第五話 避難所
避難所は、もともとスポーツセンターだった。
様々な競技に使われる施設で、その中の体育館が避難所として使われていた。
一階に入った時点では、全体の様子は分からなかった。
人とテントが多い、という印象だけが残った。
話し声や足音が重なり合い、どこか落ち着かない空気があった。
今夜から夜勤に入る以上、全体を把握しておきたいと思い、二階に上がった。
上から見て、全貌が見えた時は愕然とした。
入り口から奥まで、避難用のテントが並んでいる。
碁盤の目のように区切られていて、その数はすぐには把握できなかった。
通路は確保されているが、人がすれ違うには狭く感じた。
……これを、何人で見るのか…。
最初に出たのは、その考えだった。
しばらくはその場に立ち、下を見ていた。
一つひとつのテントの中に、人がいる。
それを意識すると、数として捉えていたものが急に重く感じられた。
一階に降りて、トイレの場所を確認した。
車椅子対応のトイレは二か所。
一般用は複数あったが、テントからはどこも距離があった。
移動に時間がかかることはすぐに分かった。
体育館の端には医療のブースがあり、
何かあればここで対応し、必要なら搬送になると説明を受けた。
ミーティングまでの時間、施設の中を一通り見て回った。
段ボールで仕切られた乳児のスペースでは、小さな泣き声が聞こえていた。
メッセージボードには、家族や知人に向けた言葉がいくつも貼られていた。
充電スペースには、スマホを手にした人たちが静かに並んでいた。
それぞれが必要に応じて作られていることは分かるが、
全体としては、その場で積み上げられたもののようにも見えた。
到着してからずっと気になったのは、揺れだった。
最初は気のせいかと思った。
周りの人たちは特に反応していない。
それでも違和感があって、天井を見上げた。
大きな照明が、ゆっくりと揺れていた。
自分の足元も、わずかに揺れている感覚があった。
地面が安定していないような、不思議な感覚だった。
歩いていると、わずかに体が持っていかれるような瞬間がある。
立ち止まると、それがはっきり分かる。
その揺れは断続的に続いていた。
ここではこれが普通なのかもしれない。
そう思いながらも、体は慣れなかった。
気持ち悪さが、しばらく残っていた。




