第29話 モテ期到来?
「もう少し、もう少しだから、肥満谷くんなんとか耐えて……!」
『神罰』の神谷祈子がまさに祈るように、肥満谷太を必死に励ましている。
その隣では、『精神統一』の剣持美咲がスキル技を溜め、『奇跡変数』の賭井博美が雷属性第二階魔法の魔力操作をしている。
彼らはすでにBランク冒険者となり、『ボールダークラブ』と呼ばれる、巨大な岩ガニの討伐に来たのだが、その周りにあった悪魔のような彫像が『ガーゴイル』と呼ばれるモンスターだったことに気付かず、一気に囲まれるように襲われてしまったのだ。
十数体のガーゴイルとボールダークラブの攻撃、それを現在肥満谷太がただ一人で受け止めている。
肥満谷太の『鉄壁』は、打撃や魔法等、様々な攻撃に対して、耐久が超上がる能力だ。それはHPと守備力を10倍にし、耐久ランクはSSSへと上昇する。
まさに鉄壁の要塞になるが、攻撃力は半分となってしまうので、攻撃には向かない。肥満谷太は敵の攻撃を、ただひたすら耐えているだけだ。
肥満谷太は、あの『超成長』凶獄力也を超える、身長186㎝、体重130㎏というクラス一大きい身体を持ってはいたが、とても鈍くさく、正直戦闘には向かない男だった。なので、この『盾役』向きと言える『鉄壁』は、彼にとっては願ってもない能力だった。
そしてもう一つ、この能力が彼にとって最高とも思えたのは……
「1の呼吸、2の精神、3の瞑想、4の忍耐、5の剛力、6の不動、7の静寂、8の神速、9の刹那、10の無心……肥満谷君ゴメンね、特大衝撃波!」
剣持美咲の『精神統一』は、溜めることによって攻撃力を上昇させる。10まで溜めれば、その攻撃力は10倍となるのだ。
『特大衝撃波』は、十六夜タクヤが使用した『衝撃波』の強化版『大衝撃波』を、さらに強化した超必殺技だ。
その10倍の威力を持った『精神統一』版『特大衝撃波』が、肥満谷ごと敵に襲いかかる。
十数体のガーゴイルは、一瞬で全て真っ二つとなって吹き飛んだ。しかし、超が付くほど頑丈なボールダークラブは、例え10倍の威力と言えども、打撃系の技では一撃とは行かなかった。
魔法でダメージを与えねば、ボールダークラブは倒せない。
「曇天より光竜舞い戻りて、地上に雷の雨降りそそがん……ゴメンね肥満谷ーっ、光雷暴風!」
魔力操作を終えた賭井博美が、詠唱を完成させて魔法を放つ。ボールダークラブが苦手とする雷属性だ。
超高圧電流がボールダークラブと、そして肥満谷太へと放たれ、ボールダークラブのその甲殻の隙間から黒い煙が噴き上がる。
そしてガックリとボールダークラブは崩れ落ちたのだった。
「ゴメンね肥満谷君、大丈夫?」
3人の女子が肥満谷太の元へ駆け寄る。彼らは勇木ヒロと同じ、男子1女子3のもう一つのパーティーだ。
その場合、どうしても戦力が一枚落ちがちになるが、彼らは持ち前の連携で上手くカバーしているようだ。
肥満谷太が『盾役』となり、集めたモンスターを肥満谷太ごと攻撃して倒す。
一見無茶な作戦だが、強力な『鉄壁』の能力を持つ肥満谷太あってこその攻撃方法だ。
今回も、これほどの攻撃を味方から受けながら、肥満谷太はけろりとしている。
そしてもう一つ、この作戦がとても有効であるのは……。
肥満谷太はドMだった。なんなら、もっと彼女たちから攻撃を喰らいたいくらいだった。
彼にとって、彼女たちから強力な攻撃を喰らうことは、『ご褒美』以外の何物でも無かったのだ。
「ぶひーっ、女子に囲まれてボッコボコに攻撃してもらって感謝までされちゃうなんて、地球ではこんなコト無かった。異世界サイコー!」
とても幸せな男であった。
ボールダークラブの討伐レベルは55。彼らパーティーの成長は順調と言えるだろう。
剣持美咲の『精神統一』も、これからまだまだ能力が上がり、10倍以上の攻撃も可能となるはず。凸凹なメンバーではあるが、なかなか前途有望なパーティーかも知れない。
とその時、完全に死んでいると思われたボールダークラブがいきなり動き出し、魔石を回収しようとした神谷祈子にその巨大な鋏を振り上げた。
「きゃあああああっ」
その鋏が神谷祈子にぶつかる寸前、ボールダークラブは粉々に砕け散った。
「おお神よ、あなたの慈愛に感謝致します」
クリスチャンの神谷祈子が、奇跡に感謝して神へ祈る。
「んーでも、祈子の崇拝してる神様は、ここの神様とは違うんじゃね?」
「神なら何でもいいのです」
「……」
無事討伐クエストを成し遂げ、彼らは街へと戻るのだった。
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「ヒロってスゴいのねー!」
「あのガオナー倒したんでしょ? アイツほんとしつこかったから助かったわ」
