第24話 今の実力
「鉄丸っ、左のデスゲイザーを頼む、三枝は麻痺と即死防御の結界を!」
『剣聖』十六夜タクヤの指示が、暗いダンジョン内に響く。
旅立ちからすでに2週間以上経ち、王国での訓練期間と同等の冒険者活動を経た彼ら『最強チーム』は、とあるダンジョンの攻略に来ていた。
彼らはどちらかというと、安全よりも挑戦することに重きを置いているようで、レベルの上昇はすこぶる順調だったが、いま現在ピンチに陥っていた。
邪眼を持った一つ目怪物デスゲイザーと、迷宮の監視役ダークセンチネル、そして実体を持たないクリーピングシャドウに囲まれてしまったのだった。
飛翔しながら攻撃してくるデスゲイザーの邪眼は、最悪一撃死もある強烈なモノだ。悪霊ダークセンチネルは闇属性の魔法を使い、クリーピングシャドウには剣の攻撃が効かない。
大山鉄丸の『悪魔化』は状態異常が無効になるため、デスゲイザーを相手した。十六夜タクヤはダークセンチネルとクリーピングシャドウを引き受け、『結界師』の三枝よう子は多重結界を張りつつある。
そして『賢者』小鳥遊すみれは……
「出来た! 同時魔法、火炎焼却、土針射撃、剣雨招来!」
3つの魔法の詠唱が終わり、火炎焼却は物理攻撃の効かないクリーピングシャドウへ、闇属性であるダークセンチネルには光属性である剣雨招来を、強力な魔法防御を持つデスゲイザーには、物理ダメージ系の土針射撃をお見舞いする。
威力を絞ってなお一撃必殺、賢者の凄まじい魔法攻撃であった。
「さすがだな、小鳥遊。三重魔法が出来るのは、世界でも数人だって話だぞ」
「そんな……みんなが時間を稼いでくれたおかげです」
「なんにせよ、一度ここらで撤退だな」
「そうね、これ以上は無理出来ないわ」
「確かにちょっと無理しすぎた。戻るとするか」
充分とも言える戦果を上げ、彼らは迷宮を後にした。
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「この討伐やりたーい!」
冒険者ギルド内。依頼掲示板から、リンがBランク冒険者向けの討伐クエストを見つけて、それを受けたがった。
「いや、それはまだ早いよ。そもそも僕たちDランクじゃ受けられない依頼だしね。もうちょっとランクとレベル上げてから受けよう」
「えーでも、多分これもう楽勝だよ」
「だーめ。安全重視で行くよ」
「充分安全だってば!」
まあ確かにリンの言う通り、そのモンスターの討伐に関しては、僕も恐らく問題無いと思う。それくらい力を付けている手応えは充分感じている。
でも、冒険者ランクが低いから受けられないんだってば。
「ぶー。まあしょうが無いわね。じゃあさ、ちょっと迷宮入ってみない?」
「迷宮? どこの?」
「この国の南にあるヤツ。オルドルさんが言ってたじゃない」
「あーその迷宮か」
オルドルさん曰く、エーアストから馬車で南に数時間行ったところに迷宮があるらしい。
その後聞いた話では、出現する敵もあまり強くなく、初めて入るところとしてはなかなかオススメな迷宮らしいけど、事情があってすぐには入れないって事だった。
「ね、あそこ敵もあまり強くないって言うし、ちょっとだけでも行ってみたくない?」
「でも、すぐには入れないって言ってなかったっけ?」
「なんか分かんないけど、取り敢えず行ってみればいいじゃない」
「1日掛かりの移動なのに?」
「それよ! ちょっと旅気分も味わえそうだし」
「んーそんな理由ではちょっと……」
確かに迷宮には興味あるし、初心者向けというなら、まずそこから行ってみたいとは思うけど……。
「リンてば、なんでそんなに迷宮行きたいの?」
