第16話 テンプレパターン
カーテンの隙間から眩しい光が差し込み、いつものふかふかしたベッドで僕は目覚める。
昨日冒険者としてのスタートを切ったとは言え、このエーアスト国に滞在する限りは、宮殿の部屋を借りて生活をしようと思っている。この部屋よりも整った宿泊施設なんて、町にはなかなか無いらしいし。重ね重ね、王国には感謝している。
みんな本日からが本格的な冒険者スタートになるみたいで、昨日準備を整えて、今日他国へと旅立つパーティーがいくつか居るみたいだ。
鬱々とした思いに駆られている人は、もはやほとんど居ないように見える。それは、日々くり返すだけだった日常から飛び出し、異世界の救世主として、新たな毎日が始まる事への期待があったからかも知れない。
授かった能力の開花も、自信の裏付けだろう。そして、これが若さというモノの順応力なのかも知れない。
本日早速出立するパーティーの中に、『剣聖』十六夜君や『賢者』小鳥遊さんの居るパーティーもあるようだ。
彼らはすでに最強パーティーと言われていて、恐らく魔神王復活を阻止するための最大の希望と言えるだろう。現時点でも、彼らのチームとしての力は、Aランク冒険者チームにも匹敵しているかも知れない。いつまでもこの国の元に居るのは、才能と時間の無駄というものだ。
彼らの送迎には王様や大臣まで立ち会い、まるで王国を挙げての送り出しみたいになっていた。移動用の馬車も、王国の方で用意した特別製のモノらしい。
見送るために、僕らのパーティーも王国の町の出入口まで付いていく。
どこの国も同じらしいけど、国は外壁によって守られていて、その出入りには衛兵の守る門を通っていかなければならない。
いつも訓練で外に出るときは、別の場所にある小さめの門を使っていたが、今日は正面にある大きな入場門から出立するようだ。通常はこちらの門から出入りするらしい。
門の前でみんなと並んでいると、小鳥遊さんが僕の元へ走り寄ってきた。
「勇木君、私出発するね。本当は勇木君と一緒のパーティーになりたかったんだけどね。しばらくは会えないけど、勇木君も気を付けて冒険者生活頑張って下さい」
そう告げて、彼女たちはこの王国から旅立っていった……。
「ねえ、あたし転校してきたばかりだからよく知らないけど、なんでアンタと小鳥遊さんって仲イイの?」
「う~ん、なんでだろ……。高校一年生の頃から、小鳥遊さんって僕に優しくしてくれてたんだよね。まあでも、あの子は誰にでも優しい子だよ」
「ふーん……あの子のこと好きなの?」
「えーどうだろ? そんなこと考えたこと無いなあ」
ほとんど毎日凶獄君たちに殴られる生活だったからねえ。よく周りから「痛みを感じない鈍感野郎」とか言われたけど、結構つらいものがあったよ?
因みに、異世界召喚のことは割と知られているとは言え、他国では王国ほどの重要性とは認識されてないらしい。現在まで聖女の血が脈々と受け継がれているエーアスト王国だからこそ、異世界召喚に強い信頼を置いているのだと。
僕らはエーアストでもう少し経験を積んでから、他国へと旅立とうと思う。
僕らの先を歩く彼らに、どうか幸あれ。
◇◇◇
昨日はとんでもないハプニングに見舞われてしまったが、なんとかギルドの登録料だけはギリギリ確保出来た。ということで、僕らは冒険者ギルドへと向かった。
これから僕らは、ギルドからの依頼の成功報酬と、モンスターを倒したときに得られる魔石で稼いで、自分たちの活動資金を調達していかなければならない。
エーアスト王国だって、無限の財産があるわけではない。聞くところによると、僕らを喚び寄せるための召喚の儀式にも、莫大な資金、資材が掛かったらしい。いつまでも甘えているわけには行かないのだ。
ギルドの建物内に入り、受付へと足を運ぶ。受付は3人居て、別に狙って選んだわけでは無いけど、応対してくれるのは昨日のおねーさんだ。
「あっ、昨日のモテモテ君! 君たちが噂の救世主さん達だったんだね。登録料は用意出来た?」
え? 僕がモテモテ君?
