっ、みんなで討伐に行った?」
2日休んだ冒険者活動、今日からまた心機一転して始めるぞと、昨夜はゆっくり休んで、今みんなと一緒に少し遅めの朝食を取ろうとしたら、僕ら以外のクラスメイト2チームが、騎士団や衛兵達と一緒に『人形使い』とボルゴスの討伐に出掛けたらしい。
僕らは知らされていなかったが、昨夜『人形使い』とボルゴスの脱獄が発覚し、今日朝一で討伐隊を組んで探しに行ったとのことだった。
たまたまそれを知った五味君のチームと戸辺留君のチームが、討伐に一緒に参加して、現在奴らを追いかけているらしい。
なんで僕らには知らされなかったんだ?
「それがね、どうもヒロ君ばかりが活躍しているのが、騎士団や衛兵達には面白くなかったみたいで……」
「聞いた限りではそんな感じみたいです。勇木君に頼らなくても、自分たちで充分対処出来るとか言ってたらしいです」
「相手はたった2人だし、むしろこんな大勢で行く必要も無いって、楽観ムードだったみたいよ」
馬鹿な、あいつは最悪の殺し屋だ!
普通の兵士ではまず相手にならないし、いくら強力な能力を授かった五味君や戸辺留君でも、殺し合いじゃきっと分が悪い。
ボルゴスと一緒というのも気になる。
それにしても、こんなに簡単に逃げられるなんて、あの時『人形使い』の全身の骨をへし折っておくくらいはしておくべきだったのか?
でもさすがにそんな残酷なことは……くそっ、まだ僕は甘いのか?
「一応、ユスティーさん達も一緒に行ったらしいから、さすがにこれだけ集まれば、『人形使い』とボルゴスもどうしようも無いだろうって」
「誰が手柄を立てるか、競争みたいな雰囲気になってたとか」
「これだけ大勢居れば、あたしも大丈夫じゃないかとは思うんだけど……」
「いや、人数とか関係ない! 奴らはそういうレベルの人間じゃ無いんだ」
人数じゃ無い、個の強さで対応しないと、何人居ても犠牲になるだけだ。
せめて国王守護騎士が行ってくれてればと思うが、彼らは国王の守護者だ、王国を離れるわけにはいかないだろう。
「今すぐ追いかける」
「行くのね? 今回はあたしも行くわよ」
「私もよ。役には立たないかも知れないけど」
「私もです。ただ待つのって本当につらいんですよ、勇木君」
「……分かった。でも戦闘には絶対に参加しないでくれ」
「そばで見守るだけで充分よ」
「ふふっ、私は勝利の女神だよ、ヒロ君」
「ですね、みんなで行けば絶対に負けません!」
僕らは急いで準備をして、彼らを追いかけるのだった。
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よく分からないが、何故かあの勇木がやたら王女様に感謝されていた。
聞いたことも無いような殺し屋集団を倒したとかいう話だけど、なんであんな無能の勇木に、そんな重要な仕事を頼んだのかがサッパリ分からない。
いや、別に重要な仕事でもないのかも知れないが。
とにかく、勇木なんかが手柄を立てたのが無性に腹が立つ。あいつ未だCランクだって話じゃないか。オレはもうすぐAランクだぞ。
あいつが出来る仕事は全部オレにだって出来る。今回はオレが大活躍して、王女様に褒めて貰うんだ!
討伐に参加している五味虫雄は、自分が王女に抱きつかれている姿を想像して、だらしなくニヤついた。戸辺留元牙や犬飼福之介も、ほぼ同じような状態である。
すでに自分たちは、授かった能力を使えば、オルドル騎士団長やユスティーとかいうSランク冒険者にもひけは取らないと思っている。
ボルゴスなんてすでに敵じゃない。『人形使い』とかいう変なヤツを、この中の誰が倒すかというだけの話だ。
誰もが一番手柄を譲りたくないと思っているだろう。
奴らが逃げたと思われる方向に行軍していくと、遠くに人影らしい姿が見えた。
ボルゴスだった。その少し後ろに、『人形使い』と思われるヤツも居る。
ここはまばらに草が生えているだけの広い砂地で、大勢で戦うには持って来いの場所だ。こんな場所でオレ達に見つかるなんて、こいつら本当に運のない奴らだぜ。
討伐隊は大きく広がり、奴らを少しずつ包囲する。その間、何故か奴らは逃げる素振りを見せなかったが、こちらは弓隊も魔法職も居る。きっと観念しているだけだろう。
さあて、誰から奴らに掛かるか?
