第21話 再始動
なんか色々あった一週間だったけど、改めて今日から冒険者として再出発する。
取り敢えず、狩りに出掛けるのは午後からにして、午前中はまだ謎ばかりの自分たちの能力と、今後の方針を話し合った。
自分たちはもう落ちこぼれじゃ無い、きっとこの世界の力になれるはず。
ちゃんとした目標が出来ると、人間とはより頑張れるもので、漠然と生活してた彼女たちにもビシッと一本筋が入ったようだった。
因みに、昨日彼女たち全員から、名前を呼び捨てにしてと言われたけど、まだちょっと慣れなくてぎこちない。女の子を下の名前で、しかも呼び捨てにするなんて、僕にはかなりハードルの高いことだった。
彼女たちの名前を口に出す度、すごい照れる……。
「ねえ、昨日お金たくさん入ったから、昼食は美味しいモノ食べましょうよ」
議論もあらかた収束し、そろそろお昼ご飯というところで、麗子が提案した。
「そうね、あそこ行こ!」
「いいですね。再出発は美味しい物から始めましょう!」
なんか以前行った高級料理店に行くことになってしまった。まあ死ぬような目に遭った上、その原因を作った相手には仕返しし足りないということで、欲求不満が溜まってるんだろうけど。
僕も色々あったし、今回ばかりは素直に再出発のお祝いをするか。
前回と同じく、僕たちは金貨20枚で超美味しい料理を食べた。
「ねえねえ、あそこのアクセサリー店行ってみようよ!」
「あら、素敵なお店ね。良い宝石有るかしら」
「わ~、そういうの買ったこと無いです」
食後にちょっと町をぶらついてみると、彼女たちはやたらハイテンションで、通りに立ち並ぶ宝飾店などに気を惹かれている。
いきなり大金が入っちゃったんで、なんかおかしな方向になってきた気が……。
「あっ、これ! 欲しいなー」
「んー買っちゃえば?」
「で、でも、これ値段が金貨150枚ですよ」
「大丈夫、足りるよー」
あ、この人財布渡しちゃダメな人だ。
「待って待って、欲しくなる気持ちは分かるけど、無駄遣いはダメだよ。まずは装備から整えて行こう」
これ以上ここに居てはロクな事にならないと思い、無理矢理移動することにした。
◇◇◇
武器屋に来た。以前僕がアルバイトをしたことのあるお店だ。
ここは武器のほかにも装備もいくつか扱っていて、せっかくだからリンの防具を新調しようと見に来たのだ。
王国から貰った装備はなかなか良い物で、まだ特に買い替える必要は無いんだけど、前衛はリン1人なので、もう少し防御力の高い物にしたかった。
「あー! 研磨の天才君だ!」
店番をしている女の子、アルマ・リュスタングさんが、僕に気付いて声を掛けてきた。
アルマさんは店主の娘さんで、薄茶色の髪を両おさげにしている15歳。以前研磨の仕方とか教わったりしてお世話になったのだ。
「ねー、また剣磨きに来たの? 磨いて欲しいヤツたくさん有るんだけど」
「いや、今日は装備を買いに来たお客だよ」
「なーんだ残念。でもせっかくだからオマケしてあげるねー」
アルマさんはとても人懐っこい子で、僕の手を取ったり、腕に抱きついたりしながら、装備の案内をしてくれる。
うーんとね、なんかリンの様子が変なんだよね。殺気まで感じる……。
「オススメはコレ。鋼のブレストプレートなんだけど、肩と腕の部分に極細の鋼糸で編み込まれた布が付いていて、動きやすい上に防御力もそこそこあるという優れ物。軽量のガントレットも付属して金貨20枚のところ16枚でいいよ」
なるほど、女性が着けるには手頃な重さだし、きっとリンには合うだろう。
「これでいいよね?」
リンに一応確認する。
「あー? なんでもいいわよっ」
「いたたたーっ」
なんか思いっきり足踏まれた。なんだ? この装備気に入らないのかな?
取り敢えず、このブレストプレートより手頃なのが無かったので、コレに決めることにした。特殊効果の無い通常装備品としては、そこそこ高級な部類に入る値段だけどね。
特殊な効果の掛かった武器や防具は、通常の装備品よりもかなり値段が高くなって、効果の高さによっては1ケタ2ケタと違ってくることすらある。
現に、いま目の前にある『スチールソード:追加効果麻痺(+2)』は、通常のスチールソードが金貨8枚に対し、なんと金貨70枚だ。
ほか、魔法剣のように炎や氷の追加ダメージのある剣も売ってたりするが、当然高い。追加ダメージの威力も、込められている魔法の強さで変わってきたりする。
効果の強さは『スチールソード:鋭刃化(+1)』というように、数字で表される。(+1)でもかなりの効果になっていて、最高(+5)まである。
あと、武器自体の素材だけど、ブロンズ、アイアン、スチール、ミスリル、オリハルコン、アダマンタイトの順に強くなり、そして値段も高くなっていく。ミスリル以降は特殊な金属なので、値段もいきなり跳ね上がったりする。
まあ僕らが戦うレベルのモンスター相手なら、まだそんな高級な装備はいらないんだけどね。
「ねえ、あのビキニみたいなのは防具なの?」
リンがめざとく、店の壁に飾ってある水着のような防具を見つけて不思議がる。
「アレも防具ですよ、女性戦士用の。守備力ほとんど無いですけどね。でも何故か売れるんですよー不思議でしょ?」
う~んそれは不思議だ……。結構イイ値段するのに。
「一昨日のお礼に私が着てあげようか」
