第7話 お盆編 1 迎え火
お目に留めていただき、光栄です。
今回から「お盆編」です。
迎え火とともに、新たな出会いが始まります。
どうぞお付き合いください。
夏休みに入り、友達と図書館やカフェに集まったり、母親の手伝いをしたりしているうちに、あっという間に八月も半ばになっていた。
夕方、母親とお手伝いのカヨさんが、わちゃわちゃしながら精霊馬と精霊牛を作り仏壇に供えた。
ホームズはきゅうりの精霊馬が気になって仕方がないようだ。
「ホームズ、食べちゃダメだからね」
と念を押し、ホームズを抱いて庭に出た。
迎え火は、最近では勇助の役目になっていた。
迎え火を焚くと、煙がゆらゆらと立ち上る。
虫よけの煙も混ざっているのか、庭一帯はうっすらと白く霞んでいた。
その時だった。
庭先に猫らしき影が座っているのが目に入った。
(あれ? 猫?)
勇助は目を凝らす。
そこにいたのは、ホームズによく似た猫だった。
(え……ホームズ? いや、これホームズだし……)
勇助は腕の中のホームズと、庭先の猫を何度も見比べる。
(似てるねー……似すぎてるねー……絶対なんかある)
パニックになりそうな状況だが、ここ最近の出来事のおかげで、勇助はそんなことでは動じなくなっていた。
(オレも少し余裕がある人間になってきたかなぁ)
……なんて思った数秒後だった。
「うわぁぁぁぁ!」
思わず叫んでしまった。
そこには、ホームズに翼が生えたような猫がいた。
腕の中のホームズがその猫に向かって、
「にゃー」
と鳴くと、ホームズに似た猫も、
「にゃー」
と鳴いた。
「声までそっくり……」
驚いていると、頭上から声がした。
「ここにいましたか。探しましたよ」
勇助は声の方を見上げた。
そこには、超絶ヨーロピアンで銀髪ロン毛な天使がいた。
天使は舞い降りると、そっとホームズにそっくりな猫を抱き上げる。
そして、ふと勇助へ目を向けた。
「え?」
勇助も思わず、
「え?」
お互いの目が合った。
…
……
………。
天使は我に返り、すぐに仕事モードへ切り替える。
「失礼しました。こんばんは、少年。
私は天使フフフエル。
お盆に帰省を望まれた日本の信者の皆さんを
引率して参りました。
決して怪しい者ではありません」
にこり。
と話してきた。
その時、家の中から母親が
「勇助? ドシタ?」
と呼びかけてきた。
「あ、大きいガ、じゃなくて!大きい蝶々がいて、ビックリしただけだから!」
と、咄嗟に返事をした。
流石に天使を蛾とは言えなかった。
天使は下唇に右人差し指の第一関節を当てながら、勇助の顔をまじまじと見てくる。
「あまり驚いてないのですねー。
あぁ! なるほど! そういうことですか!」
にこり。
勇助は
「え、ナニナニ?」
と聞き返すが、天使はフフフと笑う。
「今回、引率には私のアシスタントのミケさんも
付いてきてくれたんですが、迎え火を察知したら
突然居なくなってしまったんですよ。
ミケさんも子供に会いたかったんですね」
にこり。
勇助は腕の中のホームズを見る。
ホームズも、目の前の猫をじっと見つめていた。
「……こども?」
「にゃーん♪」
正解と言わんばかりに、ミケが鳴く。
天使は抱いているミケを、勇助が抱いているホームズへ近づける。
「にゃー♪」
「にゃー♪」
お互いの顔をぺろぺろと舐め始めた。
感動の親子の再会にほっこりした。
天使は「そうそう」と言わんばかりに、
「ちょうど良いタイミングです。
勇助さん、会っていただきたい方がいます」
と、にこりと微笑んだ。
「シニョーラ、どうぞこちらへ」
そう言うと、初老の外国人の眼鏡をかけた淑女が現れた。
「こちら、イタリアはラツィオ州からいらしたマルゲリータ・キワミーノさんです」
にこり。
(……き、きわみーの? …………!)
「えぇ! マンマのご先祖様?」
天使と淑女は同時ににこり。
「さすが察しがいい。マルゲリータさんは、
日本に住むお孫さんに会いたいという
希望があり、今回は特例でご一緒しております」
にこり。
その時、
「勇助?」
と、後ろから母親の声がした。
勇助が振り向くと、割烹着姿の母親が不思議そうに立っていた。
勇助は母親と天使を小さく何度も見比べる。
しかし母親には見えていないようで、勇助を不思議そうな表情で眺めているばかりだった。
「勇助? ドシタ?」
と言うと、縁側から庭へ降りてきた。
「火ハ大丈夫?」
と迎え火の前にしゃがみ、手を合わせる。
「モウ消エソウダカラ、パードレ帰ル前ニ食器運ンデクレル?」
「あ、うん。火を片付けたらすぐ行くね!」
それを聞くと、母親はにこりと笑い、家に入っていった。
天使の方を見返すと、淑女が
「イボンヌ……」
と、切なそうに見つめていた。
勇助は思わず、
「えっと……ここだとなんだから、オレの部屋わかるなら待っててもらえる?」
と伝えると、天使は
「承知いたしました」
にこり。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
"おやしろまん"の世界を少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
勇助たちの物語は、これから少しずつ広がっていきます。
また次のお話でお会いできたら幸いです。