◇◇◇
「オレに任せろっ!」
『魔獣馴致』の犬飼福之介が、真っ先に声を上げてボルゴスに仕掛ける。
犬飼福之介は獣使いで、現在2匹のモンスターをテイムしていた。長い牙と、強靱な肉体、そして優れた狩猟本能を持つサーベルタイガーである。
その2匹のサーベルタイガーを、一気にボルゴスへと仕掛ける。
本来獣使いは、戦闘には1匹しかモンスターを参加させられない。それは、いくらテイムしているとは言え、モンスターの扱いは難しいからである。
しかし、『魔獣馴致』の能力を持つ犬飼福之介は、『複数使役』という固有スキルを持っているため、弱いモンスターであれば最大5匹まで戦闘に参加させることが出来た。
サーベルタイガーは、討伐レベル43という、現状の犬飼福之介では多少持て余す強さであるため、戦闘に参加させられるのはギリギリ2匹が限界だった。
因みに、討伐レベル43は、C~Bランク冒険者チームが請け負うレベルの強さである。
犬飼福之介は、さらに『魔獣馴致』の固有スキル『咆哮』を使う。これは使役している魔獣の能力を上げるスキルで、それによってサーベルタイガー達は、さらに一段階強さを増して、ボルゴスへと襲いかかった。
Aランクの冒険者1人では、とても対処出来ない攻撃だが……
「ふううんっ!」
横薙ぎに一閃、2匹のサーベルタイガーは一撃の元に斬り伏せられた。
「なあああっ、うそだろぉっ!?」
モンスターとは言え、愛着の湧き始めたサーベルタイガーを2匹とも殺され、犬飼福之介は膝から崩れ落ちた。
◇◇◇
「ちくしょーっ、次はオレが相手になってやる!」
犬飼福之介のサーベルタイガーがやられ、戸辺留元牙が次に名乗りを上げた。
いきなり想定外の事態ではあるが、当然自信はある。
戸辺留元牙は『剣聖』の十六夜タクヤに隠れては居るが、実は相当運動能力の高い男であった。
十六夜タクヤさえ居なければ、クラスのヒーローに成り得た男である。そして、今回参加したクラスメイト2チームのうち、唯一のギフト持ちでもあった。
授かった能力は、ギフト序列17位『複製創造』。これは自分と同じ戦闘能力を持った複製戦士を、最大3体まで分身創造出来る能力だ。
複製戦士はスキル技が使えないという欠点と、一定時間で消滅する制限があるものの、負傷を恐れない自分の分身は非常に強力だった。
ギフト持ちには『経験値2倍』があるため、ほかのメンバーよりも1ランク上の戦闘力を持った戸辺留元牙が、4人になって一気にボルゴスを襲う。
Sランク冒険者ですら回避不能と思える攻撃だ。Aランクのボルゴスに躱されるわけが無い……!
と、そのはずが、ボルゴスは軽く分身の3人を叩き斬る。
万が一を考え、少し遅れて飛び掛かっていた戸辺留元牙は、ボルゴスの剣撃からギリギリ致命傷を避けられたが、浅からず腹部を斬られてしまった。この傷では、とても戦える状態ではない。
もはやなりふり構わずに、必死にボルゴスの間合いから逃げ出すのだった。
◇◇◇
な……なんだよコレ? ボルゴスってAランクじゃないのか?
楽勝って話はなんだったんだよ!
『戦士の心得』五味虫雄は、犬飼福之介と戸辺留元牙が為す術も無くやられるのを見て、完全に怖じ気づいてしまう。
勇木ヒロにやられる程度の殺し屋だ。そんなヤツ、みんなで追い詰めて、適当にいじめてやろうぐらいに考えていたのだ。
まず自分から飛び掛からなくて、心底良かったと胸をなで下ろす。もし自分から戦いに行ってたら、確実に殺されていただろう。
「こうなったらみんなでいっせいに掛かるしかない! 君は確か五味君、君の能力も発動してくれ! 一二の三で、全員の最大スキル技をぶつけるぞ!」
オルドルさんが無謀なことを言い出した。
今の見てただろ? そんな事したら皆殺しにされるよ、冗談じゃない!
「僕、援軍を呼んできます!」
「ま、待ちたまえ、いまヤツに背中を見せたら危ないっ!」
ズシュッ!
