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女神たちには敵わない -The goddess's march-  作者: まるずし
序章 異世界への招待
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第10話 誕生日

「ねえパパはまだあ~?」


「もうすぐ帰ってくるわよ。麗子と約束したんだもんね」


「うん、きょうはあたしのたんじょうびだから、パパといっしょにおいわいするの!」


「でもそろそろ食べ始めたらどう? お腹空いたでしょ?」


「パパがくるまでぜったいまつの!」


「はいはい、じゃあもう少しだけ待ちましょうね」


「うん! パパとおいわい! たのしみーっ! はやくパパかえってこないかなー」




 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 今日も無事クラスの訓練を終えた。

 実は今回初めてホーンラビットを倒せた。これは凄いことですよ!

 身体の動きが鈍いのは相変わらずだけど、自主練で足裁きと型をしっかりやってるおかげで、効率の良い動きが出来るようになった。そのおかげで、やっと戦闘らしき形になってきたのだ。

 まあほかのクラスメイトは、すでにコボルトやゴブリン狩りまくってるんですけどね。


 1つ問題が起こって、組むパーティーは毎回メンバーチェンジして、誰と相性が良いのかお互い検討してたりするんだけど、僕が足手まといすぎて、誰も入れてくれなくなっちゃったんだよね。僕が居ると、レベル上がるのが遅くなるって。

 そういうわけで、持ち回り的にあちこちに無理矢理入れて貰ったんだけど、その先でどういう扱いになったかはまあご想像にお任せ致します。



「みんな見違えるほど強くなってきて頼もしい限りだ」


 相変わらずオルドルさんは、熱く僕たちを指導してくれている。


「通常の戦闘なら、すでにみんなは充分やっていける実力になっている。あと少し訓練すれば、問題無く冒険者として活動することが出来るだろう。ただ1つ、ダンジョンというのがあってだな」



迷宮(ダンジョン)』。講義ですでに教えて貰ってるけど、この世界にはダンジョンと呼ばれる迷宮洞窟があるらしい。そこは地上とは違った法則が働いていて、例えば地上のモンスターは生殖行為などで個体を増やすけど、ダンジョンでは勝手に生まれてくる。これを自動ポップと言って、迷宮内の魔瘴気が絶え間なくモンスターを作り出してるとのこと。

 そして、ダンジョン内は地上には居ない特別なモンスターばかりだとか。

 宝箱等も自動再生されているので、何度でも取れることが多いらしい。一度取ると、しばらく時間を空けないとダメみたいだけどね。


 モンスターの性質も違って、地上のモンスターは倒しても消えないけど、ダンジョンのモンスターは魔瘴気から出来ているため、倒すと消えてしまう。この時、そのモンスターの核となっている魔石が残る。

 地上のモンスターの場合は、倒すとそのまま死体が残るので、魔石を取り出さないといけない。あと、種類によっては食べられるモンスターなんかも居る。


 因みに魔石の取り出し作業はすでに実習済みで、これはみんな問題無く取り出せている。魔石は売ることが出来て、大きさや質によって価格が違ったりする。場合によっては一攫千金も可能らしい。

 そのほか、基本的にダンジョンのモンスターは地上には出てこないけど、極まれに地上へと溢れ出てくることがあるらしいとか。



「本来はダンジョンの訓練もしたかったのだが、残念ながら簡単に行ける距離には無くてな。南に1つあるが、馬車で丸一日掛かりの移動になるし、帰りの移動も入れると三日も時間を使ってしまう。さらに言うと、ちょっと事情があって、すぐには入れないんだ」


 へー、そんなダンジョンがエーアストの近くにあるのか。すぐには入れない理由ってなんだろ?


「そういうわけでダンジョン訓練は出来ない。各自挑戦する時は充分に注意するように。出来れば、最初は優秀な冒険者と一緒に入って欲しいところだ。場所によっては地上に一気に戻れるゲートがあったりもするが、基本的には自力で帰ってくるしか無いので、余力の計算は絶対に怠るんじゃ無いぞ」


 確認されているダンジョンは、エーアストの南と北に1つずつ、フリーデンの北、ファーブラの北東とパスリエーダの南、そして帝国のそばにある巨大迷宮。冒険者は大体みんな帝国の巨大迷宮に行くらしい。

 あと公国の北西に、1年前にダンジョンが生成されたんだとか。ダンジョンは大抵自然発生するんだけど、新しくダンジョンが生成されたのは約200年ぶりで、まだほとんど探索が進んでいない状態らしい。

 それと、カイダのすぐ南にあったダンジョンは、ダンジョンマスターと呼ばれる存在が封印されて、今は廃洞となっているみたいだ。


「よし、本日の訓練は終了。王国へ帰るとしよう」



 ◇◇◇



 クラス訓練が終わった後は、恒例の自主訓練。今日は夕食の時間が早かったので、食後に訓練を開始。

 おっとその前にアイレさんに報告を。


「今日初めてホーンラビットを倒せました! アイレさんのおかげです」

「あ、ああ、そうか、それは良かったな……」


 なんかアイレさんが一生懸命苦しそうな笑顔を作っている。なぜ?




