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第6話 七夕

お目に留めていただいて光栄です。


第6話です。

試行錯誤の七夕編


最後まで読んでもらえたら嬉しいです。

休み明けのホームルームが終わると、

同級生の鞍須謎人くらす めいと君が話しかけてきた。


「ねぇ、其道くん」


「ん?」


「休みにさ、家族でイタリアン行った帰りに其道町で変な奴を見たんだけど」


勇助はギョッとする。


「変な……奴?」


「うん。なんか派手で金髪な変な格好してて下駄の音が凄いんだよ!それにさ」

鞍須は大きく腕を広げた。

「バカでっかいモサモサの猫も一緒にいたんだよ」


勇助の背中を冷たい汗が伝う。

(まさか……見られてた!)


「其道くん、地元だよね? 見たことある?」


「ちょ、ちょっとわかんないなぁ……」


なるべく平静を装って答えた。


すると鞍須はスマホを取り出した。

「面白そうだったから写メったんだけどー」


勇助は思わず(はい、これ終わった……)


「見てよ、これ」


画面には夜の住宅街だけが写っていた。

人影も、大きな猫も、どこにもいない。


「変だろ? 金髪の奴、確かに目の前にいたのになぁ」


「……怖っ!(いろんな意味で)」


勇助は胸をなで下ろした。

(写ってない……良かったァ……)


授業が終わり、帰宅すべく学校の坂道を下っていた。


今朝の衝撃は、さすがにヤバかった。

(見られてた……オレだと分かったらヤバ死ぬ……。

 って写ってないって……あれも神通力なのかな…)


そんなことを考えながら坂道を下っていると、

七月だというのに暑苦しい、七夕で見る彦星みたいな青い古風な服を着た青年が、空を見上げていた。


「えぇーまたぁ?やばいってぇ!」


そして辺りをキョロキョロ見回している。


勇助は少し不思議に思いながらも、見て見ぬふりをして通り過ぎようとした。


「あ!もしかして!おにいちゃん!」


勇助は聞こえないふりをして歩き続ける。


「おにいちゃんって!」


勇助が振り返ると、青年は満面の笑みを浮かべた。


「やっぱ見えんの?」


勇助は思わず固まる。


「見えてるよね!」


勇助は不気味過ぎて

「うぉぁぁ!!」と叫びながら逃げ出した。


……が。


「お、にいちゃん!」


目の前にいた。


「うぉぁぁぁぁ!!」と反対方向へ走る。


……が。


「だから待ってって」


また目の前にいた。


勇助は仰け反って尻もちをついた。

(な、何だこの人!)


青年はお構いなしに、

「ごめんごめん。ちょっと聞きたいことがあるだけだから」


と話し出す。


「き、聞きたいこと?」


「そうそう! 晴れ間を探してんのよ」


「晴れ間?」


「織姫っちと会う約束なんだけどさ。星が見えなくてさぁ、上がれないんだよね」


(なんだこのチャラい奴……)


勇助は唖然とするばかりだった。


「それなら雨雲レーダーで確認すればいいじゃん」

勇助は思わず口にした。


「……あまぐも?」

彦星は顔を近づけてくる。


勇助は思わず「ひぃー!」と叫ぶが、

青年はお構いなしに「レーダー?」とさらに詰め寄ってきた。


「これだよ! これ!」


勇助はスマホの天気アプリを開き、雨雲レーダーを見せた。


「何処に行きたかったの?」


と、勇助が尋ねると、

「星が見えるところ」と青年はあっけらかんと言う。


「彼女さんと待ち合わせじゃないの?」


「そうそう! 天の川で待ち合わせ!」


(どうしよう……話が通じない……)


青年はそんな事関係なくグイグイ聞いてくる。


「おにいちゃんさぁ、星見えるとこ何処ら辺になる?」


勇助は雨雲レーダーで数時間予測をすると、其道町あたりが雲がかかっていないことを確認した。

「たぶん…其道町あたりが晴れてると思う」


「え? マジ! サンキューね! って其道町って何処?」


「電車で三十分ぐらいかなぁ」


「あ、だめだ。詰んだわ」


「え?」


「一応さぁ、牛飼いなわけ。牛いないと様にならないっしょ」


(マジで意味わかんないんだけど!)


