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女神たちには敵わない -The goddess's march-  作者: まるずし
序章 異世界への招待
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第11話 ヒーロー

「ヒロ君は『ヒロ』だからヒーローだね」


「じゃあスーちゃんはヒーローに助けられるお姫様だ」


「やだー、あたしもヒーローと一緒に戦うーっ」


「ええっ、戦うの?」




「あーここ、あたし達が見つけた場所なのにーっ」


 大きな岩山らしき上に、数人の少年達が乗って遊んでいる。高さは5mほどといったところで、子供でも頑張れば登れる程度の斜面になっている。

 スーは木登りや岩登りが大好きで、この岩山も最近見つけたお気に入りの場所だった。


「誰のモノでも無いよ。みんなで仲良く遊べばいいんだよ」

「ヒロ君がそう思っても、あいつら絶対あたし達を入れてくれないよ」

「その時は諦めよう。ねえそこのみんなー、僕たちも上がっていいかい?」


 上から返事が返ってくる


「ダメに決まってんだろ、バーカ」

 そう言って小石を投げてくる。


「あーっ! あいつらもう絶対ゆるさない!」

「待ってスーちゃん、ケンカはダメだよ」

「石投げられたのに? ヒロ君はおとなしい子が好きなの?」

「そういうこととかじゃなくて、スーちゃんが危ないことするのが心配なんだ」

「う~っ、あいつら今度会ったら、石投げられる前にぶん殴っちゃうんだから!」

「やめてよスーちゃん……」



 次の日、また岩山の上は、少年達に占拠されていた。


「どうせ仲間に入れてくれないに決まってる!」

「だめだよスーちゃん!」


 スーが勢いを付けて岩山を登りに行く。あっという間に登り切ろうとした瞬間、足元の石が崩れ落ちた。

 それほど急な斜面では無かったが、勢いよく踏み外してしまったため、スーは非常に危ない体勢になって転がり落ちてくる。


「きゃあああっ」

「危ないっ」


 ……


 スーはヒロの上に落ちていた。どこかに頭をぶつけたのか、ヒロは額から血を流していた。


「ゴメンね、ヒロ君ゴメンね、ヒロ君死なないでっ」



 ヒロは軽く額を切っただけだった。無事だと分かって、ほっとするスー。


「ゴメンねっ、あたし、おしとやかな女の子になるね」


 大粒の涙を流しながらそう誓うスーだった。




 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 僕らの異世界生活も11日目。


「今日は大型モンスターとの戦闘訓練をする」


 オルドルさんの今日の訓練説明が始まる。


「モンスターは大きさで強さが決まるわけでは無いが、実際間近で大型モンスターと対峙すると、その迫力に気圧されて実力が出せないことがある。今回はそれに慣れる訓練をしたい」


 確かに、僕らは大きさによって危険度の判断をしがちだ。しかし、巨大なモンスターよりも圧倒的に危険な中型のモンスターが多々居るらしいので、思い込みには注意したいところ。



