↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女神たちには敵わない -The goddess's march-  作者: まるずし
第一章 はじまりの王国
20/62

第19話 守護天使誕生

 彼女たちに解雇されてしまった僕だけど、やはり彼女たちが気になって仕方が無かった。

 僕が言うのもなんだけど、彼女たちはお世辞にも優秀とは言えない。恐らく、優秀な冒険者を加入させてから戦闘に臨むこととは思うが、新メンバーには彼女たちの特徴を知っておいて貰わないと、誰かが怪我をしてしまうかも知れない。

 せめて、僕が知っている彼女たちのケアポイントを、新しいメンバーに伝えておきたかった。


 猪熊さんは正面の敵、しかも相手の武器しか見ていない。一歩距離を取らせれば、もう少し柔軟な戦闘が出来るはずだ。

 華城さんは弓の腕は悪くないが、どの敵を狙えば良いのか援護の的を絞れてないので、こちらから上手く誘導してやる必要がある。

 倉橋さんは目の前の戦闘を見てしまうと、焦りのためか魔力の集中が出来ない。敵を意識させず、出来るだけリラックスさせて、魔力操作だけに専念して貰う。


 ほかにも彼女たちに足らない部分はたくさん有るが、とにかく、彼女たちが戦闘に慣れるまでは、時間は掛かっても根気強く指導してあげて欲しかった。

 そう思うと、もう僕は居ても立ってもいられなくなった。彼女たちが新メンバーを見つけて、今日の戦闘へと出掛ける前に、なんとか接触しなくてはならない。

 ベッドから跳ね起き、僕は急いで冒険者ギルドへと向かった。



 ギルドに着くと、すでに彼女たちは新しいメンバーを見つけ、みんなで遠出してモンスター狩りに向かったという。

 新しく加入したというメンバーのことを聞いてみたが、Bランク戦士ではあるけど、パーティー内での働きがイマイチだったため、最近解雇されたばかりの男という話だった。


 何かイヤな予感が頭をよぎる。新メンバーとまだフォーメーションも練習してない状態で、いきなり新規の場所でのモンスター狩りは、彼女たちには明らかに過ぎた闘いだ。

 彼女たちが向かったと思われる場所を聞いて、急いで後を追いかける。


 ひたすら全力で走り続け、ようやく現場に着くと、そこに彼女たちは居た。

 彼女たちしか居なかった。

 30匹以上のオークに囲まれ、完全に逃げ場を失っているようだった。


 幸い、まだ僕のことはオーク達には気付かれていない。

 包囲されてるとは言え、オーク同士の距離は詰まっているわけでは無く、隙さえ作ればなんとか走り抜けられる程の間隔は空いている。

 僕は地形とオークの配置をよく見て、彼女たちが逃げ出せそうなルートを見つけ出すと、そこまで素早く移動し、落ち着いて火炎焼却(ファイア)の詠唱をする。絶対に失敗は出来ない。


「みんなっ! こっちだーっ!」


 大きな声で彼女たちに呼びかけると同時に、すでに詠唱を終えていた火炎焼却(ファイア)を、オークの近くの草へと放つ。

 そこは他よりもかなり背の高い草が生えていて、燃えると炎の壁のような状態になった。僕の火炎焼却(ファイア)は魔道士が使うモノよりもかなり威力が弱かったが、草を燃やす程度なら造作も無い。


「早くっ、急いでっ!」


 一瞬何が起こっているのか分からず、たじろぐオーク達。そこに包囲網の穴が出来た。しかし、炎の壁もそう長くは持たない。

 みんなを急き立て、僕は別方向に移動する。炎の壁で抑えているオークとは反対側のオークの元へだ。

 このオーク達を止めないと、彼女たちは逃げ切ることは出来ない。


 彼女たちを逃すまいと追いかけるオーク達の前に、僕は立ち塞がった。僕の後ろと炎の壁との間に、彼女たちの退路が出来上がる。

 命に替えても、ここより先へはオークを行かせない!


