第20話 能力の秘密
「あーっ! アンタ見つけたわよーっ!」
冒険者ギルドの奥に、ある人物の姿を見つけると、猪熊さんは弾丸のようにぶっ飛んでいった。華城さんと倉橋さんも、それに続いて奥へと飛び込んでいく。
「ひーっ、き、君たち、あそこから無事生還出来たの!?」
どうやら彼が、猪熊さん達を置いて行ったというテイミッド・ファイクらしい。まるで幽霊を見るような目つきで、猪熊さん達3人を見ている。
「絶対に赦せない! ぶっ殺してやるわ!」
「矢でハリネズミにしてやる!」
「消し炭にしてやります!」
彼女たちは口々に物騒なセリフを吐いて、テイミッド・ファイクを脅している。というより、彼女たちは本気なのかも知れないけど。
彼女たちの気持ちは当然のことなんだけど、しかし、冒険者のルールとしては、彼を咎めることは出来ないのだ。
「待ってみんな、気持ちは分かるけど、僕の説明を聞いて」
「状況に悪意が無い場合において、他者への救助行為が自らを危険にさらす場合、救助義務を放棄しても罪に問われない『緊急避難の原則』というのがある。
今回の彼の行動は、他意無く狩り場へと行き、そこに偶然オークの大群が居て、君たちを守り切れないと判断した彼は、自らの命を優先して避難したということになる。これは冒険者活動ではしばしばあることなんだ。
もちろん、わざと罠に嵌めるような行為をしたら、当然罪に問われるけど。
ほかの例としては、複数パーティー合同で討伐クエストを受けていて、出会った相手が思わぬ強敵モンスターだった場合、自分たちのパーティーだけ逃げることもあったりする。自分のパーティー内ですら、より多くのメンバーを助けるために、1人を犠牲にしたりすることもある。
もっと酷い時は、自分たちが強敵モンスターに追われてどうしようも無い場合に、たまたま近くに居た他パーティーにその強敵モンスターを押しつけて、自分たちだけ逃げるなんて場合もある。
これら全て、罪には問われない。もちろん、わざと強敵モンスターを連れてきて押しつけるとか、そういう悪質な場合は別だ。
因みに、どうしても相手が信用出来ない場合、誓約の魔法もある。誓いを破ったら、相手に強烈なペナルティを与える事が出来る魔法だ。まあこれらはあくまでも罪に問われないというだけで、通常は救助することがほとんどだけどね。お互い助け合ってこその冒険者だからね。みんなも講義で習ったはずだよ」
「確かにそんなこと言ってたような……」
「言いづらいけど、今回のことは、迂闊に知らない場所へと行ってしまった、みんなの自業自得な部分もあるんだ。だから彼だけに罪を問うことは出来ない。とにかく、危険対策は自分で管理しなくちゃいけないのが冒険者のルール。安全マージンを取らない方が悪いということなんだ」
僕の説明を聞いて、シュンとなる3人。あんな目に遭ったということもあるし、さすがにちょっと可哀想になる。
「じゃああたし達はやられ損なの?」
「一応、被害者側の救済処置として、被害を受けた側は、加害者に対し決闘を申し込むことが出来る。決闘において殺人はダメだけど、正当に遺恨を晴らせるということで、いくらか不満が解消される、というのがあるけど……」
「なら決闘ね。ギッタギタにしてやるわ!」
「3対1でいいわよね? イヤとは言わせないわよ」
「こんな男に負ける気しないです!」
「ひいいいいいいいいいいゴメンナサイ~っ」
……テイミッド・ファイクは彼女たちに謝罪として金貨200枚(これも親から貰ったお金らしい)を渡し、冒険者を辞めて国に帰った。しかし、その後の噂によると、道中でその消息は不明になったという……。
◇◇◇
テイミッド・ファイクを懲らしめた後、いつものコボルトの出る狩り場へとみんなでやってきた。ここからが今日の本題である。
みんなでステータスをオープンする。
