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僕は狐の眷属です! 真白と紡の神社日誌 ―600年前の巫女の願いから生まれました―  作者: 稲荷寿司
封印されし穢れ人――玉繭の里編

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『悲しい時には、やっぱり真白の琥珀糖』

いつもお読みいただきありがとうございます!

最後までお付き合いいただけたら幸いです。

(*˘︶˘*).。.:*




『……これは……お初の形見なのです』




その一言を最後に、

義久《よしひさ》は口を閉ざした。



やがて、

頬を一筋の涙が伝う。



義久《よしひさ》の様子につられたのか。

それとも、あの日の光景を思い出してしまったのか。



寿久《としひさ》と義弘《よしひろ》の頬からも、

静かに涙がこぼれ落ちた。



すると不思議なことに、

三兄弟が悲しみに暮れる中、

義久《よしひさ》の胸元で巾着が淡く光った。



まるで三兄弟の悲しみに寄り添うように、

弱く、けれど優しく。



真白はその光から、

不思議な温かさを感じていた。



真白

(まるで……

 泣かないでと、

 慰めているような……)



紡

「……泣かないでって……

 その巾着から、

 泣かないでって聞こえます……」



紡の言葉に真白は目を見張った。



真白

「紡は、

 あの巾着から、

 お初様の声が聞こえるのですか?」



紡

「はい……。

 兄様達、泣かないでって……」



その言葉に、

義久《よしひさ》たちは一斉に顔を上げた。



涙を拭うことすら忘れ、

信じられないものを見るように紡を見つめる。



義久《よしひさ》

「紡様……

 誠に、お初の声が聞こえるのですか?」



紡

「は、はい。

 はっきりと聞こえます。

 真白様は聞こえませんか?」



真白

「えぇ。

 僕には声として聞こえているわけではありません。


 ただ……

 泣かないでと慰めているような、

 そんな感覚はありました。


 ですが紡には、

 声として聞こえているということですよね?」



紡は真白と目を合わせると真剣な表情で答えた。



紡

「はい」



その言葉に、

義久《よしひさ》はもう答えることもできず、

ただ、ぼろぼろと涙をこぼした。



そんな義久《よしひさ》の様子を見て、

寿久《としひさ》が紡に尋ねる。



寿久《としひさ》

「あの、紡様……

 他に何か聞こえることはございますか?」



紡は少し言い淀む。

その様子に義弘《よしひろ》が尋ねる。



義弘《よしひろ》

「何か言いづらい事なのですか?

 やはり恨み言のような言葉でしょうか……」



紡は慌てて首を横に振った。



紡

「い、いえ!

 違います!

 僕が言いづらいと言いますか……」




義久《よしひさ》・寿久《としひさ》・義弘《よしひろ》

「……?」



澪斗

「紡……。

 どんな言葉であっても、

 残された者にとっては大切な言葉だよ。


 だから、

 義久《よしひさ》様たちに伝えてあげて」



紡は、

澪斗の言葉にはっとした。



紡

「そうですよね……。

 皆さん、ごめんなさい。

 その巾着からは……えっと……


『兄様達、泣かないで。

 兄様達の泣いてる顔は嫌いです!

 初は、兄様達の笑顔が大好きです』


 ……って、聞こえます」



義久《よしひさ》

「っ……!」



寿久《としひさ》

「なんとも……お初らしい……っ」



義弘《よしひろ》

「……全くだ……」



玉繭

「お初は、

 強く優しい子じゃった。


 きっと、お主らにいつまでも悲しんでいてほしくないという、あの子の強い想いが……


 形見であるその巾着に、

 残っておったのであろうな……」



義久《よしひさ》

「ならば……

 その想いに、応えねばなりませんな」



義久《よしひさ》は、

まだ止まらない涙を拭った。



けれどその顔には、

先ほどまでとは違う、

確かな笑みが浮かんでいた。



義久《よしひさ》

「……泣かないようにしようと……

 頑張ってはいるのですが、

 なかなか涙が止まりませんな……」




紡

「あ、あの!

