第8話 中秋の名月編 4 よし!
お目に留めていただき光栄です。
中秋の名月編 第4話です。
今回も勇助たちは、なんだかんだと大騒ぎ。
果たして、無事に一件落着となるのでしょうか。
それでは、どうぞ。
「もう少し静かに呼べんのかのぉ」
そこには、薄い銀の刺繍が入った白い着物に
銀の帯、頭はピカピカ、白い長い髭を蓄えた、
ぴょん太より小さなおじいちゃん神様が
お社の前にふわっと現れた。
「ご、ごめん……」
と頭をかきながら勇助は慌てた。
「申し訳ありません。
私がお願いしたので責めないであげてください。」
にこり。
と、先生がフォローしてくれた。
「申し遅れました。
お初にお目にかかります。
私、西方から参りましたフフフエルと申します。
あなた様のお噂はかねがね伺っておりました。
以後お見知りおきくださいませ」
先生は、膝をつき、頭を下げて挨拶をした。
神様は
「堅苦しいのは、わしは好かん。
お前さんも今は世を忍ぶ姿じゃろうに。
楽にしてくれい。
よう来たのぉ、東の端に」
かっかっかっかぁ!
と和かに迎えてくれた。
先生は立ち上がり、日本風のお辞儀をしながら
「恐縮でございます。
ご厚意に感謝いたします」
と、再度敬意を払う。
そして勇助が本題を話し始める。
「あの……おじいちゃん、
こっちにいるのが月から来た
ラヴィ・ぴょん太で、
月に帰れなくなって困ってるから来ちゃった」
そう聞くと神様は、ほぉほぉと髭を
触りながらぴょん太を見つめた。
「お前さんも、葦原によう来たのぉ。
確か明日が餅つきの本番な筈じゃが」
「そうなんだぴょん!
帰らなきゃ……なんだぴょん……」
とぴょん太は耳を下に垂らし俯いてしまう。
「まぁ、そんなに落ち込まんでもええ。
そうさなぁ、その前にわしは餅が食べたいのぉ」
と、ずっとぴょん太が持っている杵に目を向けた。
「餅ぴょん?」
「そうじゃそうじゃ。
つきたての餅を久々に食べたいのぉ。
ちょうどあそこに臼と餅米があるんじゃが……」
と神様の後ろを見ると
臼と蒸し立ての餅米がセットされていた。
「おじいちゃん、ちょっと呑気な!」
と、勇助が慌てると先生が、
「まぁまぁ」とフフフと笑いながらなだめてきた。
ぴょん太はと言うと餅つき魂に火がついたのか
「つくぴょん!」と即答して臼の前にスタンバイしていた。
「?…………誰がペっチンってしてくれるぴょん?」
ぴょん太が、こちらを向くと神様も先生も同時に勇助に顔を向けた。
「オ、オレ?」
「当たり前じゃろ。
社の使いが役に立たんでどうする。
おやしろまんに変化して餅を返せい」
と、神様はかっかっかっかぁ!と笑った。
「変化出来るかなぁ……」
「なんと、お前さんは薄情モンだったのかのぉ。
あの時の、人を助けられる人間になりたい。
は、どこへ行ったのかのぉ」
(ep4 第4話 『決意』参照)
「って、そんな……」
「助けてくれないぴょん……?」
ぴょん太が伺うように耳を下げ、
目をウルウルさせながら見上げてきた。
「その目、狡いよ!
もう、わかった!やってみるよ!」
と、半ば勢いで変化の言葉を唱えた。
はらったま!
すると、左耳につけてる人には見えない鳥居の形の耳環に触れると、キラキラした光が勇助を包み、次の瞬間『おやしろまん』に変化した。
瓶底メガネに、耳にかかる程度の髪のはずが、某映画のレ◯ア姫のように左右へ
束ねられた巻き髪。
上は金の薄い模様が入った白い着物に
白羽織、下は赤い括り袴。
そして、足袋に一本下駄。
本当に助けたいと思えた時だけ変化が
出来るため、変化できてホッとしたが、
相変わらず瓶底メガネのせいで世界が
ぐにゃりと歪む。
「わしに頼らず日々精進して、
社の使いの姿も様になってきたのぉ」
かっかっかっかぁ!と嬉しそうに笑う。
「そう言っておじいちゃん……本当かどうだか……」
勇助は同調圧からの「おだてられ感」に、
神様の言葉を素直に喜べない。
スマイリー先生がフフフと笑いながら
「勇助さん、ご安心ください。
こちらの御方は嘘をつかれる方ではないですよ」
にこり。
先生の笑顔に勇助はため息をつきながら、
臼の前で跪いた。
気がつくと水の張った木の桶まで横にある。
ぴょん太が
「じゃぁいくぴょん!」と言うや否や
どぉぉぉぉぉぉぉーーーん‼︎‼︎
と、凄まじい音を立てて杵が臼を打った。
「ちょっちょっちょっと!
