第15話 一生に残る思い出
二週間の訓練を終えて、僕たちはこの世界へと足を踏み出すことになった。
しかし、今日のところはみんな、今後の予定を検討したり、旅立ちの準備をするだけで精一杯というところだろう。
僕たちも、取り敢えずパーティーの親睦を深めようということで、ぶらりと町に出ただけだった。というより、みんな町を歩いてみたかったのである。
野外訓練で外に出たときは、狩り場と王国の往復だけだったので、ロクに町を覗いてなかったのだ。しかも、人通りの少ない静かな道を通ってたし。
恐らく、その時はまだあまり目立つ行為は避けたかったのだろう。僕たちはこの世界の常識をよく知らない少年少女だった。下手に大勢の人目に付いたら、どんなことに巻き込まれてしまうか分かったものでは無い。
しかし、今はもう一通り常識を身に付けたし、ある程度身を守れる戦闘力もある。町中を自由に歩くくらいなら全く問題は無かった。
「へえー、建築技術とか遅れてるんじゃないかと思ったけど、結構しっかりした建物作ってるんだねー」
「建築用の魔法があるみたいですよ。スキルもあるし、手作業でやる工程なら、私たちの居た世界よりも技術は上かも知れません」
「なるほど。高層ビルなんかは無理だけど、低階層の建物なら私たちの世界と変わらないのね。」
「そういや、宮殿も凄い造りしてたもんね」
「あっ、あの女性『エルフ』って言われてる人ですよ」
「金髪で耳が長いって本当ね」
「すっごいキレイー!」
「あそこに獣人の女の子も居ますよ!」
「やだー! ちょーカワイイー!」
自由に異世界を見て回れることに興奮を隠せない女子達。
会話を聞くに、結構打ち解け合ってるみたいだ。全然違うタイプの3人に見えたけど、彼女たち意外と相性いいのかも知れない。
並ぶと身長に差がある3人で、一番背の高いのが華城さん。恐らく165㎝ちょいあるかなという感じ。猪熊さんは160㎝くらいかな? そして倉橋さんはかなり小柄で、恐らく150㎝前後ってところだ。
「あ、あの服可愛い~! ああいうの着るのちょっと夢だった」
「買っちゃう? なんかお金たくさん貰ったよ」
「ダメですよ、まずは冒険のための準備品を揃えないと。そのためのお金ですよ」
「ともちんてば真面目~」
「と……ともちん?」
「あら、そのあだ名いいわね。ともちんにしましょうか」
「あの、出来れば普通に友美で呼んで頂ければと……」
「あたしはリンでいいよ」
「私は麗子」
うん、すっかり親交が深まっているようだね。仲良くて何よりです。
僕のパーティ女性ばかりで羨ましいと言われそうだけど、そんな単純な問題じゃ無くて、男1:女3というのはバランスとしては良くないんだよね。
この世界の人たちでは、男4人パーティーとか珍しくないとは聞くんだけど、それは男性の魔法職が結構居るからなんだよね。同じく女性の戦士職もたくさん居るから、パーティー内の男女比はあまり関係ない。
でも僕たちクラスメイト内で組むなら、やはり男2:女2が理想になってくる。男子の強い前衛職2人と、それを援護する女子の後衛職2人という形が望ましい。
ところが僕たちのパーティーでは、戦闘力に期待出来ない僕と、女子の猪熊さんが前衛だ。せめて男2人という形なら、僕の穴をもう一人の男子が埋めるということも可能かも知れないけど、女子の猪熊さんにそこまでさせるのは難しいだろう。
というより、本来なら僕が猪熊さんの穴を埋めなくちゃいけないのに……酷い自己嫌悪に陥ってしまう。