「女の子3人も連れてる冒険者なんて、アットーレさんくらいだよ。えっ!? ミーティス・アットーレさん知らないの?」
説明して貰ったら、あの有名な七聖剣の1本を取ったSSランクの冒険者らしい。基本的には、冒険者自体がほとんど男性らしいので、男1女3のパーティーは滅多に居ないんだとか。
「君、モテそうな顔してるもんねー。3人のうち、誰が彼女なの? それとも全員彼女? やだあーっ」
なんか1人で盛り上がっちゃってる。応対の口調も受付らしからぬ感じになってるな。別にいいですけど。
「ちょっとおねーさん、コイツからかわないでくれる? あたし達がコイツの彼女なわけないでしょ!」
「あれ? そうなの? ひょっとしてモテ過ぎちゃって、彼女は作らないって主義なの?」
「なんでそんな結論になるの? こんなヤツ誰も相手にするわけ無いでしょ!」
何気に非道いコト言われてる僕。オブラート以下略。
「えーウソでしょ? 彼女居ないの? じゃあ私が立候補しちゃおうかなー」
「ちょっと女将呼んで! 受付交代してちょうだい!」
今にも暴れ出しそうな猪熊さんをなだめ、無事僕らは冒険者としての登録を終える。
猪熊さんをやたら挑発するようなことを言っていたギルドのおねーさんは、パルレ・ロクアースさんと言うらしい。以後宜しくお願いしますと言われたけど、猪熊さんは二度と会いたくないようだ。
どうやら僕ら異世界人のこともぼちぼち噂になっているようで、周りの人たちもチラチラと僕たちの方を見ている。
まずいなあ、僕らを見て「救世主ってこの程度なの?」って思われちゃったら、クラスのみんなに申し訳立たないな。あんまり目立たないようにしておこう。
ギルドに登録すると、『冒険者カード』というのを発行して貰った。これはこの世界ではかなり信頼の置ける身分証明証で、カードには登録者のデータベースが記録されていて、いつでも冒険者ランクやステータスを表示することが出来る。
カード発行時に登録者の血を一滴吸収させることで、カードと登録者がリンクするのだそうだ。
冒険者にはランクがあって、F~SSSで表される。駆け出しの冒険者はFランクだ。
最上位のSSSランクは英雄級と言われ、世界に4人しか居ないらしい。「5人目も居るって噂は聞くんだけどねー」と、受付のロクアースさんは言ってたけど。
ギルドの依頼を地道にこなしていくと、冒険者のランクも上がって行く。大きな功績を挙げれば、一気に上のクラスに昇格することもあるようだけど、滅多には無いらしい。
そして、Aランク以上になるには、昇級試験に合格する必要があるとのことだ。
僕らは王国で訓練したということと、レベルも14ということで、Eランクから始めることになった。
まだまだ僕たちはひよっこだ。英雄級ですら、ランクは地道に上げていったらしいので、僕たちも地道に上げていこう。
因みに、過去1例だけ低レベルでどんどん昇格した記録があるらしいが、それはもう超人的な別格の記録だとか。十六夜くんや小鳥遊さんの居るパーティーが、その記録を抜けるのかどうかがちょっと楽しみだ。
あと帝国の勇者育成学校に凄い逸材が居て、その人が最年少の昇格記録を更新するかどうかにも期待が集まっているらしい。まあさすがに、異世界人の十六夜君達には敵わないとは思うが。
ギルドの登録を終え、取り敢えず外に出ようとすると、明らかに暴力的な雰囲気を醸し出した4人の男達に前を塞がれる。
1人は筋骨隆々の大柄な男で、剣とラウンドシールドを所持している。恐らく、戦士だろう。中肉中背でチェインメイルを装備してるのは、多分忍者だ。細身の男は魔法職の可能性が高い。そしてもう1人、この世界に来て初めて見た人種が居る……銀髪で黒い肌が特徴のダークエルフだ。
エルフは魔力が高く、ダークエルフは身体能力が高いらしいけど、目の前の人は弓矢を所持しているので、恐らく弓使いか狩人だろう。
「おい兄ちゃん、見ねえ面だな、ちょっと顔貸せよ」
えっ? 今時こんな絡み方する人たちって居るの? いやこの世界では最先端のトレンディなのかも知れないけどさ。
