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本日ようやくテイクアウト専門のサンドイッチの店、「ブランシェ」が開店!
店名は聖獣に名付けたものである。
聖獣の何でもアリな能力というか――ぶっちゃけ、ご利益にあやかりたくて、ブランシェの名前に決めた。
バゲットのサンドイッチの具は、ベーコンとレタスにトマトを挟んだもの。もう一つはローストビーフと生玉ねぎを挟んだものを作った。ベーコンの方はオーロラソース、ローストビーフはガーリックソース。
サイドにフライドポテトとオニオンリングを三百グラムずつ、それから両方を半分ずつ入れたハーフも準備済みである。
価格設定はベーコンサンドが銅貨四枚、ローストビーフサンドが銅貨五枚。フライドポテトは銅貨二枚、オニオンリングは銅貨三枚、ハーフは銅貨二枚とお得感を出した。
サイド用の紙袋には保温効果の付与をつけている。開封すれば保温効果は消えてしまうが、それでも最初のうちは温かい状態で食べられるのだ。商品を陳列するケース内には、時間停止の魔道具を設置という徹底ぶり。
宣伝の為に冒険者ギルドのギルド長ダグラス、そして副ギルド長アレン。賃貸でお世話になった受付のステラ、商業ギルドでは受付のルシアとタバサ、物件購入でお世話になった執務官のダニエル。
錬金術師クーパーさんと、薬師のビショップさんに差し入れ済みだ。
魔道具の件で色々なアドバイスを貰ったお礼に、魔道具店の店主エイマーズさんには、宣伝というより下心を含めたもの。
今後も良い関係を続けていきたい人物の一人。
意外にも高評価を貰ったので、徐々に口伝えで広がってくれるのを待つのみ。
店は冒険者の活動時間に合わせて、午前九時に開店。品切れになったら閉店するといった感じである。
最初の一週間は午前九時から、夕方十八時まで頑張るしかない。
ブランシェは私の手作りのクッションの上で丸くなり、窓際で日向ぼっこをしている。ブランシェ用に作ったクッションは全部で二つ。二階の部屋で寛ぐ為のものと、店舗内で寛ぐ用だ。
羽毛の柔らかさが気に入ったらしく、ブランシェはクッションの上で眠っている。
もうじき開店時間の九時だ。
開店時間が近づくにつれて、心臓がばくばくしてくる。
時計の針が九時ちょうどを指すと同時に、店内のドアが開く。
「アンジェリア、開店おめでとう! 早速サンドイッチを買いに来たよ」
店内に入って来たのは、副ギルド長のアレンと解体師をしているアルフの二人だった。
「いらっしゃいませ、開店当日に来て下さって有難うございます」
「ギルド長と一緒に貰ったサンドイッチが美味しくてね。こうして使い走りをさせられたよ」
「俺は話を聞いて興味を持ったんだ。是非とも食べたくてな」
アレンはギルド長の分と一緒に、ローストビーフサンドを二つと、サイドのフライドポテトとオニオンリングの二つも購入してくれた。銅貨十五枚のお買い上げである。
そしてアルフはサンドイッチ二種と、ハーフを購入で銅貨十一枚!
「お買い上げ有難うございます!」
「そのうち行列店になりそうだから、早目に買っておかないとな。頑張れよ」
二人は買ったサンドイッチを大切に抱えて店を出ると、彼らと入れ違いに別のお客が三人連れで来店してきた。
よくよく三人の顔を見たら、冒険者ギルドの地下にある酒場の用心棒をしている二人と、ホールで給仕している顔見知りのコリンナである。
「いらっしゃいませ」
「久しぶりね、アンジェリア。ステラから話を聞いて来ちゃった」
「俺は副ギルド長から教えてもらって……その旨いって聞いた」
「俺も」
アレンとステラ効果!
