第二話 相談
派遣のメールを見たとき、
「ああ、困っているんだな。行こう」
それだけだった。
後から思えば、簡単に決めたつもりになっていただけで、
実際にはそんなに単純な話ではなかった。
介護の現場は、常に人が足りていない。
自分の職場も例外ではない。
県外への派遣となれば、移動を含めて一週間近く空けることになる。
現実的に考えれば、簡単に「行きます」と言える状況ではなかった。
上司に相談した。
「今はまだ状況が安定していない。行くのは待ちなさい」
安全を考えれば当然の判断だった。
それでも、自分の中では
今だからこそ行くべきじゃないかという思いがあった。
話しているうちに、相談は少しずつ交渉のようになっていった。
最終的には、上司が折れてくれた。
派遣は申請を出し、マッチングが成立して初めて決まる。
すぐに行けるわけではない。
それでも、自分は先に申請だけ済ませた。
決まるまでは、家族にも職場にも何も言わなかった。
日常は変わらず続いていた。
……その最中に、ふと思い出すことがあった。
阪神・淡路大震災のときのことだ。
当時、自分は京都で学生だった。
四畳半の部屋でテレビを見ていた。
映像の中の神戸は、火に包まれていた。
見慣れたはずの街が、別の場所のように変わっていた。
余震で揺れる部屋の中で、不安はあった。
それでも、自分には逃げる足があった。
あのとき感じた恐怖はいつ自分の身に降りかかるか…目に見えぬ恐怖は本物だった。
けれど今思えば、それは
「自分はまだ動ける側にいる」
という前提の上にあった。
今回の地震で避難している高齢者は違う。
自分の力では動けない人もいる。
その場で支えている人たちも、限界に近いはずだ。いや、すでに限界を超えているはずだ。
……何かできるなら。
最初は軽かったはずの気持ちが、
少しずつ、理由のあるものに変わっていった。




