第九話 夜勤二回目
滞在中のメンバーは、私より早く現地入りしていた。皆派遣終了日は明日の夜勤入りまでだった。
全国から集められた即席のチームだ。
夜勤リーダーは山口県から来ていた。
この男、凄まじいイケメンである。
同じ介護ブースに私と並んでいたら、まず間違いなくこの男に相談が集まる。今後はイケメンとする。
東京・新宿から来た元エンジニア。声は小さく、話す内容はトー横だの下世話なものばかりだが、高齢者の前に立つと別人のように柔らかい。
紅一点のピエロは、夜勤中でもサーカスのような調子で挨拶をする。だがその軽さの奥で、人の心の隙間に入り込むのが妙に上手い。
そして気の合ったエリアマネージャー。大阪で複数の会社を束ねる中間管理職。
この仲間たちと、助け合い、時にやらかしながら日々を回していた。
二回目の夜勤になると、緊張は少しだけほどけていた。
イケメンから申し送りを受け、それぞれ配置につく。
インカムが鳴る。
「○○番のテント、人がいるか確認してほしい」
フロアリーダーと駆けつける。
テントの中には、段ボールベッド。
小さなリュックサック。
折り畳みのテーブルには、倒壊した家屋の写真が散らばっていた。
ハンガーには男性用の上着。
確かに、ここで誰かが生活していた形跡がある。
フロアリーダーが中に入ろうとした瞬間、私は手を伸ばして制した。
ここは仮でも“お家”だ。
不在をイケメンに伝えると、「県の職員が来るから待機」と返ってきた。
数分後、職員が来るなり迷いなくテントに入り、リュックの中身を確認し始める。
「勝手に上がっていいんですか?」
フロアリーダーの問いに、職員は淡々と答えた。
「テントが足りないんです。戻らない方の場所は、空けないといけない」
避難所では今までの常識、倫理が覆される…。
写真には、崩れた木造家屋。室内、室外、あらゆる角度から撮られていた。
ここに戻る場所が、もう無いことだけは分かった。
その人は、滞在中ついに戻ってこなかった。
家族を探しに行ったのか。
次の住まいを見つけたのか。
それとも
……考えるのをやめた。
深夜、インカムにピエロの声が割り込む。
「応援お願いしまーす」
向かうと、すぐ理由が分かった。
テントの両隣から響く、凄まじいイビキ。
若い女性が、その間に挟まれて横になっていた。
ピエロはすでに女性に声をかけ、状況をやんわりと受け入れさせていた。
気配りが半端ない…。感心しながら
テントの移動を手伝う。
エンジニアからもインカムに応援要請。
嘔吐した高齢者の衣類交換、シーツ交換だった。
テントの入り口にはシールが三つ…。つまり感染症フルコースである。
ブースでフルコース対応可能な装備に着替え、医療スタッフらと即席チームで対処となる。事前に説明し承諾を得てから素早く着替え、片付け消毒、運搬と連携はスムーズだった。あれほどスムーズに出来るのは各エース級の集まりだからなのか?
汚染衣類を運搬中にエンジニアがまた下世話な話を話し出す。絶対エース級ではない…。
二日目の夜勤は、そんな大小な出来事を積み重ねて過ぎていった。
休憩時間。
二階のベンチで夜食を口にする。
照明が、ゆらゆらと揺れている。
眼下には、無数のテント。
どこもかしこも、誰かの生活の残り香で満ちている。小さな灯りが点いていたり、ボソボソと人の会話が聞こえたり。
箸が止まったまま、しばらく眼下の光景を眺めていた。




