第27話 無能が無敵で無双する
初めて評価を頂きました。ありがとうございます。
そこは薄暗い研究室のようであった。
何かの薬品が入ったビーカー、試験管などが所狭しと立ち並び、机には羊皮紙や分厚い書物が積み上げられている。恐らくこの世界では珍しいであろう、遠心分離機らしき物まで見受けられる。
そして部屋の中央には、透明なドーム型のカプセルが付いたベッドが据え付けられ、その中には、何か異様な生物が四肢を拘束されて収納されていた。
ベッドの周りには、注射器、ゾンデ、メス、持針器、鑷子、コッヘル、開創器等々、様々な器具が用意されており、さながらそれは手術台のようであった。
そのベッドの前に立ち、何かを操作している初老の男が居る。
「むっ、まだ早すぎる!」
カプセルの中の怪物が暴れ出している。
そう、これは悪魔だ。見た者誰もがそう答える外見をしていた。
「だめだ、もう暴走してしまうとは……せっかくの逸材だったが仕方ない」
名残惜しそうに男が手元のボタンを押すと、その怪物は溶けて無くなった。
「完成体が未だにあやつ1人とは……あれは神が気まぐれに成した奇跡だったのか?」
男が完成を目指すモノ。
それは千年前から伝わる、進化の極限とも言える秘法だった。
かつて自分が作り上げた、ただ1つの成功体を追懐しながら、その男は研究室を後にした。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「ホントだって! スゴかったんだから! あのガオナーをちょちょいのちょーいよ!」
相変わらずおかしなボキャブラリーで、リンは昨日のことを熱く麗子と友美に語っている。
昨夜宮殿に帰ってからというもの、リンはずっとこの調子だ。僕が強かったのが、よほど嬉しかったらしい。
「でもヒロ君、衛兵が来たときは寝てたんでしょ?」
「ガオナーやっつけたあと気を失っちゃったのよ」
「リンさんがガオナー達をフルボッコした後、勇木君に手柄を譲っているということでは無いのですか?」
「友美っ、あんたそんな疑り深い子だったの?」
「リンはそう言うけど……」
「勇木君がそんな暴れちゃうところとか想像出来ませんもんね」
「だよねえ。ヒロ君だもんねえ」
「麗子、その呼び方やめなさいよ、なんかムカつく」
「分かった分かった、信じるからゆるしてリン」
あのあと、僕らは事件のあらましを、衛兵達に説明した。
ガオナー達が人攫いのプロで、どうやらこの町に呼ばれたらしいということ。
つまり、黒幕はまだこの王国内に居る。
ガオナーと仲がイイと言われているボルゴスが怪しいとは思ったけど、それはまだ全然確信が無かったので、衛兵には黙っておいた。
変に告げ口して、ボルゴスにまで睨まれたら、今後僕らは動きづらくなるからだ。確信を持てたときに、一気にボルゴスごと組織を叩く。
それまではなるべく大人しくしていよう。
「じゃあ戦闘に行くわよ! 勇木、あんたの力みんなに見せてあげなさい!」
◇◇◇
……
「本気出してよ勇木! あたしがウソつきになっちゃうでしょ!」
僕たちはオーガが出る場所へと来て、僕一人でオーガと戦わせられているんだけど、まるで敵わず、ひたすら逃げてしまっている。
昨日出来た『能力解放』っていうのも、全然出来ない状態だ。
「どういうことなの? リン」
「あのう……引っ込みが付かなくなっているようなら、もうやめた方がいいと思うんですけど」
麗子も友美も、リンの言ったことをもう信じていないようだ。
ごめんねリン、本当にわざとじゃ無いんだ、全然力が出ないんだよ……。
「わかった! 勇木はピンチにならないと力が出せないタイプなのよ!」
僕は両手両足を縛られて、オーガの前に放り出されました。
……
危うく死ぬところでした……。
◇◇◇
「リンってば、もう私たち疑ってないよ。昨日のは麻痺で朦朧としてたリンが見た幻覚だったんだよ」
「それが疑ってるって言うのよっ!」
リンが半泣きで言い返す。
僕たちは今日の戦闘を終えて、現在王国へと帰っているところだ。
結局僕は、みんなに強い姿を見せることが出来なかった。
何か発動条件があるのかも知れないし、ひょっとしたらもう二度とあの力は使えないのかも知れない。
これからは誰かに頼らなくても、自分の力で大切な人を守れると思っていただけに、僕も本当にガッカリしている。
まあリンを守れただけでも良しとするしかないか。
帰り道の途中、まばらに立つ木々に囲まれた場所へと来ると、僕はふと何かを感じて立ち止まる。『超感覚』のリンも異変を察知したようだ。
麗子と友美も臨戦態勢につき、僕は速やかに戦闘モードに入る。
「ほう……噂を聞いた限りでは大したこと無いと少しナメていたが、なるほど、それなりの実力は持っているようだな」
どうやって隠れていたのか、木の陰から黒い影のような男がスッと現れる。こいつ忍者……違う、暗殺者だ!