思ったのと全然違う!」
「ぴょ〜ん?」
勇助が知っている餅つきは、
家住みの組の若い衆が正月前に
組と家の分をついているものだった。
記憶にある餅つきとは違うため、
勇助は軽く腰を抜かしていた。
「当たり前じゃろ。
月のモンがつくんじゃからのぉ」
かっかっかっかぁ!
「私、餅つきを初めて見ましたが、
一般の方なら、このソニックムーブで
どうにかなってますねぇ。
おやしろまん姿で正解ですね」
にこり。
「そ、ソニックムーブ‼︎って!」
(相方の宇佐ちゃんって何モンだよ‼︎)
勇助の慌てぶりに輪をかけるように神様は
「手を清めて、心してかかれよ。
そうでないとお前さんの手がぺったんじゃ」
かっかっかっかぁ!
「餅が食べたいって言ったの誰だっけ!」
と勇助が抗議すると神様はしょぼくれたように言い返えす。
「あぁ……最近の若いモンは薄情じゃな……。
年寄りのささやかな願いを、こんな無碍にされるとは……。
何年も前から供モンは、
プラッチックに入ってたり、カタカタのカピカピしたもんが多くてのぉ。
つきたての餅なんぞ、久しく食べとらんと言うのにのぉ」
しょんぼり。
「ちょっと今それ言う?ずるくない?
おじいちゃんの年寄りってレベチなんだけど……。
もう、わかったよ!餅を返せばいいんでしょ!」
勇助は腕まくりをして気合を入れた。
瓶底なメガネに集中し、杵と餅の間を
何度か目を追って確認して
「よし!」の掛け声と共に
目にも止まらぬ速さで餅を返した。
餅を返すと即
どぉぉぉぉぉぉぉーーーん‼︎‼︎
「……よ、よし!」
どぉぉぉぉぉぉぉーーーん‼︎‼︎
「よし!」
どぉぉぉぉぉぉぉーーーん‼︎‼︎
「よし!」
どぉぉぉぉぉぉぉーーーん‼︎‼︎
「よし!」
どぉぉぉぉぉぉぉーーーん‼︎‼︎
「よし!」
どぉぉぉぉぉぉぉーーーん‼︎‼︎
「よし!」
どぉぉぉぉぉぉぉーーーん‼︎‼︎
「よし!」
どぉぉぉぉぉぉぉーーーん‼︎‼︎
の連続。
側から見てると、ヨシヨシ連呼の◯ゴロウさんのようで、
腕は何とか神拳の奥義のようなアタタタさ。
勇助本人が見たら耳まで赤くなる状況だが
知らぬは本人ばかりなり。
そして衝撃波を、そよ風のように受け止める神様と天使。
勇助たちを見守りながら、何やら話している。
「驚きました。
あなた様の出で立ちがお噂と違うので」
にこり。
「お前さんも、人のことは言えんじゃろに。
ふざけた名前を名乗りおってに」
「そこは、お互い様ということで」
にこり。
勇助が聞いたら驚くような天界トークをしていると、ぴょん太が
「出来たぴょん!」
と、餅つきの終わりを告げた。
勇助は疲労困憊というように
肩を落としてゼーゼーと息を切らせている。
「生まれて初めて死ぬを意識して頑張ったよ……。しばらく夢見そう……」
「こんな事で死ぬわけなかろうに。
大袈裟じゃなぁ」
かっかっかっかぁ!
「モチモチだぴょん!
早く食べて食べてだぴょん!」
ぴょん太が自慢げに催促をすると
スマイリー先生がいつのまにか背広を脱いで
割烹着を着て、突如現れた木の台の上で
つきたての餅を手際よく一つずつ分け始めている。
勇助は、木の台がとか、先生の割烹着がとか、
敷物のゴザがとか、餡子にきな粉がとか
……今回もツッコミどころが多く、
もう肩を落としてため息をつくだけで
何も言わないことにした。
先生は何処からか出てきた皿に餅を
とりわけて敷物に並べてくれた。
敷物にピクニックのように皆で丸く座り
神様は『馳走になるぞ』と言い
先生はお祈りをして
勇助とぴょん太は『いただきます』をし
各々、食べ物に感謝していざ御相伴。
敷物の中心には醤油、砂糖、餡子、きな粉が並んでいる。
神様曰く、全国の供物のあまりとのこと。
(お供物、ちゃんと食べてくれるんだぁ)
ちょっと勇助は嬉しくなった。
また何処からか出てきた箸を使って、
餅を好きにトッピングして各々食べ始める。
「さすがはぴょん太さん、
タイトル保持者なだけあって
お餅が絶妙な柔らかさで美味しいです♪」
にこり。
スマイリー先生はご満悦のようだ。
神様も、
「久々のつきたての餅じゃ。
この熱々さが堪らん!」
勇助は、死線を辿り頑張った甲斐があったとホッコリ。
みんなしてホッコリ。
?