「この町の暗殺者も退治してくれたんでしょ? ありがと~」
いまリンはギルドの机に片肘を突いて、ぶすっとした表情でヒロ達のことを注視している。
……面白くない。
久々に冒険者ギルドに来てみれば、自分たちが悪者退治したことが噂になっていて、主にそれがヒロの手柄になっている。その話題で、ギルドの女冒険者達がヒロの周りに集まって、ちやほや囃し立てているのだ。
まあヒロの手柄は間違ってはいないのだけれど。
「なんなのあれ、勇木がちょっと活躍しただけで寄ってきちゃって」
「いや、ヒロ君は最初から何故かモテていたよ。彼女たちは、ヒロ君に群がる切っ掛けが無かっただけで」
「そうですね。勇木君、妙な人気ありましたよね」
そうなのだ。それはリンも気付いていた。いや、リンが気付かぬはずは無かった。
ギルドに来る度、妙にヒロに女性の視線が集まり、何かと接触してこようとする素振りが見受けられた。まあそれら全部、リンがことごとくブロックしてきたのだが。
そういや、受付のパルレ・ロクアースという女も、やたらヒロには愛想が良かったなと思い当たる。
なんであんな男がモテるのかサッパリ分からないと、自分のことは棚に上げて、ふくれ面になるリンであった。
◇◇◇
僕たちは狩猟クエストを受けて、ヒュージキャタピラーを狩りに来た。これは前にも何度か倒したことがある、体長3mの大きな芋虫型モンスターだ。
僕らのレベルならすでに問題無いモンスターだけど、それよりも往復時の移動に最大限に気を遣った。
僕らが敵対してしまった組織の報復に気を付けるため、待ち伏せに遭いそうな道は極力避け、そして絶対に囲まれることが無いように行動した。
『超感覚』のリンも、移動時は常に能力全開で警戒している。
まあ暗殺集団全員倒したから、向こうもそう簡単には襲ってこないとは思うんだけど、油断は禁物だ。
僕たちは順当にヒュージキャタピラーを狩っていったが、麗子がふとリンを見て感想を洩らす。
「あの子、盾持っててもほとんど意味ないね」
あー僕も何度かそう思うことがありました。リンてば全然防御しないもんね。
僕が指示を出せば盾を使うけど、僕だってずっと指示しているわけじゃ無い。
全体を見て、ここぞという時にだけ指示を出している。それ以外は、彼女たちに任せているのだ。
じゃないと、本人の戦闘感覚が育たないからね。
「どうせ盾使わないなら、いっそ両手剣がいいんじゃ無い?」
麗子が特に考えた風も無くぼそりと呟く。
いや、リンが両手剣でいつも通り無防備に突っ込んだら死ぬでしょ。まあ麗子も本気で思ってはいないだろうが。
「両手剣? そっか、その手があったかーっ!」
麗子が何気なしにリンに提案してみたら、リンは猛烈に乗り気になった。
ウソだろ……死ぬよ、それは死んじゃうよ……リンは運0だし。
もし両手剣使うなら、せめて体術スキルを上達させよう
そういや、猛田君が両手剣だったな。肉体強化して片手で振り回してたけど。
◇◇◇
僕らは王国へ帰り、取り敢えずリンに合うような両手剣を探してみようかと武器屋に向かったところ、誰かに付けられているのが分かった。
というより、強烈な殺気だ。相手は完全にやる気なのだ。
そう簡単には襲っては来ないだろうというのは甘い考えだった。
「みんな、あいつは僕一人で戦うから付いてこないで」
「一人で大丈夫なの?」
「いや、むしろ一人の方がいい。こんな町中であれほどの殺気を出すヤツだ。みんなが居たら逆に僕が不利になる」
「そうね、私たちではヒロ君の足手まといになるだけね」
「勇木君、気を付けて!」
「絶対に、絶対に死んじゃダメよ!」
「大丈夫、いざとなったら逃げるよ。それくらいは可能だろう」
「信じてるからね」
「もちろん、必ず帰ってくるよ」
みんなと別れ、敵と戦う場所を探す。すると、敵の方から僕を人気の無い場所へと誘導してきた。
いいだろう、誘いに乗ってやる。何か罠があるのかも知れないが、変に人の多い場所で仕掛けられてもこちらが困る。
人気が無いなら、僕の能力も全開に出せる。条件に不足は無い。
そこは左右を高い塀に囲まれた、行き止まりの道だった。
敵はそれ以上後ろには行けないが、それでいいのか? 僕に有利なのでは?
「こんなガキの始末を任されるとは、オレもナメられたものだな」
相手は武器らしいモノを持っていなかった。拳闘士なのだろうか。
こちらが暗殺部隊を全滅させたと知った上で送り出してきたのだ。相当の使い手なのは間違いない。
「オレは処刑者『百手』のミルパット。まあこの名を聞いて生きてるヤツは居ないがな。今からお前を解体する」
その瞬間、前後左右、あらゆる角度から何かが僕を襲ってきた……!




