第26話 覚醒! 真の力
アイレさんとの訓練後、ふと僕はリンたち3人が気になった。
まさかこんな町中で何かしてくるなんて思えないが、ガオナーとは揉めたばかりだ。念のため、迎えに行った方がいいだろう。
彼女たちが居るかと思って、いつもお茶してるときに使っている喫茶店に行ってみると、ちょうど麗子と友美が出てきたところだった。
リンが居ないので聞いてみると、途中で別れてからずっと来ないらしい。
何かイヤな予感がする。
3人で手分けして探すことも考えたが、麗子と友美に何かあっては、さらに事態が悪くなってしまう。
ここは僕一人で探すことにして、彼女たちには早急に宮殿へ帰って貰うことにした。
リンが待ち合わせに来ないということは、どこかで足止めを食っているということなのか?
とにかく、こんな時間まで来ないということは、絶対に何かあったに違いない。
仮に、もし連れさられたという事があったとしても、明るいうちからいきなりそんな遠くへは難しいと思える。一度どこかへ隠しておいて、移動させるなら夜にするはずだ。
麗子達がリンと別れたという宝飾店にも行ってみたが、手がかりは無かった。
どうすることも出来なく、ただただ時間だけが過ぎていく。
焦りの中、ひたすら町を駆け回っていると、ある大きな屋敷から何かを感じた。
言葉には出来ない、運命とも言えるようなお互いが繋がっている感覚。
それはリンのモノだと何故か確信出来た。
僕は屋敷のドアを蹴破って、中へと入る。そこにはガオナー達に囲まれたリンが居た……。
◇◇◇
「リン、大丈夫か、戦闘モードに入るぞ!」
僕は意識を戦闘モードに切り替える。これでリンならこいつらを倒せるはずだ。
しかし……。
「だ……め、力が入らないの……」
リンはようやく動けるレベルといった感じだった。
「こいつ、あの麻痺喰らって動けるのか? そんな馬鹿な!」
ガオナー達は、リンが少し動いただけで驚いている。どうやら何かされたらしいな。
こうなったら僕だけの力でなんとかするしかない。
剣を抜いてガオナー達の元へ突っ込んでいく。
「お、カス小僧がオレ達とやり合うってか」
ガオナー達は僕をナメて、素手で相手してくれるようだ。これならなんとか……。
「あぐっ……!」
僕はガオナーの隣に居た男に拳で殴られる。
いま奴ら全員の動きは予測で見えていた。でも避けることが出来なかった。
腐ってもあいつらはレベル40のBランク、そして僕のステータスは、戦闘モードですらレベル10そこそこの数値だ。例え行動予測が出来ても、そう簡単には僕では勝てないようだ。
あいつらを殺す気で向かわないと、僕では相手にならないだろう。
ナメてくれている今だけがチャンスだ、リンのためにあいつらを殺す……!
「この野郎、殺気出してやがる。オレ達殺す気だってよ」
「笑わせるぜ。殺すって事がどういうことか逆に教えてやる」
「あっ、ぐふっ……、がはっ」
僕の調子は悪くない。アイレさんとの訓練時よりも、ずっと軽く動けている。
なのに、行動予測が出来てすら、まるであいつらには敵わない。
なんて僕は弱いんだ……。
「おぐっ、はあっはあっ、がああっ」
奴らの前に倒れたところを、思いっきり蹴られてしまった。
僕は数メートル吹っ飛び、うつぶせに大の字で伸びてしまう。
「お前弱すぎだろ。女に守られてるから、そんな腰抜けになっちまうんだよ」
あいつらの言う通りだ。
リンを救出に来たといったって、結局戦闘はリン頼みじゃないか。
これじゃどっちが助けられてるのか分かりゃしない。
正しいこととか、やさしさとか、そんなのこの世界では無力だ。
強さが無ければ、大切な人を守ることも出来ない。
僕にも力が欲しい。せめて、大切な人だけでも守れる力が……
「ヒヒッ、せっかくだから、お前の目の前でこの女犯してやるぜ」
「おい女、アイツのためにイイ声で泣いてやれよ」
奴らはまたリンのことを相手しようとしている。
僕はいま放置されている。これなら1つだけ、奴らに攻撃する手段がある。
同時魔法だ!
