第八話 夜勤明け
朝食の片付けが終わっても、すぐに避難所を離れることはできなかった。
決められた時間で上がるようには言われていたが、現場はまだ動いていた。
夜勤リーダーも帰らず、相談対応を続けていた。
昨夜、巡回中に一人の高齢女性が介護ブースに来ていた。
夫を探している、という話だった。
昨夜は一緒に歩きながら探したが暗闇だったから直ぐに帰られたのだが、朝になり相談に来たのだろう。
どう対応するべきか迷い、
「県の担当に伝えましょうか」
と声をかけたとき、インカムから声が入った。
その方の夫は震災ですでに亡くなっているということだった。
言葉が出なかった。
目の前にいる本人に、その事実をどう伝えるのか分からなかった。
結局、その場では何も言わず、話を聞くことしかできなかった。
同じ話を何度も繰り返しながら、女性はしばらくしてブースを離れていった。
気づけば、予定の時間を過ぎていた。
初日の夜勤を終えたという実感と、
それとは別に、まだ終わっていないような感覚が残っていた。
避難所の外に出ると、雪は止んだが東北の空気は冷たかった。
体の奥にまで冷えが入り込むような感覚があった。
ホテルへ戻るため、タクシーを呼ぶ必要があったが、
入口には同じ夜勤を終えたスタッフが何人か立っていた。
すでに手配しているが、なかなか来ないという。
立ったまま待つ時間が長く感じた。
足の疲れがそのまま残っているのが分かる。
公衆電話の横にはタクシー会社の名前が並んでいたが、
見慣れないものばかりで、どこにかければいいのかも分からなかった。
後から聞くと、他の避難所からの要請も多く、ドライバーの数自体も減っているとのことだった。
結局、ホテルに戻れたのは昼を過ぎてからだった。
強い空腹を感じていた。
何を食べるか考える余裕はなく、近くの店に入り牛丼を注文した。
特別な味ではない。
それでも、普段と同じ味を口にしたことで、少しだけ落ち着いた。
気づけば、滞在中は同じものばかり食べていた。
非日常から現実に帰るには必要な味だったのだろう。
ホテルに戻り、靴を脱いだとき、足の重さをはっきりと感じた。
そのままシャワーを浴びる。
温かい湯に触れたとき、ようやく身体の緊張がほどけた気がした。
昨日、小松空港に降りて移動しホテルから直ぐに避難所行き夜勤である、ずっと緊張したままだったのだ。
職場へ簡単に報告を入れ、ベッドに横になる。
考える間もなく、意識が落ち深く眠れた。
数時間後、目が覚めればまた夜勤がある。
そのことだけは、分かっていた。