それにしても、どうしてこういう人たちって、見た目通りにヤバイ人が多いんだろう。たまには見かけによらず、気さくでイイ人というのに出会いたい。
「ねえねえ、どうしてこの手の人たちって、自分より弱そうな人にしか絡めないんだろうね」
「そうよねー。凶獄くんに絡んだら大したもんだけどねー」
「かっこ悪いですよね」
僕の後ろで3人がヒソヒソと会話する。
僕もそう思うよ、今までにどれほど絡まれてきたことか……。
「ボルゴスさんやめてあげて、この子達は異世界から来た救世主なのよ」
受付のロクアースさんが、僕たちのことを庇ってくれる。
「何が救世主だ、こんな奴らに国の金とか色々渡してんだろ? 救世主って言うならオレよりつえーよな? オレと勝負してみっか? あ? 役立たずが金持っててもしょうがねえから、お前らオレにそれ寄越せ!」
「役立たずだなんて、あたし達のこと何も知らないくせに!」
「そうよ。第一もうお金全部使っちゃったから、渡すお金なんて無いわよ」
「アルバイトしてもお金稼げませんでしたから無一文なんですよ!」
「やっぱ役立たずじゃねーか……」
どうしてこの子達そんな正直なんだろう。僕らのせいで救世主の株が急降下ですよ。
「金が無いならしょうがねーな。可愛いねーちゃんらに、ちっとオレ達の相手してもらうことにするぜ」
「やだー、なんなのこの正直者は!」
「そんなストレートに本当のコト言われちゃうと、拒否りづらいわね」
君たち結構余裕だね。
「私、初めて可愛いって言われました。どうしよう」
倉橋さんまで浮かれている。今の彼の発言は浮かれるようなモノでしたか?
「あー? オメエのことは言ってねーよ、ちんちくりん!」
「勇木君、こいつら殺っちゃいましょう」
どうすればこの荒くれ者達に僕らが勝てるのかを小一時間聞いてみたいが、倉橋さんの目は本気だ。
僕の中の倉橋さんの設定が崩れていく……。
「ちょっとアンタら、いい加減にしないと、ユスティーにまたシメられるよ!」
一触即発の場を収めてくれたのは、軽装で金髪ショートカットの女の子。背は猪熊さんよりもちょっと高いくらいか。ユスティーという名を出した途端、荒くれ者達の様子がちょっと大人しくなる。
「ふん、ちょっとからかっただけだろ。マジになんなよ」
そう言って、荒くれ男どもは去って行った。
「有り難うございます、助かりました」
「アタシはケイパー・ミスチフ。盗賊をやってる。こう見えてもBランク冒険者なんだよ。君たち救世主のことは噂で知ってた。実は君たちが狩り場を行き来してるところも見たことあるんだ」
へえー。盗賊だから情報とかに強いのかな。
「さっきのアイツは、ボルゴスっていうここらでは嫌われ者の男。だけど、アレでもエーアストでは1チームしか居ないAランク冒険者なんだよね。しかもボルゴスはもうすぐSランクにも昇格しようというほどの強さで、みんなも手を焼いてるんだ」
「ユスティーさんというのは誰なんですか?」
「ユスティーはエーアストでは最高のSランク冒険者チームのリーダーで、ボルゴスの横暴さがあまりに目に付いたんで、一度対決することになったんだ。もちろんユスティーが勝ったよ。それ以来、ユスティーの名前を出すと、ボルゴスは大人しくなるんだ」
居るじゃないか、頼もしい正義のヒーローが!
冒険者は割と殺伐とした世界だと思ってたんで、そういう人が存在しているというのが素直に嬉しい。
「今日はユスティーが居ないから、アイツ調子に乗ったんだよね。もしユスティーがエーアストに居なかったらと思うと、ほんとゾッとするわ」
僕もあいつらには気を付けよう。
「ミスチフさん本当に有り難うございました。しばらくはエーアストで活動致しますので、これからも宜しくお願い致します」
「最近若い女の子から高レベルの冒険者まで、各国で突然行方不明になる謎の事件が続発してるから、君たちも気を付けてね。」
僕らは深くお礼を言って、ギルドを後にした。
さて、次はいよいよ僕らだけでの戦闘だ!