「そうですよ。迷宮なんて暗くてじめじめしてそうで、正直あまり良いイメージ無いんですが」
麗子と友美が疑問をぶつける。
「ロマンよ、宝物よ、聖剣が欲しいのよ!」
「……」
「……」
「……」
なんか即物的な欲望に、全員が閉口した。いや、言いたいことは分かるんだけどね。
「なんで聖剣欲しいの?」
「えっ? 冒険者なら誰でも聖剣欲しいもんじゃないの?」
「そりゃまあ欲しいだろうけど、滅多に取れるもんじゃないよ。それに、今のところ、聖剣を必要とするような戦いはしてないんだけど」
そんな会話をしていると、恐らく横で聞いてたんであろう戦士らしき男が、僕らの会話に入ってきた。
「君らあそこの迷宮に行きたいみたいだけど、詳細知ってるの?」
「え? いや、どこで調べていいのか分かりませんし……」
「あそこの迷宮は予約制だよ。1日2組しか挑戦出来ないんでね。ギルドで申請すれば、整理券くれるよ」
1日2組? なんでまたそんな……。
「あそこはこの世界唯一の『迷宮内自動生成ダンジョン』で、入る度に中の迷路が変わってるんだよ。迷宮には魔力が掛かっていて、1回に1組、最大6名までしか中には入れないのさ。それで予約した午前と午後の1日2組が入れるってワケ」
なんじゃそれ!?
「あそこのダンジョン内の魔物は大したことは無いんだけど、とにかく迷路が難しくて、まだ誰も踏破出来てないんだ。とてもやっかいな迷宮だぞ」
「え、じゃあまだ誰も宝取ってないの? これ絶対聖剣だよ! 行こうよ~」
踏破不能と言ってるのがどうもリンには聞こえていないようだ。
まあモンスターが強くないというのであれば、行ってみてもいいかなとは思うけど。
「整理券と言ってましたけど、どれくらい順番待ちなんですか?」
「すげー待ち人数いるぞ。多分半年待ちくらいだ」
「ええ~っ!?」
リンが悲しみの声を上げる。
なるほど、オルドルさんの言う通り、すぐには入れないな。
取り敢えず、整理券貰っておいて損は無いので、ギルドで申請した。
確かに半年待ちだった。気長に待つか。
◇◇◇
少数のオークが出る狩り場へと、みんなで来た。
「なんで今さらこんな所に来るの?」
「ちょっと確認したいことがあって」
「なにを?」
そこにオーク1匹が現れた。ちょうどいい。
「リン、あのオークと戦ってみて」
「いいけど瞬殺よ?」
リンが面倒くさそうにオークへと歩み寄る。
「ほ~れ!」
ガキンッ。
「あれ?」
リンの攻撃が、あっさりオークに受け止められる。
「んーなんか調子出ないわね」
リンがぶんぶんと剣を振り回してオークを攻撃するが、全てオークにいなされる。
「コイツめ、コイツめ!」
「ありゃ~酷い戦い方ね。隙も無いのに、無理矢理一撃で殺そうとしてるわね」
「ステータスが低いと、こんなにも雑な斬り方するんですねえ」
麗子と友美が、リンの素人のような戦いを見てぼつりと感想を洩らす。
そうなのだ、いま僕は戦闘モードに意識を切り替えてないので、リンのステータスは上がっていない。戦闘スキルも能力スキルも通常のまま、本来のリンの力のみで戦っているのだが……。
「ステータスの上昇と指示が無いと、こんなにも素人なのねえ」
うーん、思ってた以上に酷かった。
普通に戦えば問題無く倒せる相手なのに、能力アップ時のステータスや剣術に頼った戦いをするせいで、こんな相手にも苦戦状態となっている。
能力アップ時は剣術ランク等も上がるため、多少雑に斬り付けても、勝手に補正されて鋭い攻撃となってくれるのだが、今は単なる雑な剣撃だ。
「リン、一度下がって! 右に躱してから斬れるよ」
ズサッ!
