第30話 対決! 処刑者『百手』
「能力解放!」
僕は慌てて能力を発動する。
僕をいっせいに襲ってきたモノ……それは細い糸だった。
いや、糸というのは正確じゃない。剣で弾く手応えは、鋭い刃物のようだった。
その数、数十本……いや、百本くらいあるのか? 『百手』とはこのことか。
「なんて野郎だ、このオレの鋼糸を剣で弾くとは……」
まるで生き物のように、空中で自在に変化しながら、鋭い鋼糸が僕を襲う。
能力解放により、ある程度スローに見えるとは言え、あらゆる角度から攻撃してくる鋼糸を弾くのは、軌道予測をした上ですら容易じゃない。
何より、こちらには時間制限があるのだ。このままではジリ貧だ。
一気に勝負を賭けなくてはいけない。
「昇風障壁!」
鋼糸を吹き飛ばすつもりで風属性の魔法を使う。しかし、それを待っていたかのように、鋼糸は左右の壁にクロスして打ち込まれ、僕の行く手を阻んだ。
「おいおい、本当に無詠唱で魔法使いやがったぜ。ガセに違いねえと思ってたんだがな」
僕の能力がバレている!
この両側が塀に囲まれた場所は、僕の能力対策として選ばれている。いや、それどころか、ここは鋼糸の技が最大に活かされる『ヤツの巣』だ。ここで戦っては、さすがに分が悪い!
僕は戦況を変えるため、一度後方に下がろうとする。
しかしその時、後ろから何かが立ち昇る気配がした。
……ヤツの鋼糸だ。完全に退路を塞がれている!
「ククッ逃がさねーよ。オレの鋼糸と剣でここまで戦えたヤツは初めてだが、この狭い空間だ、あとはお前はゆっくり刻まれるだけ……」
「雷撃!」
鋼糸なら電流で感電させられるのでは……? 僕は無詠唱で雷撃を放つ。
しかし、そんな思惑は向こうも百も承知らしく、恐らく何かの絶縁体で奴自身が防御されている。
己の弱点対策は完璧なのだろう。
ただひたすら人を殺すことのみを極めた技。
そしてそれを躊躇しない、残虐な精神……。
僕は1つの決心をする。
……申し訳ないが、本気を出させてもらう。僕には時間が無い。
僕は相手と距離を取り、腰を引いて剣を鞘に収める。
「なんだ、溜め技か? 大衝撃波でも出す気か? まさか特大衝撃波を使えるとは思えんが、忠告だけはしてやるよ。特大衝撃波でもオレの鋼糸は斬れんぞ」
もう綺麗事だけじゃ……甘い考えじゃこの世界は生きていけない。
「無駄だ、罠は完成した。お前はもう死から逃れられない。百滅斬塊獄!」
切断不能な鋼糸が、完全に逃げ場を封じて僕に迫る。
もうやるしかない。溜めた力を全て解き放つ……!
「超超特大衝撃波!」
それは迫り来る鋼糸を全て切断し、前に立つ『百手』を真っ二つに斬り裂いた。
僕は初めて人を殺した……。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
あれ? オレはなんで床に倒れているんだ?
確か腕利きの賞金稼ぎが10人も集まって、『詐欺師』をとっ捕まえに来たはずだが……。
ヤツを見た瞬間から記憶が無い。いや、状態異常の対策はしっかりやってきた。何かされたはずが無い。
作戦は完璧だったはずだ。
「えーとなんだっけ? アンタは世界一の賞金稼ぎなんだっけ? そんなに弱くて世界一になれるとは信じられないねえ」
こいつ、無防備につっ立ってやがって、この距離ならオレの……オレのなんだっけ。アレ? どうやって戦うんだっけ?
「それじゃおやすみ」
最後には死ぬということもよく理解できないまま、その自称世界一の賞金稼ぎは、人生を終えるのだった。
◇◇◇
「どういうつもりだ、テイミッド?」
「ち、ちがう、僕じゃ無いっ」
かつて、ある女性パーティーをオークの群れに残して逃亡したことのある男、テイミッドは、何故か傭兵団に入団し、そして紛争地域に移動する最中、突然仲間を裏切って攻撃を仕掛けた。
「そうか……お前敵の工作員だな? おかしいと思ったのだ。お前のような男は、戦場で見掛けたことも無い。オレ達の寝首を掻くことが目的だったか」
「ちがう、話を聞いてっ」
「問答無用、この精鋭部隊を狙うとは、さすがに驕りが過ぎたようだな。お前確かBランクの冒険者と言っていたが、SSランクでも我らの敵では無いぞ」
「待って、攻撃しないで……!」
その日、1つの部隊がこの世から消えた……。
◇◇◇
それはある王国の騎士団だった。
日々厳しい訓練を重ね、お互いに剣技を磨き合い、全員一流とも言える技を身に付けていた。
もちろん、装備にも金を惜しまず、どのような状況でも十全の力を出せる備えをしてある。有事の際には、これ以上無く頼りになる戦士達であろう。
しかし今、彼らは装備一式を放り出し、丸裸の状態になっている。せっかく鍛えた剣技も、これではなんの役にも立たない状態だ。
「こんなに大勢居るんだ。ゲームでもしようよ」
数秒後、騎士団の首が全部床へと転げ落ちた。
◇◇◇
「ばかな、オレは確かにドラゴンと戦った。幻覚なんかじゃ無い、このオレがそんな術に掛かるわけ無い。そもそも『幻術』は、高度な戦闘にはとても耐えられないような未熟なスキル、今は使い手もほとんど居ない『死にスキル』のハズだ!」
幻覚かそうじゃないかの区別など、いくらでも確かめようがある。
仮に幻覚に騙されたにしても、そう簡単にはダメージを受けるモノでは無い。
歴戦の勇士、SSランク冒険者バウマンはそう考えてきた。
実際、幻術、幻覚の用途としては、一時的に相手を攪乱して、戦況を有利にするという程度のモノであって、決め手になるような技では無い。
いま自分は全力でドラゴンと戦い、奇跡的にもドラゴンを討ち果たした。
炎の息吹を受けて火傷すらしている。
そして味方は全員ドラゴンの攻撃で殺されてしまった。こんなことは、幻覚では有り得ないことだ。
そのドラゴンが何故消えた……?
「お前の仲間は全員ショック死したのさ。オレの幻術は痛みすら与えることが出来る現実なんだよ」
それを聞いたバウマンの目の前に、2匹目のドラゴンが現れるのだった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「僕ら全員を呼び寄せるってどういう事?」
「『百手』がやられた」
「……なるほど。あいつを倒せるヤツが居たとはな」
「手強いなら『死神』にやらせれば?」
「ヤツは動かぬ、ヤツが動くには条件が必要なのだ」
「『虐殺男』は? 帝国の軍神に匹敵するって話じゃん」
「馬鹿な、ヤツではメチャメチャになる」
「オレ達の誰かが密かに殺れと」
「いや、お前達全員で掛かれ」
「……ふざけてんの?」
「ふざけてなど居ない。全員で必ず殺せ」
「まあ報酬払ってくれるならどーでもいーよ」
「もちろんだ。今すぐエーアストに向かえ」
「あいよー」
「OK」
「はーい」
「了解」




