第13話 激突! 剣聖vs超成長
僕たちがこの異世界に来て15日目。
今日は訓練の総仕上げをした。色んな事があったけど、今日で僕たちの二週間の訓練生活は終わりを告げた。
「この短期間でみなここまで強くなるとはな。ギフト組はその能力を使えば、恐らくすでにウチの騎士達よりも強いのが居るだろう。オレですら、そう遠くないうちに抜かれるのは間違いない」
オルドルさんが感無量とばかりに訓練終了の挨拶をする。僕たちこそ、オルドルさんには計り知れないほどお世話になって、感謝の気持ちでいっぱいだ。
「教えられる基礎は全て教えたと思っている。諸君らはもう充分冒険者としてやっていけるだろう。ここから先は、自分達自身で判断、経験をして進んで行ってくれたまえ。くれぐれも気を付けるようにな、我が世界の救世主達よ」
今までしてきた様々な訓練を思い出し、名残惜しく想いながらも、僕たちは実戦場をあとにした。
◇◇◇
「もういい加減にしてくれよっ」
帰路の途中、集団の後方から何か諍いの声が聞こえてきた。先頭を歩いている集団には聞こえていなかったようだけど、中段を歩いていた僕の所へは充分届く声だった。
何かざわざわとした様子が、後方から伝わってくる。
気になったので少し近づいてみると、なんと五味君があの凶獄君と揉めているようなのであった。
学校に居た頃には考えられない光景だ。
絶対的な暴君として君臨していた凶獄君に、もし一方的に何かされたとしても、誰だって俯いてやり過ごすしか無かった。五味君だって、凶獄君には指一本逆らえなかったはずだ。
それが、今は何故か、ハッキリと不満を口にしている。
「異世界に来てまでまだそんな行動するのかよ、いい加減にしてくれよ」
どうやら凶獄君が何かしたようだけど、それにしても、あの五味君がまさか凶獄君に反抗するなんて誰も思わなかっただろう。何せ、学校に居たときは、ひたすら凶獄君のご機嫌を取っているような立場だったのだから。
「もううんざりなんだよ、こっちは迷惑してるって分かってくれよ」
「おいおいゴミ小僧、変な能力貰って調子こいてんのか? いいぜ、オレは素手でいいから掛かってこいよ」
まずい、こんな所で戦闘が始まってしまう。しかも、能力なんて出したら大変なことになる。
先頭に居るオルドルさんたち騎士は、まだ気付いてないようだ。
「『戦士の心得』!」
止める間もなく、五味君が能力を発動して戦いが始まってしまった。
五味君の能力は、ステータスの上昇や戦闘スキル等の上昇を考えると、単純な戦闘力は通常の3倍以上に上がっているんではないだろうか。
通常組のレベルは僕も含め、恐らくみんな14くらい。ちらりと聞いた限りでは、ギフト組はレベル19ぐらいだったはずだ。
いくら凶獄君でも、ナメて勝てるような戦闘力差では無いはずだけど……。
「3連撃っ!」
低い重心から一気に飛び上がり、素早い剣撃を放つ五味君。
「ふん!」
獲物を狩る肉食獣のように飛び掛かってきた五味君を、凶獄君はバシンッと平手一発で軽々叩き落とした。
「???」
さすがに面食らって、五味君が信じられないといった表情で凶獄君を見る。
五味君はちょっと前に、「自分の能力を発動すれば、騎士団の人達とだって互角にやり合えるはずだ」と自慢していた。
それが、まさかの平手一発でやられてしまったのだ。いま彼は凶獄君に逆らったことを、これでもかというくらい後悔していることだろう。
日々成長していく自分の能力に、つい自惚れてしまっていたんだと思う。
それにしても、あの凶獄君の強さは一体……?
「お、おかしいよっ、スキルも魔法も一切無い山賊が、素手でこんなに強いなんて……!」
ガタガタ震えながら、訳も分からないといった風に五味君が抗議する。
五味君の疑問も尤もだ。
いま凶獄君は能力を発動しているようには見えなかった。つまり、素の山賊の力のみで、五味君の素早い攻撃を迎撃したとこになる。
いくらケンカが最強だったとは言え、そんなことが可能だろうか……?