「炎よ、我が剣に宿れ!」


 僕はファイアを魔法付与(エンチャント)し、炎の剣を闇雲に振り回す。

 当てなくてもいい。とにかく足止めさえ出来ればそれでいい。

 動かぬ身体に精一杯力を込め、ただひたすらオークに突進する。


 必死に走る彼女たちが、オーク達の包囲網を抜けそうになる。あと少しだ、一瞬でも足を止めたら、あっという間に囲まれるだろう。

 僕の相手していたオークが、彼女たちを逃してはなるまいと、僕を避けて彼女たちの方へ向かおうとする。


「させるかっ!」


 僕は抜け出そうとするオークへ体当たりし、地面へと押し倒す。そこに後続のオークが殺到してくる。


「くっ、これまでか……」


 オーク達の持つ武器が、倒れている僕を襲う。その1つの軌道予測が、僕の避けられないモノであった。

 彼女たちは包囲網を抜けたようだ。これでもう大丈夫だろう。




 僕は満足だ……。




 僕が目を瞑ったその時、


「おりゃああっ!」


 猪熊さんがこちらへと戻ってきて、僕に攻撃をしようとしたオークを吹き飛ばした。

 後ろからは、弓で援護射撃をしながら近づいてくる、華城さんの姿もあった。

 倉橋さんまで一緒に走ってきている。


「みんな、なんでっ!?」


「アンタを置いて行けるわけないでしょっ!」

「私たちを見くびらないで欲しいわね」

「その通りです!」



 ◇◇◇



「みんなっ! こっちだーっ!」


 声の方向に勇木ヒロの姿を見つけ、驚愕する猪熊リン、華城麗子、倉橋友美の3人。


「勇木……なんでここに?」

「まさか私たちを助けに来てくれたの?」

「無理よ、みんな死んじゃう……」


 勇木ヒロ1人来たところで、どうにかなるような状況では無かった。それどころか、犠牲者が1人増えるだけに過ぎない。

 しかし、勇木ヒロは諦めていなかった。

 オークのそばに火炎焼却(ファイア)を打ち込み、草が燃える炎で壁を作り上げた。そしてもう一方へと走り、自分が壁となってオークに立ち塞がる。

 絶望しか無かった彼女たちに、活路が生まれた。


 彼女たち3人はようやく気が付いた。

 勇木ヒロが臆病では無いことを……。

 戦いから逃げていたわけでは無かったことを……。



 勇木ヒロが命懸けで作ってくれたこのチャンス、絶対に無駄にしてはならないと、彼女たちは全速力で走り出す。

 オーク達は突然の助っ人に不意を突かれたようで、完全に出鼻を挫かれている。


 行ける! これならギリギリ包囲網を抜けられそうだ!


 彼女たちの心に希望の光が生まれる。あと少しでこの地獄から脱出出来る……。

 がしかし、勇木ヒロが倒れ、オーク達がそこへ殺到する様子が横目に見えた。

 猪熊リンは、身体が勝手に勇木ヒロの方へと向かっていた。それを見た華城麗子も、当たり前というように勇木ヒロの元へ向かう。倉橋友美も同じだ。


 猪熊リンは思う。やはり彼は救世主なのかも知れない。この世界の事なんて知らない、自分の救世主なのだと。

 華城麗子も思う。やはり彼は強い男だった。その彼を、こんな所でむざむざ死なせるわけには行かない。

 倉橋友美にも、不思議な勇気が湧き起こった。もう死ぬのは怖くない。だって、彼が助けに来てくれたのだから。


 こうなったら行けるとこまで行くだけだ。

 彼女たちがそう決意を固めたとき……


「勇木、な、なにソレ……!?」


 彼女たちは信じられないモノを見る。

 それは、光り輝く勇木ヒロの姿であった。



 ◇◇◇



 3人が僕の元へと駆け寄ってくる。

 これで僕の行動は全て無駄になってしまったが、僕はとても嬉しかった。


 ようやくみんなの心が1つになれたのだ。こんなに幸せなことは無い……。


 せっかく心が繋がったのに、ここで終わるわけには行かない。なんとしても全員で生き抜いてみせる。

 この絶望的状況を切り抜ける、万に一つの可能性を模索していたその時、僕の頭の中に知らない誰かの声が流れてきた。


確然たる信頼獲得リライアブル・オブテイン第一封印解除ファーストブロック・アンシールド


 こ、この声は一体……?

 僕の身体が光り出し、自分の奥底から力が湧き上がってくるのを感じる。

 周りの景色はスローに流れ、自分が周りの空間から断絶されているような感覚……。


「サーヴァント候補3名確認。サーヴァントリンク致しますか?」


 訳の分からない言葉が僕の頭の中に響き渡る。しかし、何故か信頼出来る声だった。

 僕はイチかバチかで『サーヴァントリンク』というヤツをOKする。


堅固な絆を作成ディペンドオン・マスター守護天使誕生アドヴェント・ワルキューレ



 今度は猪熊さん、華城さん、倉橋さんの姿が光り輝いている……!