「ガオナー達の礼に来た。あいつらがあんな目立つことをするとは計算外だったが、ヤツらの誘拐の腕は確かだった。それが仕事前にあれほど恥を掻かされたとあっては、お前らにもきっちり死んで貰わねば、我らの面目が立たぬというもの」
やはりガオナーの組織の仲間か! 僕としたことが迂闊だった!
周りを囲まれている……10……いや、まさか20人以上?
木々の間から、次々と黒ずくめの男達が出現する。その数20人以上。
僕らを逃がさぬよう、完璧な陣を敷いている。
「ガオナーほどの男を倒したヤツらだ。万が一があってはならぬと、エーアストに居る暗殺軍全員で迎えに来てやったぞ。これはSランク冒険者チームですら容易に狩れる戦力だ。過大な評価に喜ぶがいい」
暗殺者はモンスター相手とは違う、例えリンでも簡単には勝てない!
どうする!? ここから僕らは逃げられるのか?
じわりと汗が噴き出し、額からほほを伝ってあごへと流れ落ちる。
無理矢理活路を見出そうとしたその時、
「能力解放しますか?」
あの声だ。いま、あの力の発動条件を満たしている!
もちろん、発動する。能力解放っ!
僕の体内を熱い力が奔流し、戦闘能力が数段階引き上がる。
いや、そんなレベルじゃ無い……数十倍の戦闘力だ。
もはや奴らの出だしを待つ必要は無い。先手必勝!
「氷結波! 氷結波!」
両側に居た男達に魔法を打ち込む。それは待機していた男を2人ずつ凍らせた。死んだらゴメンね。
「なにっ!? いきなり同時魔法だとっ!?」
さすが暗殺者、対応が早い。戦闘開始とみるや、一気にこちらへと間合いを詰めてくる。
そっちの方がまとめて倒せるから、却ってありがたいんだけどね。
「大衝撃波! もういっちょ大衝撃波!」
『剣聖』の十六夜君が使った衝撃波の、さらに大型強化版のモノだ。
近寄ってきた左右の男達7、8人を、まとめて薙ぎ倒す。
「た、溜め無しで撃った? いやそんなわけが無い! 網を使えっ!」
周りに居た男達から、僕らに向けていっせいに網を投げ込まれる。それは空中で大きく広がり、僕らをまとめて捕縛しようとするモノだった。
「昇風障壁!」
強力な上昇風が巻き起こり、網を全てはね返す。
「ばかなっ、これは無詠唱!? 無詠唱で魔法が撃てるというのか!?」
僕は素早く男達に近づき、アバラを叩き折るように剣を打ち込んで、次々と男達を戦闘不能にする。死んだらごめんよ。
すぐ近くに居た男が、僕の足元に向かって黒い玉を叩き付ける。
それは地面と激突して破裂し、黒い瘴気みたいなモノを発散させた。
「ククク、特製の障害玉だ、毒、麻痺、睡眠、幻覚がお前を襲……ぐえっ」
よく分からないけど、僕にはまるで効かないようだ。
喋ってる最中悪いけど、アバラ壊して退場して貰った。
「落ち着け、死陣を敷くんだ!」
最初に喋ったボスらしき男が、体勢を立て直そうと部下に命令する。すると4人の男が僕の周りを囲み、絶妙な距離で牽制をしてくる。
何かしてくる! その前にこちらから……
「奥義、金剛縛殺葬!」
しまった、一歩遅れた!
僕の周りの空間に、瞬時に強靱な魔力の網のようなモノが浮かび上がり、一気に僕へと迫り来る。
これは……
「我ら暗殺者のみが使える複合連結スキルだ、もはやお前に逃れる術は無い!」
光る網が縮まり、僕を絡め取ろうとした瞬間……目の前で全て消滅した。
「ば……かな、SSランクすら為す術無く捕縛する、我らの奥義だぞ……」
呆然と固まる4人の男を一気に蹴散らし、ボスらしき男と対峙する。
あとはこの男1人だ。
ここまでくれば、彼我の力量差は馬鹿でも分かる。
しかし、ボスらしき男は逃げようとはしない。いや、逃げることすら不可能と分かっているのか。
「し、四影身……!」
男はフッと消えたかと思うと、僕の周りを囲むように4人になって現れた。いわゆる分身の術だ。
そもそも4人になった程度では僕に敵わないことは分かっていると思うが、恐らくこれが彼の最大の術なのだろう。
そして、せっかく分身しておいて申し訳ないが、本体が僕には分かる。左だ。
ほかの男達と同じように、殺す勢いでボスのアバラを叩き折った。
「何一つ……何一つ我らの術が効かない……化け物……! 無能と呼ばれているのは、これを隠すため……?」
いえ、正真正銘本物の無能でした。ゴメンナサイ。
男達全員の戦闘不能を確認すると、全身に強烈な疲労が訪れ、僕はまたしても意識を失ってしまった……。