「うぐううっ」
なんだ? 誰かやられたぞ? ……オルドルさんだ!
だから早く逃げればいいのに……。
もはや脇目も振らず、五味虫雄は必死に戦場から逃げ出すのであった。
◇◇◇
危ないっ! こんな状況でいきなり敵に背を見せるとは、一体あの少年は何を考えているんだ!?
ボルゴスとの位置関係からも、今はもう一気に勝負を掛けるしか手が無いという状況だったのに、これで無駄になった。
そして、ボルゴスが少年に向かって短刀を投げたが、オレの位置ではどうすることも出来ないっ!
少年が投げナイフで刺し殺される未来を予想し、ユスティーは思わず目を瞑る。
しかし、間一髪、オルドルが少年を庇って難を逃れることが出来た。
その代わり、オルドルの右腕にナイフが刺さることとなってしまったが。
「オルドルさん、大丈夫ですか?」
ユスティーが駆け寄る。
彼の剣技はこの集団随一の腕前だ。対人戦闘では、さすがのユスティーもオルドルには及ばない。
その切り札が、戦う前に剣を持てなくなってしまった。
「きゃあああっ」
「もういやあああっ」
異世界人の女の子達がいっせいに逃げていく。
いや、それでいい。これはもう負け戦だ。犠牲は少ないに越したことはない。
あとはどこまで被害を抑えられるかだが……。
「ククク、ユスティー勝負しようぜ。お前には返さなきゃいけねえ借りがあるからよう」
いいだろう、差し違えてでもお前を倒す!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ぐひひひっ、最高だぜ! もうこの世にオレに勝てるヤツはいねえ!
あんだけ手強かったユスティーが子供のようだぜ! 小うるせえドルークもキャマラードもソキウスもまるで敵じゃねえ。
この戦の前、『人形使い』とは同調の練習をしたが、思ったより息が合うみたいで、どうやらオレ達はいいコンビになれそうだ。
「どうしたユスティー、もう終わりか? あ?」
「ふん、お前一人じゃ大して強くないクセに、変な術で強くなったからっていい気になるようじゃ、お前も憐れなヤツだよ」
「負け惜しみだな。最後に這いつくばったヤツが負けなんだよ」
オレはユスティーの右腕を掴んで握りつぶす。
「うああああああっ」
次は左腕を掴んで関節を壊す。
「うぐううっ」
顔面を蹴飛ばし、大の字にひっくり返ったユスティーの右膝を踏み砕く。
「あぐああっ」
そして残りの左足の膝も踏みつけて壊す。
「がああっ」
「ククク、これでもう冒険者は引退だな。まあ今すぐに殺してやるけどよ」
「この卑怯者めっ!」
オレの蛮行に耐えかねた騎士団長が、負傷した右腕から左腕に剣を持ち替えて掛かってきたが、まるで敵じゃねえ。
左腕で思い切り胸を殴り、鎧の上から騎士団長のアバラを砕く。
「くそっ、よくも団長をっ!」
オレの強さに怯えて動けなかった騎士どもが、ユスティーと騎士団長をやられて、ようやく動き出す。
こいつら全員オモチャにしていいなんて、愉快すぎるぜ。
「ハハハハ、どうした、どんどん掛かって来やがれ~っ!」
オレは片っ端から騎士どもを殺していった。
◇◇◇
ふふ、やはりボルゴスとは相性が良かったな。コイツなら勇木ヒロを倒せる。
オレにあそこまで恥を掻かせた男……地獄の苦しみを味合わせてから殺してやるぞ。
「ヒャッハー!! おい『人形使い』さんよお、オレたちゃ最強のコンビだな! これからも宜しく頼むぜ!」
馬鹿め、お前など使い捨てだ。
勇木ヒロを倒すためには、お前の限界を超えた能力を出させなくてはならない。
それくらいせねば、ヤツには勝てん。その時、お前の肉体は耐え切れずに壊れるだろう。
勇木ヒロを戦闘不能にしたら、お前は用済みだ。
それまでは、せいぜい最強の気分を楽しんでおくがいいさ。
……む、来たか……?
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「なによコレ……」
ようやく討伐隊に追いついた僕たちは、その戦闘現場の惨状を見て、思わずリンが驚愕の声を洩らした。
酷い状態だった……。数十人の騎士達が、大量の血を流して所狭しと倒れている。その少し離れたところには、ボルゴスと人形使いの姿が認められた。
まさか、コレ全部をあの二人がやったのか?