これなら奴らに近づかず、そして一度に複数攻撃出来る。
一度でやらないとダメだ。じゃないと、一発撃った時点で逃げられてしまう。
僕は魔力回路を並列起動させ、4つの魔法を小声で詠唱する。
焦るな、集中しろ、絶対出来る、必ず成功させる……!
「徒なす者よ、赤く燃え上がれ」
「稲妻よ、我が敵を討ち滅ぼせ」
「穴穿て、具現化せし千の針」
「蒼天より来たれ光の刃……」
「リン、こっちに来て!」
僕の声を聞いたリンが、力を振り絞ってこちらへと転がり込む。
今だ!
「火炎焼却、雷撃、土針射撃、剣雨招来!」
くらえ四重魔法!
「なっ!?」
「馬鹿なっ」
「ウソだろっ」
「4魔法同時だとおっ?」
ドドオオン!
成功だ! 僕の魔法は一発ずつ4人に命中した。
これで逃げ出せる……!
「あぉぐっ!」
「こんのクソガキ! ふざけたマネしやがって……!」
剣雨招来が直撃したはずのガオナーが、くすぶる煙の中から現れ、僕の首を掴んで持ち上げた。
ウソだろ、いくら僕の魔法が威力弱いからって、アレを喰らってこんなに動けるのか?
「もう赦せねえ、お前から殺してやるよ」
僕の首が握りつぶされる。ちくしょー、このまま終わりか……?
「があああっ」
ガオナーは悲鳴を上げて、僕から手を離した。リンが剣でガオナーの背中を斬り付けたのだ。
リンはまだ力が戻っていないようで、まともに剣も持てていない。
ガオナーの傷も、そんなに深くないようだ。
「お前ら、ホントムカつくぜ、いいか楽に死ねると思うなよ」
ガオナーがリンに向かおうとするところを、僕はタックルして止めようとする。しかし、僕の力では床に倒すことすら出来ない。
「リン、逃げてっ! 僕は大丈夫だから!」
「あー分かった、お前から死ね」
ガオナーは懐から短刀を取りだし、僕を刺し殺そうとする。
まずい、これは避けられない……!
ズサアッ!
「リンっ!」
リンが僕の元に飛び込み、僕の代わりに短刀で背中を切り裂かれる。決して浅くはない傷だ。
まずい、このままでは本当に死んでしまうっ。
なんで僕には力が無いんだ! どうして僕だけ能力が上がらないんだ!
「リン、大丈夫か! なんでそこまでして僕を……」
「ふふっ、あんたホントにニブいんだから。あたし、ずっと勇木のこと好きだったんだよ……」
「えっ……?」
「言っちゃった。……言わずに死ぬのイヤだもんね」
「リン、しっかりしてっ!」
リンから力が抜けていく。
「よおし、お前ら二人同時に殺してやるよ」
ガオナーが短刀を振りかぶる。僕らはもうそれを避けることが出来ない。
せめてリンを庇って死のうと思ったその時……
「情愛確認、第二封印解除」
またあの時の声だ! 周りの景色がスローに変わる。
「『能力解放』が可能になりました。能力解放しますか?」
そんなの決まってる……能力解放!
それは空回りしていた手足の歯車が、がっしりといっせいに噛み合ったように、全身の回路が指の先まで繋がる感覚。
全身に今まで感じたことの無いような力が漲っていく。
身体が軽い、頭に思い描いた通りに動ける。いやそれ以上の反応だ。
ガオナーの動きがやたらスローに見える。
僕はガオナーの短刀を左手の指でつまみ、軽くひねって取り上げる。
そして、がら空きの顔面へ右手でパンチをする。
「へぶおおっ」
ガオナーは壁まで転がり飛んだ。
リンがやばい、すぐに治療しなくては!