「ねえ勇木、そんな黙ってないでアンタも会話に参加しなよ」
猪熊さんが僕に気を遣ってくれてるみたいだ。口調は少しキツイが、猪熊さんは割と僕を気に掛けてくれることが多い気がする。
「いや、僕は女の子が好む会話を知らなくて、変に口を挟んだら、せっかく盛り上がってる会話に水を差しちゃうかなと……」
「何そんなこと気にしてんのよ、これからあたし達ずっと一緒に行動するのよ」
「そうね、空気を読みすぎるのも問題ね。君、周りに気を遣いすぎるタイプだもんね」
「私と似てるところあるかも」
「みんな、言いたいことはちゃんと言った方がいいわよ。あたし達運命共同体なんだから、もし修正すべき部分があったら、みんなで言い合わないと。友美も遠慮しないでどんどん意見言ってね。」
「分かりました」
「じゃあ私からリンに一つ聞いていい?」
「なに麗子?」
「リンってヤンキーなの?」
「あたしは全然ヤンキーじゃ無い!」
猪熊さんが目をつり上げて抗議する。それはまさにヤンキーみたいな姿だった。
図らずも集まったメンバーだけど、思っていたより女性陣から優しく扱って貰えて、ちょっと僕は感動している。パーティーが決まる前は、仲間からずっと無視されるくらいは覚悟していたからね。
そういえば戦闘訓練で色んなメンバーと組んだときも、彼女たちは特に僕を馬鹿にした行動はしなかった。このメンバーで組めて、僕としては本当に良かったかも知れない。
パーティーの総合力には不安があるけど、焦らずに、みんなでゆっくり成長していけばいい……と僕は思う。
「ねえ、ちょっとステータス見せ合おうよ。お互いの力知っておかないと、戦闘の時困るでしょ?」
猪熊さんが提案する。僕もその意見に賛成だ。
お互いどのような力を持っているのか知っておかないと、戦闘の作戦も組み立てづらいというものだ。
僕から順番にステータスをオープンしていく。
【各自ステータス(習得している技術スキル、スキル技、魔法等は省略)】
勇木ヒロ Lv14: 魔法剣士
HP 473
MP 64
SP 64
STR 55
VIT 55
AGI 54
DEX 54
INT 64
LUK 27
猪熊リン Lv14:超感覚 戦士
HP 996
MP 00
SP 100
STR 126
VIT 140
AGI 98
DEX 82
INT 33
LUK 00
華城麗子 Lv14:幸運体質 狩人
HP 805
MP 96
SP 130
STR 80
VIT 81
AGI 79
DEX 162
INT 98
LUK 10000
倉橋友美 Lv14:知識の書 魔道士
HP 564
MP 480
SP 64
STR 32
VIT 32
AGI 66
DEX 50
INT 262
LUK 60
「勇木、アンタなんなのこのステータス!? 真面目にやってよ!」
「君、弱い弱いと思ってたけど、ここまで酷いとは……」
「なんか魔法職の私より弱そう……」
うううっ、そうだった。この人達はオブラートを使わない人たちだった……というか、倉橋さんまでオブラート無くなってる。
真面目にやってと言われても、僕にはどうしようも無いんですが。
「ま、まって、ちょっと待って、麗子アンタ運が10000てナニ?」
「ホントだ、凄いです」
「いや、私『幸運体質』だから」
運が1万? それ凄いな。
ほかのステータス項目と違って、運だけはなかなか上がらないし、バフ効果とかスキルでも運を上げるのって難しいんだよね。さすが幸運体質と言ったところか。
って、ちょっと待って!
