第7話 お盆編 3 アピール
お目に留めていただき、光栄です。
お盆編3です。
少し笑って、少しほっこりしていただけたら幸いです。
朝、
通いのカヨさんが作ってくれた朝食を
家族で食べていると、イボンヌの
味噌汁がスーッと動いた。
「ア、勇助見タ? 動イタネ」
「あ、うん……動いたね……」
「コレハ、摩擦ト、表面張力ト、傾キデ
起キルンダヨ〜♪ 自由研究ニドォ?
ネ、アモーレ♪」
「そうだな。生活の中の物理、面白いテーマだな」
イボンヌは結婚するまで学校の先生だった。
そして、其道は現実主義者だった。
「う〜ん……まだオレには難しいかもね……」
(言えない……ビスノンナが横で動かしたなんて……)
そして昼、
縁側に差し込む日差しで、
ガラス戸の桟の影が縁側に十字を描いていた。
イボンヌは、
「眩シイ」
と言って障子を閉めた。
(天使の後光が……)
夜、
イボンヌが其道にお茶を出しながら
「アモーレ、コノ家、古クナッタ。
ピシピシ音ガスル」
と言うと、其道は、
「建ってまだ二十年も経ってない。
日本家屋は湿度で家が鳴るもんだ。
鳴ってるのは景気がいい」
と言いながら膝に寝ているホームズを撫でた。
(ポルターガイスト……)
勇助は部屋へ戻ると、その場にへたり込む。
「弱い、弱いよアピール! 気がつかないよ!」
すると、
「弱いでしょうか」
と声がして、天使とマルゲリータ、
そしてミケが姿を現した。
「あまり派手ですと、悪い霊みたいで下品ですしね」
にこり。
「それじゃ、無理だと思うよ……」
「困りましたね。フフフ」
天使とマルゲリータは顔を見合わせた。
(虹の向こうって、みんなこんな感じなのかな……)
天使に抱えられているミケが、「にゃー♪」と鳴く。
「あ! そうだ!」
ミケは「にゃ?」と鳴いた。
「ミケに家をうろうろしてもらって、
ホームズに追いかけてもらおう!」
フフフエルは不思議そうに、
「ミケさんに移動してもらうと、何かあるのですか?」
「そそ!
猫って何もないところを見つめたりするから、
お盆だし、ご先祖様が来てるのかもって!」
天使は、
「なるほど。いいかもしれませんね」
にこり。
しかし、天使は少し申し訳なさそうに、
「確かに良い案なのですが、ミケさんは、
あちらから来ている小さなお子さんたちの
サポートもしておりますので、
長い時間は難しいかもしれませんね」
と言いながらミケの頭を撫でた。
「凄いね、ミケ。お仕事してるんだね」
ミケは得意げに、「にゃーん♪」と鳴いた。
こうして、ミケとホームズによるアピール作戦は決まった。
次の日、
家鳴りなんかどこ吹く風の其道家は、
夕餉を済ませ、居間でテレビを見ている。
突然、其道の膝の上で喉を鳴らしてた
ホームズが、目をキラン!と輝かせ
ドタダダダーーーーーーーーーー‼︎‼︎‼︎
と走り出した。
「ホームズ?」
と其道が呼ぶ。
ホームズは呼ばれても何もない天井を見つめたまま、
「にゃん!」
と鳴き、あっちを見たり、こっちを見たりと
慌ただしく動き回る。
勇助は、(よし!)と心の中でガッツポーズをした。
するとイボンヌが慌てて、
「アモーレ! 大変!
ホームズガ、虫食ベチャウ!」
(えぇぇぇ!)
「アモーレ! スプレー! スプレー!
勇助、危ナイカラ、ホームズ部屋カラ出シテ!」
と言うと、勇助とホームズはそのまま
居間から追い出された。
(えぇぇぇ……)
勇助は、ゲンナリと肩を落としながら、
部屋へ戻ると床に正座した。
「ごめんね、……ビスノンナ。
マンマ、ぜんぜん気がつかないや……」
マルゲリータは微笑むと、
「ありがとう、勇助。
あの子だもの。」
フフフと笑ってくれた。
(そう言ってくれるけど……なんとかしてあげたいよ……)
2人と一匹が去った後も勇助はあれこれ考え続け、
この夜はなかなか寝付けなかった。
夜が明け、今日から二日間は、
町内で盆踊りが催される。
寝不足の勇助とは対照的に、町は朝から
祭りの準備で活気づいていた。
其道は町内に世話になっているからと、
毎年無償で何店も屋台を出し、
祭りを盛り上げている。
夕方、其道の帰宅を待って、勇助たちは浴衣に
着替え、公園へ向かう。
歩きながら、勇助はふと母親に尋ねた。
「そう言えばマンマ、イタリアにはお盆あるの?」
「ソウネ……8/15 ア! 明日ハ、フェッラゴスト
ッテ言ウ日ガアルワネ」
「フェッラゴスト?」
「ソウソウ。マリア様ノ日。
ヴァカンツェ(バカンス)ネ」
「……バカンスね」
そんな話をしていると、其道が、
「そう言えば、おまえ墓参りに帰ってないな」
と言い出した。
「ア! ソウネ。
日本ノ生活ガ刺激スギテ、気ガツイタラ、
今ニナッチャッテタ(笑)
……ノンノ(おじいちゃん)、ノンナ(おばあちゃん)、天国デ元気カナァ(笑)」
(……いや、目の前にあなたのノンナいますよ……)
「悪いことをしたな……。今度、家族で行くか」
(パードレ! ナイス! でも今!
今なんだよ! 来年じゃ遅いんだよ……)
「グラッツェ! アモーレ素敵!
ン〜デモ、帰ルトネ……
パードレガ面倒ナノヨネ……ハァ……」
イボンヌは、ため息をついた。
「義父さんはド派手だからな」
其道は苦笑する。
(実の息子が邪魔してるって……ビスノンナも大変だな)
「ノンナニ、コノ浴衣モ見テ貰イナァ〜。
日本デ勉強スルノ、一番応援シテクレテタノ」
と、イボンヌは懐かしそうに言った。
「マンマはビスノンナに会えたら嬉しい?」
「ソウネ……。嬉シイシ、会エタラ……
『ありがとう、おばあちゃん』ッテ伝エタイカナ」
と、流暢な日本語を交えて話した。
家族で盆踊りに参加し、一通り楽しんだ後、
勇助だけホームズが心配だからと先に帰ることにした。
帰り道。
勇助が一人になるのを待っていたかのように、
天使とマルゲリータが姿を現した。
そして自然と作戦会議が始まる。
「勇助、ありがとうね。
イボンヌに思い出してもらえて、
感謝も言ってもらえたわ」
マルゲリータは嬉しそうに笑った。
「でも惜しかったよね。日本語なんだもん」
「本当に惜しかったですね。
日本語なのでノーカンですね」
にこり。
勇助たちは、お手上げ状態だった。
天使は
「私たちが見える人は、相当特殊な人なので、
一般の方に存在を感じ取っていただけるだけでも、
十分奇跡なんですよ」
にこり。
(特殊ねぇ……否定できないのが複雑だけど(笑)
あと少し、あと少しだったな……)
「奇跡じゃないと見えないんだね……」
「そうなんです。フフフ」と2人は笑う。
勇助は夜道を歩きながら空を見上げる。
(おやしろまんになれば……
何かできないかな……
でも、何をしたらいいんだろう……)
勇助は何気なく左耳に触れた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
『おやしろまん』の世界を、少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
お盆編は次で最終です。
また次のお話でお会いできたら幸いです。




