第18話 決意
冒険者活動6日目。
昨日、僕はパーティーのみんなから解雇を言い渡された。
まあそれも当然かも。何せ、全く戦力にならないどころか、パーティーの和を乱したんだから。
僕の冒険者としての生活は、一週間も経たずに終わってしまったのだった。
さすがに今日だけは何もする気が起きない。僕はベッドの中で丸まり、今後自分がどうすれば良いのかを考える。
ほかの冒険者達に頼み込んで、パーティーを組んでもらうというやり方もあるけど、それはなんか違う気がした。
そもそも僕を入れてくれるパーティーなど無いだろうけど。
僕らパーティーには『四者の強固な結束』が掛かっているが、さすがに距離が離れてしまうと、彼女たちが経験値を得ても僕には入らない。そして、4人が揃わないと恩恵も無いため、彼女たちは通常の経験値でこれからは成長していくことになる。
救世主としては不利だろうが、あまり気にせずに、彼女たちなりに地道に活動していけば良いと思う。
どうか彼女たちが危険な目に遭いませんように……。
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猪熊リンは、自分が勇木ヒロに特別な感情を抱いていることを知っている。
以前、自主訓練を見に行ったのは、女性騎士と二人きりで稽古してると聞いて、不安になったからだ。王女まで訓練場に入っていったのを見て、まさか3人で変なことしてるんじゃ無いかと、良からぬ妄想が大爆発してたほどだ。
パーティーの組み分けになり、勇木ヒロと同じパーティーになれた時は、正直飛び上がるほど嬉しかった。
これからずっと一緒に居られる。世界を救うとかいうことには、正直あまり実感が無く、ただ勇木ヒロのそばに居られれば自分は幸せだった。
ところが勇木ヒロは違った。本気で世界を救おうと考えているのだ。それこそ、本当に自分の命を投げ出しても構わないと思ってるほどに。
端から見れば滑稽としか思えない。なぜなら、勇木ヒロにはまるでその力が伴っていないからだ。
どうしてそこまで他人のために頑張れるのか、猪熊リンには理解出来なかった。
クラスメイトにはとんでもない力を授かった人がたくさん居る。救世主は彼らに任せれば良いではないか。
自分たちはどうせ落ちこぼれだ。自分の力で出来る範囲で活動していればそれでいいじゃないか。
訓練でトロールが暴走したときも、昨日コボルトから自分を庇ってくれたときも、勇木ヒロは捨て身であった。
危険だと思った。このままでは、いずれ勇木ヒロは大怪我をする。いや、遅かれ早かれきっと命を落とすだろう。
猪熊リンはそれがイヤだった。だから勇木ヒロとのパーティーを解消した。
勇木ヒロ1人では、ギルドでも仲間は見つけられないだろう。そもそも、彼に冒険者活動は無理なのだ。
ここは正義感だけでやっていける世界では無いのだ。安全な宮殿で、彼が出来る事でこの異世界に貢献すればいい。
パーティーの解消は、猪熊リンの精一杯の優しさであった。
◇◇◇
華城麗子は男を信頼していなかった。しかし勇木ヒロだけはどこか認めていた。
それは彼の誠実さがよく伝わってきたからだ。
勇木ヒロは苛酷にいじめられている境遇でも、決して弱音を吐かなかった。挫ける姿を見せなかった。
どんな状況でも、彼は笑顔で周りを気遣っていた。
そんな彼だからこそ、信用しても良いと華城麗子は思っていた。
しかし、どうやらそれは自分の思い違いだったようだ。
勇木ヒロが弱いのは仕方ない。彼が努力してたのも知っている。
だが、女子に戦わせ、自分は見ているだけというのは、どういう事なのだろう。
彼は、「自分は敵の動きが読める」と言っていた。そんなことがあるだろうか?