話していると、だんだんこの非日常を勇助は受け入れ始めてきた。


そこでやっと勇助は、

「もしかして……彦星さん?」


青年は嬉しそうに、

「そうそうそう! 知ってんじゃん! イェーイ!」


と勇助の肩をバンバン叩いてきた。


「イタイイタイイタイ!って、ここ日本だけど?」

勇助が思わずツッコむ。


「気にしない気にしない! もう千年以上前からメジャーじゃん!」


彦星はヘラヘラ笑って言った。


「ちょっとさ、牛を放牧し過ぎちゃってさ。回収に来たら、ここだったって話なわけ」


「牛連れて会いに行くの?」


もう勇助は、この状況に違和感を覚えなくなっていた。


「織姫っちのおやじさんにもさぁ、『ちゃんとしてます!』ってアピっとかないとね……って、今年も無理かぁー!」


(この人、ちゃ、チャラい……)


彦星は空を見上げた。


「曇ってるし、牛連れて電車は無理だしさ」


そう言うと勇助の方を振り向いた。


「去年も、その前も会えてないんだよね」


「はぁ……そうなんだ」


彦星は勇助へ身を乗り出した。

「かわいそくない? かわいそくない? 可愛い奥さんに何年も会えないって、かわいそくない?」


「ってオレに言われても分かんないよ」

勇助は戸惑いながら返答する。


「だよねー、そーだよねー」

彦星は大きくうなずく。


「人様の恋慕なんて知ったこっちゃないよねー。それに外国人だし」


そう言うと、また空を見上げて大きくため息をついた。


「はぁー、やだやだ。世知辛いなぁ」


勇助は慌てて首を振った。

「いやいや、外国人とか特に関係ないし、大切な人になかなか会えないのは、大変だなぁって思うよ!」


彦星は勇助に振り返ると、嬉しそうに顔を近づけた。


「だよねー! 分かってるぅ!」


「ち、近い近い!」

勇助が思わずのけ反る。


彦星はお構いなしに笑う。

「俺が見えるって人間は、特別なわけ! 恋路のお手伝いしてくれる奴にしか見えないんだよねー!」


彦星は勇助の額を指差した。


「手伝ってくれるよね、少年!」


「えぇ?! って、手伝うって言っても、何すればいいの?」


勇助が尋ねる。


「あ、俺も分かんないんだよねー」


彦星は悪びれる様子もなく笑った。


「えぇーー!?」


勇助は思わず大声を上げる。


「晴れ間を探してあげることは出来るけど……」


少し考えてから勇助は続けた。


「人に見えないなら、電車にも乗れるんじゃないの?」


「俺はね」


彦星は親指で自分を指した。


「でも牛がね。嫌がるんだわ」


「牛?」


「文明アレルギーなんだよねー」


彦星は困ったように肩をすくめた。


「アレルギーね…って、さっきから牛牛って言ってるけど、牛は?」


「あ、いるよ!」


彦星はケロッと答えた。


「あいつ、人見知りなんだわ」


そう言って笑う。


「アルタイル!」


(え? 横文字?)


その時だった。


「もぉ〜」


のんびりした鳴き声とともに、一頭の牛が学校へ続く坂道をゆっくり下ってきた。


(え、ちっさっ!)


赤茶色の毛並みで、確かに牛は牛だった。


だが、大きさはポニーぐらいの牛だった。


「こいつさぁ、所構わず草食べに行っちゃうわけ」


彦星はアルタイルの頭をポンポンと撫でた。


「織姫っちのおやじさんに、『俺のためにそうしろ』って教わってるみたいでさぁ」


困ったように笑う。


「もう、あちこち大変なんだわ」


「……大変ですね……」


とりあえず星空のある場所まで進むしかないため、彦星が前から引っ張り、勇助が後ろから押してみる。


「Go!Go!Go! アルタイルGo!」


「よいしょ……」


しかしアルタイルは、


「もぉ〜」


と鳴くだけで、一歩も動かなかった。


そんなこんなでアルタイルのご機嫌をうかがっているうちに、気付けば辺りは夕暮れになっていた。


ポツン……


ポツン……


雨が降り始める。


「やっぱ今年も会えないかぁ……」


彦星は寂しそうに空を見上げた。


そんな姿を見ていると、勇助は妙に可哀想に思えてきた。


(どうにかならないかな……)


勇助は、どうすれば彦星を織姫に会わせてあげられるのか考え始める。


「あ!」


勇助は思わず声を上げた。


「え? どした? 少年?」


彦星が振り返る。


勇助は慌てて首を振った。


「な、何でもない!」


話を逸らしたものの、頭の中はぐるぐるしていた。


(無理無理無理!あの姿になるなんて無理!絶対無理!……でも、なんか手伝えそうな気はするけど……やっぱり無理無理!)