ホッコリ?
っ!
勇助は思わず
「ホッコリしてる場合じゃないよ!」
と、本筋を思い出し叫んだ。
「どうしたぴょん?」
「どうしたぴょん?じゃなくて!
ぴょん太!月に帰んなきゃでしょ!」
「あぁ‼︎ そうだったぴょん!
帰んなきゃなんだぴょん!」
「騒がしいのぉ。
餅ぐらいゆっくり食べさせて欲しいのぉ」
「って呑気に!
ぴょん太を月に帰してあげなきゃ!」
「そうだぴょん‼︎」
また先生がなだめてくる。
「まぁまぁ
勇助さん、お食事は楽しくですよ♪」
にこり。
「そうじゃそうじゃ」
神様より先生の笑顔の圧に勇助とぴょん太は
口篭ってしまった。
とりあえず美味しい餅を食べてからだと
勇助もぴょん太も勢いよく平らげた。
「ふぅ〜、食べた。食べた。
騒がしい童たちのために人肌脱ぐかのぉ」
「やったぁ!帰れるぴょん?」
「うむ。帰れるさな、社の使い次第でのぉ」
かっかっかっかぁ!
「えぇ!オレ次第って何!」
「ほんに騒がしいのぉお前さんは。
まず少しここの境内の磁場を軽くしてやろう。
月の民の跳力と、お前さんの力で
月に届くじゃろう」
「ちょっ、おじいちゃん、オレの力って何!」
「お前さんさっき餅を食べたじゃろう。
力餅、知らんのか?」
かっかっかっかぁ!
「それダジャレじゃん‼︎」
またまた先生が
「まぁまぁ、勇助さんよく考えてみてください。
神様が、ご用意された餅米を
月の民のぴょん太さんがついて
お社の使いの勇助さんがこねた。
ただのお餅ではないのではないのでしょうか?」
にこり。
「そうじゃそうじゃ」
先生がフォローしてくれるせいか、
神様は味方を、得たようで嬉しそう。
「ほれ、ぴょん太跳ねてみぃ」
「わかったぴょん!」
ぴょん太は素直に跳ねてみた。
ぴよーーーーーーーーーーーーーーーん……
(えっ、めっちゃ跳ぶ)
空のむこに消えたように見えたが
次の瞬間、ズドン‼︎と戻ってきた。
「ダメぴょん……。
雲の上まで行けたけど
それ以上行けなかったぴょん」
「困りましたね。
あと少しのような気がしますが……」
先生が言うと、神様、先生、ぴょん太が
勇助の方を一斉に向いた。
「な、何?
おじいちゃんが助けてくれないの?」
「うつけめ。
わしが助けたら、社の使いの面目がなかろう」
「って無茶振りでしょ!」
「まだまだじゃなぁ。
仕方ない、一つ知恵をさずけてやろう。
ぴょん太が跳ね戻り再度跳ねた瞬間、
勇助お前が蹴り上げてみぃ」
……………………。
「「えぇええええ‼︎」」
勇助、ぴょん太が同時に声を上げた。
「虐待だぴょん‼︎」
「そうだよ!オレも嫌だよ!」
「さすがに私も蹴るのはちょっと……」
微笑みの天使の先生でさえ引いている。
神様は特に気にせず
「蹴鞠を知らんのか?あれは高く上がるぞ?
ぴょん太が跳ねた瞬間、脚の裏を蹴げ上げてみぃ。跳ぶぞ?」
「「えぇええええ‼︎」」
再度、一人と一羽の悲鳴に近い声が上がる。
先生の考える癖なのか下唇に人差し指を曲げて
あてながら、ふむふむと考え込んだ。
「確かに……物理的にありかもですね」
と、忘れかけていた化学の先生の設定を出してきた。
「「えぇええええ‼︎」」
三度目の一人と一羽の悲鳴に近い声が上がる。
「勢いよく上向きに力を加えれば、
ぴょん太さんの上昇速度を
さらに加速できるかもですね」
にこり。
「先生まで納得しちゃってるよ!」
「……わ、わかったぴょん!