僕の言う通りに動いて、リンはようやくオークを仕留めたのだった。
「酷いじゃない! どうしてこんな意地悪するのよ~っ!」
リンが半泣きで抗議してくる。
「いや、これからより厳しいことに挑戦するに当たって、今の課題を浮き彫りにしたかったんだよ。迷宮に挑戦したいなら、なおさら確認しておきたかった。よりいっそう気を引き締めていくためにもね」
リンも、自分自身の油断や慢心がよく分かってくれたと思う。
「リン、あなたヒロ君が居なかったら、とっくに死んでたかも知れないわね」
「うっ……反省します」
これで迷宮に行っても、油断することは無いだろう。
この日は僕の能力アップ無しで戦闘をして、みんなそれぞれ自分の動きや役割を再確認したのだった。
◇◇◇
宮殿への帰り道、ふと女性の声が聞こえて、その声のする薄暗い脇道へみんなで行ってみると、ギルドの受付嬢パルレ・ロクアースさんが数人の男達に絡まれていた。
どうやら絡んでいるのは、ガオナー達4人組のようだ。
「勇木、あいつらぶっ飛ばすから戦闘モードになって!」
「いや待って、あいつらと事を構えると面倒だよ。まずは話し合いから……」
「え~っ?」
僕はゆっくりと彼らに近づき、穏やかに話し掛ける。
「あのー、嫌がっはぶっ!」
問答無用でいきなりぶっ飛ばされました。
「お前この前のカス坊主だな、すっこんでろ!」
「だから言ったじゃない」
リンが呆れかえる。うう、人はわかり合えるってウソなんだね。
仕方ない、僕は意識を戦闘モードに切り替える。リンの能力は一気に引き上がり、全身から力があふれ出す。
「よっしゃー! あんたらいい加減にしないと泣かすわよ」
「けっ、お前まだレベル20そこそこのDランクだろ? オレたちゃレベル40以上のBランクだぜ。お前らが束になったってゲフッ……」
リンが素早く相手の懐に入り、剣の柄でボディを打つ。
リンは現在レベル25だが、ステータスが倍になってる上、能力アップの効果で戦闘スキルや能力スキルが軒並み高い。ゴロツキのようなレベル40には負けないだろう。
「このやろー」
「リン、左に避けてボディに攻撃」
軽く相手を躱してボディに剣の柄を叩き込むリン。
「こいつ、ふざけっ……」
「リン、しゃがんでアッパー」
リンは相手の攻撃をダッキングで躱したあと、剣の柄で相手のあごを殴る。
あーやり過ぎ、あご砕けちゃうよ……。
あっという間に3人の男達をのしてしまうリン。
「なんだ、このメスガキが一番強かったのかよ。威勢がイイわけだ」
ガオナーが首を鳴らしてリンの前に立つ。やばい、大丈夫か?
「おらあああっ!」
ガオナーが振りかぶった瞬間、
「リン、足のスネだ!」
リンはガオナーの足のスネを思いっきり蹴る。
「ぐあっ」
踏み込みに力が入らなくなって腰砕けになったところを、あろう事かリンは剣の柄で金的をした。
同じ男として、それは勘弁してあげて……。
「ほあうっ」
思わず前屈みになって腰を引いたガオナーに、最後は掌底でアッパーカットを喰らわす。
完全な白目KOであった。
やばいと危惧した通りリンはやり過ぎた。大丈夫かな。
「ありがとう~」
ロクアースさんが僕に抱きついてきた。
「待って! 助けたのあたしよ! なんで?」
「勇木さん、有り難うございます。あなたは私の命の恩人ですう~」
「絶対納得いかない!」
僕たちはロクアースさんを安全な場所まで送り届けるのだった。
◇◇◇
「あのクソアマ、ゼッテーゆるさねえ……」
ガオナーは、かつて女にここまでコケにされたことは一度も無かった。
「あの女に地獄を見せてやる……」