「回復大!」
今は自分でも分かった。
僕は無詠唱で魔法を使っている。いや、この状態なら無詠唱で魔法が使えることが自分でも分かる。
それにこの魔法……僕が使えないはずの神聖魔法だ。でも何故か無意識に使ってしまった。
リンの傷がスーッと消えていく。
「こ……の野郎!」
丈夫なヤツだ。しかし、手加減しないとガオナーは死んでしまう。
それくらい、今の僕とは力の差が歴然としている。
今まで僕をナメていたガオナーが、自らの剣を抜いた。本気で来る。
「死ねえっ!」
スローに伸びてくるその剣を手のひらで払い、急所を外してボディブローを叩き込む。それでも、内臓の1つや2つは破裂してしまったかも知れない。まあコイツは死なないだろう。
「ほごお……」
ようやくガオナーは気絶した。それを確認してから、僕も意識を失ってしまった……。
◇◇◇
気付くと、僕はリンに背負われていた。
「あ、気付いたのね」
「あわわ、ゴメン、負ぶってもらっちゃって、下ろして大丈夫だよ」
あのあと、リンが衛兵を呼んで、ガオナー達は全員逮捕されたらしい。
リンの傷も無事完治したとのこと。
初めて僕自身の力で誰かを守れた。そのことが嬉しかった。
これからは誰かに頼らなくても、僕の力で大切な人を守れる。
もう二度と大切な人を危ない目には遭わせたくない。
「ねえ、あのね、さっきあたしが言ったこと……忘れて!」
リンが顔を赤くしながら、小さな声で話し掛ける。
「え? なんのこと?」
「その、ほら、言ったじゃん…………すき……って」
そういえば……僕も思い出して、ちょっと赤くなる。
「お願い忘れて、じゃないと忘れるまで殴るわよ!」
「分かった、忘れる、……忘れた!」
「それで良し!」
生きていること、大切な人を守れたこと、色んなことが頭を巡るけど、今はこの幸せにゆっくり浸っていたかった……。
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小鳥遊すみれは、せっかく『賢者』というすごい力を授かったから、勇木ヒロと一緒のチームになって、今度は自分が彼のことを守ってあげたかった。
小鳥遊すみれが中学二年生の時、頭のおかしい男がナイフを振り回して、街で大暴れした事件があった。その現場に小鳥遊すみれは居たのだ。
目の前で通行人が切り付けられ、小鳥遊すみれは足がすくんで動けなくなっていた。そこに、ナイフ男が無造作に寄ってきたのだ。
近くで見ていた人は、ナイフが恐ろしくて助けに行くことが出来ない。遠くの人は、動画の撮影に夢中になっている。
誰も近寄れない中、ナイフ男が小鳥遊すみれを切り付けようとした瞬間、勇木ヒロがそこに飛び込んで小鳥遊すみれを守ったのだ。
その代わり、勇木ヒロは肩のあたりを刺されることになる。
すぐさま救急車で運ばれ、勇木ヒロは大事に至ることは無かった。
その時は、小鳥遊すみれは、自分が誰に助けられたのかを知ることは無かった。
高校に入学して、勇木ヒロの肩の傷を見て、自分を助けてくれたのはこの人だと分かった。
しかし、勇木ヒロは怪我のショックで、いくつか記憶を失っていた。事故のことも忘れてしまっていたのだ。
あの悪夢を思い出させては申し訳ないかもと思い、小鳥遊すみれは勇木ヒロに打ち明けることが出来なかった。
学校にいる時は何も出来なかったけど、異世界では自分は大きな力を得ることが出来た。
今度は私が守る番。そう思っていたのだが、しかし周りがそれを許さなかった。
『賢者』は序列3位。魔神攻略の最大のカギとなる。無能な勇木ヒロとは、とても一緒にさせることは出来なかった。
いま遠くの地より、小鳥遊すみれは勇木ヒロの無事を祈るだけだった。
本編では書きませんでしたが、ヒロが子供の頃のリンを憶えていないのは、ナイフで刺されたショックで、幼い頃の記憶をいくつか失ってしまったからです。
決してリンのことを軽んじていたとか、冷たい男だからというわけでは無いのです。
分かりづらくてスミマセン……。




