第12話 各自のチート能力と模擬戦
異世界へ来て今日で13日目。
僕たちの訓練も終わりが近くなり、クラスのみんなもかなり実力を付けてきた。
かくいう僕も、ちゃんと成長していた。なんと、剣術Eと体術Eの戦闘スキルが付いたのだ!
普通はこんなに早くは習得しないというので、僕は弱いと言っても、異世界人の性質は持っているらしい。自主訓練した甲斐があった。
まあほかのみんなは、とっくに戦闘スキルも能力スキルも、そしてスキル技も、大量に習得してるんですけどね。
戦闘時の僕の動きも、あの最初の絶望的なまでの体捌き、重心の移動すらまともに出来なかった頃と比べると、かなり進歩の形跡が窺える。
ほか、これまでは魔力操作が上手く出来ず、全く魔法が出せなかったんだけど、今はなんとか使えるようになった。
一応僕は魔法剣士だからね。魔法が出来ないと話にならないのだ。
因みに、魔法剣士は一部の属性魔法を使用出来るほかに、自らの剣に魔法の効果を与えることが出来る。『魔法付与』と言って、例えば火の属性を剣に与えれば『炎の剣』となる。それで斬り付ければ、斬撃の追加に燃焼のダメージを与えることが出来るのだ。これこそが魔法剣士の本領発揮と言える。
攻撃魔法より魔力操作も簡単で、短い詠唱で使用出来るのも強み。そして一度効果を掛ければ、しばらくは魔法付与は続くので、戦闘時の大きなアドバンテージとなる。
ただし、威力は第一階の属性魔法にも遙かに及ばないけどね。あくまでも剣撃の追加ダメージと言ったところだ。
訓練で戦闘技術も上がったけど、クラスのみんながそれぞれ授かった能力もだいぶ開花してきた感じ。訓練の合間を見て、自分の能力を色々検証したりしていて、いくつか能力の判明してる人が居る。
『巨像製作』の香山さんは、木材から巨大な人形を作っていた。ウッドゴーレムと言うらしく、かなり強そうな感じだった。
『武器召喚』の蛭田君は、立派そうな銃を召喚して撃っていたんだけど、この世界の魔力で武器が強化されてるのか、地球で撃つよりもだいぶ威力が強い気がした。
『超能力』の伊東さんも、なんかいろいろ能力持ってて凄い。ちょっとした便利屋みたいだ。自分で放った矢を自在に曲げて命中させたりもしてた。
そのほか、斬野君の『次元斬』はどんなモノでも斬っちゃう超強力な能力だし、『肉体強化』の猛田君は、巨大な両手持ち剣を、片手でタクトを振るかのようにぶん回していた。
そんな怪物揃いの中、圧巻だったのは『賢者』の小鳥遊さんで、軽く放ったように見えた光属性第一階『剣雨招来』が、ちょっとした災害のようだった。光と闇の魔法は、ほかの属性と比べて一段強力と言うけど、それにしても凄い威力だった。むしろ、威力のコントロールが問題になりそうだ。
先日のトロールでは大変だったけど、みんながちゃんと落ち着いていれば、きっと問題無く対処出来ていたのだろう。経験というモノの重要さがよく分かる出来事だった。
オルドルさんも言っていたが、経験しておいて良かったのかも知れない。
「なんと……! き、君は聖剣が出せるのか!?」
オルドルさんが驚いたのは、『聖剣進化』の進藤君。侍である彼の両手に、突然『聖剣』と呼ばれる名剣が2本出現したのだ。正確に言うと、彼が手に持っている間だけ、普通の剣が聖剣へと進化するらしいのだけど。
「そうだ、良いタイミングなので聖剣についても説明しておこうと思う」
オルドルさんの聖剣講義が始まる。詳細は以下の感じだった。
この世界には『聖剣』と呼ばれる、神の力が宿った剣がいくつか存在するらしく、それはどんな名剣よりも力が上で、聖剣を持つだけで戦闘力が2ランクも3ランクも上がる。その能力は、強力な特殊技を使えたり、使用者の能力を向上させるバフ効果があったりと様々だ。
そして聖剣にもいくつか種類があって、通常の聖剣と、特に力の強い7本の聖剣『七聖剣』と、最高の力を持つ4本の『至宝四聖剣』があるとのこと。進藤君が出現させた聖剣は『氷閃剣』と『明睡朧剣』というモノで、通常の聖剣らしい。
ほか、剣では無いが、神の力が宿った『聖武具』というのもあって、それは弓矢や杖だったりするモノだとか。
現在確認されている聖剣・聖武具は、4人のSSSランク冒険者がそれぞれ持つ、『聖魂回剣』『首落としの剣』『爆狼牙』『解放の杖』と、グランディス帝国将軍が持つ『極刃天破剣』、これらは全て通常の聖剣だ。
七聖剣は2本だけ所持者が確認されていて、世界最強と言われてるディフェーザ国の鬼将軍が『剛羅斬魔剣』、SSランクの冒険者が『紅輝聖剣』を持っているとのこと。このSSランク冒険者は、七聖剣の1本を取ったことで、一躍有名になったらしい。
至宝四聖剣に至っては、法王国で管理されている『不滅なる神剣』しか所在が確認されてなかったが、最近になり、行方不明だった『冥霊剣』が帝国内で確認されたとのこと。
因みに、至宝四聖剣の残り2本『虹惺宝剣』『深淵に至る剣』と、七聖剣の残り5本『真理の剣』『星煌閃剣』『神麗剣』『巨光剣』『断罪の剣』は、未だ存在を確認されてないらしい。
以上の9つが所在の確認されている聖剣・聖武具だったけど、ここで新たに2本出現したとあっては、オルドルさんが驚くのも無理はない。
このほかに、魔剣という呪われた剣もあって、これは聖剣以上の力を持っているモノが多く、七聖剣よりも上の魔剣も存在するとか。ただし、呪いによって様々な災厄が付いてきて、命に関わるような事態にもなるらしい。なので、使い手はほとんど居ないとのこと。
「君たちはなんとも頼もしい存在だな。この世界の救世主というのは本当だった」
まだ能力が分かってなかったり、隠したりしてる人も居るけど、確かに、魔神へ対抗出来る存在は、僕らだけなのかも知れない……え、僕は入れちゃダメ?