空を見上げてた彦星が、勇助に向かって苦笑いした。


「ごめんよ少年。手伝ってもらったけど、今年も諦めるわ」


彦星は笑っていた。

でも、その笑顔はどこか無理をしているようにも見えた。


(何年も会えてないんだよな……会わせてあげたい……)


勇助は左耳へ手を伸ばした。


「彦星さん!」


勇助はうつむいたまま彦星に声を掛けた。


「どした? 少年?」


「今から見るものに絶対笑わないでね! 絶対笑わないでよ!」


彦星は呆気に取られながら、


「笑うって何? 大丈夫っしょ!」


と返した。


「絶対だからね!」


勇助は左耳に触れた。


「はらったま!」


言い終わるや否や、そこには先週末に変化へんげした時と同じ、レ◯ア姫みたいな髪型に、白い小袖、白羽織、赤い括り袴、足袋、一本下駄、瓶底眼鏡姿のおやしろまんが立っていた。


彦星は目を丸くした。


「いやぁ! カッケぇ!ざ古代日本って感じ?」


思わぬ反応に、勇助は戸惑う。


「え……あ、そう? あ、ありがと……」


思わぬ言葉に、勇助は照れくさそうに頭をかいた。


褒められるとは思ってもいなかったので、逆に返答に困ってしまう。


勇助は先週末、タマちゃんを助けた時のことを思い出していた。


あれだけ大きなタマちゃんを抱えたのに、不思議と重さを感じなかった。


勇助はアルタイルの四本の足をそっと抱えてみた。


「もぉ〜」


(軽っ! これなら……いける!)


勇助は彦星へ振り返った。


「彦星さん、一つ提案があるんだけど」


彦星は何かを察したようにニヤリと笑う。


「いいんじゃない?」


夕闇が迫り、雨がポツ……ポツ……と降り始めた町に、


カン! カン! カン! カン!


一本下駄の音が鳴り響く。


勇助の背にはアルタイル。


そのアルタイルの背には彦星が乗っていた。


カン! カン! カン! カン!


勇助はもう吹っ切れたように、颯爽と駆ける。


(星空が見える場所まで……タマちゃんの時よりももっと早く! 会わせてあげたい!)


その思いだけで走り続けた。


すると背中の彦星が、


「ねぇ、音デカくない?」


と、悪びれる様子もなくツッコんできた。


「分かってるって!」


「これ近所迷惑にならない?」


「それ今言う?」


勇助は息を切らしながら叫ぶ。


「っていうか、そういうとこなんじゃないの!? 彦星さん!」


アルタイルも賛同するように「もぉ〜」と鳴いた。


彦星の調子にすっかり慣れたのか、勇助の返しもなかなかだった。


一本下駄で全力疾走する勇助たちは、人々の目には流星のように映っていた。


カン! カン! と下駄の音を響かせながら、夕闇に二筋の長い尾を引いて駆け抜ける。


後に人々は、この現象を「カンカン流星」と呼ぶことになる。


もっとも、その名の由来を勇助も、彦星も、アルタイルも知る由はない。


やがて勇助は、地元の例の駐車場へたどり着いた。


雨は止み、夜空には星が瞬き始めている。


「ゼェ……ゼェ……着いたよ……彦星さん!」


「いやぁー! 早かったね!」


彦星は満面の笑みを浮かべた。


「乗り心地を改良したら、いい商売になるよ!」


冗談なのか本気なのか分からないことを言う。


「こんなの仕事にしたら身がもたないよ!」


「いいじゃん!来年もシクヨロー!」


「絶対しないから!」


勇助が苦笑いしていると、夜空に大きな影が現れた。


「おっ! キタキタ来たーー!」


「おひさぁ! 織姫っち!」


勇助が見上げると、そこには巨大な母艦――UFOが浮かんでいた。


(え? ゆーふぉー?)


呆然としているうちに、彦星とアルタイルは光に包まれ、母艦へ吸い上げられていく。


(え! これテレビで見るやつじゃん!)


「少年! ありがとう!また次もよろしくねー!」


彦星が笑顔で手を振る。


「えっ! えっ! いやいやいや!」


勇助は慌てて叫ぶ。


「次はないからねーーーーー!!」


叫び終わるより早く、母艦は夜空の彼方へ一瞬で消えていった。


「な、なんだったんだ……文明はダメだったんじゃないの……UFOはいいのかよ…?」


勇助は呆気に取られながらも、短冊に願いを書いても叶わない理由が分かった気がした。


変化を解き、今回もへとへとになりながら家路についた。


「ただいまー」


玄関を開けると、癒やしのホームズが「にゃー♪」と駆け寄って来てくれた。


「ただいまーホームズ!お前だけだよ、オレの癒やしは」


そう呟いて感慨に浸っていると、ホームズはおもむろに勇助のズボンの匂いを嗅ぎ始めた。


「え? もしや?」


勇助がホームズを覗き込むと、ホームズはフレーメン反応で半開きの口のまま固まっていた。


「あ……牛だね……ごめん」

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


"おやしろまん"の世界を少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。


勇助たちの物語は、これから少しずつ広がっていきます。


また次のお話でお会いできたら幸いです。

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