まさかこんなに早く、他の人に伝わっているとは思わなかった。
「あたしはコレかなぁ……それとハーフ」
コリンナはベーコンサンドとハーフで銅貨六枚のお買い上げ。
連れの二人はローストビーフサンドとフライドポテトで、それぞれ銅貨七枚ずつのお買い上げである。
その後も入れ違いで客の出入りが続く。
男性はローストビーフサンドを選び、女性はベーコンサンドが選ばれた。腹持ちの関係だろうか。見た目的にもローストビーフサンドの方がボリュームは高い。
サイドの方はハーフが女性に圧倒的な人気のようだ。
男性はフライドポテトを選ぶ傾向にある。やはりボリューム感と腹持ちが関係ありそう。
そして有難い事に午前中で、全ての商品が完売したのだ。
「売り上げが銅貨八百五十枚! 銀貨八枚と銅貨五十枚の換算になるのか……ボロ儲けな気分」
コストがかかっているのはパンの材料費と野菜、それと調味料くらいである。
肉は自前で仕留めたものだし、光熱費はゼロ――逆に良心が痛みそう。
店は週三日のみ営業する予定で、明日はのんびりと過ごすつもり。
『あら、もう完売したのね』
ブランシェが毛づくろいをしながら話しかけてきた。
「冒険者ギルドの人へ差し入れして良かった! こんなに早い時間に完売するなんて思わなかったよ」
『誰か来るわ……』
「え? あ! 看板を下げてなかったかも! どうしよう……」
予想外にも早く完売した事で浮かれていたらしい。
店内のドアが開くと、魔道具の店主エイマーズさんが中に入ってきた。
「あれ? もしかして完売しちゃった?」
「ごめんなさい……看板を下げるのを忘れていたの」
「そっか、残念だな」
「実は予備を残しているから、安心して下さい」
「いいのかい? ローストビーフサンドを三つと、フライドポテトとオニオンリングを一つずつ」
私はカウンターの奥へ向かって作り置きしていたものを出す。
ついでにくず肉で作ったミートパイを丸ごとシートに包んでから、紙袋の中へ入れた。
これは先日のお礼である。
「合計で銅貨二十枚になります。それと試作品も入れておいたので、試食の感想が貰えたら嬉しいです」
「試作品? いいの?」
「はい、その代わり感想を教えて下さいね?」
「勿論だよ! 君の作る料理は美味しいからね。妻も喜ぶよ」
私はエイマーズさんから代金を貰い、彼を出口まで送り届けると、ついでに下げそこなった看板を店内へ片づけた。クローズの看板をドアに飾って施錠する。
これで本日の営業は終了。
「ブランシェ、お昼は何が食べたい?」
『キッシュが良いわね。それとクロワッサン』
ブランシェはバゲットよりも、初めて食べたクロワッサンの方が好きらしい。
「了解」
私は店内の照明を落とすと、ブランシェと共に二階へ向かう。
二階の居住エリアは広々とした空間だ。
調理は主に一階の改造した使い勝手の良い厨房で行い、二階は温め直す程度に留めている。空間収納に保管しているから、それも不要ではあるけれど。
ブランシェは人型になると、ダイニングテーブルの椅子へ腰を降ろす。
『アンジェリアの作る食べ物は、どれも良質な魔力が込められていて美味なのよ。きっと更にリピート客が増えるわね』
「ブランシェにそう言って貰えて嬉しい! 昔から料理を作るのが好きだったから。こうして誰かに食べて貰えるのは有難いって思う。一人だと味気ないし……」
私はブランシェの前に、カットしたキッシュとクロワッサンを入れた籠を置く。
キッシュはベーコンとホウレンソウである。
他にはキノコ類とチキンの具もストック済みだ。
空間収納には魔獣肉が大量に保管されている。
明日の休日はストック用のパンを焼きながら、色んな料理を作り置きするのも良い。調理済みのバゲットサンドは五百以上もストックしているが、バゲット自体は千を超えている。
これを作り過ぎと思うなかれ。
週三日でバゲットの消費は百五十本の計算だ。一月で六百本のバゲットが消費される。サンドイッチにするだけじゃなく、私の食事用のパンとしても消費されるのだ。
パンは作れるうちに作っておいた方が良い。大量に作っても、空間収納は時間停止だから腐る心配がないのだ。
それとやっぱり、バゲットとクロワッサン以外のパンも作り置きしたい。
バターロールにコッペパンも食べたいし、ブリオッシュも捨てがたいと思っている。
バタールも良いかもしれない。
とうもろこしがあれば、生地に練り込んでも美味しいだろう。それから煮込みに時間がかかりそうな物や、フルーツパイといった甘味の焼き菓子も作っておきたい。
色々な料理のメニューを頭に思い描いていると、目の前に突然一通の手紙が現れた。
差出人は先ほど店に訪れたエイマーズさん。
もしかしてミートパイの感想だろうか?
封筒から便箋を取り出して手紙に目を通す。
そこには次の営業日が知りたい事と、可能であれば取り置きをして欲しい事が書かれていた。最後の文面にはミートパイの販売を希望との事らしい。
「エイマーズさんって、見た目を裏切る大食いなのかな?」
エイマーズさんは長身だが、とても細身である。所謂もやしっ子という体つき。魔道具の工房に入り浸りのせいか、病的のような青白い顔色をしている。
初対面の時、こちらが心配する程だった。
本人は至って元気で、食べても太りにくい体質な上に、病的な程に青白い顔色も生まれつきらしい。
それでも取り置き希望の量が予想外である。ローストビーフサンドが五つ、ベーコンサンドが三つ。その上、フライドポテトとオニオンリングまで購入したいようだ。ミートパイが商品化されるなら、ホール二つ!