勇木ヒロ Lv16: 魔法剣士
HP 558
MP 75
SP 75
STR 65
VIT 65
AGI 64
DEX 64
INT 75
LUK 32
戦闘スキル 剣術E 体術E 魔術E
能力スキル
スキル技
魔法 火炎焼却 水人形 地盤沈下
猪熊リン Lv16:超感覚 戦士
HP 1160
MP 00
SP 114
STR 150
VIT 168
AGI 110
DEX 96
INT 37
LUK 00
戦闘スキル 剣術D 体術D 盾術E
能力スキル
スキル技 2連撃
魔法
華城麗子 Lv16:幸運体質 狩人
HP 936
MP 112
SP 150
STR 93
VIT 95
AGI 91
DEX 188
INT 114
LUK 10000
戦闘スキル 弓術D 神術E
能力スキル
スキル技 狙い撃ち
魔法 回復 異常回復
倉橋友美 Lv16:知識の書 魔道士
HP 655
MP 562
SP 75
STR 37
VIT 37
AGI 77
DEX 56
INT 300
LUK 72
戦闘スキル 魔術D
能力スキル
スキル技
魔法 火炎焼却 剣雨招来 旋風刃 水人形
「やっぱり……」
彼女たち3人が同時に声を漏らす。
「昨日確かに使ったはずの回転斬りが無い」
「私も精密射撃が無いわ」
「私も、炎柱牢獄がありません」
そうなのだ。あの時は無我夢中だったけど、そもそも無い技は使えない。
みんなおおよその見当は付いていたが、これは絶対に確かめておかなくてはならないことなので、慎重に事を検討する。
「じゃあ戦ってみましょう」
都合よくコボルト2匹を見つけたので、みんなで戦闘に入る。
その、通常モードから戦闘へと意識が向いた瞬間、僕の身体に異変が起こる。
昨日と同様、周りの景色がゆっくりと流れるような感覚が襲ってきた後、全身から力が溢れかえったのだ。
彼女たちも同じようだ。目を見開いて、自分の手足を確認している。
コボルトは小走りでこちらへと近づいてくる。そして、猪熊さんと相まみえた瞬間、真っ二つに斬り殺された。
同時に、もう1匹のコボルトも、あっさり華城さんの矢に射貫かれていた。
あれほど手こずったコボルト2匹を瞬殺である。
「もう一度ステータス確認してみましょう」
勇木ヒロ Lv16: 魔法剣士
HP 558
MP 75
SP 75
STR 65
VIT 65
AGI 64
DEX 64
INT 75
LUK 32
戦闘スキル 剣術D 体術D 魔術D
能力スキル
スキル技 同時魔法
魔法 火炎焼却 水人形 地盤沈下
特殊スキル 超越者の目
猪熊リン Lv16:超感覚 戦士
HP 2320
MP 00
SP 228
STR 300
VIT 336
AGI 220
DEX 192
INT 74
LUK 00
戦闘スキル 剣術B 斧術C 槍術C 武術C 体術B 盾術C
能力スキル 腕力C 敏捷C 耐久D 精密D 異常耐性D 看破D 暗視D
探知能力D
スキル技 2連撃 3連撃 大斬り 回転斬り 挑発 間合い 受け流し
跳躍 命中率上昇(小) 回避率上昇(小)
魔法
特殊スキル 女神の福音 先行取得
華城麗子 Lv16:幸運体質 狩人
HP 1872
MP 224
SP 300
STR 186
VIT 190
AGI 182
DEX 376
INT 228
LUK 10000
戦闘スキル 弓術B 神術C
能力スキル 腕力D 敏捷D 精密C 異常耐性D
スキル技 狙い撃ち 2連射 3連射 精密射撃 命中率上昇(中)
聖なる矢
魔法 回復 異常回復 全体回復
特殊スキル 女神の福音 先行取得
倉橋友美 Lv16:知識の書 魔道士
HP 1310
MP 1124
SP 150
STR 74
VIT 74
AGI 154
DEX 112
INT 600
LUK 144
