第23話 世の中は広い
ユスティーさん達と合同でオーガ狩猟に行ってから一週間。
僕らは様々なモンスターと戦闘をし、レベルは24に上がっていた。冒険者ランクも、1ランク上がってDになっている。
倒したモンスターは、オーク、オーガは元より、ハーピー、キラービー、アックスビークといった比較的弱いモノから、ヒュージキャタピラーやアーマーベアーのような低ランクでは厳しいモンスターまで居る。
なんと、僕らだけでトロールも倒した。
逃げても全く問題無かったが、みんなが戦ってみたいというので、形勢不利になったらすぐに逃げ出す条件で戦闘したのだ。
すると、囮のリンも牽制する麗子も上手く役目を勤め上げ、友美の炎柱牢獄で無事トロールを倒せたのだった。
そして今は、討伐クエストを受けてハンマーテールというモンスターと戦っている。
ワニとアリクイを足したような姿をしているのだけど、大きさは結構大きくて、体長は尻尾を入れて7mくらい。その尻尾にハンマーのような突起が付いており、それを振り回して攻撃してくるのだ。
因みに、ある程度のモンスターには討伐レベルというのが設定されていて、例えばトロールだと討伐Lv30になっていて、これはDランク冒険者チームだと互角で、Cランクなら問題無く倒せるというレベルだ。
このハンマーテールは討伐Lv36で、本来はCランク冒険者の適正クエストなんだけど、Dランク以上で依頼が受けられたので、やってみることにした。
トロールには割と楽勝出来たので、僕らの力はCランク以上有るとみてのことだった。
「リン、左に避けて! 麗子、聖なる矢で首を狙って!」
ハンマーテールは動きもなかなか速いので、足止めには多少苦労する。しかし、ようやく友美の詠唱が終わったようだ。
「串刺し地獄!」
四方八方の地面から岩で出来た巨大な槍が出現し、ハンマーテールを串刺しにして天高く突き上げた。ハンマーテールは、体表の上の部分は固い鱗で覆われているが、腹部は脆かったのだ。
近づくのが危険だったので、リンには敢えて攻撃をさせなかったが、リンが攻撃していればもっとあっさり倒せたとは思う。
冷静に判断して、恐らく僕らはすでにBランク冒険者に近い力を持っているだろう。
「ね、楽勝だったでしょ」
リンが得意げに言いながら戻ってくる。
元々このクエストは、リンがやりたいと言ったから受けたモノだった。
僕は少し躊躇したが、いつまでも安全重視では、とてもこの先危険なモンスターとは戦っていけない。ましてや、魔神をどうこうしようなんて問題外だ。
そう考えてクエストを受けたけど、僕が思っている以上にみんなが強くなっていて、本当に嬉しい。
強いモンスターを複数相手にするような戦いはキツいけど、それ以外ならなんとかやって行けそうだ。
因みに、僕の無詠唱は一度も成功していない。本当に僕は無詠唱で魔法を使ったんだろうか……?
◇◇◇
ハンマーテールを倒したのでギルドに報告に来てみると、受付のパルレ・ロクアースさんが、4人組の冒険者と何やら揉めているようだった。
いや、揉めているのでは無く、絡まれているのか。
「なあなあ、1回だけでイイんだよ、オレ達と一緒に食事行こうぜ」
「今日このあと空いてるんだろ? 冒険者との付き合いも大事だぜ」
「スミマセンが、冒険者との個人的な交流を禁じられているので……」
「ウソ付いてんじゃねーぞ、冒険者とデキてるヤツぁ結構いるじゃねーか!」
「そういう時はどちらかがギルドを辞めております」
「じゃあお前ギルド辞めろ。オレの女になれ」
いくらなんでも酷い絡み方だ。ボルゴス達以外にも、こんなヤツらが居るなんて。
あ、彼らがユスティーさんの言ってたガオナーなのかも。
ユスティーさんは居ないのか……なら僕が!
「アンタ達いい加減にしなさいよ、あまりに酷くて見てらんないわ!」
今まさに僕が止めようとしたところ、リンが大声で彼らを叱り付けた。
「なんだねーちゃん、文句あんのか?」
「あるに決まってるでしょ! 目障りだわ。速やかにそこをどかないと……」
「どかないとどうするって? ヒヒヒ」
「この男がアンタらをコテンパンにするわよ!」
え? 僕が? てかコテンパンってまだ使ってる人居るんだ?