勝者は勝ちにこだわるぴょん‼︎
勇助!月まで思いっきり蹴ってぴょん!」
「ちょっと!ぴょん太までそっち?」
ぴょん太はやる気満々。
「ぴょん太は腹を決めたぞ?」
と神様が言うと、神様、先生、ぴょん太が
一斉に勇助に向く。
「あぁもう! この流れね!
わかったよやるよ!
責めないでよ!」
不本意ながらモチモチのふわふわの可愛いウサギを蹴る事になった。
そして先生が作戦を練ってくれた。
「大変タイミングが大事になります。
一度目の跳躍で、ぴょん太さん自身の跳力を
使います。
そして戻ってきて、もう一度跳ね上がった瞬間に」
先生は勇助を見つめ
「勇助さんが、ぴょん太さんの脚の裏を蹴り上げるんです」
にこり。
とびきりな笑顔を見せてきた。
「そこは変わらないんだ……」
「はい♪
人にはそれぞれ試練があるものです。
これもあの方(神)からの試練なのでしょう」
にこり。
(……どんな試練なんだよ……)
「次の跳躍に、勇助さんの蹴力を重ねます。
つまり、ぴょん太さんの跳力と勇助さんの蹴力を、同じ方向へ加えるんです」
「それでどうなるぴょん?」
「より大きな上向きの速度を得られる可能性があります」
にこり。
「やったぴょん!
(可能性なんだ……)
そしてやる気満々のぴょん太は月に帰る準備を始めた。
宇佐ちゃんへのお土産に、
神様由来の余った餅を風呂敷に包んでもらい
肩から斜めがけに下げ、
杵を左に持ち、耳をピンとし、
よし!っと言った感じに四股を踏む。
「みんな!
ありがとうぴょん!
日本が大好きになったぴょん!
でもイーチ、ニーのサン!でいくぴょん!」
「こっちこそ楽しかったよ。
ありがとう!」
「ぴょん太さん、楽しい時間を
ありがとうございました。
最後に、いいですか?
跳ぶ時は耳を畳んで空気抵抗を減らして、
脚は一本になるように重ねてくださいね」
と、先生が最終アドバイスをしてくれる。
勇助は瓶底メガネの千里眼の力をフルに使うため、焦点を絞り、右足の一本下駄に意識を向けた。
「どうかうまく蹴り上げられますように!」
勇助は思わず手を合わせ天に祈った。
「わしは、ここにおるのだがのぉ……」
と神様がぼやいた瞬間。
「行くぴょん!」
と、ぴょん太が何度か軽く跳び
タイミングを整えはじめた。
そして耳を伏せて勢いよく跳びだした。
先生は空を見上げながら
「イーーーーーーーーーーーチ」
と数え始める。
勇助は千里眼で空の彼方のぴょん太を目で追う。
ひゅーーーーーーー〜ズドォン‼︎
またぴょん太が跳ねる。
「ニーーーーーーーーーーーイ」
ひゅーーーーーーー〜ズドォン‼︎
先生が「サーン」と言うよりも早く
勇助の視界はゆっくりとぴょん太が動いているように見えた。
そしてまたぴょん太が跳ねたその瞬間、
地面からゆっくりと脚が離れて1つに合わさったのが見えた。
「いまだ‼︎」
と一本下駄に集中して蹴り上げた。
そして叫ぶように別れを告げる。
「ぴょん太!明日頑張れよ!」
「任せてだぴょーーーーーーーーん‼︎」
と、ぴょん太の声が遠ざかっていく。
その日、人類は其道町から解明できない
一本の光の柱が月に向かって放たれたのを観測した。
勇助、神様、先生は、暫く空を見上げていた。
千里眼で見ると月に落ちていくぴょん太が確認できた。
やり切った達成感や、寂しさの余韻に浸っていると
「明日の決勝が楽しみよのぉ。
わしも、審査員として頑張らねば」
かっかっかっかぁ!
「「え?」」
勇助と先生は思わず神様を見つめた。
……。
先生に家の前まで送ってもらい
ふらふらになりながら玄関を開ける勇助。
おじいちゃん神様に振り回された感しかないが
怒る気にもなれない困憊さ。
玄関を開けて「ただいまぁ……」と言うと
「にゃぁ〜♪」
と、愛猫のホームズが出迎えてくれた。
勇助は疲れが吹っ飛ぶような気持ちになる。
「やっぱりオレの癒しはホームだよ!」
と抱き上げようと愛猫を見下ろすと
ホームズは口を半開きにしてフレーメン反応をしていた。
「あ、やっぱ今回、ウサギだもんね……」
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
"おやしろまん"の世界を少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
勇助たちの物語は、これから少しずつ広がっていきます。
また次のお話でお会いできたら幸いです。