戦闘スキル 魔術B
能力スキル 魔力操作C 異常耐性D 鑑定D
スキル技
魔法 火炎焼却 雷撃 氷結波 土針射撃 剣雨招来 旋風刃 水人形
炎柱牢獄
特殊スキル 女神の福音 先行取得
「な……にコレ?」
「これはただ事では無いわね」
「とんでもないことになってます!」
みんなステータス値が2倍になっていた。習得スキルや魔法も凄い数になってる。
……僕はそんなに変わって無いんですけどね。ここでもコレか。
「あたしのこの戦闘力……ステータスだけなら、多分十六夜君とそう変わらないんじゃない?」
「『剣聖』は剣技がケタ外れなので、数字だけでは単純比較は出来ませんが、ポテンシャルは同等レベルかも知れませんね」
「私もなんだか色々スキル技がある。昨日知っていたら、違った戦い方が出来てたかも」
「あたしもそう思うけど、でも慣れないうちは、慎重な戦い方でいいんだと思う」
「そうですね。危機管理の重要さが、イヤというほど分かりましたからね。昨日はあの戦い方で良かったんだと思います。」
僕はステータスは変更無し、戦闘スキルが1ランク上昇というだけだけど、気になるスキルがある……スキル技の『同時魔法』と特殊スキルの『超越者の目』だ。
「『同時魔法』は魔法職が覚える上位スキルですね。魔力回路を並列起動して、同時に複数の魔法を発動する高度な技です。通常は2重魔法が限界ですが、3重魔法が出来る人も居るようですよ」
う~ん、あまり僕には使いようが無いスキルな気が……。
「あと『超越者の目』ですが、コレはちょっと分かりません。ただ、勇木君の敵の動きが読めるという能力に関係していると思います」
『知識の書』の能力で、かなりの文献とかの情報を覚えている倉橋さんに、能力の説明をしてもらう。能力アップ時には鑑定Dも有るみたいなので、ある程度の推測も可能なようだ。
「あたし達の『女神の福音』と『先行取得』というのはどういう能力なの?」
「私が読んだ資料には載っていなかったので、あくまで推測でしかありませんが、『女神の福音』は私たちのステータスアップに関係していると思います。そして
『先行取得』は、まだ使えないはずの魔法やスキル技を習得していることと関係していると思います」
「なるほどね……で、この原因は?」
「勇木君……でしょうね」
その時、みんなのステータスが元に戻る。
「あ、通常に戻っちゃった」
「どういう原理で上がるのかしら?」
「能力が勇木君に関係あるというのなら、発動条件も勇木君にあるはずです」
んーそう言われても、僕は特に何もしてないわけで……。
「そうだ! 勇木君、ちょっと今から戦闘しようと思い込んで下さい」
「え? なんで?」
「どうも戦闘中にしか能力が上がらないようですから、勇木君の意志に発動条件があるのかなと」
「なるほど……」
僕は今から戦闘をしようという心情を作り上げる。
「あっ、またステータスが上がった!」
「どうやら友美の推測は当たっているようね」
「ほかにも色々まだ秘密がありそうで、ちゃんと検証しなければいけませんね」
「あ、それで思い出した! 勇木君、キミ無詠唱で魔法撃ったでしょ?」
「えっ? ほ、本当ですか!?」
「ええっ? 僕、無詠唱で魔法使ったっけ?」
全然憶えてない。何せ、戦況を見て指示するのが精一杯で、ほかのことはあまり考えてなかった気がする。
そういえば、頭に詠唱の言葉が浮かんで、そのまま使っちゃったような気もするけど……言葉にして詠唱したかどうかは本当に憶えてないな。
「勇木君、今から魔法使ってみてよ。無詠唱でやってみて」
華城さんに促されて、取り敢えず『水人形』を試してみることに。
「…………」
「…………」
「無理だ、全然出来ない」
「じゃあ詠唱してみて」
「……水鏡に映りし我が身姿を顕在化せよ、水人形!」
僕の人形が出現する。魔法成功だ。