「リン、あなた運が0ってどういうこと?」
「……なんか最初からずっと0なんだよね。よく分かんないんだけど」
「これも聞いたこと無いレベルですね……」
運0と運10000が居るなんて、なんかとんでもないパーティだな。果たして幸運が起こるのか不運が起こるのか……。
「ふふふ、私たちお似合いのパーティーかもね」
華城さんの言葉に全面的に同意する僕だった。
◇◇◇
「ねえ、お腹空いたから、ご飯食べようよ!」
「いいわね。異世界でのランチ楽しみだわ」
「お金も支給して頂いてますしね」
僕たちクラスメイトはパーティーを結成したあと、当面は充分だろうという資金を王国から支給されている。
それと、モンスターとの戦闘訓練時に使っていた剣などの装備一式も、各自そのまま貰っている。これらは元々僕らの安全のため、それなりに良い装備を与えられていたようで、むしろ、この訓練装備よりも良い装備を着けている冒険者のほうが少ないくらいとのこと。
ほかにも『アイテムボックス』という、魔法の効果が掛かった収納箱を渡されていて、これは見た目よりも中のサイズがかなり大きくなっている便利アイテムだ。腐敗防止効果もあるようで、相当高価なモノらしい。
あと、ポーションとハイポーションをいくつかと、モンスター除けの薬品まで貰っていて、まさに至れり尽くせりだ。
もし困窮したら、またいつでも追加支給してくれるということだったが、そこまでは甘えられない。余程のことが無い限り、自分たちの力でやって行きたいと思っている。
「ねえ、ここのお店美味しそうだから入りましょう!」
少し歩いたところで、華城さんがあるお店の前で足を止めた。とてもオシャレな外観で、地球で言うならかなりの高級店という雰囲気のお店だ。
メニューとして出してあるサンプルも、相当手の込んだ料理で、正直ランチとして食べるのには気が引けるレベルだ。値段の相場がよく分からないので、なんとも言えないけど。
世界情勢や戦闘関連、モンスター関係とかが主な講義内容だったから、金銭面に関してはほとんど講義して貰ってないんだよね。
「華城さん、ここちょっと高そうなんだけど……」
「んー大丈夫だよー」
お金の管理は華城さんに任せている。メンバー内では一番しっかりしてるかなーと思ったんで、まとめて預けたのだ。
なので、一体いくらくらい支給されているのか、僕たちは知らない。
「せっかく同じパーティーになったんだから、景気づけに最初くらい美味しいモノ食べてお祝いしようよ!」
「そうですね。結束固めましょう!」
女性陣が全員賛成ならまあいいか。これからいろいろ大変な事経験していかなきゃいけないだろうし、最初にみんなで食べる食事は、きっと良い思い出になるだろう。
◇◇◇
「ふー食べた食べたー!」
「なかなかだったわね」
「とても美味しかったです」
それぞれ満足した声を上げる3人。
出てきた料理は本当に凄かった。僕たちがこの世界に来て、最初に歓迎会開いて貰ったときの料理に匹敵するモノだった。
というか、ひょっとしてこの世界ではこれくらいの料理は標準なんだろうか。美味しい食材が豊富で、どこで食べてもこれくらいの料理が出てくるとか?
食事代は金貨20枚だった。それを慣れた仕草でスマートにお会計する華城さん。
ちょっと贅沢しちゃったけど、最初にいい思い出を作れたことは、この先の冒険で糧になるだろうと思う。
潤沢な資金をくれた王国にも大感謝しなくちゃ。
さて、お腹も脹れたし、冒険者ギルドに行ってメンバーの登録をしておこう。
講義でも散々教えて貰ったことだけど、基本的に冒険者はギルドの依頼を受けて報酬を得る。もちろん、ギルドを通さない依頼というのもあるけど、ギルド所属の恩恵は大きいので、まず間違いなくみんな登録しているはずだ。
明日からスムーズに活動出来るように、今日のうちにやっておきたいと思っていたのだ。
町のほぼ中心にある、がっしりとした造りの大きな建物に入り、受付らしき所へ行って登録の申請をする。
「登録には、お1人様金貨1枚の登録料が必要となります」
良かった、あまり高く無さそうな金額だ。さっき贅沢しちゃったんで、1人金貨10枚とか言われたら足りるか心配だったんだよね。
華城さんに4人分の支払いをお願いする。
「え、登録にお金必要だったの? もうお金無いよ」
なんだとおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!
