『誰か、親バカな兎の眷属を止めてください』
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(*˘︶˘*).。.:*
――玉繭の里本殿にて。
三国
(これいつまで続くんだ……)
玉繭の本殿に戻って来た一行だったが、
その後も雪兎の親バカは炸裂し、
月糸の話は一向に終わる気配がなかった。
何度か義久や著莪、
さらには楓までもが話題を変えようとするも、
誰も雪兎を止めることができず、
すっかり途方に暮れていた。
そんな中、
一向に話が進まないことに苛立ちを募らせ、
次第に貧乏揺すりまで激しくなっていく三国。
その様子を見ていた鬼鹿毛と月影は、
焦り始めていた。
紡
「真白様。
雪兎様って、本当に月糸様のことが
可愛くて仕方ないんですね!」
隣にいた紡が、
真白へ小さく耳打ちする。
真白は、
その言葉にくすりと笑った。
真白
「えぇ。
ですが雪兎様のお話の通り、
月糸様は素晴らしい方ですからね」
少し離れたところで、
その様子を見ていた澪斗。
澪斗
(……えっ?
距離、近くない?
えっ……羨ましい……)
思わず二人をじっと見つめる。
当然、
真白と紡は気づいていなかった。
鬼鹿毛
(うわぁ!
もう勘弁してください……)
月影
「み、三国様!
とりあえずお茶をお召しになって、
落ち着いて――」
三国
「いらねぇ……
もう我慢できねぇ……」
月影
(この目は本気だ……!)
三国が痺れを切らし、
雪兎に文句を言おうとした、その時だった。
三国
「雪兎様! いい加減に――」
――ズンッ!
その瞬間、
穏やかだった本殿の空気が一変した。
重く、神聖な神気が
本殿いっぱいに満ちていく。
三国
「……っ!」
三国の声が止まる。
先ほどまで笑みを浮かべていた真白も、
月糸の話が止まらなかった雪兎も、
すぐさま表情を引き締めた。
誰に言われるまでもなく、
その場にいた眷属たちが一斉に居住まいを正し、
頭を垂れる。
疾風
(この神気……
一柱様じゃない……!?)
真白
(お一柱様は、
玉繭の神様のようですが……
もうお一柱様の気配は……)
義久
(二柱もの神が、
同時に現世へ……?
一体、何事でしょうか)
それぞれが胸の内で戸惑いを抱いた、その時、
静まり返った本殿に柔らかな声が響いた。
玉繭の神
「よいよい……
皆の者、面を上げよ」
全員
「御意」
静かな返事とともに真白たちが顔を上げると、
そこには優しい笑みを浮かべた玉繭の神と、
その隣に、冷ややかな表情を浮かべた
もう一柱の神の姿があった。
???
「……雪兎や」
雪兎
「……っ!」
名を呼ばれた瞬間、
雪兎の肩がぴくりと揺れた。
その額には、
いつの間にか冷や汗まで浮かんでいる。
???
「娘の話になると己を見失うゆえ、
ほどほどにするようにと……
以前にも忠告したはずですが?」
雪兎
「…………」
つい先ほどまで楽しそうに話していた雪兎が、
すっかり黙り込んでしまう。
火の童子
(……あの雪兎様の口を、
一言で封じとる……)
雪兎
「……申し訳ございません! 有明様!」
雪兎は頭を下げたまま、
間髪入れずに続ける。
雪兎
「ですが……
義久殿があまりにも親身になって
月糸の話を聞いてくださるもので、
つい夢中になってしまいました!」
火の童子
(なんでやねん!!
義久様、
何回も話切り上げようとしてたやん!!)
著莪
(義久君、可哀想に……
雪兎君って昔から、
怒られると誰かを巻き込む癖があったけど……
今も変わってないんだね……)
澪斗
(うわぁ……
なんかこの感じ、
雫様を思い出すなぁ……)
疾風
(義久様……南無。
雪兎様とは、
なるべく関わらないようにしよう……)
蒼
(……理不尽)
四方から向けられる同情の視線に、
義久の笑顔がわずかに引きつる。
義久
「…………」
義久
(……なぜでしょう。
何もしていないはずの私が、
一番被害を受けている気がします……)
玉繭の神
「ほっほっほ。
確かに義久は聞き上手じゃからのぅ」
義久
「玉繭様まで……」
雪兎
「はい!
義久殿があまりにも聞き上手なもので、
つい調子に乗ってしまいまして……!
大変申し訳ございませんでした、有明様……」
玉繭の神
「有明様。
雪兎も落ち着いたようですし、
この辺りでよろしいのではないかのぅ」
月の神・有明
「……雪兎や。
そなたが謝罪すべきは、
そなたの話に付き合わせてしまった
皆の者に対してではありませんか?」
そう言われて雪兎は慌てて真白たちに謝罪する。
雪兎
「ごもっともにございます!