「すみません、見学しても宜しいですか?」


 なんと、フィーリア王女が僕たちの訓練を見に来た。もちろん護衛のアイレさんも一緒だ。


「王女様の強い願いとあって許可しましたが、今日の訓練は危険ですので、どうか離れて御見学下さい」


 オルドルさんがとても困った顔をして応対している。

 王女は僕の方をちらりと見て微笑んだ。ひょっとして僕のことを見に来たんだろうか? いやさすがにそれは自意識過剰というものか。


 と思ってるところに、王女がスタスタと僕の元に歩いてきて、にっこりと微笑みながら話し掛けてきた。


「勇木様の実戦を、一度見てみたいと思っておりましたの。お邪魔になりましたら申し訳ないのですけれど」


なんと、本当に僕を見るのが目的だったとは……。


「邪魔だなんて、そんなわけ無いですよ。せっかく来て頂いたので、王女様に良いところを見せられればいいんですが」

「無理なさらないで下さいね。いつも通りになさっていて下さいませ」


「なんか王女様って勇木の所ばっか行ってね?」

「んー勇木がダメすぎて心配してるだけだろ」

「勇木のヤツ、勘違いして調子に乗らなきゃいいけどな」


 なんか男子の視線が痛い。


「王女様、勇木がダメすぎて心配なのは分かりますが、そんな無能なヤツのそばに居ると危険ですよ」


 今のは五味君だ。最初にパーティー組んだ縁からか、五味君とは一緒に訓練することが多い。


「いえ、勇木様にお力が無いなんて私は思っておりません。きっと皆様と同じように、素晴らしいお力を持っていると信じています」


「ねえ、ひょっとして王女様って勇木みたいなのがタイプなんじゃない?」

「えーそんなこと有り得る?」

「無いよねー、勇木は無いよねー」


 女子のひそひそ話が聞こえてくる。僕にもよく分からないんですよ、この状況。



「あーゴホン、じゃあ訓練を開始するから移動するぞ」

 オルドルさんが場を取りなして、僕たちは移動することになった。


「行こう、勇木君」


 あれ、小鳥遊さんが僕の手を取って進み出した。


「私もご一緒します」


 今度は王女がすぐ隣に来た。なんだこれ。


「へえええええええええええ、あんた意外にモテるねー」


 斜め前に居た猪熊さんまで、僕をジトッと見ながら腕組みをして毒づいてきた。

 一体何が起こってるのかよく分からないまま、僕たちは実戦場へと移動した。



 ◇◇◇



 実戦場に着くと、そこには身の丈4m近くありそうな、大きな人型モンスターが居た。トロールと言われる巨人で、大型種としては比較的遭遇率の高いモンスターらしい。

 確かに、オルドルさんに言われた通り、その巨大な体格に気圧される。凄い威圧感だ。大型種というのを全く知らない状態で遭遇したら、恐怖で戦闘にならないかも知れない。


「コイツは身体こそ大きいが、知能は低く、動きも遅い。大型種の中でも一番弱い部類だろう。普段は棍棒などの単純な武器を持つことが多いが、今回は騎士達で武器を破壊しておいたから安心しろ。まずはコイツに慣れることによって、大型モンスター相手に臆さない心を培ってくれ」


 オルドルさんの指示によって、僕らはトロールの周りに移動する。戦士などの前衛職はトロールから近い位置に、魔法職は少し離れた位置に陣取り、包囲網を作り上げる。

 僕は見学している王女の近くに待機した。せっかく僕の実戦を見てみたいとまで言われたのに、王女から遠くで戦ったら申し訳ないかなと。

 隣には五味君が来た。


「王女様の前だからっていい格好しようとすんなよ! ちゃんとやれよな」


 王女には、すでに情けない姿を散々見られてる次第です。今さらそんなことはしないですよ。



「いいか、トロールの動きは遅いから、近づいてきても慌てるな。トロールの死角に居るヤツから順番に攻撃していくんだ。魔法職は魔力を高めて魔法発動の準備をしておけ。これだけは言っておく、絶対に絶対に包囲網は崩すな」


 クラス40人でトロールを囲み上げる。どう見ても過剰戦力だが、これも万が一があってはならないということの配慮だ。少し離れて騎士達も待機している。

 オルドルさんの指示通りに、トロールの背後に位置した攻撃陣が、順番に斬りつけていく。巨体の迫力に少々ビビりながらも、全員上手くこなせたようだ。もちろん僕も出来た。ちょこっと撫でたような程度の斬りつけだったけど。


 いいんだ、この訓練の目的は、大型モンスターに慣れることなんだから。

 今は倒せなくたって、いつか僕だってトロールとちゃんと戦える日が来るはずだ……と信じてる。



「みんな上手いぞ。もう一度言うが、包囲網は崩すなよ。持ち場を離れることによって、大きく戦況が変わることもあるんだ。怖がらずとも、コイツの動きは充分遅いんだ、絶対に焦るな」


 戦闘は順調に進み、少々可哀想ではあるが、真綿で首を絞めるようにトロールは弱らされていく。

 そろそろトドメに魔法職の出番かというところで、トロールが最後の悪あがきとばかりに、地面の土を勢いよく掬って僕が居る方向にばらまいた。もちろん、盾でちゃんとブロックして、次の行動に備える。この程度はさすがに大した攻撃じゃ無い。


 ところが、何か油断したのか、五味君は土をまともに被っている。ビックリしてバタバタと土を払っているところを、トロールは見逃さなかった。


「ウオオオオオオオオン!」


 ひときわ大きな声を上げて、のしのしと五味君の所に向かうトロール。もちろん、充分慌てずに対処出来る速度だ。

 しかし、突然のことにビックリしたのか、五味君はパニクってしまった。


「うわあああああああああああああっ」

「あっ、馬鹿者っ、包囲網を崩してはダメだと……!」


 トロールに背を向けて一目散に駆け出す五味君。その時、後ろに待機していた魔道士にぶつかってしまった。

 体勢を崩した女子魔道士の元に、のしのしとトロールが近づいていく。


「きゃああっ」


 今度はそれに驚いた女子が、準備していた魔法を暴発させてしまった。それはあらぬ方向へと飛んでいき、なんと待機していた騎士達の前に着弾してしまう。

 緊急の状況で、騎士達は出鼻をくじかれてしまったのだった。包囲網を突破したトロールに、クラスのみんなもすっかりパニックになってしまっている。


「まずいっ、あっちは王女様だ!」


 トロールは一直線に王女の所へと向かっている。もちろんすぐそばにアイレさんが居るが、だからと言って助けに行かない理由にはならない。

 僕は全速力でトロールを追う。動け、僕の身体!


「3連斬!」


 華麗なジャンプからアイレさんの剣技がトロールに炸裂した。首元を3回斬りつけ、トロールの首が落ちかかっている。

 良かった、アレならトロールは即死……。


「オオウーッ」


 アイレさんを強引に払いのけ、3歩ほどトロールは歩く。なんという凄い生命力なんだ。

 目の前には、恐らく足が竦んで動けないのであろう王女が居る。


「オーッ!」


 断末魔の声と共に、トロールは腕を振るった。


 ボゴオンッ!