「まって華城さん、支給されたお金全部使っちゃったの?」
「うん、さっきのお店でね」
「だって、お金大丈夫って言ってたよね?」
「えーお金足りたよー。ちゃんと大丈夫だったでしょ」
支給されたお金全部使っちゃうのは大丈夫とは言わないのーっ!(涙)
旅立ち初日にいきなり大変なこと経験しちゃったよ。
しかも魔神退治には一切関係ないことで。
「どこのお店行かれたんですか? えっ、あそこのお店? あそこって貴族専用の超高級料理店で、通常の100倍くらいの食事代ですよ」
ギルド受付のおねーさんに、衝撃の事実を聞かされる。だよね、凄い料理だったもんね。僕たちの歓迎会で、王国が如何に凄い料理を出してくれたのかがよく分かった。
「大丈夫だよー。また明日もお金支給してくれるんでしょ?」
華城さんは盛大な勘違いをしているようだ。
そもそも毎日支給だと勘違いしていたとしても、あの金銭感覚は無い。この人、もしかしてお嬢様なのか?
誰だ、この人が一番しっかりしてそうだなんて思ったヤツは? 僕だ!
「みんな……アルバイトして登録代稼ごう」
まさか当面の資金だと渡されたお金を、いきなり食事で全額使っちゃいましたなんて、王女達には絶対に言えない。自分で稼ぐしかないだろう。
せっかく貰ったお金を贅沢なことに使っちゃって、王女には本当に申し訳ない気持ちで一杯だった。
「みんな、目標は1人金貨1枚分稼ぐぞー!」
彼女たち3人は渋々ウェイトレスのアルバイトをしに行った。まさか旅立ち初日に、アルバイトする羽目になるとは思わなかっただろうな。
僕は武器屋に行き、武器磨きをすることにした。ちょうど募集してたんだよね。
店主の娘らしき女の子に武器の磨き方を教わり、片っ端から必死に武器を磨いていく。
少しでも多くお金を稼がないと……。
「あれ? 何これっ、武器が下ろしたてみたいに綺麗になってる!……というか、明らかに切れ味上がっているよ。どうやったの?」
「え? 教わった通りに普通に磨いてるだけですけど?」
「きみ才能あるよ! もしかして武器磨きのプロ?」
そんな職業あるの?
「パパー来てえ! なんかスゴイ天才が居るのー!」
女の子が父親を呼ぶと、店の奥から髭を生やした体格の良い中年男性が出てきて、僕の磨いた剣を手に取って調べ始めた。
「ほう……鋭刃化(+1)の効果までは行かないが、確かに性能がアップしてるな。これお前さんがやったのか?」
「はい、言われた通りに磨いただけなんですけど……」
「お前……研磨の天才だな。是非ウチでこれからも働いて欲しい」
「いや、僕にはやることがありまして……」
「剣磨きよりも大事なことなのかそれは?」
一応魔神を倒すのが最終目的なんで、多分剣磨きよりは大事なことなんじゃないかと思うけど、怒られそうなんで適当にごまかした。
日が暮れるまでに店の武器全部磨いたら、なんと金貨4枚の賃金を貰った。
「それくらいじゃ安いくらいだ。またオレの店に磨きに来てくれ」
お礼を言って、僕は彼女たちとの待ち合わせ場所に行った。
◇◇◇
「んーとね、結論から言うね」
「あたし達1円も稼げなかった。テへ」
「勇木君、ゴメンねゴメンね」
……話を聞いた限りでは、むしろ損害賠償払わなきゃいけないような事態になってた。
全く稼げなかったということだけど、マイナスじゃない分マシかも知れない。
それにしても、アルバイトによって自分の意外な才能に気付かされた。
まさか僕の授かった能力は『剣磨き』?
ギルドへの登録は明日にして、僕らは宮殿へと帰ることにした。
一生思い出に残る食事になったよ……。




