第七話 夜勤
夕方から翌朝までが夜勤だった。
この避難所は1.5次避難所とされており、施設での生活が必要な人はすでに近隣県へ移動していた。震災から1か月で受け入れが進んでいることには驚いた。
見回りをしながら、テントの入口に置かれている歩行器や杖を確認する。歩ける人が多く、介護度としては比較的軽い印象だった。今夜は大きな混乱はないかもしれない。そう思っていた。
実際は違った。
この場所には高齢者だけでなく、身体に障害のある人、子ども連れの家族、一般の避難者もいた。介護として派遣されていたが、寄せられるのは生活全体に関わる相談だった。
同性介助を求められる場面もあったが、女性職員は限られており、すぐに対応できないこともあった。順番を待ってもらいながら説明を続けるしかなかった。
夜泣きを気にする母親を体育館の端へ案内する。
家族を探している人と一緒に館内を歩く。
相談は途切れなかった。
トイレ誘導はあらかじめ決められており、時間ごとに声をかけながら対応した。
深夜0時頃、インカムで応援要請が入った。
車椅子トイレへ向かうと、外には列ができていた。中に入ると便器が詰まり、汚物が水と一緒に溢れていた。認知症の方が尿パッドを流してしまったようだった。
このままでは使えない。待っている人もいる。
手袋越しに便器へ手を入れ、詰まりを引き抜いた。
水が一気に流れ出し、床を清掃し、消毒する。
終わったと思った直後、またインカムが鳴った。
感染症対応の要請だった。
指定されたテントの前には印が貼られており、装備を着け直して中に入る。汚れたシーツや衣類をまとめ、決められた場所へ運ぶ。
同じように動くスタッフが周囲にいた。スタッフらの名前はまだ覚えていないが、それぞれが役割を理解して動いていた。
気づけば時間が過ぎていた。
朝に近づくにつれ、最初の緊張は少しずつ薄れていった。
外は夜に降った雪が止み、日に照らされた雪景色が美しく感じた。
朝食の準備が始まる。全国から届いた物資の中から、おにぎりやパン、果物を並べる。
歩ける人は自分で取りに来る。
難しい人にはテントまで運ぶ。
なぜか梅のおにぎりを選ぶ人が多かった。
他のスタッフに聞いても同じだった。
食事をその場で食べず、袋に入れて残している人もいた。
回収の指示は出ていたが、簡単には手放してもらえない。
「あとで食べる」
「家族に渡す」
「昼に食べる」
それ以上は聞かなかった。
中にはこの避難所が開かれてからずっと暮らしている方が居るのだ。
明日の食料への不安…。
確保する理由であろう。
並べられている物資の中に、温かい食べ物はなかった。