「おいおい、この坊主って、女に戦わせて自分じゃ戦わないクズって噂じゃねーか。こんなのがオレ達の相手になんのか?」
僕が戦わないという噂は、実はギルドでは有名になっている。これはユスティーさん達が喋ったんじゃ無くて、たまたま僕らの戦いを見た冒険者達が、面白がって噂を流したのだった。
「そうよ、超強いんだから! アンタ達なんか一撃でバタンキューよ」
なんかリンのボキャブラリーちょっとおかしいな。
「おう、そこまで言われちゃ黙っていられねーな。お前外に出ろ!」
あれ、暴力を使わずに収めようと思ってたのに、なんか僕が戦うことになってる。
これもう収まりが付かないんじゃないかと思っていたところに、髭を蓄えた壮年の男、ギルド長が現れた。
「ガオナーよ、ここらでやめないと、こちらにも考えがあるぞ」
ギルド長は数年前に冒険者を引退したとはいえ、現役ではSSランクまで行ったらしく、凄まじい威圧感だ。
「ちっ……」
やはりあいつはガオナーだった。
ガオナーはどうもボルゴスよりも我慢が効かない男のようで、まるで納得いかないといった様子で、仲間と共にギルドを出て行った。
このまま大人しく引き下がるタマじゃ無さそうだ。何かまた揉め事が起こらなければいいけど……。
「どう? 上手く行った?」
麗子と友美がギルド長の後ろから現れた。
「ゴメンね、あんたをダシにして。ブラフよ、ギルド長呼んでくるまでの時間稼ぎしてたの」
へー、それは気付かなかった。
「受付とのちょっとしたいざこざ程度じゃギルド長は動けないって言うから、わざと少し騒ぎを大きくしたんだけどね」
確かに、小さなトラブルなんか日常茶飯事だろうから、その度にギルド長が出てくるわけには行かないだろう。
なかなか君たちやるね。というかリンがブラフって言葉知ってて驚き。
「彼らはつい最近エーアストに来たBランク冒険者なんだけど、かなり身勝手な行動ばかりして、私たちも困ってるんですよね。どうもボルゴス達とも仲が良いらしいし……」
受付のロクアースさんから、あいつらのことを教えて貰う。
やはり何か事件を起こしそうな奴らだ。警戒するに越したことはないな。
◇◇◇
宮殿に帰り、今日は自主練をすることにした。
ギルドでの出来事で、やはり自分でもしっかり戦える力を付けておきたいと強く思ったからだ。
アイレさんも時間が空いていたので、いつものように指導して貰うことにした。
アイレさんとの訓練中、いつも思うことだけど、普段以上に身体が動かない。
モンスターと戦う時も身体が重いが、それでももう少し身体は動く。
五味君との模擬戦ではあんなに軽く動けたのに、なんでだろう?
「大丈夫、勇木殿はちゃんと成長して居るぞ」
アイレさんはそう言ってくれるけど、本当はもうちょっとマシに動けるんだ。
なんかそれがもどかしい……。
「アイレさんは、誰か強い人を間近で見たことがありますか?」
休憩中、ふと気になってたことをアイレさんに聞いてみる。
先日ユスティーさんから凄い冒険者達の話を聞いて、ほかにもこの世界にはどんな人が居るのか興味が湧いていたのだった。
「うーむ……私は王女付きでこの国から出ない故、他国の騎士殿にはあまり会ったことは無いのだが、ゼルドナ王にはお目にかかったことがある。元傭兵という事もあり、非常に変わったお方で、よく国を留守にして他国を放浪したりするのだ」
へー、あの有名な傭兵王と言われてる人か。
「そのゼルドナ王が我が国にいらっしゃった時、親善試合として私も軽く手合わせして頂いたが、想像を絶する強さであった。我が国のキングズガード達が束になっても勝てるかどうかというくらいだ。それと同等以上とも聞く狂王とやらも、相当な使い手であろうな」
「狂王……? 凄い名前ですね」
「もちろん異名だぞ。確か名はヴィクテインとか言ったか。魔剣『ハイムゲイン』を持つ、凄まじい強さの男という話だ。技術スキルSSSランク保持者3人のうちの1人でもある。各地の紛争場所に現れては、鬼神のごとき働きをしたことにより、『狂王』の異名が付いたらしい」
「なんか怖そうですね」
「安心しろ、彼は味方だ。ただ、ふらりと現れてはふらりと消えるので、現在どこに居るのかは分からぬがな。『ハイムゲイン』についても謎が多く、最強とも言われている魔剣のペナルティーは大変なモノで、通常はとても使いこなせるはず無いのだが、彼はなんなく使うという」
「う~んやっぱり怖い……」
「ははは、ほかには鬼将軍と呼ばれているディフェーザ王国のヴェルデ・ドラコス将軍が居るが、あの方はもう別格だな。かつては並ぶ者無しと言われた最強の剣士だったが、ただ片腕を失われたらしいので、今ではどうであろう」
やっぱり、まだまだ僕の知らない強者が居るんだなあ。
「あとは冒険者にも強いのが居るとは聞くが、冒険者は対人戦闘技術とは違う故、誰がどう強いのかはまた違ってくるだろう。1つ気になるのは、『死神』と呼ばれる男が、この世界のどこかに潜伏しているということだ」
「し……死神?」
「そうだ。どんな場所にでも難なく忍び込み、誰にも正体を見られずに暗殺を遂行するという。どうも人外の力を持つと言われており、これもまた怪物の強さなのであろうな」
うー、そういう人も一緒に魔神と戦ってくれないものかな?
「まあなんにせよ、勇木殿の目標は、まずこの私に勝つことだ」
うーん、一生勝てない気がする……。