離れて見ていれば、相手の隙が見えることもある。後ろから見ていて、今だ、と思うことは、自分にだってよくある。
自分たちは落ちこぼれパーティーだ。その中の唯一の男子である勇木ヒロには、出来れば強い存在であって欲しいと願っていた。
それが、一週間もしないうちにこんな調子だ。
残念ながら、彼はもう信用出来ない。
華城麗子はせっかく認めつつあった唯一の男に、三下り半を突き付けたのだった。
◇◇◇
倉橋友美は勇木ヒロを見損なっていた。
彼は自分と同じような境遇で、凄い頑張っている人だと思っていたのに。
初めての異世界で、何故か戦闘を女子に任せようとしている。
どうして自分で戦わないんだろう。怖いのはみんな一緒だ。
ひょっとして勇木ヒロは、男子には逆らえないけど、女子相手なら強く出るという、そういう最低な男だったのかとさえ疑ってしまう。もしパーティーが男だけだったら、彼はメンバーに、自分は戦わずに指示するだけなどと言えただろうか。
いじめを黙って耐えていたのも、きっと心が強かったわけじゃ無く、ただひたすら背中を丸めて、目の前の災害が去るのを待ってただけに違いない。
苦境にも笑顔を絶やさなかったのでは無く、あれはただの愛想笑いだ。
彼はただ男が怖くて逆らえないだけの臆病者だった。
倉橋友美は、自分が救世主であるということに重みや責任を感じていなかった。
どうせ自分には無理なのだ。魔法1つもまともに放てないのだから。
なのに、勇木ヒロと一緒に居ると何故か誇り高い気持ちが湧き起こり、この世界にとって自分は必要な存在なのだと信じることが出来た。
勇木ヒロは居なくなった。
自分はもうこの世界に必要無い人間なのかも知れない。いや、「この世界でも」だ。
これからはきっと、空虚な日々が始まる……。
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猪熊リン、華城麗子、倉橋友美の3人は冒険者ギルドへと向かい、戦士職のメンバー募集を掲示板で告知した。
当たり前だが、この3人ではとても戦闘はやっていけない。頼りになる前衛が欲しかった。
正直、自分たちももう冒険者活動は諦めて、宮殿で何か手伝いでもしようかなどと考えはしたが、ほかのクラスメイト達が頑張ってる手前、自分たちももう少し頑張ってみることにした。
最終的に、冒険者活動を諦めることになったとしても、今はまだその時では無い。やるだけのことはやってみるべきだ。
メンバー募集の告知後、割とすぐに名乗り出てくれた男が居た。
出来れば女性が良かったが、都合良く余っている女性の戦士職なんてそうは居ない。なので、人柄さえ問題無ければ、男性でも加入させるつもりだった。
とにかく、自分たちはまともに戦えていないのだ。経験豊富な冒険者に指導してもらって、一日でも早くちゃんとした活動をして行きたい。そう考えていた。
「女性3人と聞いて、これは絶対に僕が守ってあげなくてはならないと思ったよ」
来たのは、少し長めの金髪でなかなか顔も良い、スラリと背の高い25歳くらいの青年だった。冒険者としては筋肉の付き方が華奢ではあるが、この世界ではステータスが全てなため、あまり気にしなくて良いポイントだろう。
「僕はテイミッド・ファイク。レベル40のBランクの戦士で、ロングソードとラウンドシールドを使っている。特殊効果は付いていないが、結構業物の剣だよ」
3人の中では一番知識のある倉橋友美が、その剣を少し見せて貰う。
「これ……ミスリルですね、すごい!」
「数多の敵を斬ってきた僕の友さ。これで斬れないモンスターは居ないよ」
男は今まで自分がやってきた功績を自慢し、自分が如何に優秀な冒険者なのかを熱くアピールした。
彼女たち3人は、改めて男の全身を見返しながら、加入させるかどうか相談する。
「どう友美、信用出来そう?」
「鑑定スキルを持っていないので詳しくは分かりませんが、全身一式かなり良い装備だと思います。一介の弱冒険者では揃えられないでしょう」
「この前の荒くれ脳筋男とは雲泥の紳士な男だから、まあこの人でいいんじゃない? 本人の話を聞く限りでは、かなり有望な冒険者っぽいし」
「そうね、あまり高望みしてもしょうがないしね。決まりでいいか」
Bランクの戦士、テイミッド・ファイクがパーティーに加入した。
「よし! 僕と一緒なら、ここらのモンスターには絶対負けないから安心して! せっかくだからちょっと遠出してみようか。僕の力を見せてあげるよ。安全でイイ狩り場があるから、そこでレベルを上げよう」
近場にある弱いモンスターの狩り場しか行ったこと無い3人には、遠出というのが少々不安だったが、Bランク戦士にコボルトの相手をさせるのも気が引けた。
こっちはEランクの女性3人なのだ、いきなり無茶な所へは連れて行かないだろう。まさかこの男に襲われるということも無いだろうし、男が勧める狩り場に行ってみることにした。
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正直言うと、猪熊リンはテイミッド・ファイクという男をあまり信用していなかった。
彼の自慢する言葉の一つ一つが軽かったし、内容も少し眉唾モノな感じもした。これは『超感覚』の力とは関係ない女の勘である。
しかし、自分たちはあまり選べる立場じゃ無い。Bランクの戦士が入ってくれると言ってるのだ、素直に受け入れるべきだろう。
テイミッドの案内する狩り場は、歩いて1時間半くらいの所にあった。周りに木の無い開けた草原で、少し離れたところに岩場が点在している。
その岩場の方にテイミッドは移動していく。
「ここはアックスビークっていう、大して強くない割りに経験値が高くて魔石も高価、さらに屍骸も色々素材として利用出来るというモンスターが出るんだ。倒し方にコツがあるから教えてあげるよ」
そう言って、岩場の中央にテイミッドは移動していくが、リンは異様な雰囲気を感じ取っていた。
周り中から非常にクサイ匂いが漂ってきてるのだ。それは岩場の影辺りから臭ってきている。
ホントに安全な狩り場?