「へへっ、ようやく登場だな。待ちくたびれて弱い者いじめしちまったぜ」
「みんな下がって、これ以上は近づかないで」
「……絶対に勝ってね!」
「ヒロ君、信じてるよ」
「みんなの仇を取って下さい!」
僕はゆっくりとボルゴス達に近づいていく。
どうやらボルゴスを人形使いが操っているという状況らしいが、ボルゴス自身も自由に動けているようだ。
恐らく、それが最大に力を発揮出来るということなのだろう。最悪な協力関係というヤツだな。
よく見るとボルゴスの足元に、ユスティーさんとオルドルさん、そして少し離れたところにドルークさん、キャマラードさん、ソキウスさんが倒れていた。みんな無事なのか?
「こいつらが気になるか? おめえが来るまで生かしておいてやったよ。おめえを殺すところを見せてやろうと思ってな」
「うう……君か、……スマンな、君まで巻き込んでしまって……」
「勇木君か……君のためにも、ボルゴスと差し違えたかったよ……」
オルドルさん、ユスティーさん……。
なんて酷い怪我だ。でも生きていてくれて良かった……。
もう、僕の怒りは限界だ。
「ボルゴス、死ぬ覚悟はできてるか? 僕はもう手加減が出来ない」
「ああ~ん? 面白えなおめえ。今度は土下座しても赦さねえぞ」
「お前達は最悪のクズだ。絶対に赦せない」
「勇木ヒロよ、今度はあのボロボロだった人形とは違うぞ。オレの真の力を思い知らせてやる」
ボルゴスの身体がググッと膨れあがる。
「なっ、人形使いっ、何をっ、ぐるじいっ」
「勇木ヒロ、オレの全力を喰らえっ!」
ボルゴスが一瞬で僕に詰め寄り、回避不能と思える一撃を振るってきた。
が、こんなのはただの速い攻撃だ。
絶え間ない日々で鍛え上げられた鋭さがない。生き抜くための修羅の思いが込められていない。
僕は最小の動きでそれを躱し、ボルゴスを上下に分断する。
恐らく、斬られたことも分からずに、ボルゴスは死んだだろう。
「馬鹿な、あの間合いで躱せるわけが無い! SSSランクですら殺せる必殺の攻撃だったはずだ!」
ボルゴスを失い、無力となった人形使いが、青ざめた顔で喚く。
「君は何か勘違いしている。いくら操る人形の身体能力が高くても、君自身に戦闘の経験が無い。肉体の強さが戦闘の強さじゃ無いんだ。真の強さとは、己で死線を越えて、初めて身に付けられるモノなんだよ。あんな攻撃、絶対にSSSランクには通用しないよ」
僕は人形使いを両断した。
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「ケイパーの見る目は確かだったな。君がこんなに強くなるなんて」
僕はオルドルさん、ユスティーさんほか、片っ端から回復魔法を掛けて回った。
残念ながら間に合わなかった人も居たけど、無事助けられた人も多かった。
ユスティーさんも酷い重傷だったけど、なんとか完治出来そうだ。
「まさかあの弱かった君が、こんなに強く成長するなんてな」
オルドルさんからも感慨深い言葉を掛けられて、ちょっと照れてしまった。
「あの……僕のことは、みんなには内緒にしておいて欲しいんです」
「何故だね? 今回のヒーローだぞ。まさに救世主だった」
「いえ、知られると却って面倒なことになりそうで……」
「まあ君がそう言うなら、希望通りにしておくがね」
僕が強いとかどうせ信じて貰えないだろうし、仮に信じて貰ったとしても、五味君達に変に絡まれたくない。ましてや、凶獄君なんかに知られたら、どんな状況になることやら……。
「あんた強いくせに小心者だねー」
「まあヒロ君らしいよ」
「怒ってる勇木君ちょっと怖かったけど、元の勇木君に戻ってホッとした……」
リン達には僕が人を殺すところを見られてしまったけど、それについては、彼女たちは触れずにそっとしておいてくれてるようだ。
これからも、彼女たちを守るためなら、僕の手を血に染めることもあるだろう。
それでも構わない。それが僕の選んだ道なのだから……。
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「勇木ヒロ……ヤツは怪物過ぎる。『死神』が動いてくれるまで、もはやヤツには手が出せぬ……」




