第三話 決定
申請から一週間ほど経った頃、県から派遣決定の通知が届いた。
2月上旬から5日間。
移動を含めて7日間。
画面に表示された日程を見ても、どこか現実味がなかった。
決まった。というより、決まってしまった、という感覚に近い。
上司はその間も情報を集めてくれていた。
現地の状況、受け入れ体制、移動手段。
滞在できるホテルまで探してくれていた。
当初は、避難所近くの施設で雑魚寝になると聞いていた。
それを思えば、十分すぎる環境だった。
「無理をしては駄目よ」
「危ない場所には行っては駄目よ」
母親の様にひたすら心配して頂いた…。
だが、そう言われたときも
何をもって無理なのか、自分でもよく分からなかった。
職場では、不在中の仕事を引き継いでいく。
いつもと同じように利用者と接し、
いつもと同じように一日が終わる。
その繰り返しの中で、
自分だけが少し先の予定を持っていることに、妙な違和感があった。
準備も少しずつ進めていく。
着替えや日用品、仕事で使うもの。
何が必要なのか分からないまま、とりあえず思いつくものを鞄に詰めた。
当時は本当に情報が少なく、また感染症が酷い時期だったので感染すれば自分がお荷物になりかねない、避難所で迷惑をかけられない。準備物は感染症対策グッズがてんこ盛りだった。
テレビでは、被災地の映像が流れ続けていた。
倒壊した家屋や、避難所での生活。
それを見ながら準備をしていると、
自分がこれから向かう場所が、同じ現実の中にあるとは思えなかった。
家族には、「少し出張に行ってくる」とだけ伝えた。
行き先は言わなかった。
詳しく話せば、止められるかもしれないと思ったわけではない。
ただ、わざわざ言う必要もない気がしていた。
自分の中では、もう決まっていたからだ。
もし反対されても、たぶん行っていたと思う。
その理由を、うまく説明することはできない。
正義感でも、使命感でもなかった。
ただ行ける状況にいるのに行かない、という選択のほうが、
どこか落ち着かなかった。
だから行く。
それだけのことだった。
それでも、出発の日が近づくにつれて、
少しずつ実感のようなものが追いついてくる。
変わらない日常の中に、
確実に違う時間が差し込んできていた。