 いつも通りアイレさんに稽古を付けて頂いたあと、ふと涼しい風に当たりたくなって、中庭に出てみた。

 するとそこには先客が居た。確か『幸運体質(ラッキーガール)』の華城さんだ。艶やかな長い黒髪で、とても綺麗な容姿をしている割りには、クラスではあまり目立っていない子だ。一部の男子からは熱狂的な人気があるみたいだけどね。

 背は僕と同じ165㎝くらいか、僕よりほんの少し高いかも知れない。

 すでに辺りは暗くなっているんだけど、なんでこんな所にいるんだろ?


「んー? 勇木君か」

「こんな所に1人で居るなんて、なんかあったの?」

「別にー。そういや君、自主練やってるんだって?」

「うん、いま終わって涼みに来たところ」

「君、頑張ってる割りには全然強くならないのな」


 ここにもオブラートを必要とする人が。

 一応ホーンラビット倒せるくらいには伸びてるんですけどね!


「君、能力貰ってないでしょ。それなのに、よくもまああんなに頑張れるね。君が世界救うなんて、どう考えても無理でしょ。そんなの他の強い子達に任せて、適当にやればいいのに」

「何があるか分からないし、いざという時に誰かを守れる力を付けておきたいんだ。世界を救うのは無理でも、誰か1人くらいなら救えるかも知れないし」


 何か少し驚いた顔をして僕の方を見る華城さん。


「ふーん、君なかなか大したもんだね。なんか私、ちょっと無駄に日々を過ごしちゃったかも」

「僕はただ、周りに迷惑を掛けたくないだけだよ。そういえば、こっちに来てから何日経ったんだろう。日にちが分からなくなっちゃうよね」

「んー今日で10日かな? ……あ、なんだ私、あとちょうど1ヶ月で誕生日だ。こんな時に誕生日なんて言うのも笑っちゃうけど」

「そんなことないよ。こんな時だからこそ、おめでたい時はちゃんとお祝いしないと。そうだ、誕生日には僕が何かプレゼントするよ」

「ふふふ、期待しないで待ってるよ」


 気持ち良く夜風に涼んだあと、僕らは中へと戻っていった。




 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




「あなた、昨夜はどこに行ってたの? 携帯も何も繋がらないし……。あの子ずっと待ってたんですよ」


 結局、華城麗子が待っていた父親は帰ってこなかった。

 華城麗子は何がなんでも、絶対に父親と一緒に誕生日パーティーをやりたかった。

 普段からほとんど父親は家にはおらず、華城麗子はいつも寂しい思いをしていた。そんな父親が、誕生日には必ず一緒にパーティーをしてくれると約束してくれたのだ。


 何日も前から華城麗子は自分の誕生日を楽しみにし、当日は母親と一緒に料理も作った。父親に食べて貰いたかったからだ。

 自分への誕生日プレゼントなど全く興味無かった。ただただ父親と一緒に居たかっただけだった。


 当日父親は愛人と浮気をしていた。娘の誕生日など、愛人との情事に比べれば大して重要でも無かった。ちょっと豪華なプレゼントでも買って帰れば、娘の機嫌などすぐに直るだろうと。

 父親は華城麗子に大きな箱に入ったプレゼントを渡した。華城麗子は開けずにそれを捨てた。



 華城麗子の家はとても裕福だった。だから好きな物を買って貰えた。

 確かにお金には不自由しなかった。でも幼少時からいつも父親の居ない生活をしていた。

 自分が不幸だと悲観したことは無いが、幸せとも思ってなかった。

 お金と家族、それは天秤で量れるモノでは無い。ただ華城麗子には優しい父親が必要なだけだった。

 父親の浮気癖はそれ以降もずっと続く。華城麗子には分からない問題だが、すでに夫婦関係も破綻していたのかも知れない。


 そんな家庭の影響で、華城麗子は男性を全く信頼出来なくなった。自分の身体に対する男子の目も嫌いだった。それなのに、女子からは「身体で誘惑してる」とか「思わせぶりな態度で気を引いてばかりいる」とか陰口を叩かれた。もちろん、そんなことした憶えは全く無い。


 男はみんなバカだ。

 女もバカだ。



「そういえば勇木ヒロ、あれほど学校でいじめられてきたのに、あんな強い気持ちを持っている人だなんて知らなかった」


 同じクラスに居たのに、全然気付かなかった。まあ興味が無かったと言えばそれまでだが。

 中庭から戻ったあと、ベッドに転がって先ほどのことを思い出す。


「誕生日、か……」


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