 お初様はきっと、

 今すぐ泣かないでってことじゃなくて……


 いつまでも悲しまないで、

 いつかまた、兄様達が笑顔で毎日を過ごせるようにって……

 そう伝えたかったんだと思います!」




隣では、

真白も紡の言葉に小さく頷いている。



けれど――

紡が一生懸命に言葉を重ねれば重ねるほど、

その優しさが三兄弟の胸に深く沁みてしまう。



義久《よしひさ》だけではない。

寿久《としひさ》も義弘《よしひろ》も、

せっかく拭ったはずの涙が、

また次々と溢れ出していた。



その様子に紡は焦り始める。



紡

(ど、どうしよう……!

 お初様の想いを伝えれば伝えるほど、

 皆さんが泣いちゃう……!)



そんな紡の隣で、

真白は何かを思いついたように、

そっと懐へ手を入れた。



取り出したのは、

いつもの琥珀糖だった。



真白

「義久《よしひさ》様。

 よかったら、こちらをどうぞ」



そう言って、

真白は琥珀糖をそっと差し出した。



義久《よしひさ》

「これは……

 飴玉……でございましょうか?」




火の童子《かのこどうじ》

「なんや、義久《よしひさ》様。

 知らんのですか?


 それ、真白お手製の琥珀糖ですわ。

 食べると、不思議と心が落ち着くんですわ!」



優羽《ゆうは》

「義久《よしひさ》様、

 真白様の琥珀糖は心が落ち着くんです!

 とにかく食べてみてください!

 すぐに心が落ち着いて来ますから!」



義久《よしひさ》は火の童子《かのこどうじ》と優羽《ゆうは》の言葉に、

真白から琥珀糖を受け取ると、

そっと口に運んだ。


それを見て、

寿久《としひさ》と義弘《よしひろ》も琥珀糖を受け取った。



琥珀糖を口に入れて程なくすると、

あれほど止まらなかった涙が、

少しずつ静まっていく。



悲しみが消えたわけではない。



けれど、

胸を締めつけていた苦しさが和らぎ、

代わりに穏やかな温かさが、

ゆっくりと広がっていった。



義久《よしひさ》

「……なんとも不思議な。

 あれほど胸を締めつけていた苦しさが……

 少しずつ、和らいでいくようです」



寿久《としひさ》

「それに……

 いつまでも悲しんでばかりでは、

 お初に叱られてしまいますな。


 あの子の願い通り、

 また笑って過ごしたいと……

 そう思えてきました」




義弘《よしひろ》

「寿久《としひさ》兄様もですか……。

 私もです。


 まだ悲しくはありますが……

 少しだけ、

 前を向けるような気がします」



三兄弟の様子を見つめていた玉繭が、

ふと真白へ視線を向けた。



玉繭

「……これが噂に聞く、

 真白の琥珀糖か……。


 心を落ち着かせるため、

 真白の神気が練り込まれておるとか」




真白

「はい、その通りです。

 僕の権能は、

 眷属にも作用します。



 ですから義久《よしひさ》様。

 どうしても悲しみが拭えない時は、

 この琥珀糖を食べてください。



 悲しい時は、

 甘いお菓子を食べて、

 少し心を休ませてもいいと思うんです。



 そしていつか……

 琥珀糖がなくても、

 お初様の願い通り、

 笑って過ごせる日がきっと来ますから」



義久《よしひさ》

「真白殿……

 ありがとうございます」



寿久《としひさ》

「どうしても悲しみに耐えられぬ時は、

 琥珀糖に助けていただくとしましょう」



義弘《よしひろ》

「それでもいつかは……

 お初の願った、

 笑顔の日々を」



三兄弟は、

互いの顔を見合わせた。



そして、

義久《よしひさ》の胸元にある巾着へと視線を落とす。



もう一度、

お初の言葉を胸に刻むように――



三人は、

静かに頷き合った。


最後までお付き合いいただき、

ほんとうにありがとうございます!


次回もお付き合いいただけたら幸いです。

(人´∀`).☆.。.:*・゜

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