「さて、今日は君たち同士で模擬戦をやって貰う。ただし、ギフトなどの能力は使ってはダメだ。お互い能力を使いあったら大変なことになるからな。今まで訓練で覚えた戦闘技術のみで戦って欲しい。では適当な者とペアを組んで戦ってくれ」
クラスメイト各々が相手を見つけ、模擬戦を開始する。どうやら仲の良い者同士が組んでいるのがほとんどのようだ。別に殺し合いするわけじゃ無いしね。
僕は『戦士の心得』の五味君と組んだ。五味君からペアを申し出てくれたのだった。
因みに、前衛職じゃない人たちは、弓矢や魔法等それぞれの練習をしているようだ。僕も五味君との模擬戦を開始する。
「おりゃっ2連撃!」
五味君はいきなりスキル技を出してきた。その剣撃の勢いに、僕は軽く吹き飛ばされる。
えっ、スキル技使っていいの?
「へへへ、覚えたてで誰かに使ってみたかったんだ。お前には実験台になって貰うぜ。それもう1回行くぞ、2連撃!」
五味君がスキル技を連続で使ってこようとする。しかし、なんだろう……五味君の剣筋がちょっと見える。気のせいか、アイレさんと訓練してる時より、僕の調子も良い感じだ。
五味君のスキル技が発動する瞬間、その剣筋から身体をずらして躱す。
「なっ、なんだとっ!」
僕に躱されて驚く五味君。
何故かモンスター相手にはあれほど動かなかった僕の身体が、この模擬戦ではウソのように軽くなっている。
考えてみれば、僕がアイレさんに教わっていた剣術は、モンスター相手よりも、対人戦において最大に効果を発揮する。それは、騎士団が使う剣術は主に対人戦を目的としていて、冒険者が使う剣術はモンスター戦を目的としているからだ。
僕の調子が良いのは、まさかそれが理由?
「なんだコイツ、なんで、なんで当たらない?」
五味君の剣筋が手に取るように見える。ただ、僕の方も決して余裕があるわけでは無く、躱すだけで精一杯ではあるが。
「テメエッ生意気だぞ! 『戦士の心得』!」
思うように行かずにカッとなった五味君が、能力を発動した。確か、戦士としての各ステータスが1.5倍になり、剣術、体術等の戦闘スキル上昇、腕力等の能力スキル上昇、そして様々なスキル技も使えるようになる能力だ。簡単に言うと、スキルがたくさん使える山賊みたいな感じだ。
「喰らえっ3連撃!」
凄まじい速さの剣撃が僕に放たれる。うっすらと剣筋は見えたが、全く避けることが出来なかった。
模造刀とはいえ、強烈な痛みが僕を襲う。
「ご、五味君、能力は使っちゃダメだってオルドルさんが……」
「悔しかったらお前も能力発動してみろよ、この無能力者が!」
そう吐き捨てて、五味君は向こうへ行ってしまった。
やられてしまったけど、自分がこんなに戦えるなんて思いもしなかった。ちゃんと前に進めてる。王女だってあんなに期待してくれているんだし、もっと自分の力を信じてみよう。
◇◇◇
訓練終了後、自主練の前に時間があったので、宮殿にある資料室にちょっと寄ってみた。
ここには各国の詳細からスキルや魔法の説明、装備品や道具の種類、各モンスターの特徴等まで、色々なことが羊皮紙に書かれて保存されている。もし調べたいことがあれば、自由に使っていいと言われていた。
間もなく僕らには旅立ちの時が来るので、この世界のことをもうちょっと調べに来たのだった。
資料室に入ると、先客が来ていた。クラス一小柄で、黒髪のショートボブにカチューシャを着けている、眼鏡を掛けた女の子、『知識の書』の倉橋さんだ。
目の前に本を積み上げ、何やら熱心に読んでいたようだ。
「どうしたの? 調べ物でもあるの?」
僕は倉橋さんに話し掛けてみた。
「私の能力『知識の書』って、見たり聞いたりしたことを全部覚えていられる『完全記憶能力』っていうモノなんです。カメラアイとか言われてたりもします。なので、毎日資料室に来て、文献とか図鑑や報告書を見たり読んだりしてるんです」
す……すげー! そんな能力あるんだ?
