第22話 雲の上の冒険者達
「あれ? ボク~こんな場所に何しに来たのかな?」
冒険者ギルドの前で、僕たちは少年と出会った。場違いなところに子供が居たので、不思議に思ったリンが声を掛けたんだけど、迷子にでもなったのかな。
あれ、まて、この子は……?
「お姉ちゃーん、ボク迷子になっちゃったよう」
「あらやっぱり。どこから来たのか分かる?」
「分かんない。ママに置いて行かれちゃったよー」
そう言って、少年はリンの胸元へと飛び込む。そしてブレストプレートの隙間から手を突っ込み、何やらリンの胸あたりをまさぐっているように見える。
「ちょっ、ボク、そんなところ触っちゃダメ……」
「どこ居ちゃったんだよー、ママー」
「やだやめてっ……あんっ」
ひとしきりリンの胸を触った後、次はジロリと品定めするような淫猥な目つきで麗子を見つめ、少年は同じように麗子の胸元に飛び込もうとした。
「んがっ……!」
麗子は飛び込んでくる少年の頭を片手で押さえつけ、鬼も殺せるような殺気を出しながら、少年にピシャリと警告する。
「……殺すわよ」
少年は青い顔をして逃げていった。
「麗子~、迷子なんだからそこまでしなくてもいいんじゃない?」
「だめよ、男が女の胸を揉むときは命懸けになるということを、あの年でも知っておいて欲しいわ」
この前、麗子の胸に顔を押しつけられたけど、アレは僕の命が懸かってましたか……。
「あのー、今の人、小柄だけど子供じゃなくて大人ですよ」
「えっ?」
リンが驚く。
「小人族の冒険者ですよ。多分装備からすると盗賊でしたね」
「小人族? でも髭生えてなかったわよ」
「それはドワーフ。ホビットですよ、講義でもやりましたよ」
だと思った。子供にしては、しっかりした冒険者の装備してたもんね。
リンの顔がみるみると赤くなる……。
「おっぱいただ揉みされたーっ!」
「クスッ、揉まれるほどのおっぱい無いクセに……」
「なんだとおーっ!」
この2人、相性いいのか悪いのか分からないな。
◇◇◇
まだ気の収まらないリンをなだめて、僕らはギルドに入る。
今日は初めて依頼を受けようと思っていた。目的無くただ狩りをするのでは無く、何かの狩猟クエストを受けたかったのだ。
いつまでも安全だけを気にしていたら、冒険者は成り立たない。
安全度が高い狩り場と違って、狩猟クエストでは何が起こるか分からないが、彼女たちはもう充分強くなった。少しずつ活動範囲を広げても大丈夫だろう。
ギルドの掲示板で依頼を探していると、ちょうど手頃な狩猟クエストを見つけることが出来た。王国周辺のオーガ10匹の狩猟で、これらは定期的に間引いておかないと、モンスターが増えすぎてしまうのだ。
依頼の書かれた羊皮紙を持って、受付に申請に行こうとすると、すぐそばに居た4人組のパーティーから声を掛けられた。
「君たちがこの前ボルゴスに絡まれた救世主なんだって? 災難だったね」
どうもこういう場所で声を掛けられると警戒してしまうけど、とても爽やかで、そしてかなり実力も高そうな冒険者達だった。
リン達3人も、同じような印象を受けているようだ。
「オレはユスティー・コンフィアンサ。Sランクチームのリーダーをやっている。彼らは仲間のドルークとキャマラードとソキウスだ」
この人があの正義の味方のユスティーさんか!
本当にやさしくて頼りになりそうな人だ。
僕たちもユスティーさん達に自己紹介をした。
「ケイパーから将来有望そうな新人が居ると聞いて、一度会ってみたかったんだ」
「ええっ、僕らが有望だなんてそんな……」
「依頼を受けるのかい? お邪魔で無ければ、オレ達も一緒にその依頼を受けさせて貰ってもいいかな?」
「えっ、いいんですか?」
願ってもいない申し出だった。
僕らはだいぶ強くなったとは言え、初めてのことばかりで不安だらけだ。
オーガもまだ戦ったことが無く、依頼を1ランク下げようかと悩んだほどだった。
「こちらこそ是非宜しくお願い致します」
僕らは一緒に、オーガの狩猟ポイントへと向かった。
◇◇◇
「いやーすごいねー」
「かっこいいわね」
「さすがSランクパーティーです」
僕らはまず、ユスティーさん達が戦っているところを見学させて貰うことにした。
「アレが理想の魔法剣士なのね」
リンが感嘆の声を洩らしている。
ユスティーさんのチームメンバーであるドルークさんは、Aランクの魔法剣士だ。剣に魔法を魔法付与させて、華麗にオーガを葬り去っている。
それは僕が目指す戦い方であった。
もちろん、ユスティーさんも凄い。『剣聖』の十六夜君も凄かったけど、さすがに現時点ではユスティーさんの方が上だろう。
力強い斬撃で、軽々とオーガを斬り捨てている。
オーガはオークよりもさらに1ランク上のモンスターだけど、まるで相手にならなかった。
