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僕は狐の眷属です! 真白と紡の神社日誌 ―600年前の巫女の願いから生まれました―  作者: 稲荷寿司
封印されし穢れ人――玉繭の里編

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『真白が気付いた小さな気配』

いつもお読みいただきありがとうございます!

最後までお付き合いいただけたら幸いです。

(*˘︶˘*).。.:*


月糸《つくし》の英断によって、

ようやく話を進められるようになった真白たち。



先ほどまで雪兎《ゆきと》の声で賑やかだった本殿にも、

ようやく静けさが戻っていた。



義久は改めて玉繭《たままゆ》の神へ向き直ると、

懐へ手を差し入れた。



取り出したのは、

手のひらに収まるほどの一つの鞠。



それを目にした瞬間、

真白たちの表情が引き締まる。



それは、

最初の穢れ人襲撃の際に捕らえた、

火の禁忌の眷属――玉繭《たままゆ》を封じた鞠だった。



義久

「玉繭《たままゆ》様。

 こちらをご覧ください」



義久が両手で鞠を差し出す。



玉繭《たままゆ》は、

その中に封じられた存在を確かめるように、

しばらく鞠を見つめていた。



玉繭《たままゆ》の神・玉繭《たままゆ》

「義久や、ようやったのぉ。


 そなたたちの奮闘は、

 天界より見守っておったゆえ、

 おおよそのことは把握しておる。


 じゃが……

 その者の封印は、

 現し世では解かぬ方がよいでしょう。


 天界へ連れ帰り、

 炎神と共に尋問することといたしましょう」



その言葉に、

真白たちは静かに頷いた。



けれど――



義久だけは、

返事をしなかった。



手の中にある鞠へ、

じっと視線を落としている。



普段なら、

主である玉繭《たままゆ》の言葉に

すぐさま返事をするはずの義久。



その様子に、

真白がわずかに首を傾げた。



義久の指先が、

鞠の表面を強く押さえている。



しばらくして、

義久が重い口を開いた。



義久

「……玉繭《たままゆ》様。

 一つ、お尋ねしてもよろしいでしょうか」



玉繭《たままゆ》の神・玉繭《たままゆ》

「なんじゃ?」



義久

「こやつめは尋問の後……

 どのような神罰を受けることに

 なるのでしょうか」



鞠を握る義久の手に、

さらに力がこもった。



義久

「……封印程度では、

 私は許せません」



静かな声だった。



けれど、

そこに込められた怒りは、

誰の耳にもはっきりと伝わった。



真白たちの表情が変わる。



いつも冷静で、

どんな相手にも穏やかに接していた義久。



そんな彼から漏れた、

隠すことのできない明確な怒り。



玉繭《たままゆ》は、

そんな義久をしばらく見つめていた。



玉繭《たままゆ》の神・玉繭《たままゆ》

「義久や……」



その声から、

いつもの柔らかさが消える。



玉繭《たままゆ》の神・玉繭《たままゆ》

「お初のことは、

 妾が必ず神罰を下すゆえ……

 納得しておくれ」



真白

(……お初様……?)



紡

(誰のことだろう……?)



聞き覚えのない名前に、

真白と紡が僅かに視線を交わす。



義久が、

ゆっくりと顔を上げた。



そして――

玉繭《たままゆ》の表情を目にした瞬間、

その瞳がわずかに見開かれた。



いつもはのらりくらりと、

穏やかに構えている主。



少々のことでは動じず、

どこか掴みどころのない笑みを

浮かべていることの多い玉繭《たままゆ》が――



今は、

笑っていなかった。



義久ですら、

何百年と目にしていなかったほどの

厳しい表情を浮かべている。



疾風

(玉繭《たままゆ》様が……

 あのようなお顔をなさるとは……)



楓

(一体、何をしたんだ……?

 あの火の禁忌は)