 ……



「勇木様っ!」


 僕はなんとか王女を突き飛ばし、トロールの拳から救うことが出来た。

 代わりに、僕にトロールの拳は命中した。あばら骨が折れたかヒビが入ってる感じはするが、内臓は大丈夫そうだ。

 トロールはすでに死ぬ直前だったし、かなり腕力は落ちていたのだろう。本来ならこんな怪我じゃ済まなかったかもな。

 ……んーなんか前にもこんなコトあったような……。


「勇木様、大丈夫ですか、しっかりして下さいませ!」

「僕は大丈夫です王女様、無事で良かった」

「すまぬ勇木殿っ、モンスター戦に不慣れな故、まさか首を落としてもあそこまで動けるとは思わなかった」


 トロールに払われたアイレさんも無事だったようで、こちらへ駆け寄ってきた。


「ごめんなさい、わたくしが見学したいなどと言ったから……」

「いえ、王女様のせいではありませんよ。どうか気になさらずに」

「有り難うございます、勇木様はわたくしの命の恩人です」

「いや、そんな大げさな……」


 僕はちょっと照れてしまった。役立たずだった僕が、ようやく力になれた気がする。


「勇木君っ、大丈夫!? 回復(ヒール)!」


 小鳥遊さんが顔を青くして駆け寄ってきて、すでに詠唱を終えていた回復魔法を掛けてくれた。

 お、おおっ、これすごいなー! みるみると痛みが引いていき、まだ10秒も経っていないのに、すでに完治してる気がする。


「ありがとう小鳥遊さん。さすが賢者の回復魔法だね、もう完全に治っちゃったみたいだよ」

「良かった、本当に良かった……」




「包囲網を崩したのは誰だ?」

 オルドルさんが険しい顔をして聞いてくる。


「オレが見た時は勇木のところが崩れてたぜ」

「あー確かに。勇木のところがぽっかり空いてたな」

「勇木だよ、そこが崩れて、一気にみんなバラバラになっちゃったもん」

「無能なヤツは参加するなよな。みんなが危険になるだけだぜ」


 どうやらみんな一気にパニックになってしまって、よく状況を見てなかったらしい。わざわざ僕が五味君のこと言わなくてもいいだろうし、言っても果たして信用して貰えるかどうか。


「今回は我々も充分に注意したつもりだったが、不慮の事故が起こってしまった。だがむしろ、結果的には良かったのかも知れない。実戦とは、かくも色々な事態が起こるというコトだ。これを良い教訓として欲しい」



「おい勇木、お前がボケッとしてたから、トロールに砂掛けられたんだぞ」


 五味君が僕に近づき、小声で僕に不服を言ってきた。完全に言い掛かりだけど、何も証明出来ない。まあ全員無事だったから良しとしよう。

 隣に居た小鳥遊さんが、僕の服の袖をチョイチョイと引っぱってくる。


「勇木君、憶えてないと思うけど、私、勇木君に助けられたことあるんだよ」


 あーそれでなんとなく見覚えがあったのか! って、なんのことか全然思い出せないけどね。



「ではあとはいつも通りのモンスターと戦闘をして、今日は終わりとする」


 見学を終えて宮殿へと帰る王女達を横に、僕たちは通常の訓練作業へと移るのだった。



 ◇◇◇



 あの少年、迂闊だ!


 対大型モンスター戦闘訓練中、アイレは当然勇木ヒロを中心に見ていたが、そのすぐ横に居た少年が、すでに勝負あったとみて一瞬トロールから目を離していたのだ。

 そこにトロールの攻撃が来たのはたまたまだが、事故というのは得てしてそういう時に起こるモノ。突然砂を被らされて、少年はビックリしている。視界も恐らく狭まったであろう。


 戦闘中にて相手から目を離すなど言語道断、教えるまでも無い基礎中の基礎だ。完全に慢心が起こした油断である。

 戦闘経験のまだ少ない少年少女達にとって、それは致命的な失態となった。


 自分も経験不足な対モンスター戦にて、思い込みによる不覚を取った。

 王女が無事だったのは奇跡だ。勇木ヒロには感謝してもしきれない借りを作ってしまった。

 今後はその借りを返さねばならないだろう。


 それにしても、原因を作った少年は何も反省していないように見える。勇木ヒロも、仲間からの誤解を訂正しないようだが、本人がそう決断したなら、アイレはそれを尊重する。



 そろそろ宮殿へ戻ろうかという時、件の少年がアイレ達のそばにやってきた。


「王女様、無事で良かったですよ。だから最初に言ったでしょ、あんな無能なヤツのそばに居たら危険だって!」


 さすがの王女も、この言葉には不快な表情をしたが、この世界に無理矢理喚び寄せてしまった手前、なんとか笑顔を取り繕う。


「少年よ、今日のことは仕方ない部分もある。だが、そなたのその心構えでは、いつか大変な事態を招くことになるだろう。肝に銘じておくが良い」

 アイレはそう言うのが精一杯だった。


「ナニ言ってんですか、そんなこと勇木に言ってやってくれよ」


 文句を言いながら去って行く少年を、アイレはただ見つめるだけだった……。


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