そりゃSランク冒険者だから当たり前か。
ほか、キャマラードさんはSランクの神官で、ソキウスさんはAランクの魔道士だけど、オーガ相手では出番は無いようだった。
「では次は君たちが戦ってみるかい?」
コボルトよりもゴブリンは一回り大きく、ゴブリンよりもオークは一回り大きく、そしてオークよりもオーガは一回り大きい。
オーガはランクとしては下の部類のモンスターとは言え、まだまだ油断出来ない相手だ。気を引き締めて戦いに挑もう。
と思ったんだけど……。
「そりゃあっ大斬り!」
「精密射撃!」
なんかあっさり倒してるな。
自分の持ってる力を完全に理解した2人は、なかなか頼もしい強さになっていた。
このレベルのモンスターでは、もう友美の出番は無いようだった。
「君たち凄いねえ……まだレベル17なんでしょ?」
「確かに、ケイパーが将来有望というのも頷ける」
いや、ケイパーさんと出会った時点では、とても将来有望とは言えない状態だったんですけどね。
「ところで、魔法剣士なのに君は戦わないの?」
グサアッ。
やはり気付かれてしまったか……。
「ああいいんです、彼はヒモなんで」
ニヤニヤしながらリンが口を挟んでくる。
もはや完全に僕で遊んでるようだ。く、くやじい……。
「いや、君たちチーム内のことだから、オレからは何も言うことは無いよ。今後も頑張ってくれたまえ」
◇◇◇
「そういえば、ユスティーさんはボルゴスと対決したと聞いたんですが」
僕は前にケイパーさんから聞いたことに興味があったので、ユスティーさんに直接聞いてみた。
「ああ、彼の横暴さは目に余るモノがあったからね。もちろん、規約違反にはギルドからのペナルティというのもあるんだけど、彼には力で分からせた方がイイと思ってね」
かっこいー!
「でもボルゴスも強かったよ。勝ったとは言え、恐ろしい相手だった。これで彼は少し大人しくなったんだが、どうも最近ガオナーというよそ者の冒険者がエーアストに来たらしくてね。4人組のチームなんだが、この男たちも相当タチが悪いらしくて困ってる」
「まだ会ってないんですか?」
「どうやら上手く避けられちゃってるらしくてね。会ったらひとこと言ってやりたいんだが」
「ユスティーさんがエーアスト最高ランクの冒険者ですもんね」
「ははは、オレが最高ランクじゃないよ、ケットが居るよ」
「ケット……さん?」
「『探求者』と呼ばれるほどの探険のスペシャリストだよ。どんな厳しいダンジョンからも無事生還してるSSランクの盗賊さ。まあ戦闘にはあまり向いていないだろうけどね」
「そんな方が居たんですね」
「そもそもSランクのオレなんて、大した冒険者じゃ無いさ。SSランクには、あの七聖剣の1つを取ったミーティスも居るし、『一矢殺し』と呼ばれてるミーラ・ツイールも居る。『慈愛の女神』リーべ・ファルシュは、エーアスト近辺でも活動してるみたいだし、魔戦斧持った凶悪なのもSSランクには居たな」
「SSSランクにはどんな方が居るんですか?」
「有名なのが、『蜃気楼』と呼ばれる程の超絶剣技の天才剣士クラールス・ノア。その剣術は最高を極め、世界に3人しか居ない技術スキルSSSランク保持者のうちの1人となってる。ただ冒険者は引退して、剣神に弟子入りしたって話だけどな」
「剣神?」
「ああ、剣の神様みたいに凄い人が居るんだ。剣神十弟と言って、10人の弟子を持ってる。あの有名なディフェーザ王国の『王国神命十二騎士』のうち、4人は
剣神の弟子だって話だ」
なんかスゴイ人居るんだな。
「あとは『竜殺し』のフォルス・ヴィグールとか、『武闘王』のペガル・フティパオ。ペガルは帝国の武闘大会3連覇中で獣人の英雄だ。『氷霧の淑女』のフロワ・グラソンは、帝国の大魔道士にも匹敵すると言われてる。精霊魔法も使えるしな」
精霊魔法は属性魔法とはちょっと違って、精霊そのものと直接契約して、精霊を喚び出して魔法を行使して貰うモノで、人間種が使えない強力な魔法も多かったりする。精霊が直接魔法を使うので、無詠唱なのも特徴らしい。
「以上がSSSランク冒険者の4人だけど、どうも噂では、エーアストに5人目のSSSランクが居るという話なんだよなあ。全くお目に掛かったことは無いんだが」
こんなに強いユスティーさんよりも、さらに上の冒険者達がそんなに居るなんて、なんかワクワクするな。
「まあオレから言えるのはただ1つ、必ず生きて帰ること。それさえ守っていれば、君たちならすぐにオレを追い越せるさ」
必ず生きて帰る……それは絶対に守っていきたい。
ユスティーさんの助力もあって、オーガは軽々10匹以上倒すことが出来た。
まあ依頼は10匹なんで、それ以上倒しても報酬は変わらないんだけどね。
オーガを倒した証拠の魔石を持って、僕らは王国へと帰った。