皆様申し訳ございませんでした!」
真白
「いえ。
雪兎様のお話は、
とても興味深いものでした」
紡
「はい!僕も聞いていて楽しかったです!」
三国
「いや、俺は中盤から飽き――」
鬼鹿毛・月影
「「三国様!!!」」
三国
「むぐっ!?」
言い終わるよりも早く、
鬼鹿毛と月影の手が三国の口を塞いだ。
鬼鹿毛
「有明様! 玉繭様!
大変申し訳ございません!」
月影
「少々、三国様をお借りいたします!
し、失礼いたします!」
三国
「んんんっ!?」
そのまま二人に引きずられるように、
三国は広間の奥へ消えていった。
紡
「…………?」
澪斗
(……あっちも大変そうだなぁ……)
紡
「連れていかれちゃいましたね……」
澪斗
(……天馬を率いる人が脳筋だと、
周りも大変なんだなぁ……)
広間の奥まで来たところで、
ようやく三国の口が解放された。
三国
「お前ら、何すん――」
――バンッ!
壁際へ追いやられ、
抗議の声を上げようとした三国の顔のすぐ横に、
月影が勢いよく手をついた。
三国
「……っ!?」
月影
「三国様……」
いつもとは違う、
低く真剣な声。
普段のおどおどとした様子からは想像もつかない
月影の迫力に、
三国も思わず口を閉じる。
三国
「……なんだよ」
月影
「いい加減になさってください」
隣で見ていた鬼鹿毛が、
思わず一歩後ずさる。
月影
「三国様はいずれ、
天馬を率いる立場になられるお方です。
思ったことを、
そのまま口にしてよい立場ではありません」
月影の声は落ち着いていたが、
三国を見据えるその目だけは、
まったく笑っていなかった。
鬼鹿毛
(こ、怖っ……!!
目が本気だ……!
月影、久しぶりに本気で怒ってる……!!)
鬼鹿毛は、
巻き込まれないようにそっと距離を取った。
月影
「その一言で、
兎の眷属との関係に亀裂が入ったとして……
その責任を、
どうお取りになるおつもりですか?」
三国
「…………」
月影
「このくらい、
我慢できなくてどうするんですか?」
三国はしばらく黙っていたが、
やがて小さく息を吐いた。
三国
「……悪かった」
月影
「ご理解いただけたのなら、
それでいいのです。
では、戻りましょう」
そんな三国たちの様子を、
少し離れたところから眺めている者がいた。
火の童子だ。
火の童子
(ほんまにアタイみたいなやっちゃなぁ……
アタイも雫に、
よう怒られとったわ……)
その視線が、
三国から月影へと移る。
火の童子
(あの小僧、
月影言うたかいな?
静音みたいなやっちゃな……)
やがて三国たちが、
「失礼しました」と広間へ戻ってくる。
三国
「…………」
火の童子
「…………」
なぜか、
無言で見つめ合う二人。
三国
「……?」
火の童子は三国を見つめたまま、
何度か力強く頷いた。
三国
「……?」
何を伝えられているのか、
まったく分からない。
それでも三国は、
とりあえず小さく会釈を返した。
すると火の童子は、
満足そうにニカッと笑う。
火の童子
(分かるで、三国……)
三国
(……何だ?)
三国が首を傾げている間にも、
広間では話が進んでいた。
話題は、
なぜ玉繭の神だけでなく、
月の神・有明まで現世へ降りてきたのかということへ移っていた。
月の神・有明
「そなたたちが、真白と紡ですね。
会えるのを楽しみにしていました。
それで……
どちらが真白ですか?」
真白
「有明様、
お初にお目にかかります。
僕が真白でございます。
そして、隣におりますこちらが紡です」
紡は緊張した面持ちで、
慌てて有明へ頭を下げる。
紡
「は、はい!
ぼ、僕は狐の眷属です!
紡と申します!」
月の神・有明
「ふふっ。
そのように緊張せずともよいのですよ。
それから皆の者、
雪兎が迷惑をかけましたね」
真白
「ですが、有明様まで
現世へ降りてこられたということは……
何か、
重大な事態が起きたのでしょうか?」
その言葉に、
本殿の空気がわずかに張りつめた。
禁忌の眷属・真月。
そして、持ち去られた黒曜石。
皆がそのどちらかに関わる話だと思った時――
月糸
「違います」
一斉に視線が集まる。
有明の後ろから、
月糸がひょこりと顔を出した。
紡
「月糸さん!?」
月糸
「父様がこうなってしまうと、
私たちでは止めることができませんので……
有明様を、
私がお呼びしてきました」
雪兎
「…………」
真白
「…………」
三国
「…………」
なんとも言えない沈黙が、
本殿に広がっていく。
雪兎
「……月糸。
私を止めるために、
有明様をお呼びしたのですか?」
月糸
「はい」
雪兎
「…………」
著莪
「……なるほど」
著莪は、
感心したように月糸へ視線を向けた。
著莪
「素晴らしい判断ですね。
優秀なのは確かなようです」
義久
「えぇ。
実に的確な判断かと」
雪兎
「義久殿まで!?」
最後までお付き合いいただき、
ほんとうにありがとうございます!
次回もお付き合いいただけたら幸いです。
(人´∀`).☆.。.:*・゜