本殿にいる者たちの視線が、

自然と玉繭《たままゆ》へ集まっていく。



皆の疑問を察したのだろう。



玉繭《たままゆ》は静かに、

真白たちを見渡した。



玉繭《たままゆ》の神・玉繭《たままゆ》

「皆の者。

 此度は、この玉繭《たままゆ》の地を襲った穢れ人を

 討伐してくれたこと……

 改めて礼を申します」



玉繭《たままゆ》は、

ほんのわずかに目を伏せた。



玉繭《たままゆ》の神・玉繭《たままゆ》

「今、話に出たお初はの……

 義久たちの末の妹じゃ」



真白

「……妹……」



思わず漏れた真白の声。



その隣で、

紡も驚いたように義久たちを見る。



義久も、義弘も、寿久も、

何も言わない。



真白たちは、

静かに玉繭《たままゆ》の言葉を待った。



玉繭《たままゆ》の神・玉繭《たままゆ》

「かつて穢れ人がこの地を襲った折、

 あの子は妾の蚕たちを守ろうとした。


 そして――」



玉繭《たままゆ》の視線が、

義久の持つ鞠へ向けられる。



その視線を追うように、

皆の目が小さな鞠へ集まった。



玉繭《たままゆ》の神・玉繭《たままゆ》

「……そこに封じられておる灰燼《かいじん》によって、

 焼き殺されたのじゃ」



空気が、

一気に重くなる。



真白の耳が、

僅かに伏せられた。



紡も、

言葉を失ったように目を見開いている。



義久

「あいつは……あの火の眷属は……

 『しゃーしゃーうっさいねん』と、

 そう言って……

 お初を燃やしたのです。


 まだ幼子だった、お初を……」



最後の言葉だけが、

わずかに掠れた。



義久の手の中で、

玉繭《たままゆ》を封じた鞠が軋むほど、

指先に力がこもっていく。



義弘

「絶対に許せない……」



義弘が、

吐き捨てるように呟く。



寿久

「……」



寿久は何も言わなかった。



ただ、

膝の上に置いた拳を強く握り締め、

俯いている。



三兄弟の間に、

重い沈黙が落ちた。



真白は、

怒りと悲しみを滲ませる三人を

静かに見つめていた。



その中でも、

義久から溢れる感情は強かった。


怒りと、悲しみ……。



何百年経とうとも、

消えることなく残り続けている、

妹を奪われた兄の感情。



真白はふと、

その激しい負の感情の中に、

まるで異質なものが混ざっていることに気づく。



真白

(……?

 なんでしょう……

 義久様の負の感情に包まれて、

 何か、とても純粋な神気を感じます)



その純粋な神気は、

義久の怒りと悲しみの奥で、

微かに揺らいでいた。



その気配を辿るように、

真白の視線がゆっくりと下がっていく。



やがて、義久の胸元で止まった。



義久が懐に下げていた、

小さな巾着に目が留まる。




真白

(あの巾着から、微かに……)



巾着から滲む光は、

今にも消えてしまいそうなほど淡く、儚い。



その神気も、

意識を向けなければ

見落としてしまいそうなほど微かなものだった。



それなのに不思議と、

真白にはとても温かく感じられた。




真白

(なんでしょう……)



紡

「あの……真白様」




隣から聞こえた小さな声に、

真白が振り向く。



紡もまた、

義久の胸元を見つめていた。



紡

「義久様のあの小さな巾着から、

 不思議な神気を感じるんですが……」



真白は、

紡と目を合わせた。




真白

「紡も感じましたか?」



紡

「……はい」



二人はもう一度、

巾着へ視線を戻した。



真白

「かすかにですが……

 義久様の負の感情の奥に、

 とても純粋な神気を感じます」



二人の会話が聞こえたのか、

優羽《ゆうは》が不思議そうに顔を覗かせる。



優羽《ゆうは》

「真白様、紡。

 どうかしたんですか?」



真白は声を抑えながら、

今感じ取っている神気について

優羽《ゆうは》に説明した。



優羽《ゆうは》

「神気……?」



優羽《ゆうは》も、

義久の胸元へ視線を向ける。



目を細め、

しばらく意識を集中させてみるものの――



やがて困ったように眉を下げた。



優羽《ゆうは》

「……私には、

 何も感じ取れませんが……」



そのやり取りを聞いていた著莪《しゃが》が、

何気なく口を挟む。



著莪《しゃが》

「それほど気になるのであれば、

 この際、義久くんに聞いてみたら?」



思いのほか、

著莪《しゃが》の声は本殿によく響いた。



三人

「……!」



義久たちが、

揃って真白たちの方を振り向く。



義久

「……何か、

 気になることでもございましたか?」




真白

「あ……申し訳ありません。

 実は先ほどから、

 少し気になる神気を感じていまして……」




義久

「神気……ですか?」



義久の眉が、

僅かに動く。



真白は小さく頷くと、

義久の胸元へ視線を向けた。



真白

「はい。

 義久様から感じる怒りや悲しみ……

 その負の感情の奥に、

 とても純粋な神気を感じるんです」



義久

「…………」



真白

「それがどうやら……

 義久様がお持ちになっている、

 その巾着から感じられるようで……」



真白の言葉に、

義久の目がわずかに見開かれた。



それから反射的に、

胸元の小さな巾着へ手を添える。




先ほどまで玉繭《たままゆ》への怒りに染まっていた表情から、一瞬にして別の色が浮かんだ。




義久

「……真白様」



声が、

僅かに震えている。



義久

「それは……

 誠にございますか?」




真白

「はい。

 とても微かなものですが、

 確かに感じます」



義久は巾着を見つめ、

もう一度、真白へ視線を戻した。



驚きの中に、

どこか縋るような色が滲んでいる。



義久

「誠に……

 この巾着からでございますか?」



真白

「……はい」




その返事を聞いた義久の表情が、

くしゃりと歪んだ。



その表情に浮かんでいるのが、

悲しみなのか、喜びなのか――



義久自身にも、

分かっていないようだった。



義弘と寿久も、

複雑な表情で事の行方を見守っていた。




義久は、

胸元の巾着を大切そうに両手で包み込んだ。




そして、

絞り出すような声で告げる。




義久

「……これは……」




僅かに震える親指が、

古びた巾着の表面をそっと撫でた。



義久

「……お初の形見なのです」


最後までお付き合いいただき、

ほんとうにありがとうございます!


次回もお付き合いいただけたら幸いです。

(人´∀`).☆.。.:*・゜

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