凶獄君はスッと五味君の前に近づいて、自分のステータスを周りに見えるようにオープンした。
凶獄力也 Lv43:02超成長 山賊
HP 6375
MP 00
SP 00
STR 843
VIT 1030
AGI 468
DEX 374
INT 93
LUK 180
「レ……レベル43!?」
色んな能力を見てきた僕達だけど、さすがにこれにはみんな驚愕する。この世界におけるレベルによる強さというのを、みんなよく分かっていたからだ。しかも、山賊ということで、基礎数値がとんでもなく高い。
「オ、オレ、オレのステータス……」
五味君が自分のステータスを確認する。
五味虫雄 Lv14:戦士の心得 戦士
HP 998
MP 00
SP 96
STR 128
VIT 144
AGI 97
DEX 81
INT 34
LUK 32
(能力発動前の数値。取得スキルは省略)
「か……勝てるわけ無い……」
五味君の身体がガックリと崩れ落ちる。
「オレのギフト『超成長』は、経験値が10倍貰える能力なんだよ。お前らの10倍の早さで成長していくって事だ。しかも、唯一持ってるスキルが、最初からあった『レベル限界突破』で、これは際限なくレベルが上がっていく能力だ」
恐ろしい告白を聞く。いや、味方なんだから、むしろ頼もしいと言うべきなんだろうけど、この傍若無人をそのまま体現したような人が、そんな強い力を持っていて大丈夫なのだろうか……どうしても不安を抱いてしまう。
この世界では、レベルの上限は100ということだった。それを越えて、いくらでもレベルが上がると凶獄君は言っている。理論上、無限の強さを持っていると言っていいだろう。
魔神への対抗戦力としては、この上なく強力な力とは言えるが、この人が世界最強になってしまって本当に良いのだろうか?
「さーて、オレに逆らったケジメ付けねーとな。回復魔法あるから、ちっとくらい無茶しても平気だろ。変な力貰って調子こいてる奴らにも、誰が王なのかしっかり理解させてやるぜ」
「ご、ごめんなさい、もう二度と逆らったりしないから赦して……」
両手の指をボキボキと鳴らした後、凶獄君は五味君を殴ろうと腕を振りかぶる。
そこに、スッと剣を差し込んできた人が居る……『剣聖』の十六夜君だ。
「よせ凶獄、これ以上やる必要は無いだろ」
二人に緊張が走る。
学校に居るときは、この二人が接触しているところはほとんど見たことが無かった。それは、お互い何か意識していたモノがあったのかも知れない。
いま異世界にて、ギフト序列1位、2位として対峙する。
「ふん、オレは前からお前が気に食わなかった。見逃してやってたのは、お前を半殺しにしたら、さすがに周りがうるさいだろうと思ったからだ」
「凶獄らしくないな。そんな理由でオレを見逃していたなんて」
「ああ後悔してるぜ、もっと早くぶっ飛ばしておけば良かったとな」
いま異世界組最強を決める戦いの火ぶたが切って落とされた。
十六夜タクヤ Lv19:01剣聖 剣士
HP 1958
MP 00
SP 362
STR 255
VIT 250
AGI 290
DEX 326
INT 73
LUK 108
(周りには見えてない。取得スキルは省略)
僕らにはステータスが分からないが、十六夜君はギフトだから、恐らくレベルは19前後。『剣聖』のギフトは、ステータスも通常より高いとされているけど、それでもレベル43の凶獄君にはかなり劣っているだろうと思われる。
これはステータスの差を、戦闘技術で埋められるかどうかという戦いになるはず。
「ぬうんっ」
五味君との時は素手だったけど、さすがに十六夜君相手には不利と考えて、しっかり剣を持って戦う凶獄君。
しかし、十六夜君は『剣聖』だ。剣の勝負では凶獄君に分が無いように思えるが……。
「くっ……!」
十六夜君は必死に凶獄君の攻撃を捌いている。決して余裕のある表情では無い。
十六夜君の剣技は、すでにBランク冒険者、下手をすればAランクにも届こうかというレベルだと聞いたけど、さすがにまだレベルが低くて、力を存分に発揮出来ていないようだった。
いくら『剣聖』の剣技が凄くとも、両者のステータスの差はいかんともしがたいものがあるだろう。技術だけで無く、それに伴うステータスを持っていないと、真の力は発揮出来ないみたいだ。
「領域!」
何か十六夜君がスキル技らしきモノを発動させる。すると、凶獄君の鋭い攻撃に手一杯だった十六夜君の剣裁きが、少し軽くなったように感じた。
「衝撃波!」
十六夜君の剣が居合いのようにビュンと空を斬って横になぎ払われると、衝撃波のようなモノが凶獄君へと飛んでいく。
