『悲しい時には、やっぱり真白の琥珀糖』
いつもお読みいただきありがとうございます!
最後までお付き合いいただけたら幸いです。
(*˘︶˘*).。.:*
『……これは……お初の形見なのです』
その一言を最後に、
義久は口を閉ざした。
やがて、
頬を一筋の涙が伝う。
義久の様子につられたのか。
それとも、あの日の光景を思い出してしまったのか。
寿久と義弘の頬からも、
静かに涙がこぼれ落ちた。
すると不思議なことに、
三兄弟が悲しみに暮れる中、
義久の胸元で巾着が淡く光った。
まるで三兄弟の悲しみに寄り添うように、
弱く、けれど優しく。
真白はその光から、
不思議な温かさを感じていた。
真白
(まるで……
泣かないでと、
慰めているような……)
紡
「……泣かないでって……
その巾着から、
泣かないでって聞こえます……」
紡の言葉に真白は目を見張った。
真白
「紡は、
あの巾着から、
お初様の声が聞こえるのですか?」
紡
「はい……。
兄様達、泣かないでって……」
その言葉に、
義久たちは一斉に顔を上げた。
涙を拭うことすら忘れ、
信じられないものを見るように紡を見つめる。
義久
「紡様……
誠に、お初の声が聞こえるのですか?」
紡
「は、はい。
はっきりと聞こえます。
真白様は聞こえませんか?」
真白
「えぇ。
僕には声として聞こえているわけではありません。
ただ……
泣かないでと慰めているような、
そんな感覚はありました。
ですが紡には、
声として聞こえているということですよね?」
紡は真白と目を合わせると真剣な表情で答えた。
紡
「はい」
その言葉に、
義久はもう答えることもできず、
ただ、ぼろぼろと涙をこぼした。
そんな義久の様子を見て、
寿久が紡に尋ねる。
寿久
「あの、紡様……
他に何か聞こえることはございますか?」
紡は少し言い淀む。
その様子に義弘が尋ねる。
義弘
「何か言いづらい事なのですか?
やはり恨み言のような言葉でしょうか……」
紡は慌てて首を横に振った。
紡
「い、いえ!
違います!
僕が言いづらいと言いますか……」
義久・寿久・義弘
「……?」
澪斗
「紡……。
どんな言葉であっても、
残された者にとっては大切な言葉だよ。
だから、
義久様たちに伝えてあげて」
紡は、
澪斗の言葉にはっとした。
紡
「そうですよね……。
皆さん、ごめんなさい。
その巾着からは……えっと……
『兄様達、泣かないで。
兄様達の泣いてる顔は嫌いです!
初は、兄様達の笑顔が大好きです』
……って、聞こえます」
義久
「っ……!」
寿久
「なんとも……お初らしい……っ」
義弘
「……全くだ……」
玉繭
「お初は、
強く優しい子じゃった。
きっと、お主らにいつまでも悲しんでいてほしくないという、あの子の強い想いが……
形見であるその巾着に、
残っておったのであろうな……」
義久
「ならば……
その想いに、応えねばなりませんな」
義久は、
まだ止まらない涙を拭った。
けれどその顔には、
先ほどまでとは違う、
確かな笑みが浮かんでいた。
義久
「……泣かないようにしようと……
頑張ってはいるのですが、
なかなか涙が止まりませんな……」
紡
「あ、あの!
お初様はきっと、
今すぐ泣かないでってことじゃなくて……
いつまでも悲しまないで、
いつかまた、兄様達が笑顔で毎日を過ごせるようにって……
そう伝えたかったんだと思います!」
隣では、
真白も紡の言葉に小さく頷いている。
けれど――
紡が一生懸命に言葉を重ねれば重ねるほど、
その優しさが三兄弟の胸に深く沁みてしまう。
義久だけではない。
寿久も義弘も、
せっかく拭ったはずの涙が、
また次々と溢れ出していた。
その様子に紡は焦り始める。
紡
(ど、どうしよう……!
お初様の想いを伝えれば伝えるほど、
皆さんが泣いちゃう……!)
そんな紡の隣で、
真白は何かを思いついたように、
そっと懐へ手を入れた。
取り出したのは、
いつもの琥珀糖だった。
真白
「義久様。
よかったら、こちらをどうぞ」
そう言って、
真白は琥珀糖をそっと差し出した。
義久
「これは……
飴玉……でございましょうか?」
火の童子
「なんや、義久様。
知らんのですか?
それ、真白お手製の琥珀糖ですわ。
食べると、不思議と心が落ち着くんですわ!」
優羽
「義久様、
真白様の琥珀糖は心が落ち着くんです!
とにかく食べてみてください!
すぐに心が落ち着いて来ますから!」
義久は火の童子と優羽の言葉に、
真白から琥珀糖を受け取ると、
そっと口に運んだ。
それを見て、
寿久と義弘も琥珀糖を受け取った。
琥珀糖を口に入れて程なくすると、
あれほど止まらなかった涙が、
少しずつ静まっていく。
悲しみが消えたわけではない。
けれど、
胸を締めつけていた苦しさが和らぎ、
代わりに穏やかな温かさが、
ゆっくりと広がっていった。
義久
「……なんとも不思議な。
あれほど胸を締めつけていた苦しさが……
少しずつ、和らいでいくようです」
寿久
「それに……
いつまでも悲しんでばかりでは、
お初に叱られてしまいますな。
あの子の願い通り、
また笑って過ごしたいと……
そう思えてきました」
義弘
「寿久兄様もですか……。
私もです。
まだ悲しくはありますが……
少しだけ、
前を向けるような気がします」
三兄弟の様子を見つめていた玉繭が、
ふと真白へ視線を向けた。
玉繭
「……これが噂に聞く、
真白の琥珀糖か……。
心を落ち着かせるため、
真白の神気が練り込まれておるとか」
真白
「はい、その通りです。
僕の権能は、
眷属にも作用します。
ですから義久様。
どうしても悲しみが拭えない時は、
この琥珀糖を食べてください。
悲しい時は、
甘いお菓子を食べて、
少し心を休ませてもいいと思うんです。
そしていつか……
琥珀糖がなくても、
お初様の願い通り、
笑って過ごせる日がきっと来ますから」
義久
「真白殿……
ありがとうございます」
寿久
「どうしても悲しみに耐えられぬ時は、
琥珀糖に助けていただくとしましょう」
義弘
「それでもいつかは……
お初の願った、
笑顔の日々を」
三兄弟は、
互いの顔を見合わせた。
そして、
義久の胸元にある巾着へと視線を落とす。
もう一度、
お初の言葉を胸に刻むように――
三人は、
静かに頷き合った。
最後までお付き合いいただき、
ほんとうにありがとうございます!
次回もお付き合いいただけたら幸いです。
(人´∀`).☆.。.:*・゜