「麗子の勘違いじゃ無いの?」
「いえ、2回も見たわ! 絶対に詠唱してなかった」
「でも、詠唱無しで魔法は使えないはずじゃ……」
「神人は確か使えるって講義で言ってたはず」
「あ、そうでした。確かに神人なら無詠唱でも使えるはずです」
「じゃあ勇木が神人?」
「んーそういうことになるのかなあ」
「待って下さい、そういえば『勇者』のギフトも、無詠唱で魔法が使えると文献に書いてありました」
「でも勇者って、今回召喚出来なかったんでしょ? なんで無詠唱で使えるって分かるの?」
「伝承か何かで残っているんじゃないでしょうか」
「まあ麗子の見間違えという可能性も否定出来ないしね」
「本当に見たわよ!」
「まあまあ、いずれ分かると思いますから、今は気にしないでおきましょう」
無詠唱で魔法が使えるなら、そりゃ便利だなと思うけど、僕の魔力程度じゃ大して役に立たない気もするな。昨日使ったのも、純粋な攻撃魔法じゃ無くて補助魔法だったし。
まあでも使い方次第か。実際昨日は上手く使ってピンチを切り抜けてるし、本当に僕が無詠唱で魔法使えるなら、いつでも出来るようにちゃんと練習しておこう。
「でも、勇木の気分一つでステータスが上がったり下がったりするのって、なんかシャクね」
「それより、勇木君自身があまり強くならないのが不思議です」
ギクッ。
「そうよね……勇木君の力で私たちは能力がアップするみたいだけど、なんで勇木君自身は能力が上がらないのかしら?」
あーまたなにか肩身の狭くなる思いが……。
「まあ適材適所ってやつでしょ。敵の動きが分かる勇木が指示して、能力の高いあたし達が戦う。それでいいじゃない」
「ふふふ、このままキミが弱いままだったら、私たちが養ってあげるよ」
「そうですよ、いわゆるヒモってヤツです」
倉橋さん全然フォローになってないよ、もうちょっと言葉選ぼうよ……。
「この能力が上がるメンバーって増やせるのかしら?」
「そうね、もっと増やして軍団作ったら、世界救うのも楽かもね」
「経験値の問題もあるし、どうなんでしょう」
「なんとなくだけど、簡単には増やせないような気がする。まだ僕にも分からないけどね」
理由は分からないけど、メンバーになるには何か条件があるような気がした。
そのうちきっと分かってくるだろうとは思うけど。
「取り敢えず、このメンバーで頑張りましょ! 勇木、あたしのこと『リン』って呼び捨てにしてイイよ」
「え? なんで?」
「指示出すときに一々『さん』付けじゃ、動作が一歩遅れちゃうでしょ!」
「なるほど」
「だからあたしのこと『リン』って呼んでね!」
「いい勇木君、これが専門用語で『ツンデレ』と言うのよ」
「デレてないでしょっ!」
「私のことも『友美』と呼び捨てにして下さい」
「私も『麗子』で。キミのことは『ヒロ君』と呼ばせてもらうわね」
「なっ、何その呼び方!? へ、変よっ」
「あら、気になるならあなたも『ヒロ君』って呼べばいいじゃない」
「気になってないわよ、変だって言ってるだけでしょ」
「『ヒロ君』って可愛いじゃない。ねーヒロ君」
華城さ……じゃなくて麗子が、僕の頭を両手で抱えて、ぐいっと引き寄せた。
む、胸が……!
「あああああああああああああああああっっっっっ! あんた何してっ!」
「んー昨日助けてくれたお礼。まだしてなかったし」
「なっ、こっ、そっ、だあっ」
なんか猪く……じゃなくてリンが鶏のような変な声を上げている。
「リンもお礼してみる? お礼になるのか分からない胸だけど」
「んがああああああああっ」
麗子の胸が邪魔でよく見えないけど、リンは地団駄踏んで暴れているようだ。
「あの……私もお礼したいです」
「え、あなたもしたいの? 意外ね……」
「大丈夫、もうみんなのお礼の気持ちは充分伝わったから、離して、離してっ!」
明日からまた再出発だ!