僕らは一応この世界の文字が読めるとは言え、頭で一度変換されてから理解するので、スラスラと読むのは結構難しい。それを、倉橋さんはかなりのスピードで読んでいく。
恐らく、頭で変換されているのでは無く、この世界の文字を全て覚えてしまっているのだろう。完全記憶能力というくらいだから、それくらいは容易そうだ。
「倉橋さん、凄い能力を持っているんだね」
僕は素直に感心してしまった。
「本気でそう思ってるの?」
あれ? なんか思っていたのと反応が違う……。
「私の能力って、要するに記憶力がいいだけなんですよ。こんなの戦闘で役に立つと思います? 自分の知識や記憶力が役に立つかもと思って魔道士になったけど、魔法の巧拙とはあまり関係の無い能力でした」
確かに、記憶力と魔力操作は関係なさそうな感じはするけど……。
「私、いつも鈍くさいって馬鹿にされてるんです。魔法も全然上手く出来ません。以前廊下で、勇木君が謎の文字を読めるだけの能力じゃないかって馬鹿にされてましたけど、もし私の能力が記憶力がいいだけだなんて知られたら、どんなに馬鹿にされることか……バレたらどうしようって、私あの時本当に怖かったです」
そうか……倉橋さんも、僕と同じように悩んでいたんだな。いや、この世界に来て悩んでない人なんて、きっと一人も居ないんだ。
「倉橋さんは自分の能力に不安があるんだろうけど、素晴らしい力だと思うよ。こんなに努力してるんだし、必ず役に立つときが来るって僕が保証するよ。なんて、僕に言われても安心出来ないかも知れないけど」
「ありがとう勇木君。ごめんね愚痴っちゃって。能力を授からなかった勇木君はもっと大変だよね」
おーこの子はオブラートがある。とてもイイ子だ。
「あと少しで訓練も終わる。お互い頑張ろう」
そう告げて、僕は自主訓練へと向かうのだった。
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倉橋友美の家庭は酷く貧乏ではあったが、姉弟が多く、とても円満な状態だった。しかし、倉橋友美の学校での生活や交友関係は、とても円満とは言えないモノだった。
倉橋友美は子供の頃から、周りによく気を使う子だった。それは別に気立てが良かったとかでは無く、生来の気の弱さから来る対人恐怖症の裏返しだった。
コミュニケーションもあまり上手では無く、仲間外れにされないよう、いつも他人の顔色を窺って生活していた。
行動がかなり鈍くさく、みんなで何かをしようとする時に、いつも出遅れてしまう。そんな倉橋友美を小馬鹿にするかのように、周りの子供達はイヤなことを全て押しつけていた。
頼まれごとを断れないうちに、いつの間にかただ便利にこき使われている存在に。それでも、仲間外れにされるよりはだいぶマシだと倉橋友美は思っていた。
中学になっても、そして高校に上がってもその傾向は変わらない。
高校一年生のある日、校舎の裏側でとんでもないモノを目撃してしまう。大柄な生徒が、小柄な生徒に暴力を振るっていたのだ。
見ていたことを大柄な生徒が気付き、自分の方にのしのしと歩いてくる。特に何も言われはしなかったが、すれ違いざまにギロリとにらみ付けられた時は、心底恐怖を感じた。
倒れている生徒に駆け寄り、大丈夫ですかと声を掛けると、その生徒は「このことは誰にも言わない方がイイよ、あいつに目を付けられたら危ないからね」と無理矢理微笑みながら返したのだった。
高校二年生になり、その二人とは同じクラスとなった。すでに学校内では有名になっていた、凶獄力也と勇木ヒロだった。
凶獄力也のグループ達が勇木ヒロをいじめるのはともかくとして、何故かクラスメイト達も積極的に勇木ヒロをいじめていた。まるで自分のことのように、倉橋友美はそれらの行為に怯えていた。
いつか自分もターゲットにされるのではないかと……。
臆病な自分は、ただひたすら目を瞑っていることしか出来なかった。勇木ヒロに対して、心の中で謝っているだけだった。
それにしても、ここまで迫害されているというのに、勇木ヒロには悲壮感がまるで無かった。むしろ、ムキになっているのは、凶獄力也達のようにも思えた。
そんな勇木ヒロに対し、自分が密かに憧れていることに、今はまだ気付かない倉橋友美だった……。