 ◇◇◇



「えっ、何コレっ……!?」


 勇木ヒロが輝いた後、今度は自分たち3人が輝き出したことに驚く、猪熊リン、華城麗子、倉橋友美。

 それだけではない。凄い力が自分の中へと奔流してくるのが分かる。

 まさに漲る力だ。


「オオウッ」


 1匹のオークが勇木ヒロを襲おうとする。ヒロには、次にオークが振りかぶるのが予測で見えた。

 それは今までとは比較にならないほどの、ハッキリとした正確な行動予測であった。


「猪熊さん、腹を狙って!」


 オークが武器を振り上げた瞬間、リンの剣がオークを横薙ぎにする。それは軽々とオークを上下に両断する剣撃だった。


「あたし、なんでこんな……」


 オーク達は次々にこちらへと集まってくる。


「華城さん、弓で牽制して、当てなくてもいい!」


 麗子の放つ矢がオーク達を足止めする。その隙に、ヒロ達4人は体勢を立て直すことが出来た。

 ヒロには何故か分かった。このオーク達が、すでに自分たちの敵では無いことを。



 さあ反撃はこれからだ!



「猪熊さん、左のオークの攻撃を盾で、右のオークの攻撃を剣で受け止めて!」


 リンが突進してくる2匹のオークを止める。


「倉橋さんは火炎焼却(ファイア)の準備を。慌てなくていいから落ち着いて」


 ヒロにそう言われると、不思議と友美は冷静になれた。周りの雑音が消え、魔力操作に集中する。


「華城さんは奥から近づいてくるオークプリーストを狙って!」


 魔法職をまず狙うのは、戦闘のセオリーだ。攻撃魔法、回復魔法のどちらかの使い手が居なくなることにより、相手は大ダメージを喰らうことになる。

 しかし、オークプリーストはまだかなり遠くに離れていて、とても狙撃出来るような状態では無い。


「無理よ、この距離じゃ狙えない」

「大丈夫、華城さんなら出来る!」


 ヒロには確信があった。そして、麗子も自分の力に気付く。


「『精密射撃(エイミングショット)』……?」


 それはまだ麗子が覚えるには早い、狩人のスキル技だった。何故かそれが使えるのが麗子には分かった。

 麗子の中に、ふつふつと自信が湧き上がる。

 そうだ、焦って闇雲に撃つ必要なんて無い。自分は『幸運体質(ラッキーガール)』なのだ。

 運命の女神は私と共にある。

 狙うは頭部のクリティカル。必殺を込めてゆっくり弓を引き絞る……。


「猪熊さん、一歩下がって! 右に躱して後ろから斬れる!」


 自分が接近戦をしすぎていた事にリンは気付き、一歩距離を取ってオークと対峙する。すると、オークの動きが手に取るように分かった。

 オークの斬撃を軽く躱し、振り返りざまに袈裟懸けに両断する。

 またしても一撃だ。見ていたオークがさすがに怯む。


精密射撃(エイミングショット)!」


 麗子の矢が放たれる。

 一撃必殺! それは近寄ってくるオーク達をすり抜け、奥に控えるオークプリーストの頭部にズサリと突き刺さった。


「華城さん、次は左奥のオークメイジだ!」


 いきなり頼りの回復役を失い、オーク達に動揺が見え始める。

 それを振り払うかのように、リンの元へオークが殺到した。

 3匹のオークがリンを襲う。


「回転斬りっ!」


 それは出来て当然と言ったように、リンの身体は勝手に動いた。

 自分を中心に一回転、遠心力を付けた剣でオーク達をまとめて吹っ飛ばす。

 しかし、少し勢いを付けすぎてしまい、リンは体勢を崩してしまった。そこに、後続のオーク達が襲いかかる。


水人形(アクアドール)!」


 とっさに魔法を放つヒロ。それは無我夢中のことであった。

 リンに近づこうとしたオーク達の前に、勇木ヒロそっくりな物体が出現する。

 それは水で出来た人形(アバター)であった。

 目の前に突然勇木ヒロが出現し、慌てるオーク達。


「えっ、今のって……無詠唱?」


 横で見ていた麗子が驚く。

 確か今、ヒロは詠唱などせずに、いきなり魔法を放ったように見えた。しかし、それは絶対に不可能なはず。

 いや、不可能では無かった……神人であれば。

 無詠唱で魔法を放てるのは、神人だけのハズだ。


「徒なす者よ、赤く燃え上がれ」

 そこにちょうど、マイペースで魔力操作をしていた友美の詠唱が終わる。ついに魔法の完成だ。


火炎焼却(ファイア)!」


