第36話 事件その後
殺し屋との戦闘に勝ったあと、予め決めてあった合図を送り、近辺に待機していた衛兵を呼び寄せた。
僕の合図が無い限りは、絶対に来てはいけないと言い含めておいたけど、無事勝てて良かった。もし負けていたら、合図が無くても、僕のことが心配で突入してしまったかも知れない。その時、どれほどの被害が出たことか……。
敵との戦闘も、まだ僕の能力が完全に解明されてない今で良かった気がする。
何か変な術を使ったようだけど、僕には効かなかった。もしそれを知られて対策を取られていたら、ここまで楽には勝てなかっただろう。
あんな奴らがまだほかにも居るのだろうか?
僕の能力解放は5分しか続かない。奴らにそれを知られたら大変なことになる。
能力解放の使用は極力控えていかなくては……。
殺し屋達のことは衛兵に任せて、僕は宮殿へと帰った。
◇◇◇
「勇木様、ご無事で良かった……」
宮殿の前では大勢のみんなが待っていてくれて、そして到着早々、王女が泣きながら僕に抱きついてきた。
丘の上では首斬りという酷い光景を見せられたので、倒れた王女が心配だったけど、どうやら回復したようだ。というか、ちょっと抱きつき過ぎなんじゃ……?
「リン、今回は王女に譲ってあげなよ」
「別に、勇木なんていつでも譲るわよ」
「リンさんて、すごい素直じゃ無い……」
「勇木~、なんなんだよこの騒ぎは」
「聞いたこと無いようなヤツ倒したくらいで、どうしてみんなで出迎えなきゃいけないんだよ」
「そもそもオレ達に頼んでくれれば、簡単に倒してやったのに」
「つまらないことで王女様に恩を売ってんじゃねーぞ!」
出迎えには、五味君のチームと戸辺留君のチームも来てくれてて、僕のこと心配してくれたのかと嬉しく思っていたんだけど、無理矢理参加させられてましたか。それは申し訳なかったです……。
「お前まだ冒険者Cランクなんだって? オレ達はもうすぐAランクだぞ。くだらないことばかりに関わってないで、もっと頑張れよ」
そう言って、五味君達は自分の部屋に戻ってしまった。
「……あいつら相変わらずね」
「ヒロ君が超強いことを知ったら、なんて言うかしら」
「勇木君、1回ガツンとやっちゃった方がいいんじゃないですか?」
「ははは、別に僕のことなんかどう思われててもいいよ。それに、1日5分しか能力解放出来ないんだ。そんなことにいちいち能力使えないよ」
「あんたが良くても、あたしがムカつくんだけど」
「まあヒロ君がそう言うんじゃ仕方ないわね」
「勇木君は心の底からお人好しですからねえ」
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翌日、普段通りに目が覚めた僕は、朝食を取りながら色々あった昨日のことを思い出す。
昨夜、衛兵達は捕まえた『人形使い』から情報を聞き出して、早速セクエストロ侯爵が逮捕されたらしい。僕たちが以前、訓練時に会った、あの嫌味な男だ。
セクエストロ侯爵のことは、『人形使い』が命乞いする時も言っていた。自分が助かるために必死の状況で喋ったのだから、まず間違いないだろう。
それと、ボルゴス達も逮捕されたとか。やはりガオナー達とも繋がりがあったようで、誘拐に直接関わってはいないけど、セクエストロ侯爵の一味であることには間違いないらしい。
その後、セクエストロ侯爵の館からは奴隷となっていた女性達も救助され、もはや言い逃れは出来ない状況だ。
暗殺の依頼も含め、王国を揺るがす重大な犯罪として、爵位剥奪、領地、財産の召し上げの上、即座に国外追放となった。
これは特例として、王命で裁かれたようだ。
セクエストロ侯爵はすでにかなりの権力を掌握していて、ぐずぐずしてたら状況を変えられてしまうかも知れない上、正当な裁判にも期待出来ないからだ。
中心であるセクエストロ侯爵が追放された以上、派閥の力は一気に弱まるだろうし、コレだけの証拠があれば、異を唱えるモノもそうは居ないだろう。
すでにセクエストロ侯爵は王国外に連れ出され、離れた所に、無一文でそのまま放置されたらしい。まあ実質死刑と言っていいだろう。
仮にどこかへ辿り着いたとしても、もはや彼にはなんの力も無い。贅を尽くして暮らしてきた彼には、死ぬよりつらい日々が待っているだけだ。
誘拐事件はこれで全て解決したかのように思えるが、僕には少し腑に落ちない部分もある。
確か噂では、『若い女性から高レベルの冒険者まで、各国で突然行方不明になる謎の事件が続発してる』ということだった。
若い女性はともかく、高レベル冒険者の失踪は、恐らくセクエストロ侯爵は無関係と思える。失踪した冒険者は男の方が多いと聞くし、各国で行方不明というのもおかしな話だ。
今回の誘拐事件のほかに、もう1つ事件が存在する。