それを事も無げに軽く剣で払う凶獄君。それは剣術などでは無く、圧倒的なステータスに依存した、ポテンシャルのみの剣技だ。
「けっ、ちまちました技使いやがって! オレはしゃらくせー技なんていらねー。オレの力だけで最強になってやる」
凶獄君が戦闘本能の塊なら、十六夜君は運動神経の塊だ。この世界では運動神経なんていうモノより、ステータスやスキルが物を言うわけだが、きっと運動神経のみでも十六夜君はかなり戦えているだろう資質だ。
そして凶獄君も、スキルが一切無い山賊という職業を選んだが、持ち前の戦闘本能だけで充分補えるほどの資質があるだろう。
二人の激しい攻防は続く。
「ふん、どうした? 持久戦ならオレの方が有利だぜ」
凶獄君が挑発する。
そうなのだ、凶獄君はただでさえ圧倒的な体力で有利な上、スキル技を主として戦っている十六夜君は、スキルポイントが無くなるとその技を使うことが出来なくなってしまう。
『剣聖』の本質は、自分の力を何倍にもするその凄まじき剣技だ。それが封じられれば、十六夜君に勝ち目はまず無いだろう。
「そら、そら、おらあっ」
山賊の特性として、ステータスが通常戦士職の1.5倍になっているということは、剣撃の速さ強さが通常のレベル43が振るうそれよりも、遙かに速く、強いということだ。
まさにポテンシャルの暴力。
じりじりと十六夜君は追い詰められ、もはや勝負あったかというその時……
「残影!」
一瞬、十六夜君の姿が、みんなの目の前から消える。
「なっ……どこだっ!?」
「5連斬っ!」
死角から現れた十六夜君が、一気に凶獄君へと詰め寄り、もの凄い速さの剣撃を叩き付ける。それを必死に打ち弾く凶獄君だが、最後の一撃を捌ききれずに、十六夜君の剣先が凶獄君の首元へと突き付けられる。
クリティカルだ。本気ならクビが飛んでいた。
「勝負あり、でいいよな」
十六夜君の言葉に、凶獄君はギリギリと歯を噛みしめているようだった。
凄い戦いだった。
「十六夜、お前スゲーなー!」
「さすが序列1位、あの凶獄君に勝っちゃうなんて」
「凄い戦い見させてもらったぜ」
まさにステータス自体で優劣が決まるわけでは無いことを、僕たちに教えてくれた戦いだった。
しかし、初めて負けた凶獄君のいまの心境は如何ほどだろうか。悪い方向に行かなければいいけど……。
「最後全然見えなかったんだけど、一体何したんだよ?」
「そうそう、いつの間にか消えて、なんかスゲー連続で斬ってたよな」
「5連斬だから多分5回斬ってたんだろうけど、まるで見えなかったよ」
みんなにはやっぱり十六夜君の姿は見えていなかったようだった。
でも僕には、影のように素早く動いたその姿と、最後の5斬撃がハッキリ見えていた。
あんな凄い技なのに、どうして見えたんだろう……。
ギフト序列頂上対決は、『剣聖』の十六夜君に軍配が上がったけど、きっとほかのギフト達も引けを取らない強さなんだろうと思う。
訓練の終わりに、ちょっとケチが付いた感じになってしまったけど、正直良い刺激になった気がする。
僕らはこういう世界に来てしまったんだ。こんな程度では済まないトラブルも、この先たくさん待ち受けているのだろう。
いよいよ明日、僕らのこの世界への旅立ちが始まる……。
◇◇◇
きわどい勝負だった……。
一瞬の隙を突いて、かろうじて勝つことが出来たが、まさに薄氷の勝利だった。
次はこんなに上手くは行かないだろう。そう十六夜タクヤは思う。
『超成長』……なんという恐ろしい能力なのか。あの早さでこれからも成長していくとなると、果たしてどこまで立ち向かっていけるのだろうか不安になる。
山賊という職業も、恐らく高レベルになっていくほど、1.5倍のステータス差というのが顕著に出てくるはず。
本来山賊は、戦闘スキルやスキル技が無いため、その圧倒的ポテンシャルを活かして『盾役』を担うことが多いと聞く。ステータスが1.5倍というアドバンテージがあっても、結局のところ、様々なスキルを付けた他の戦士職には敵わなくなってくるからだ。
しかし、それは限られたレベルの中での話だ。
戦闘スキルやステータスアップのスキルはたくさん有るが、習得する数には限界がある。ランクの上限もSSSまでだ。
それに対し、『超成長』と『レベル限界突破』を持つ彼には限界が無い。天井知らずで全能力が上がっていくのだ。
レベル100までならば、きっと山賊はそれほど強力な存在では無い。しかし、レベル200になったら? レベル300になったら?
恐らく、技術ではそのポテンシャルの差を埋められなくなってくるだろう。
10倍の成長速度で、その圧倒的なポテンシャルを上げていくだろう凶獄に対し、道を外さないようただただ十六夜タクヤは祈るだけであった。




