第二話 帰宅
第二話です。
少しずつ話が進むので本編まで時間がかかるかもですが
よければ読んでください。
ギィィ……
重厚な木製の門が、ゆっくりと音を立てて開いた。
「坊ちゃん、おかえんなせー!」
門の向こうから、家付きの若い衆が出迎えてくれた。
どうやら防犯カメラで少年の帰宅に気付いたらしい。
「ただいまー」
少年は三毛猫を抱いたまま門をくぐる。
この家は、ここ一帯を束ねる古くから続く其道組の屋敷だった。
高い白壁に、大きな石垣。
広い庭の奥には、重厚な日本家屋が静かに佇んでいる。
ガラガラと玄関を開けると、奥から明るい声が聞こえてきた。
「オカエリ。遅カッタネ、勇助。手ヲ洗ッテオイデ。飯ニスルヨ〜♪」
現れたのは和装姿の母親だった。
金髪碧眼の美しい女性。
若い頃、日本の任侠映画に憧れて留学し、そのまま父親と恋に落ち、この家へ嫁いできた。
日本語は上手だが、楽しんで片言を話してる節がある。
母親の視線は、すぐに勇助の腕の中へ向いた。
「アラ……猫! ドウシタ?」
勇助は少し照れくさそうに笑う。
「なんか懐かれたみたい」
母親は嬉しそうに微笑んだ。
「フフッ。カワイイ子」
その声に反応するように、奥から低く落ち着いた声が聞こえた。
「勇助か? 飯だぞ。早く手を洗って来なさい」
現れたのは、其道組の組長であり勇助の父、其道仁吉だった。
夕餉だけは、どんなに忙しくても家族そろって食卓を囲む。
それが其道家の決まりだった。
着物姿で佇むだけで、組を束ねる者としての威厳をまとっている。
其道は勇助の腕の中の三毛猫を見た。
「おまえ、猫を連れて来たのか」
以前、この家には、「クロちゃん」という猫がいた。
家族みんなに長年愛されていた猫。
しかし数年前、虹の橋を渡ってしまった。
それ以来、其道は二度と動物を飼おうとはしなかった。
母親は其道へ嬉しそうに声を掛ける。
「アモーレ、見テ。カワイイ♡」
其道は静かな口調で言った。
「元いた場所へ返してきなさい」
勇助は少しだけ表情を曇らせながら、小さな声で言った。
「……飼っちゃダメかな……」
その瞬間だった。
三毛猫は勇助の腕から、ひょいっと飛び降りる。
そして真っすぐ其道の足元まで歩いていき、
スリ〜 スリ〜
グルルゥ〜ン♪
「にゃあ♪」
と、見事なコンボを決めた。
其道は思わず固まった。
玄関にいた若い衆まで息を呑む。
母親は口元を押さえ、くすっと笑った。
「フフッ。決マリ アモーレ」
其道は照れ隠しのように咳払いをひとつした。
「……勝手に決めるな」
そう言いながらも、三毛猫を追い払おうとはしなかった。
母親は三毛猫をそっと抱き上げる。
「ジャァ、ゴ飯ニシマショウネ〜 ホームズ」
其道と勇助は同時に声を上げた。
「「ホームズ?」」
母親は二人を見て、不思議そうに首をかしげる。
「エ? 黒猫ハ、クロチャン。三毛猫ハ、ホームズト決マッテルノヨ?」
そう言うと、当たり前のようにホームズを抱いたまま居間の奥へと消えていった。
其道と勇助は顔を見合わせた。
お互いに「やれやれ」という表情を浮かべる。
「……イボンヌには敵わないな」
勇助は苦笑いを浮かべた。
「そうだね」
二人は笑い合い、イボンヌとホームズの後を追って居間へ向かった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
オヤシロマンの世界を少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
勇助たちの物語は、これから少しずつ広がっていきます。
また次のお話でお会いできたら幸いです。