そう考えて間違いないと思う。
僕を襲ってきた組織も含め、まだまだ警戒を解くわけにはいかないだろう。
因みに、『道具屋』が使用していた道具だが、ほかの誰も使うことが出来なかった。
何か使用権限があるのか、それとも、あれらを使える能力こそが『道具屋』と言われた所以なのか分からないが、強力なアイテムだけに、厳重な管理を王国にお願いした。
あとは『人形使い』の処罰だけど、テイミッドを惨たらしく操ったことからも、非常に危険なヤツだ。あまり言いたくないが、速やかに処刑した方がいいだろう。
その辺は王国の判断に任せるしか無いが……。
昨日、僕らは冒険者活動を休みとしたが、全員昨日のことがまだ尾を引いていたので、今日も休日とすることになった。
と言っても、パーティーのみんなで集合して、一緒に食事したりのんびり散歩して、お互いの親交を深める一日を過ごした。
血生臭いのはもうこれっきりにして欲しいと願う僕だった。
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「おい、本当にまだ捕まっている女達が居るんだろうな?」
王国の管理する収容所にて、若い衛兵に『人形使い』が尋問されている。
「ヒヒヒ、居ますよー、だからこの後ろ手に縛っているヒモを解いて下さいって。女達が居る場所の地図を書きますから」
若い衛兵は、どうもコイツの言うことは怪しいと疑っている。さっきから口で説明しろと言っているのに、「口じゃ説明出来ない場所だ」の一点張りだ。しかし、もし本当にまだ被害者が居るなら、早く助けに行ってやらねばならんところだ。
「なんだい? オレの手を自由にするのが怖いってか? そんな臆病だから、どこの馬の骨とも分からんヤツに手柄を横取りされるんだよ。国民から、衛兵は役立たずって思われてるぞ」
痛いところを突かれた……。確かに、誘拐事件は耳目を集めていたのに、オレ達衛兵は何も出来ず、異世界人に解決されてしまった。
そもそも自分は、どうもあの異世界から来たという少年少女達が苦手だ。神の力を授けられたとかいって、少しいい気になっているような気がする。
若い衛兵レックレスは、ついそれらを思い返して不愉快な気分になる。
この事件を解決したという少年も、昨日会ってみたが大したこと無さそうな子供だった。たまたま上手いこと手柄を取られてしまったみたいで、少々気分が悪かったところだ。
この尋問も、時間ばかり掛かってロクな成果が出なかったら、国民の印象はさらに悪いだろう。
こいつは何も持っていない。両手を自由にするくらい問題無いだろう。念のため、ほかにも衛兵を呼べば、それで万全だ。
レックレスは、待機していたほかの3人の衛兵も部屋に呼び、お互い合意の上で『人形使い』の手の拘束を解いた。
その瞬間、『人形使い』の右手がレックレスのうなじを掴み、強引に反対側を向かされる。
「本来なら人形を制御するのに少々時間掛かるんだが、この状況じゃそんなコト言ってられないからな。お前には一気に魔力送って、大暴れして貰うぜ」
その日、収容所に居た16人の衛兵が惨殺され、事件について尋問を受けていた『人形使い』と、同じく収容所に居たボルゴスが逃亡した……。
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「ボルゴス、お前の力が必要だ、オレにお前を操らせろ」
「命令にゃあ逆らいたくねえが、アンタの人形になるのはさすがに……」
「いや、そもそもオレの力では、お前を完全には操れない。お前の協力が必要なのだ。オレの魔力をお前の身体で増幅して、その力でお前は戦う。その時、お前はSSSランクを越える能力を出せるだろう」
「ホントか? でもオレは壊れちまうんじゃ……」
「確かにな。以前同じ事をSランクのヤツでやろうとしたが、すぐに壊れた。Sランク以上は、自身の強大な力に耐えきれないのだ。だがお前はAランクだ。そして頑丈な身体を持っている。恐らく、この戦法の素材として、お前以上のヤツは居ないだろう」
「……やるしかねえのか」
「そうだ、このままではオレもお前も追っ手に殺される」
「いいだろう。オレも負け犬のままじゃ終われねえ。大暴れしてやるぜ」
「よし、では早速練習だ。必ず奴らを皆殺しにするぞ」
「へへっ、了解だ」
『人形使い』は思う。
テイミッドは良い素材であったが、さすがにボロボロすぎた。あんな壊れかけの人形では、あの勇木ヒロにはとても敵わない。
今度は新品だ。しかも、人形との合意技で行くぜ。
今まではこの合意技は、人形の身体に気を遣うのが面倒でやっていなかったが、本来これがオレの最大の術なのだ。
オレが受けた屈辱、必ず倍にして返してやるぜ……!




