第十話 夜勤三回目
夜勤に入ると、まずメンバー同士で少しだけ談笑をした。
皆、近くの温泉施設で寝泊まりしているという。疲れは取れないまま、それでも笑いながら三回目の夜勤に入る。
ここに来た理由も、それぞれだった。
「誰かは行かないといけないから」
「会社の指示で」
「普段の仕事より、自分にはこっちの方が合っている」
その中で一人、「自分が行くしかないと思った」と言い切ったのは、あの元エンジニアだった。
下世話な話をする人だが、その言葉だけは妙にまっすぐに聞こえた。
巡視をしていると、毎晩同じ場所に立っている若い男性たちがいることに気づいた。
声をかけると、県外から来ている県職員だという。
避難所の維持は、介護だけでは回らない。
物資の搬送、管理、相談対応。目に見えないところで、多くの役割が動いていた。
話の流れで、彼らはホテルに宿泊していると聞いた。
少し意外だった。
自分も上司の配慮でホテルに泊まれていたが、周囲の派遣スタッフは温泉施設で身体を休めている、個室も無く雑魚寝に近い。
その違いに、どう言葉を返していいのか迷った。
「この話は、あまり他では言わない方がいいかもしれない」
そう伝えると、彼らは少し不思議そうな顔をしていた。
何が違和感なのか、その時はうまく説明できなかった。
夜勤は、この日が最後だった。
眠れない人たちは中央のテーブルに集まり、同じ新聞を何度もめくっていた。
読むというより、手に持っていることで時間をやり過ごしているように見えた。
何人かと話をする機会があり、出身地などを簡単に伝え合った。
その流れで、今夜で任務が終わり、明けには地元に戻ることも話した。
その瞬間、場の空気が少し変わった。
「帰る場所があるって、いいな」
その一言で、自分の言葉の軽さに気づいた。
何か言おうとして、言葉が出てこなかった。
代わりに返ってきたのは、
「来てくれてありがとう」
「遠いところから助けに来てくれて、感謝しかないよ」
という言葉だった。
そのやり取りが、余計に堪えた。
「はい…」
それだけを、小さく返すのが精一杯だった。
その夜は、インカムが鳴り続けていた。
応援、応援の繰り返しで、気がつけば朝になっていた。
二階に上がり、天井の照明は揺れていたが気持ち悪さはもう無くなっていた。
ただ、しばらくその場を動けずぼんやりと過ごしていた。