「この辺に出る……!?」
テイミッドが何かに気付いて固まっている。ここに来て、リンもようやく異変を確信する。
私たち、何かに囲まれてる……!
◇◇◇
やられた……! と言っても、テイミッドは意図的に自分たちを騙そうとしたわけでは無さそうだ。
現に、いま彼は必死に、全速力で、脇目も振らず、一目散に逃げ出している……私たちを置いて。
どうやら私たちは見捨てられたようだ。華城麗子は自分たちの現状を理解した。
絶好の場所だとかなんとか言われてきてみたら、周りをすっかりモンスターに
囲まれていた。凄い数だ。
自分に任せれば絶対に安心などと大口叩いた男は、すでに草原の彼方へと走り去っていた。
囲まれる前に瞬時に逃げ出した判断は、驚嘆に値する。私たちに一瞬でも気を遣っていたら、恐らく間に合わなかっただろう。
だから男は信用出来ない……。
なぜ最善の安全策をとらなかったのか。自分の判断を後悔する。
そういえば、『彼』は臆病なくらいに慎重だった。絶対に私たちを危険な目には遭わせないようにしていた。
その『彼』が、自分は指示だけに回ると言い出した。私は『彼』が臆病風に吹かれたのだと思ったが、いま思うと、『彼』には何か思惑があったのかも知れない。
もう少し『彼』を信用しても良かったのでは……。
すでに遅すぎる後悔だった。
◇◇◇
岩場の影から出てくるモンスター達……あれはオークだ。訓練では戦わなかったが、図鑑で見ていた倉橋友美にはそれが分かった。
どうにもならない数のオークが居る。恐らく30匹を越えるだろう。
1匹1匹はそれほど強いモンスターでは無い。しかし、これほど大勢に囲まれてしまっては、この数の暴力に対抗する手段が無い。
しかも、通常種で無いモノも居る。多分魔法職のオークだ。オークメイジとオークプリーストが居る。
ただでさえ絶望的な状況で、魔法職のオークすら居るというのは、もはや助かる確率は0と言っていいだろう。
自分が魔法を放てれば、ひょっとしたら一縷の望みはあるかも知れない……でも、普通の戦闘中でさえ魔法を完成させられないのに、この状況で完成させられるわけが無かった。
確か資料には、オークは人間の女性を陵辱すると書いてあった。
自分もそうなるのか? ここで自分は嬲り殺しにされるのか?
こんな人生の終わり方をするのか?
異世界に来て何も出来ないまま、きっと自分はここで死ぬのだろう。それも考えられる限り最悪の形で。
倉橋友美の瞳から光が消えた……。
◇◇◇
そんな馬鹿な! 今まで何度来たって、こんな事にはならなかった。
せっかく自分のいいところを見せて、あわよくば3人とも頂こうと考えていたのに、なんてツイてないのか。
幸い、真っ先に気付くことが出来て、奴らが包囲網を敷く前に脱出することが出来た。
あんな足手まといの女達をかかえて、オーク30匹以上とやり合えるはずが無い。しかも魔法職まで居たようだった。
まさに危機一髪なんとか切り抜けられた。
そもそも自分はレベル40だが、剣術はDランクだし、パーティーを組んでいた仲間の功績のおかげで、ギリギリBランク冒険者にしてもらっただけだ。
彼女たちに自慢した話も、全部自分の仲間達がやった功績だ。自分はただの金持ち貴族の息子なだけなのだ。
ミスリルなどの装備も、自分で買って揃えたのではなく、父親に買ってもらっただけに過ぎない。
囮になってくれた彼女たちに感謝して、テイミッド・ファイクは町へと戻るのだった。
◇◇◇
「麗子、友美、あたし達もうダメかな?」
「私『幸運体質』だから、最後まで奇跡を信じたいけどね」
「わ……たし、オーク に、陵辱さ れるの、いや……」
「……どうする、あいつら来る前に自分たちで死ぬ?」
「ふふ、楽に死ねる薬とか貰っておけば良かったかもね」
「みんな で いっしょ に、………………逝こう」
「そう……だね」
「もうちょっと生きたかったね……」
3人はじっと目を瞑り、最期の決意を固める。
そして、それを実行しようとしたその時……
「みんなっ! こっちだーっ!」
そこには勇木ヒロの姿があった。




