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女神たちには敵わない -The goddess's march-  作者: まるずし
序章 異世界への招待
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第9話 訓練場で

 僕の通常訓練と自主訓練の二重生活が始まって3日目。


「お稽古のお邪魔は致しませんので、少し見学してても宜しいでしょうか?」


 なんと僕とアイレさんの居る訓練場にフィーリア王女が見に来た。なんで?


「王女様、ここは貴方がおいでになるような場所ではございません。お部屋にお戻り下さいませ」

「あらアイレ、勇木様との二人っきりの逢瀬に私は邪魔だと言うのね」

「お戯れを……」


 んーなんだろ、この微妙な空気。


「分かりました。ただ、勇木殿の集中が削がれるため、少し離れて御見学下さい」

「ありがとうアイレ」



 王女は壁際にちょこんと立って、僕らの稽古を見つめている。正直なところ、やりづらくて仕方ない。

 王女には僕の弱いところなど見せたくないのに……。


 言うまでも無くアイレさんもとても綺麗な女性で、そんな素敵な女性二人に僕の一挙手一投足が注目されていると思うと、恥ずかしくて堪らない。

 せめて、もうちょっと強くなってから見に来て欲しかった。


 自主練の成果だけど、始めた時は成長は絶望的かと思ったけど、そんなこと無かった。ちゃんと一日一日進歩の形跡は見えた。

 まだ3日目の今日だけど、足裁きに至ってはだいぶ改善されている。剣の型も自然に出せるようになってきた。

 継続は力なり。この調子で頑張っていこう。


 それにしても、なんでこんな僕の訓練なんて見に来たんだろう。あまりにも戦力にならなくて心配なのかな?



「勇木様はご自分のお力に不安があるようですが、成長には差があります。わたくしはあなたが強く成長してくれると信じているのですよ」


 う~んその根拠の無い期待はなんだろう。

 でも期待なんてほとんどされたこと無いから素直に嬉しい。絶対なんて言えないけど、王女の期待に少しでも応えられるよう頑張らなくちゃ。



 ◇◇◇



 王女がそう言うならと請け負った訓練指導ではあるが、アイレ・ヴェーチェルはこの時間を心地良く思っていた。

 とても不思議な少年だった。何故か心が惹き込まれる。かつてこんな気持ちになったことは無かった。

 先ほど王女に逢瀬と言われて、不覚にも胸が高鳴ってしまったほどである。


 それにしても、この少年はどうしてこうも熱心なのだろうか。

 まだ3日ほどの稽古ではあるが、才能が無いのは一目瞭然だった。それは努力で埋められるようなレベルでは無いように思える。

 時折、何か鋭い動きはするのだが、結局は何も出来ないで終わる。


 ひょっとして、この稽古は私に会うための口実なんだろうか……?

 アイレにふとそんな想いがよぎる。


 アイレは、自分の男性からの評価がまんざらでもないことを知っている。告白を受けたのも一度や二度では無い。

 しかし、さすがにこの少年と自分とではどうだろうか。相手は異世界人だし、そもそも聞けば5つも年下だとか。

 確かに顔は嫌いなタイプでは無い。どうにも母性本能をくすぐられる。心も純粋だし、好かれて悪い気はしない。


 だが私はこの国を守る騎士だ。王女の専属護衛でもある。

 彼を傷つけないように断る上手い方法は無いだろうか。

 いや待て、別に恋仲になったとて、何をはばかることがある。いっそ私が恋人として、付きっきりで指導してやれば、上達も早いのでは無かろうか。


 ……。


 ふと自分がとてもバカな妄想をしていることに気付いて、アイレは思考を現実に戻した。



 ◇◇◇



 見学していた王女が訓練場を後にしてからしばらくして、ふと訓練場の入り口を見ると、1人の女子がこちらを覗くように立っていた。『超感覚(スーパーセンシティブ)』の猪熊さんだ。うっすらと色の付いたセミロングの茶髪を、片側だけ結ぶサイドアップに纏めている。

 猪熊さんの姿にアイレさんも気付き、一度稽古を止める。


「ふむ、ちょっと休憩しよう」


 一息入れることになって、アイレさんは訓練場から出て行った。何か僕たちに気を遣ったのかも知れない。


「えーと、あの……何か用かな?」


 正直、猪熊さんとはあまり喋ったことは無い。この世界に来てからも、いま初めて話し掛けたくらいだ。


「あんたさー、ホント真面目だね。実戦の戦闘見たけど、あんなに弱かったら何しても無駄じゃ無いの?」


 直球過ぎて心が痛い。もっとオブラートに包んで欲しい。


「この世界にはどんな可能性があるか分からないから、簡単に諦めるわけには行かないよ。魔神と戦う時だけ強くなるとか、そういうことも有り得るわけだし」

「何も能力持ってないくせにデカいコト言うねー」


 オブラート! オブラートを是非よろしく!


「まあそういうあたしも、大した能力じゃ無いんだよね。『超感覚(スーパーセンシティブ)』なんて言うからどんな凄い能力かと思ったけど、ただ目と鼻と耳がいいだけだった。犬とか猫じゃ無いんだから、こんな能力でどうしろって言うのよ」


 ○○3にあやまれ あやまれ!


「でも勇木見てちょっと自信付いた。能力無くて戦闘力0でも、こんなに頑張ってるんだもんね。どんなヘボ能力でも無いよりマシだわ。ありがとう勇木、じゃーねー!」


 この世界で初めて僕が役に立ったようで何よりです……




 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 猪熊リンは、人付き合いが少々苦手だった。それは幼い頃から、父親の仕事の関係で転校ばかりを繰り返していたので、敢えて積極的に友達を作ることをしなかったからである。

 男勝りなところもマイナスだった。


 その父が亡くなり、生活苦から母親の実家があるこの町に引っ越ししてきた。今後は転校の心配は少なくなるが、やはりこの学校でも親しい友達は出来なかった。

 猪熊リンにとって唯一の友達と言えるのは、幼い頃一緒に遊んだ子だけだった。その子とも、結局引っ越しで離れてから友達関係は終わってしまった。


 実は猪熊リンは、転校早々、白鳥絵里香から自分のグループに入らないかと誘われていた。

 白鳥絵里香はクラス女子のヒエラルキートップで、読者モデルをやった事もあるほど綺麗な少女であった。猪熊リンも顔立ちは綺麗に整っていたし、自分のグループに入れてやってもいいと思ったのだ。男に色目を使いそうも無いさばさばしたところにも、白鳥絵里香は好感を持った。


 しかし猪熊リンは「あなたのことよく知らないし、あんまりグループとか好きじゃ無い」と断ってしまったのだ。転校続きで、女子の上手なコミュニティの作り方を知らない故だった。断り方も悪かった。

 それ以来、二人の関係は悪化してしまい、結果、転校1ヶ月経過しても、未だにクラスから浮いたままだった。


 勇木ヒロを見に行ったのは、そんな理由からだったのかも知れない……。


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