奥さんと子供二人の四人家族でシェアをするにしても、注文する量が多すぎるだろう。エイマーズさんの子供は、まだ七歳と五歳だと聞いている。
その年齢なら二人で一つのサンドイッチで十分――というか、当たり前だがシェアするのは家族だけじゃなかった。
私は面識がないけれど、魔道具工房の従業員達の分が含まれているのだろう。店主が従業員の食事を用意するのは珍しい事ではない。個人で営業している魔道具店への弟子入りの人数は三人程度。
ゆくゆくは独立して店舗を構えたい人は、魔道具専門のアカデミーで本格的な技術を学ぶ。エイマーズさんの工房にいる人は、彼の作る魔道具が好きで、どうしてもと弟子入りを希望したらしい。
これほど高評価をしてくれるエイマーズさんは、お得意様になってくれそう。ミートパイの商品化を望んでいるとは、それこそ想像していなかった事である。
そもそも自分が食べたくて作った為、ミートパイについて価格設定を考えていなかった。
「くず肉で作ってるから、原価はかかっていないし……小麦粉にバターと卵、それとトマトの料金を考えて設定するか」
ミートパイの大きさは直径十八センチ。
サンドイッチよりも高めになるが、それでも良いのだろうか。
私は空間収納から封筒と便せん、それから筆記用具を取り出してエイマーズさんに返事を書く。
他言無用を条件にサンドイッチの取り置きは可能な事と、次の営業日を綴った。店は週に三日だけ営業する事と、ミートパイのホールは一つ銅貨六枚と書き足す。これは裏メニューにして、一見さんには販売しない旨を追加する。
手紙を書き終えると封筒の中へ入れ、封蝋をして閉じると同時にエイマーズさんの元へ手紙を送った。
テイクアウト専門のサンドイッチ店「ブランシェ」を開店して、もうじき二か月を過ぎる。
開店の初日――当初は閉店時間までに完売したら良いなと、そんな気持ちだったにも拘わらず、午前中に商品が完売するというサプライズが起こった。
営業は週三日で月水金。
開店時間は午前九時で、大体は開店の二時間後に完売。
お得意様となっているエイマーズさんは、営業日には必ずサンドイッチとサイドメニューに加え、ミートパイをホールで二つ購入してくれる。エイマーズさん一人による売り上げで銅貨五十四枚!!
それから冒険者ギルドのギルド長ダグラスからも、定期購入の案を頂いている。
ローストビーフサンド十個、ベーコンサンド十個、フライドポテト五つ、オニオンリング三つ――全部合わせて銀貨一枚と銅貨二枚!!
この二人が超高額の売り上げに貢献してくれている。
エイマーズさんは午前十一時に来店してくれるが、ギルド長ダグラスの注文に至っては、私が冒険者ギルドへ商品を直接届ける形にしている。ギルドの酒場でも、バゲットの注文が届いた。
酒場で提供されているパンは黒パンが主流で、他にはカンパーニュかライ麦パンと種類が乏しい。
確かに黒パンよりもバゲットの方が美味しいと思うが、さすがに酒場の分まで量が増えてしまうと、一人で作るには手が足りなくなる。それなら酒場の料理長ガイに作り方をレクチャーした方が無難だろう。
食事提供をしている時間帯であれば、丸形のプールが妥当だろうか。
大きさも黒パンと変わらないので、作り方さえマスターすれば解決するが、問題点として黒パンを作るよりも予算が嵩む。材料には砂糖と塩、それからバターも使用しているので、コスト的にどうなのか聞いてみないと分からない。
この案件は保留にしておこう。
――と、開店二か月分の売り上げは、銅貨二万八十二枚!!
銅貨百枚で銀貨一枚の計算をすると、銀貨二百枚と銅貨八十二枚になる。月末に商業ギルドへ売り上げの三パーセントを支払う。前回それを支払いに行った際、商業ギルド長ゲイリーに口座開設を勧められた。
私は空間収納のスキルを持っているし、そこへ保管しているから心配無用です!
他人の手に資産を預けるリスクは大きい。
いきなり理不尽な経済制裁の口座凍結、資産没収といった事案を目にしている。これは地球上での話ではあるけれど、キャッシュレス導入は個人的についていけなかった。
海外から来日した旅行者は面倒な両替の手間がかからず、スムーズに会計が出来る利点はある。国内で暮らしている人間にとって、確かにキャッシュレスによる支払いは楽な部分もあると思う。
それと同時にハッカーによる横領や、ネット銀行の口座から残高が引き出されるといったハイリスクは免れない。
生活に最重要な金融機関は、根本的な所は時代に合わせずにアナログを徹底して欲しかった。これは私個人の考えであって、世間が便利だと思う方へシステムが変われば良い。
異世界へ転生した現在の私は、空間収納へ資産を保管できるので無問題である。自分のスキルほど安心できるものはない。いつでも出し入れが可能だし、残高も表示されるのだ。
商業ギルド長には申し訳ないが、迂闊に口座開設して資産を奪われたら困る。
世界共通で良からぬ者は必ず存在するものだ。
こういう事に関しては、自分が自覚する以上に神経質過ぎる方が良い。
他人を信じられないというよりも、人は必要以上な資産を持つと人格が変わる。そして悪知恵を働く人間は、他人から奪う事しか考えないものだ。
現在の私が平和に暮らせているのは、聖獣ブランシェが傍にいてくれるからだと思う。
それと知り合った人たちが人格者という事も大きい。
人間関係が恵まれているだけで精神面が安定する。
日本での生活はそこまで悪くなかったけれど、金銭面と人間関係にストレスを抱えていたのは確かだ。それに比べ、この世界は精神的なストレスを感じない。
どうして異世界へ転生したのか分からないが、せっかくなので第二の人生として楽しもうと思う。