なんだあー? 麗子がイタズラっぽく笑いながら僕に話し掛けてくる。
「麗子、アンタは後衛職でしょ!」
「ふふーん、じゃあリンが着てみる? 出るとこ出てないみたいだけど」
「ムキーッ!」
麗子がコレ着たら、凄いことになりそうだなあ……とちょっと想像してしまった。
ボカッ。
なぜかリンに殴られた。ひどい……。
「毎度有り難うございました」
オススメされたリンのブレストプレートを買って、僕らは店を出た。
◇◇◇
今日はいつもとは違う狩り場へと来た。訓練でも来たことのある、主にゴブリンが出る場所だ。
ゴブリンは亜人種のモンスターで、コボルトよりも1ランク上の強さではあるけれど、比較的危険度は低い。
昨日コボルトと戦った限りでは、恐らくもう僕らの敵では無いはずだ。
着いて早々、早速2匹のゴブリンと遭遇する。手には小刀を持っているようだ。
僕の意識が戦闘モードへと変わった瞬間、メンバー全員に力が漲る。
「よいしょっ」
まずは先制。麗子が特にスキル技も使わずに矢を放つ。それが見事にゴブリンの頭部に命中する。
仲間をやられたもう1匹のゴブリンが、怒ったようにこちらへと駆け寄る。それをいとも簡単に斬り捨てるリン。
「んーやっぱこの力すごいね。ゴブリンの動きがスローに感じたよ」
「私もこの距離なら、絶対に当てられる自信があった」
「2人ともすごいですねー」
「なに言ってるのよ、あの時使った友美の魔法こそビックリしたわよ」
改めて、自分たちの力に驚く3人。
次は、友美の魔法の練習ということで、リンが囮を請け負ってゴブリンを引きつける。
「穴穿て、具現化せし千の針……土針射撃!」
土で出来た数百本の細い杭が、ゴブリンにハリネズミのように突き刺さる。明らかにオーバーキルだ。この魔法一発でゴブリン数体は殺せるだろう。
友美の魔法は、どうやら通常より威力が強いように思える。
「私もう、普通に魔法が使えるみたいです」
まだ少し魔力操作に覚束無いところがあるけど、まるで安定させられなかった頃とは雲泥の上達ぶりだ。
魔力さえ安定させることが出来れば、詠唱自体はそれほど難しくない。頭に浮かぶ言葉をそのまま口にするだけだ。
もう彼女は大丈夫だろう。
「この辺の敵だと、もう楽勝過ぎて練習にならないわね」
慢心は危険だが、確かに僕らの力は、すでにゴブリンが何体居ようとも敵では無いかも知れない。ゴブリンより、もう1ランク上のオーク集団30匹を倒せたのだから、それも当然だ。
この日は無理せず、各々の力をひたすら試す事に専念したのだった。
◇◇◇
翌日の戦闘は、敢えてオークの出る場所へ行くことにした。
あんな事があって、彼女たちに苦手意識が生まれたら、今後の活動に影響が出るかと思ってのことだった。
しかし、それは杞憂に過ぎなかった。
「こんにゃろーっ!」
「死ぬがいいわ!」
なんか異常な憎しみを込めて、リンと麗子がオークを倒す。
「2人とも、私にもオーク殺させて下さい……!」
友美まで、黒いオーラを発しながら、オーク殺害に意欲を燃やす。
うーん、コレはコレでちょっと問題だな。
3人とも今の自分の力がだいぶ掴めてきたようで、何が出来て何がまだ無理なのかを理解したようだ。これなら、もう問題無く戦っていけるだろう。
オークレベルなら、僕の指示は全く必要無いようだった。
わざわざ無理に強いモンスターと戦いに行く必要は無いが、討伐クエストなどで強敵が現れた場合、僕の出番が来るだろう。というか、コレ僕の出番無しですか?
「あたし達のヒモだもんねー」
ああああああまたしても僕は役立たずなのかあああ……。
「冗談よ。あんたの力であたし達戦えてるんだから、もっと自信持ちなさいよ!」
リンが呆れた顔をしながら慰めてくれた。まあでもお荷物っぽいのはイヤだから、可能な限りアイレさんに稽古つけて貰おう。
「それはそうと、昨日の武器屋で思ったんだけど、勇木って魔法付与出来るんでしょ? 武器に魔法付与して、それを売ったら大儲け出来るってこと無いの?」
なるほど、そういう疑問が湧きましたか。
「魔法剣士の使う魔法付与は一時的なもので、時間が来ると効果が消えちゃうんだよね。装備品への付与効果というのは、その装備に『スロット』というのが付いてないとダメなんだ。これは基本的には後からは付けられず、最初に作り上げたときに偶然付いてたりするんだ」
「作ろうとして作れるモノじゃ無いってこと?」
「んースロットを作れる人も居るかも知れないけど、基本的には偶然付いてたりすることの方が多いようだね。さらに、魔法付与には特殊な技術が必要なんで、魔法が使えれば付与出来るというわけじゃ無いんだ。あ、『錬金術』の能力持つ金子さんなら、その辺全部可能なんじゃないかな」
「えーじゃああの子達、お金儲け簡単だね。いいなー」
「そもそもみんなあれほど強かったら、お金に苦労することなんてきっと無いよ。そういえば、金子さんは魔法の玉とか試作してたなあ」
「あー変な玉作ってたわね。魔法を込めてたけど、暴発してたなー」
「でもアレ完成したら便利だよ。分けて貰いたいね」
金子さん達のパーティーは、すでにエーアストを出て他国へと向かったようだ。
まだ一週間しか経ってないけど、すでに訓練が懐かしく思えてくる。
彼女たち3人ともオークへの恨みを充分晴らし終えて、僕らは帰路へと付いた。