 友美の放った魔法は、水人形(アクアドール)で狼狽えていたオークの元に直撃する。それは4匹のオークを焼き尽くした。


「倉橋さん、次は『炎柱牢獄(フレイムウォール)』だ!」

「そ、そんな高度な魔法、今の私には無理です」

「必ず出来るよ、僕を信じて!」


 何故だろう、勇木ヒロに言われると、絶対に出来る気がしてくる。

 もう迷いは無い。

 友美はまた周りの全てを自分から排除する。聞こえてくるのは自分の心音だけだ。


「猪熊さん、左に避けて盾で押して!」


 オークが体勢を崩す姿が見えたヒロは、それに対する指示をリンに出す。

 言われた通り、リンは重心の崩れたオークを盾で倒す。

 ヒロに言われた通りに動けば、全て上手く行く。そう信じることが出来た。

 そして、ウソのように身体が軽い。誰にも負ける気がしない。


「無理に相手を斬らなくていい、自分の体勢を整えて!」


 そうだ、焦らなくても後ろには味方が居る。無理に倒さずとも、オークを足止めするだけでもいいんだ。あとは仲間が助けてくれる。

 リンは初めて連携を意識した。



 圧倒的有利と油断していたオーク達は、次々と仲間が殺されて、ようやく事態を認識し始める。

 こいつらは獲物じゃ無い……狩られているのは自分たちの方だ。

 バラバラな状態を立て直そうと、一度オーク達が動きを緩めた瞬間……


「今だ、華城さん!」


 ゆっくりと狙いを定めていた麗子の矢が、稲妻となって奥に居たオークメイジへ突き刺さる。

 またしてもクリティカル! 額を打ち抜かれ、頭を仰け反らせてオークメイジは吹っ飛んだ。

 魔法を準備していたようで、倒れた身体からは炎が吹き上がっていた。


 たった2撃で、自分たちの奥の手とも言える魔法職2人を殺され、オーク達はさすがに戦慄した。

 いま全力で掛からねば、この相手には勝てない……!

 焦燥に駆られたオーク達が、堰を切ったように、一気にリン、そしてヒロたちの元へと押し寄せる。


 ヒロはこれを待っていた。


「猪熊さん全力でこっちに逃げて! 地盤沈下(フォールト・ダウン)!」


 地盤沈下(フォールト・ダウン)は土属性の魔法だ。走り寄るオーク達の前に、十数メートルに渡り、溝を作るように1mほど地面が沈下する。

 いきなり目の前に現れた落とし穴に、オーク達はバタバタと倒れ込んでいく。


「また……無詠唱!?」


 今度こそ麗子は確認した。

 間違いなくヒロは詠唱をしていない。無詠唱で魔法を放っているのだ。


「前に赤き炎湧き、後ろに青き炎立ち、右に紫炎噴き上がり、左に炎の龍昇る。

焚刑に召されよっ」


 友美の魔力操作が終わり、そして詠唱も完成する。


炎柱牢獄(フレイムウォール)!」


 天を衝く炎の柱が、落とし穴に居た20匹近くのオークを一網打尽に焼き尽くす。

 残りのオークは数匹、すでに勝敗は決していた。


 完全に戦意喪失しているオーク達に、リンと麗子はとどめを刺した。



 ◇◇◇



「勇木……信じてあげられなくてゴメンね。そしてありがとう」


 僕と向かい合った3人は、頭を下げてお礼と謝罪をしてくる。改めてそう言われてしまうと、なんかこそばゆい思いがした。


「あたしが間違ってた」

「いや、間違ってないよ、僕が役立たずなのは本当のことだし」

「ううん、そうじゃない。あたしは前で戦うことが頑張ることだと思ってた。だから、前で踏ん張れない、後ろに行こうとする勇木は、努力が足りない臆病者だと思った。でもそれは違った。勇木は自分の出来ることを全力でやってただけなんだね。そしてそれが一番パーティーの力になることも気付いてた」


 猪熊さんの隣で、華城さんと倉橋さんも同意するように頷いている。


「それと、勇木は役立たずじゃないよ。きっと誰よりも強くなる……あたしには分かる」

「そうね、それは私も感じてる」

「私も。勇木君は選ばれた人だよ、絶対に」


 僕にはよく分からなかった。ただ、自分には何か不思議な力があることだけは感じている。

 彼女たちを救えたのは、その力のおかげだ。


「改めて、これからも宜しくお願いします」



 今度こそ、僕たち4人は固く誓い合うのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。